安井行生のロードバイク徹底評論第9回 TREK MADONE vol.5

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安井トレック・マドン5

第9回で俎上に載せるのは、デビューから2年が経つトレックのマドンである。安井がOCLV700のマドンRSLとOCLV600のマドン9.2という2台と数日間を共にし、見て考えたこと・乗って感じたことを子細にお届けする。全8回、計1万6000文字。渾身のマドン評論。vol.5。

 

エアロロードの2つのポイント

ここで、空力分析責任者としてトレック本社で働く日本人エンジニア、鈴木未央さんとの一問一答をお送りする。メールでのやりとりだったため筆者の突っ込み不足が目立つが、自転車のエアロダイナミクスを考えるうえでヒントになる回答を得ることができた。

安井トレック・マドン5

トレック唯一の日本人エンジニア、鈴木未央氏(トレックホームページより)

まずは基本的なことを聞いておこう

Q:自転車全体の空気抵抗の中で、ライダーとバイクが占める割合は。
A:一般的なロードバイクの場合、ライダーが75~85%、バイクが15~25%となります。どんなヘルメットやジャージを着用しているか、どのようなフォームかによって大きな違いが出ます。また、バイク自体については、フレーム、ホイール、タイヤの種類、ボトルの有無によっても変わります。

 
Q:自転車全体の空気抵抗の多くを占めているのはライダーだが、フレームの空気抵抗を減らすことは自転車の走行性能にどれほどの影響を与えるのか。
A:マドンとエモンダ(旧型)の空気抵抗をヴェロドロームにて比較したことがあるんですが、40km/h時の必要パワーで19Wの差がありました。
 

サイクルスポーツ誌2017年2月号で行ったヴェロドローム実走試験でも、マドンとエモンダ(旧型)の必要パワーの差は13ワットであった(時速40km走行時。気温、ライダー、ウエア、パーツ、ポジションなどの条件は一定)。マドンの走行抵抗の小ささは、現実の世界でも十分に効果があるのだ。出来の悪いエアロロードのように空論ではないのである。

 
Q:どのような設計をすればフレームの空力性能を向上させることができるのか。
A:大前提として、我々はフレームだけではなく、バイク全体の空気抵抗を考慮しながら設計を行っています。抗力を軽減するにあたり、二つのポイントがあります。一つめは、前面投影面積と表面積を少なくすること。二つめは、空気が当たる表面の形状を理想的な気流が生まれるようにすること。表面積を削減することだけに注力しているメーカーも存在しますが、新型マドンではバイク全体の空力を見ながら設計を行いました。

 
補足すると、気流中にある物体に働く空気抵抗は、物体表面と気流との摩擦抵抗と、空気が物体に沿って流れないときに生じる圧力抵抗の2種類に分けられる。摩擦抵抗は物体の表面積を少なくして表面をスムーズにすることで減らすことができる。

圧力抵抗は、物体のまわりの空気の流れが剥離し、物体後方に渦を作って圧力が低下することによって物体を後方に引っ張ろうとする抵抗なので、物体の形状を流線形にして空気が滑らかに流れる(剥離を抑える)ようにすることで少なくすることができる。ポイントの一つめは主に摩擦抵抗を下げるため、二つめは圧力抵抗を下げるためのアプローチだろう。

 

目標設定→形状検討→解析→試作→実験

Q:自転車における空力設計の難しさとは。
A:前後に長く、風が当たる面積が大きい自動車や飛行機と違って、私たちが扱うバイクはセンチ単位・ミリ単位で短い乗り物です。風との接触面積が小さく前後に短いということは、気流がバイクの表面から剥離しやすく、抵抗が生まれやすいということです。つまり、もともと気流が剥離しやすい構造の乗り物において、いかに剥離しにくい形状にするかが最も難しい点です。  

 
Q:空力設計の大まかな流れとは。
A:通常は、まず製品のテーマや設計目的を定め、目的に応じて様々な形状を模索します。ほとんどの場合、この過程はCFDやFEAなどで行います。形状が十分に絞り込まれたら、プロトタイプを製作し、風洞試験などのテストを行います。

 
Q:空力性能を検証するにあたって、コンピュータ解析、風洞実験、実走検証はどのように使い分けているのか。また、コンピュータ解析や風洞実験の結果と現実の現象は一致するのか。
A:コンピュータ上での解析は、形状の効果を予測してより詳しいデータを得るために使用します。風洞試験は、プロトタイプをあらゆる状況下でテストするために有効です。また、実際に選手や一般ライダーに乗ってもらい、実際の路上でのフィードバックをもらっています。それぞれの手段でトレック独自の分析を行い、十分な空力性能の検証を行っています。トレックはこのようなフィードバックを数えきれないほど所有しており、それらをCFDに取り入れることで、実際の世界に限りなく近い環境下での設計が可能となっています。
 
 

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