安井行生の「ホイール全ラインナップ一気乗り」 シマノ編1 WH-RS010
目次
ホイールメーカーごとに全ラインナップを片っ端から借りて試乗し、各モデルの性能差やメーカーの個性についてあーでもないこーでもないとモノを言ってみるという新連載。
第一弾はシマノ。前後セットで税込み1万5000円のWH-RS010からハイエンドモデルのWH-R9100-C60まで、計9本のリムブレーキ用ロードホイールを同条件で一気に乗り比べる。シマノとは、一体どんなホイールメーカーなのか。
エントリーモデルにも乗ってみる
我々自転車メディアの人間は、ときどきホイールインプレなどというものをやらせてもらうことがある。
様々なホイールに乗り、それについて良いだの悪いだの好きだの嫌いだのを言う仕事である。おのずとその対象は、サイクリストの皆さんが買い足すことが多いクラス、要するにミドルグレード~ハイエンドホイールになる。しかしエントリーグレードのホイールのインプレもやってほしいという声は意外と多い。
打ち合わせ後の雑談の中でそんな話題が出て、サイスポ.jpのナカジ(編集長ね)が「じゃwebでエントリーグレードのインプレやりますか」と言い出し、ついでにメーカーの全ラインナップに乗りましょうという話になり、いっそのこと各ホイールメーカーの全ラインナップの一気乗りやるか、ということになった。各グレードの性能差を測り評価しつつ、メーカーの「らしさ」や「個性」や「方向性」について考えてみるという壮大な企画である。
第一弾は我らがシマノ。爆安WH-RS010からデュラエースのカーボンチューブラーまで、9本に同条件で試乗した。なお使用したタイヤは、ハッチンソンの最新モデル、フュージョン5ギャラクティックだ。使用したタイヤはハッチンソンのフュージョン5ギャラクティックの25Cである。
シマノのホイールテクノロジー
まず、シマノのホイールテクノロジーについてまとめておく。
①オプトバルスポークシステム(リヤホイールのスポーク本数をフリー側14本、反フリー側7本とすることで、左右のスポークテンションの差を最小限にするスポークパターン)
②エクストラワイドフランジ(フランジの左右幅を限界まで広げ、ホイールの横剛性を確保して動力伝達効率を向上させるハブ設計)
③オフセットリム(リヤリムのセンターを反フリー側へオフセットさせたリム形状。フリー側のスポーク角度を小さくする効果があり、左右のテンションを均一に近づける)
④カーボンラミネートアルミリム(肉薄アルミリムの上にカーボンを接着し、剛性、軽さ、強度、快適性をバランスさせるリム構造)
⑤D2リム(向かい風だけでなく横風も考慮した断面形状のエアロワイドリム)
⑥デジタルコーンベアリングアジャストメントシステム(専用工具不要のベアリング玉当たり調整機構。クイックリリースよる横からの圧縮力がベアリングに伝わらないことも特徴)
⑦合金/スチールハイブリッドベアリングコーン(メインボディをアルミとし、レース部分のみをスチールとしたハイブリッド構造のベアリングコーン。強度と軽さの両立が目的)
⑧チタンフリーボディ(フリーボディをチタンとし強度と軽さを両立。メジャーなメーカーの中でスチールでもなくアルミでもなくチタンでフリーボディを作っているのはシマノのみ)
シマノのホイールラインナップ
リムブレーキ用ロードホイールのラインナップを安いほうから列挙すると、
・WH-RS010(24mmハイトアルミクリンチャー)
・WH-RS330(30 mmハイトアルミクリンチャー)
・WH-RS500(24mmハイトアルミチューブレス)
・WH-RS700-C30(24/28mmハイトカーボンラミネートアルミリムチューブレス)
・WH-R9100-C24-CL(24mmハイトカーボンラミネートアルミクリンチャー)
・WH-R9100-C40-CL(35mmハイトカーボンラミネートアルミクリンチャー)
・WH-R9100-C60-CL(50mmハイトカーボン/アルミコンポジットクリンチャー)
・WH-R9100-C40-TU(37mmハイトカーボンチューブラー)
・WH-R9100-C60-TU(60mmハイトカーボンチューブラー)
の9種類となる。
昨年までラインナップされていたアルテグラグレードのWH-6800の後継モデルがWH-RS500である。また9000系デュラエースホイールに次ぐセカンドグレードとしてラインナップされていたRS81シリーズ(C50、C35のクリンチャーとチューブレス、C24のクリンチャーとチューブレスの5モデルもあった)がRS700一本に絞られるなど、ラインナップが整理された。こう見るとデュラエースシリーズのモデル数が多いことが分かる。なお、カンパニョーロやマヴィックはアルミリムもワイド化したが、シマノのアルミリムは全てC15規格のままである。
約1万5000円の最廉価モデル、WH-RS010から
前後セットで約1万5000円という信じがたい価格のエントリーモデル、WH-RS010から乗ることにする。よく完成車に付属しているアレである。鉄下駄という愛称(?)で親しまれたR500系の後継モデルだ。
リムハイトは前後とも24mm、リム幅は20.8mm。スポーク本数はフロント20本、リヤ24本で、いわゆるフツーのハブにベンドスポーク。当然ブラス(真鍮)ニップルにステンレススポークである。重量は前後で1920gだが、エントリーグレードならこんなものだろう。
フロントはラジアル組みだがリヤは両側クロス組みと、変わったところはどこにもない……と思ったら、なんと後輪がオフセットリムになっていた。①~⑧のなかで採用されているのは③のみということだが、ホイールの構造とその使命を考えれば③の採用は大きい。
この価格ならどんな鉄下駄でも許せそうな気もするが、乗ってみるとこれが全く悪くなかった。当然だが走りは軽くはない。正直に言うと重い。しかし、価格や重量から想像するほど悪くはないのだ。
ダメなホイールは重量がある上にトルクをかけるとホイールがだらしなく変形する。重量面でも剛性面でも不備があるのだが、このWH-RS010は「ただ質量がデカいだけ」という印象だ。グズグズに変形しないから乗っていて嫌な感じがない。これがオフセットリムの効果なのかもしれない。
コストのかかる特殊な技術は採用できず、どうしても重くなってしまう低価格帯のホイールだが、同じ「遅い」「走りが重い」でも、「動きがもっさりして何かを引きずっているみたい」と「挙動にどっしりとした重厚感がありずっしりと安定している」では天と地の差がある。ここにホイール設計の良しあしが出る。WH-RS010は後者である。
1万数千円のホイールを褒めるとは思わなかったが、さすがに本格的なレースで使うには力不足だ。何度も言うが「嫌な感じがしない」というだけで、重くて遅いことに変わりはない。適しているのはやはり練習や通勤などのデイリーユースだろう。
手をかけずにも雨の日も風の日もガンガン乗る。そういうホイールにはコストを割きたくないものだが、安いホイールは走りもガッカリなことが多かった。しかしRS010ならさほど失望せずに済む。従来は「カネをかけないなら速さも楽しさも諦めな」だったのが、このRS010は「速くはないけどそこそこ楽しく走れるぜ」になったのだ。