ラファ プレステージ 熊野の終わりなき旅路

ロンドン発のサイクルアパレルブランド、ラファが世界各地で主催しているソーシャルライドイベントが「ラファプレステージ」だ。2023年秋に和歌山県、熊野エリアで開催された「RPKUMANO」では、サイクリングとコミュニティを愛する49のチームが、それぞれの熊野を駆け抜けた。

ラファプレステージ熊野

 

サイクルアディクション

「Team Cycle Addiction」今回集った関西の同世代サイクリスト5人は、まさに「自転車中毒」。寝ても覚めても自転車遊びを楽しみ、探求している。メンバーはもちろん健脚ばかりで、シマノセールス・クラタニさんにパナレーサー・ミカミさん、たつぽん君とポアソン君に、まいどサイスポのエリグチ。

海岸沿いの国道をそれて、道は急激にその姿を変えた。幅は軽トラ1台分、アスファルトが抜け落ちるかどうかギリギリの舗装、そして徐々に上がっていく勾配。その先に見えるのはただ、深い山岳だ。明るいイエローのサイクルジャージに身を包んだ5人はその道をハイペースで進んでいく。ふと道の脇の看板に目をやると「中辺路」の文字が。そして僕たちは、ここが紛れもなくニッポンの巡礼の道「熊野古道」なのだと気づく。

ラファが主催するサイクリングイベント「ラファプレステージ(RP)」は、4〜5人が1つのチームとなり、一日にわたるイベントを外部のサポートなどなしに走り切るチャレンジングなイベント。「世界各地の“自転車で走るべき” 魅惑の地を仲間と共に冒険すること」がコンセプトのこのライドは、これまでも名前を変えつつ10年以上にわたり日本でも開催されてきた。そして今回、初めて和歌山・熊野エリアで開催されたRPは、難度のあるコース設定ながら、さらに多くのチームを招き入れたいという想いからより多くのサイクリストから注目を集めることとなる。これまでの幾つもの厳しい“プレステージ” を乗り越えてきた猛者たちや、初めての目標としてきたライダーたち等、幅広い層のサイクリストに迎えられ、初夏の悪天候による延期のうえで、厳しい残暑の9月末についに開催されることとなった。

「和歌山は美しい海に深い山という日本屈指の大自然に囲まれた土地。古来からその自然を聖なるものとして信仰してきたこの地ですが、それらを代表するような熊野古道や三社のうちの一社をコースに組み込んでいます。走って感じてもらえるように、コースもめっちゃ試行錯誤して作ってますよ〜!」。本RPの顔とも言える辻啓さんの言葉がよぎるほどに、コースはどんどん紀州の奥地まで続いていく。

総距離約155km、総獲得標高3000mの今回のライドコースは、グラベルこそほとんどないものの、道によっては舗装状態もワイルドなものだ。そして今回筆者エリグチが走るチーム「サイクル・アディクション」の5人のメンバーが駆るバイクは、まさに最新のロードバイクでそろえられた。チューブレスの32Cワイドタイヤは、まさにこの道にぴったりなタフ仕様。肉厚かつボリュームのある足まわりは、多少のガレた下りも余裕を持ってトレースしていくことができる。そして最新規格の走行感覚を備えたバイクフレームと、俊敏で確実な変速を行うコンポーネントがそろうことで、ロードバイクでのチーム走行に特有の、スピードや加速の掛け合いのタイミングに、えも言われぬ統一感が生まれていく。

「それに、いつもグラベルを走っている感覚からすると、この下りめっちゃ気持ちええな」、「山肌を沿うように連続したワインディングなんかは、やっぱりロードバイクで走ってナンボですね」。いつもライドを共にするメンバーだからこそ、気兼ねすることなくペダルを回していくことができる。だからこそ、後半になればなるほど上りセクションでは、個人TTよろしくアタックがかかり始めることになるのだが……。

自転車で走る楽しみはその乗る人の数だけあるものだ。けれど、ロードバイクを入り口としてこの遊びを始めた僕たちはやっぱりロードバイクの走りが好きだし、それを忘れることがないからこそ、同じ場所と時間を共有することのできる仲間とのライドは、特別な体験なのだろう。あぜ道を抜けて、再び海岸線に出た。このライドで残る時間はもう長くはない。ちょっとだけ名残惜しいな。だけど僕らは今、一刻も早く皆で乾杯するその瞬間を、心から待ちわびている。そして、そんなライドがこの先も終わることがないことを、心から信じている。

CX-60

RPKUMANOでは、感度の高いサイクリストから支持されているマツダが協賛。クロスオーバーSUV「CX-60」は十分なラゲッジスペースがあり、ラファの「Never just a ride.」のテーマにぴったりなライド&ドライブを楽しめる

 

デュラエースホイールにアジリストデューロ

このライドに合わせて、チーム5人は機材を統一。タイヤはパナレーサー・アジリストデューロをチューブレス運用。電動コンポーネントやホイールはシマノのデュラエースとアルテグラとしたことで、バイク間の性能差が保たれた

滝の拝

濃密な自然に囲まれた熊野エリアは、奇岩や滝、渓谷といった景勝地の宝庫。こちらは第一チェックポイントとなった「滝の拝」で、大小さまざまな岩穴が密集。鮎釣りの名所

トラブル

プレステージではあらゆる物事をチーム内で共有することが原則。それはもちろんトラブルに対しても

那智勝浦の町と太平洋を一望

うっそうとした木々に囲まれた県道をつなぎ、いよいよ下りが始まる。突如視界が開け、那智勝浦の町と太平洋を一望する。僕たちは遠く下って行く仲間のチームに手を振った

大門坂

熊野古道のハイライトである、熊野那智大社に至る「大門坂」。長い石段の脇の車道を下る

激坂

「なんで最後に、こんな激上りがあるんや!?(歓泣)」。コースディレクターの辻啓氏の思惑どおりか、最後の最後まで全く気の抜けないコースセレクションに笑い声が響く

Course Directer「サイクリストのポテンシャルを発揮する地」

通い慣れた和歌山の南部で、念願のプレステージをデザインする。そのために「ロードバイクライドに回帰する」というコンセプトに立ち返りこのコースを作り上げました。そこにはUCIレースの「古座川国際ロード」や、「ツール・ド・熊野」といった歴々のレースのコースも組み込んでいます。とはいえ実は「サイクルトレイン」の活用も考えていて、もしもリタイアの際はきのくに線で戻ることもできたのです。結果として7割のチームが時間どおり完走したという難易度は、狙ったとおりのレベルになったと思います。

僕としては、このプレステージで和歌山のポテンシャルをより感じてもらいたい。もっとイージーに観光地を巡ることも、グラベルを増やすこともできる場所。バリエーションが取れるからこそ、仲間たちともっと面白いコースを引いて、走り切って、と自身の“サイクリスト力”を駆使してほしい。そのきっかけがこの熊野から始まればうれしいですね。

辻啓さん

辻 啓さん

日本を代表するサイクルフォトグラファーにして、出身の大阪・堺からほど近い和歌山の海をメインの漁場とする釣り人。本イベントのコースディレクター。

キハダマグロ

ライド終了後のアフターパーティーでは、参加チームが持ち寄った地ビールの他にも、辻啓氏が紀州の串本で釣り上げたキハダマグロ(33kg)が振る舞われた。ジューシーでうまかったです!

RP熊野の参加者

今回のRPKUMANOには合計49チーム、240人に及ぶコアなサイクリストが大集合。メイン会場となった「ホテル&リゾーツ和歌山串本」の宴会場を貸し切って、本ライドの達成感を共有し大団円