2010年6月号 オレたちの「走り場」が危うい

オレたちの「走り場」が危うい

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サイクリングロードは法律上では「歩道」と解釈

東京では河川敷にサイクリングロード(*1)が整備され、首都圏のサイクリストに平日を含め、じつによく利用されている。なかでも多摩川は最も利用者が多く、ビギナーが多め。荒川が次によく利用され、下流域は多摩川と同様だが、中流から上流に向けては中・上級者が丘陵地帯や峠に練習に行くための通過に利用する。江戸川は多摩川や荒川に比べると、利用者が少なめとなっている。
このサイクリングロードについて、サイクリストがよく理解していないであろう事実は、そのほとんどすべてが“自転車歩行者専用道路”であるということである。自転車歩行者専用道路とは昭和45年に制定された「自転車道の整備等に関する法律」に規定されているもので、その名称に示されているように、自転車と歩行者が共用する道だ。歩行者の通行が認められていない自転車専用道路もあることはあるものの、それは全国的にみてもごくわずかである。

オレたちの「走り場」が危うい

さらに、平成20年に道路交通法が改正されている。これは普通自転車(*2)の歩道通行(第63条の4の2)におけるもので、〈道路標識等により通行すべき部分が指定されているときはその指定部分を、指定されていない場合は、歩道の中央から車道寄り部分を徐行して通行しなければならず、歩行者の通行の妨げになるときは一時停止しなければならない〉と規定されている。ただし、歩行者も〈歩道内に自転車が通行すべき部分が指定されている場合、歩行者はこの部分をできるだけ避けて通行するように努めなければならない〉という努力義務もある。
あなたが運転免許証を最近更新していれば、講習で「自転車安全利用五原則」のパンフレットをもらったはずだ。交通安全週間には、ティッシュペーパーに五原則を印刷して配ってもいた。それには、〈歩道は歩行者優先で、自転車は車道寄りを徐行〉と記されている。
では徐行とは、いったいどれほどのスピードなのか?
昭和53年の参議院地方行政委員会で警察庁交通局交通企画課長が「時速4~5㎞」と答弁しているが、平成19年からは警察・国土交通省のウエブサイトには「時速6~8㎞」との記述も散見される。ちなみに、クルマの徐行はブレーキを踏んで1m以内で止まれるという前提で時速10㎞以下だ。
そこで今特集では、ロードバイク用ビンディングペダルの新しい風、カーボンプレート使用モデルに注目したのち、日本最速の店長、西谷雅史氏を迎えて各モデルのインプレッションを行なった。理想的なペダルシステムとの出合いの一助になれば幸いだ。

 

多摩サイで昨年死亡事故が発生

今年3月31日に国土交通省関東地方整備局から、「荒川下流河川敷利用ルールの本格運用について」という記者発表資料が配られた。それには、4月1日から荒川河口付近から笹目橋間の荒川下流河川事務所が管理する約30㎞区間で、10のルールを決めて、利用者と周辺住民に迷惑のかからないようにご協力をお願いする、とあった。その1つめにあるルールがこれだ。<自転車はいつでも止まれるスピードで徐行すること。(目安として時速20㎞以下)>
自転車の徐行スピードに、また新たな解釈が加わった
。  本題の多摩川サイクリングロードの前に荒川の時速20㎞規制について触れてしまったが、荒川においてもとくに下流域で事故が多発しているため、数年前から自転車に対する速度規制があったのだ。
さて、多摩川サイクリングロードである。
「最近、多摩サイ(多摩川サイクリングロード)の府中のあたりが走りにくい。日曜の混雑しているときにもスピード出して走るから事故もあるようだし、こんなんじゃ自転車が閉め出されちゃうんじゃない?」と、心配をする声も聞こえてくる。
そこで、問題になっている多摩サイの一区間である“府摩川かぜのみち”を理する、府中市役所の水と緑事業本部公園緑地課を訪ねた。

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対応してくれたのは、雫石明男課長。
――府中市で管理している区間は、昭和47年に“多摩川サイクリング道路”として開設されたのですが、当初から歩行者とのトラブルはあったそうです。昭和49年には、ハーフマラソンのコースに使われるようにもなり、利用者からもっと広くしてほしいとの要望もあって幅員を2m 50㎝にしました。さらに平成5年には幅員3mにしています。

私は2年前から課長になったので、昔のことは聞いた話ですが、事故の多発はここ数年だけでないようです。この2年でも所轄警察に歩行者と自転車のトラブルが20件以上届けられました。実際はもっと細かいトラブルがあるはずです。市役所へはたくさんの苦情電話も寄せられています。
。  歩行者側の意見では、「どけっ!と怒鳴られた。自転車は無謀」「いきなりすごいスピードで体の近くを自転車の集団に通り過ぎていかれたからドキッとした」など聞いています。

そんなおり、昨年9月には死亡事故が起きました。55歳の会社員が帰宅途中に後ろから走ってきたスポーツタイプの自転車にはねられて頭を打って20日後に死亡しました。自転車に乗っていた45歳の人は重過失致死の疑いで書類送検されたのですが、これに対応して市の公園緑地課、地域安全対策課は警察と協議して対策をしました。

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それで、府中市の是政橋から上流9・4㎞の区間をサイクリング道路ではない名称、
“府中多摩川かぜのみち”に改称するとともに、自転車のスピードを抑制する方策
を立てたのです――。

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オレたちの社会常識、マナーが問われている
走りにくい薄層舗装は実に不快だが・・・・・・

実際に府中多摩川かぜのみちを、是政橋から上流に走ってみると、いくつかのことに気づいた。
まず、道路中央に白くひかれていたセンターラインが消されていた。さらに路面に、「歩行者優先」「スピード落とせ」などの文字がペイントされている。暗くなってくると点灯する太陽電池を用いた照明が設置され、障害物のように浮き出て見えるペイント、一部に は“薄層舗装”という凹凸を幅員いっぱいに施して自転車が通過すると不快なショックを感じるのでスピードを落としたくなるようなペイントが施されていた。
さらに、5カ所に看板を設置して、「死亡事故発生!スピード落とせ」とサイクリストに向けてアピールしている。
平日の昼間にもかかわらず、サイクリストの姿はほとんど途切れない。
多摩川かぜのみち沿いの郷土の森公園周辺は桜並木があり、土手下はバーベキュー広場で、歩行者やジョギングや犬の散歩などで、多摩サイでもとりわけ人通りが多い地点だ。
そこで休憩していたジャイアントに乗るスペイン人のホセ・アルベルトさんに聞いてみた。

CS
このサイクリングロードでは死亡事故があって歩行者が亡くなったので、規制がされています。あなたはここを走るときに、歩行者に対して何か注意をしていますか?

ホセさん
「歩行者は右にも左にも歩いています。ルールはないも同然。ですから、よく声をかけます。でも、この国では歩行者は全員が右を歩くのがルールではないのですか?」

CS
ここでは歩行者は景色を見て歩くから、自転車は常に歩行者に注意して徐行し、交通弱者である歩行者に道を譲ることになっています。

ホセさん
「それは変なことです! ヨーロッパでは歩行者と自転車は別、自転車とクルマも別、それぞれ別の道を走るようにシステムが作られています」

つかつかと道路に歩み、路面に施された薄層舗装の凹凸を指差したホセさんの口調が強くなった。
「これはよくない!」

同じ場所で、5台で走ってきた集団にもインタビューしてみた。

CS
歩行者に対して、何か気をつけていますか?
リーダー格のサイクリストが代表して応えてくれた。

リーダー
「この区間は歩行者だけでなく、乳母車を押した母親や小さい子供も多いので、気づいた ら手前でスピードを落とします。声はわざとかけません。道を譲られるとスピードを落とさないことちらがスピードを緩めていることがわかるように極端に落としますね」

CS
多摩サイのマナーはどう思いますか?

リーダー
「低下していますよね」

前述の雫石課長のコメント。

――是政橋で交通安全週間のときに、歩行者や自転車の人にチラシを配ったんです。自転車の人は、ひと声かけるとほとんどの人がスピードを落として受け取ってくれたのですが、「なんでオレを止めるんだ!」と、スポーツタイプの自転車の人に食ってかかられました。あげくのはてに「バカヤロー、どけ!」ですからね。
スピードの出るレース用の自転車を閉め出そう、という声が対策協議会で出ました。でも、通勤・通学でスポーツタイプの自転車を使う人も多いし、スポーツタイプとレース用自転車の線引きをどこでするのかも難しい。
それでも私は、自転車にも土手の道を使っていただきたいと思っています。ただ、スピードを落としてほしい。自転車も歩行者も、お互いに守るべきマナーに気づいていただきたいものです――。
サイクリングロードでの規制が同時多発的にある現状に、識者はどう考えるのか。
日本サイクリング協会の小林博さんは、「歩行者も自転車もお互い気をつけましょう、なんて情けないこと言ってないで、歩行者用の道を作ればいいんです。歩道なら舗装しなくてもいいからお金もかからない。サイクリングロードとは別に作るべき。江戸川サイクリングロードの矢切の渡し周辺なんか日曜ともなれば、寅さんの帝釈天観光で訪れた人たちにサイクリングロードが占拠されていますからね、とても走れない」ときっぱり。前出のホセさんも、歩行者と自転車は別の道を、と同様の趣旨の発言をしていた。

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まるで小さな魚の集団が寄り集まり泳ぐことで自分を大きく見せ、大きな捕獲者から自分たちを防御するように、4月18日の日曜も大井埠頭ではいくつものロードバイクの集団が走っていた。品川区の大井埠頭は、物流のために埋め立てられてできた地域で、平日は大型トラックでいっぱいだが、日曜ともなれば交通量が激減する。また、レース好きな自転車乗りにとってここは、ツアー・オブ・ジャパンの東京ステージのコースとして理解されている。1周9・1㎞、「大井税関前」交差点をスタートし、都道316号線を北上し、4つの信号がある交差点を過ぎてから1・9㎞地点の高架下をUターンし、「大井税関前」の次の信号(2・2㎞地点)を左折し、突き当たりの「大井水産物ふ頭」交差点で右折、突き当たり(4・3㎞地点)を右折し、また316号線に戻り、「野鳥公園東」交差点(5・8㎞地点)を左折、運河を越えて進み、「城南島ふ頭公園前」交差点(6・7㎞地点)でUターンして「野鳥公園東」交差点(7・4㎞地点)を今度は左折し、突き当たりの「太田市場北門」(7・8㎞地点)を右折して高架をくぐり、直線を進んで突き当たり(8・9㎞地点)で右折し、「大井税関前」交差点(9・1㎞地点)で左折するとスタート起点に戻る。クルマで回ると、18ある信号のいくつかにひっかかり所要時間は20分。「自転車だと15~16分ですね」と、走り終えたばかりの都内在住の清水さん( 42歳)が1周のタイムを教えてくれた。この日は仲間の森田さん( 35歳・千葉)と濱田さん( 32歳・神奈川)の3人で集まって集団走行に加わったあとで、互いの機材の品評会で盛りあがっていた。

オレたちの「走り場」が危うい

CS
なぜ大井埠頭にくるのですか?

清水
「天気のいい日曜でレースに出ないときは必ずだから、月に3回は来ています」

森田
「インターネットで、走りやすいと知って来るようになりました。私たち3人にとって集まりやすい立地で、クルマも停めやすい」

濱田
「私たちは自転車歴が1年から3年で、JCRCなどのレースを楽しみで走っているのですけれど、大井埠頭のように汗をかいてスピード練習できる場所は東京にはない。多摩サイはスピードを出せないし……。日曜のパレスサイクリングコースのように時間限定で走れる場所があればいいですね」

本誌は午前11時過ぎまで大井埠頭にとどまり観察を続けたが、午前10時ごろがピークのようだった。ほとんどの集団は、クルマの姿がなくても大きな交差点では赤信号で停止し、信号を遵守。ただ、一部の人たちは「ワァ~~」と叫ぶように声をあげながら信号にかかわらず走っていた。

1人で黙々と周回している人もいた。ニッカーズボンでロードバイクの大西さん(54歳・神奈川)は、つい最近にスペシャライズド・ア レーを購入したばかり。

CS
大井埠頭はいつも来るのですか?

大西
「雑誌でここを知って初めて来ました。3時間くらい走って、昼には自宅に戻ります。できれ峠を走ってストレス発散したいのですが……」

若い女性が公園の噴水前で休んでいた。

CS
いつも来るのですか?

Nさん
「大学のトライアスロン部の先輩に、クルマが少なくて走りやすいと教えられて来ました。実際にここなら安心して走れます」

午前10時近くに、「大井税関前」交差点の元交番(地域安全センター)には警察官に似た服装の人が自転車でやってきた。所轄の東京湾岸警察から派遣された元警察官。この人が姿を現わしただけで、ほとんどすべてのライダーが赤信号で止まった。

信号無視は、懸念していたほどではなかったが

実際問題、信号はほとんど守られている。  ただ、危険なのは「城南島ふ頭公園前」交差点でのUターンだ。ここは片側3車線の広い道だが、大部分のロードバイクは、まるでそこが自転車のために交通閉鎖されているかのように交差点手前から中央車線に寄る。〈自転車は二段階右折〉の立て看板がある。心ある自転車乗りはUターンのために信号を3回ストップを遵守するが、少数派である。
交差点近くのトラックターミナル管理人に話を聞いた。

CS
自転車で走る人たちをどう思います?

管理人
「ここはツール・ド・フランスレースの公認コースになってるみたいでね(編集部注:間違い)、日曜や祝日はいつも高そうな競走用の自転車が走っているよ。アマチュアの人でしょうが、プロになったつもりなのじゃないですかね。たまに警察が来て、信号を守りましょうとか呼びかけてますが、ダメです。この道は最近トンネルができて環状7号線からお台場への抜け道にもなっているんで交通量も多いし、初めて通過するドライバーもいるので、事故にならないといいんですが・・・・・」

ツールのコースというのは管理人さんの誤解だが、交通量が多いのは正しい。昨年からこの交差点にはコンビニもできた。初めてクルマで訪れたドライバーがこの交差点で信号待ちしたら、道路の左を走り、二段階右折をするべき自転車に乗るカラフルな服装のライダーたちがクルマの左右を取り囲むように動き回ることに戸惑うことだろう。

オレたちの「走り場」が危うい

悪質な違反に対しては警告&取り締まりもある

大井埠頭に限らずとも、昨年から警察は各地で前述のように、「自転車安全利用五則」を訴えている。とりあえず、信号無視にはどう対処するのか?
警視庁・広報課に質問状を送ったところ、以下のコメントが戻ってきた。

「自転車の信号無視は道路交通法第7条(信号機の信号等に従う義務)違反となります。なお、当庁では各種の警察活動を通じて、恒常的に自転車利用者に対する交通指導・取り締まりを行なっており、警察官の指示・警告に従わない悪質な交通違反者等については、自転車といえども交通キップを適用するなどして厳格に対処することとしています。  今後も自転車利用者のマナー向上につながるよう指導・警告、さらに取り締まりを継続していきます」

要はこういうことだ。信号無視は法律的にも、社会常識としても違反&悪いことだが、“よほど”と現場の警察官が判断しなければ、信号無視は見逃されているのが現状だ。だからといって、信号無視は明らかな違反。信号待ちで停止したドライバーがロードバイクに囲まれて戸惑っているかもしれない。これは明らかに反社会的行為である。NPO法人自転車活用推進研究会を主宰する小林成基さんは、

「自転車も走れる遊歩道(サイクリングロード)なんて、世界基準ではありえない。スポーツバイクが社会的に排除されることがないようにするためには、自分たちも、キープレフトを守ります。きちんと車道を走ります。歩行者に迷惑をかけません。交差点では安全確認をします、といったサイクリストの最低限の資質を示すことも必要でしょう。そのうえで、交通事情の悪い車道を走るときに、オレたちの命を守れ、と要求するのは、きわめて真っ当なことだし、社会的に受け入れられると思います」

とコメントしてくれた。
オレたちの「走り場」が危うい

小林さんがまとめの部分を話してくれたようなものだ。

 

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