安井行生のロードバイク徹底評論第12回 スペシャライズド・ヴェンジ vol.8

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安井行生のロードバイク徹底評論第12回 スペシャライズド・ヴェンジ vol.8

2015年、エアロロード戦争という名の集団から飛び出して一人逃げを打った先代マドン。集団も負けじとスピードを上げ、やっとこさマドンの背中が見えてきたと思ったら、集団内で牙を磨いていた新型ヴェンジが入れ替わるように飛び出した。この強烈なカウンターアタック。しばらく続くであろうこの鮮やかな単独エスケープ。それにまつわる現代エアロロード論。

vol.1はこちら

Sワークスvsプロ

「安井さん安井さん、なんか新型ヴェンジ大絶賛じゃないですか。サイスポの空力テスト見ると実際に速いみたいだし。でもさすがにSワークスには手が出ないんでヴェンジプロ買おうと思ってるんですけど実際どうなんですか。フレームはSワークスと一緒らしいし、コンポなんてアルテで十分だし、カーボンクリンチャー付いてるし。むしろヴェンジプロのホイールのほうがリムハイト低いから扱いやすいですよね」
 
久々に連絡してきた後輩は喜々としてそんなふうに言った。確かにそうだ。というわけで、ここで新型ヴェンジのもう一つの注目点、Sワークスヴェンジとヴェンジプロとの比較にいこう。

安井行生のロードバイク徹底評論第12回 スペシャライズド・ヴェンジ vol.8

新型ヴェンジの販売形態は4種類。まずは最高グレード、Sワークスヴェンジ。ロヴァールCLX64ディスクを履くデュラエースDi2完成車である(135万円)。クランクはパワーメーターが付いたSワークスパワークランクだ。
そしてSワークスヴェンジ・スラムeタップAXS。発売されたばかりの新型eタップの完成車で、ホイールや価格はSワークスヴェンジと同じだが、クランクはSワークスではなくパワーメーター付きのスラム純正となる。
Sワークスにはフレームセットもある。価格は約55万円で、セット内容はフレーム、フォーク、BB、シートポストとなり、残念ながらステムとハンドルとクランクは付属しない。
 
その下にヴェンジプロという完成車が用意される。非Sワークスのセカンドグレードだが、フレームとフォークはSワークスと全く同じものらしい。フレーム形状はそのままに素材を変えて下位グレードを作るという方法を多用してきたスペシャライズドだが、新型ヴェンジに関してはフレームの素材は今のところ一種類(FACT11rカーボン)のみなのだ。
ハンドル、ステム、シートポストもSワークスと同じ。コンポーネントはアルテグラDi2で、クランクもプラクシスワークスのBBを介してアルテグラが装着され、パワーメーターは付かない。サドル、タイヤなどもグレードが下げられる。ホイールもCL50ディスク(50mmハイト)になる。
 
ロヴァールのディスクブレーキ用カーボンホイールには、CLX64、CLX50、CL50、CLX32、CLX32チューブラーなどがあり、CLグレードはCLXグレードの3分の2ほどの価格となる。
といっても、CLXとCLの差は(スペック上は)さほど大きくなく、リムの品質やスポークパターンは同じ。CLはスポークがDTスイス・コンペティションレース=丸スポークとなり(CLXはDTスイス・エアロライト)、リヤハブの内部メカがDTスイス350ベースとなり(CLXはDTスイス240ベース)、ハブベアリングがスチールになり(CLXはセラミックベアリング)、ニップルがブラスになる(CLXはアルミ)。

プロ完成車は文句なしにお買い得

そんなヴェンジプロの価格、76万6800円。昨年よりわずかに値上げをしたようだが、フレームそのものはSワークスと同じで、CL50ディスクは前後セットで20万以上するのだから、計算上はフレームとホイールを買ったらその他のパーツが付いてきた、くらいのお買い得感である。
 
まず簡単にヴェンジプロ完成車の評価を。
Sワークス完成車と比べると、ホイールの違いもあり、走りには明確な差がある。Sワークスのほうが加速にキレがあり、高速巡航性も高い。これはホイールの剛性と空力性能の差からくるものだと思われる。しかし先述のとおりプロのリムハイトは50mmとSワークスより低く、扱いやすさにはこちらに分がある。
タイヤの差(Sワークス完成車にはターボコットンが、ヴェンジプロ完成車にはSワークスターボが付属)もあるだろう。ターボは非常に速いタイヤだが、コットンケーシングの上質この上ない乗り味は、ナイロンケーシングの無印ターボには宿らない。
とはいえ性能差は小さく、価格差を考えれば文句なしにお買い得である。
 
しかし本題はここからだ。
先に「フレームとフォークはSワークスと全く同じものだ」ではなく「同じものらしい」と書いたのは、某有名店の某店長が某企画でSワークスヴェンジとヴェンジプロを比較したとき、「これホントにフレーム同じですか?」としつこいくらいに疑っていたからである。彼曰く、「同じホイールにしても、Sワークスのほうが明らかに速い。これがコンポの違いだけとは思えない」。
 
もしフレームが違うなら、ヴェンジプロの評価は変えねばならない。
公式HPのスペック表記もその疑惑に拍車をかけた。Sワークスヴェンジのフレーム素材は<S-Works FACT 11r carbon>となっているのだが、ヴェンジプロのそれは<FACT 11r carbon>で、<S-Works>の文字がないのである。
すわスペック詐称か。
ライターにとってはこれ以上ないほどのオイシイ話題だ。

安井行生のロードバイク徹底評論第12回 スペシャライズド・ヴェンジ vol.9に続く