BRIDGESTONE ANCHOR東京オリンピック挑戦のいま

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BRIDGESTONE ANCHOR東京オリンピック挑戦のいま

presented by ブリヂストンサイクル

https://www.cyclesports.jpいよいよ開催が来年に迫った東京2020オリンピック。実施される自転車競技の中でも、特にメダル獲得の期待が掛かるのがトラック競技だ。その大一番に向け、ブリヂストンサイクルが大きなプロジェクトを進めている。「日本開催の五輪で、日本製機材を使用した日本人選手によるメダル獲得」という大きな夢に向けての取り組みに、機材開発者、選手の両面から迫る。

上尾に出来た秘密基地

重々しい扉を開けると、目の前におびただしい数のカーボンフレームがズラリと並んでいた。何十本あるだろう。どれも無残に切り刻まれている。もちろん研究用に購入されたものだ。これはやっぱ中古車とか事故車とかですか、と間の抜けた質問をすると、いや新品買ってきて即箱開けの即切りです、とレース機材設計課の濱田さんに即答された。
奥にはオートクレーブ装置が鎮座している。脇にズラリと並ぶ何かの金型。そのすぐ隣には、室内に備え付けられた小部屋があり、その中では男性がなにやら真っ白な型に細かいプリプレグを丁寧に貼っていた。彼はもともとレーシングカーを作っていた技術者で、ル・マン 時間に帯同したこともあるすご腕らしい。この小部屋の中には、いろんなパ ーツが切り刻まれて転がっていた。ハンドル、クランク、ハブ、これはたぶんあの超高級カーボンホイールのリム(の断片)だろう。
小部屋から出ると、向こう側では他の技術者が何かに没頭していた。彼はここにはちょっと書けない秘密の研究をやっているのだという。一体なんなんだここは。上尾(ブリヂストンサイクルの本社所在地)にこんなところがあるなんて聞いてないぞ。

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カーボンラボの2つの役割

「カーボンラボを見に来ませんか」そう言われたのは2019年に入ってすぐだった。
アンカーラボなら知ってるが、カーボンラボなんて初めて聞いた。行ってみるとそこは、自転車好きなら誰もがちょっとワクワクしてしまうような、そんな場所だった。
ブリヂストンサイクル上尾工場内の一角に「カーボンラボ」と名付けられたこのスペースができたのは、2015年のこと。もちろんここで製品を製造しているわけではない。その名のとおり、カーボンに関する研究を行うセクションである。具体的な役割は2つ。まずはプロトタイプ製作。開発チームが設計したフレームなどを、ここで実際に形にするのである。それが試乗やテストなど、 製品化に向けた玉成に使われる。これは市販に直結する作業だ。
もう一つの重要な役目は、フレーム、ハンドル、クランクなど、トラック選手がオリンピックで使う機材を開発・製造すること。この場所で作られた機材が東京五輪を走るのである。

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ブリヂストンサイクル レース機材設計課 濱田和優

このカーボンラボ立ち上げ時から関わっている技術者。昔から自宅でカーボンパーツを作っていたという。「最終面接でずっとカーボンの話をしていたら受かりました(笑)」

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ブリヂストンサイクル レース機材設計課 中村隆志

学生時代はカーボンの研究を行い、自転車好きが高じてブリヂストンサイクルに入社。現在はシクロクロス やトライアスロンに参戦中。ラボではフレームの積層を担当する。

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ブリヂストンサイクル レース機材設計課 早川利行

カーボン製品を作って数十年の大ベテラン。F1やスーパーGT用のカーボンパーツの製造を手掛けていた。WEC(FIA世界耐久選手権)に帯同し世界中を転戦していたことも。

五輪用のスペシャルパーツ

ここで実際にモノづくりを行っているのが写真の3人。案内役を買って出てくれたのが、その中の1人、濱田さんである。
プリプレグ保管用の巨大な冷凍庫、プリプレグ用のカッティングマシンなどはカーボン製品製造工場ではおなじみの設備だが、珍しいのはオートクレーブ装置だ。
「このオートクレーブは、選手供給用のパーツを作るにあたって採用しました。カーボンラボで製作するオリンピック用のフレーム、フォーク、ハンドル、クランクは全てこれで作っています」 ただし、一般的に言われているようなオートクレーブのメリット(内部を高圧にしつつ真空引きを行うことで、CFRP内の空隙や余分な樹脂を減ずることができ、より軽く強い製品になる)のために導入したのではないという。そこがこのカーボンラボの面白いところだ。
「一般的な内圧成型だと、上下から熱盤でサンドする必要があるので、金属型を使用しなければならず、設計変更に時間が掛かります。選手専用パーツは細かな変更をすることも多いんですが、金属型では迅速に対応できません。だからここで使っているのは石膏型です」
さっき小部屋の中で見た白い型は、ハンドル用の石膏型だったのだ。
「車業界ではよく使われているものですが、自転車業界で使っているところはおそらくないと思います。石膏を使うメリットは、スピードです。石膏なので形状を変えようと思ったらすぐ削って変更できますし、立体的な形状でも成型しやすいという利点もあります。だからハンドルなどが作りやすいんですね。金型は重量がありますし、立体的なものには対応できません」
「ただ、石膏型を使うには、内圧成型のような方法は採れません。内圧成型は熱盤で上下から熱と圧力をかけるので、熱伝導率が低い石膏は使えませんし、圧力をかけると潰れてしまいますから」
プロトタイプ製作や選手に合わせたワンオフパーツを手掛けるため、容易に形状変更ができ、開発スピードに優れる石膏型を使いたい。そのためにはオートクレーブ製法しかなかった、というわけだ。
「石膏型は金型ほどの耐久性はないので数を打てない(何度も成型できない)んですが、選手専用なので数を作る必要はありませんから」
石膏型の切削・形状変更もこのラボで行っているという。

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パーツを数多く製作する必要がある場合には、石膏型より耐久性に優れるカーボン型を使うこともある

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熟練の技も必要

ここでは積層方法も特殊だ。
「自転車界で一般的なのは、芯材にプリプレグを巻いていく方法。でも、ここではその逆で、石膏型にプリプレグを貼っていきます。量産であれば芯材に巻いていく方法の方がいいんですが、ここで行っているのはプ ロトタイプやワンオフ品の製作なので、積層を変更することも多い。積 層が変われば厚みも変わるので、芯材を使う製法であればその都度芯材を作り直さないといけません。でもこの方法なら、積層数が変わって厚みが変わっても、加圧するのが柔らかいブラダーなので、厚みの変化を 吸収できます」
しかし、その方法だと石膏型の境目で繊維が分断されてしまわないのだろうか。
「そこはちゃんと工夫しています。プリプレグを型から少しはみ出させておき、型を合わせるときにオーバーラップさせているんです」
その重ね代も、強度・剛性が損な われないように熟慮されたものだという。上下の金型を重ね合わせる際は、おそらく非常に繊細な作業が必要になるだろう。しかもプリプレグ のピースはかなり細かい。そこで活躍するのが自動車レース界仕込みの早川さんのすご技というわけだ。
しかし、ハンドルやクランクなどは高性能な市販品が存在する。なぜわざわざ作る必要があるのか。
「もちろんウチはフレーム屋なんですが、フレームと人間をつなぐ部分、ハンドル、クランク、そしてホイールやタイヤなども合わせて設計するのが理想なんです。ウチではそれをパッケージ開発と呼んでいますが、全てのことを支配下に置きたいというのが理由です」
そんな話を聞きつつ、各パーツのプロトタイプ、3Dプリンター、石膏型製作用のマシニングセンターなどを見せてもらっていたら、あっという間に4時間が過ぎていた。

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トラック用カーボンクランク(の試作品)。世にあるクランクの中で最高レベルの剛性を誇るという。現在は軽量化と空力を煮詰めている段階だ

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研究用にカットされたフレームたち。内壁がきれいなものもあれば、シワや空隙だらけのものもある。これが新型フレームの糧となる

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ラボ内には、3Dプリンター、カットサンプル用の研磨機などもある。写真はマシニングセンター。これで石膏型を製作・修正する

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もちろんここでプリプレグのカットも行う。取材時、カッティングマシンにセットされていたのは80tカーボンのプリプレグだった

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フレームなどのカットサンプル。輪切りにして樹脂で固め、表面を研磨し、特殊な分析にかけると、積層数や弾性率まで分かるという

ブリヂストンアンカーの未来

こうしてブリヂストンアンカーは、東京五輪に向けて技術を磨いている。プロ専用のトラック機材なんかオレには関係ないね、と言うなかれ。彼らはここカーボンラボで、フレームについて、パーツについて、素材について、解析とそれを反映する方法について、製造方法について、要するに高性能自転車についての研究を重ねている。その蓄積が市販品に反映され、我々の手元に届くときは必ず来る。日本の自転車乗りよ、期待していい。ブリヂストンアンカーは前に進んでいる。

 

問:ブリヂストンアンカー