ジャイアントアンバサダーのトム・デュムランが新型TCR発表会でファンと交流
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ジャイアントのナショナルアンバサダーを務める元プロロード選手トム・デュムランが、3月8日にTREX川崎(神奈川県川崎市)で開かれた新型TCR発表会を兼ねたファンイベントに参加するために来日。抽選を勝ち抜いた参加者とライドを楽しみ、トークショーやじゃんけん大会、サイン会で交流した。
デュムランと「多摩サイ」を走ったライドイベント
イベント当日の朝、東京は3月とは思えない寒さと季節外れの雪交じりの雨に見舞われた。TREX川崎でのブリーフィングの後、デュムランが登場すると、抽選を勝ち抜いたライドの参加者およそ30人が温かく迎えた。
デュムランが来日するのは、2021年の東京五輪以来およそ3年ぶり2度目。東京五輪での来日の際はあまりファンとの交流を楽しめなかったといい、日本のファンとしっかり交流するのは初めてという。
デュムランは数日前に発表されたばかりのジャイアントの軽量レーシングロード・第10世代TCRにまたがり、ファンとともにライドに出発した。
ルートは多摩川サイクリングロードを中心としたおよそ15km。参加者は5人程度で1組の5組のグループに分かれ、ライド中に各グループが走行位置を入れ替わることでデュムランの近くで走れるようになっていた。前日からの雨や雪解け水で、路面には所々大きな水たまりがあったが、一行はそんなところも歓声を上げてクリアしながらサイクリングを楽しんだ。
ライド終盤には穴守稲荷神社(東京都大田区)にも参拝。ジャイアントのスタッフから、お参りの仕方を教わり、手水で身を清めてお賽銭を入れて二礼二拍手一礼の作法に則って参拝した。
デュムランはずっとフレンドリーな雰囲気でライド中も参加者と会話を楽しみ、記念撮影にも気さく応じていた。「雨が降ってて寒かったけど、みんなと走れて楽しかったよ!」とデュムランも満足そうだったが、一緒に走ったファンも「テレビとか雑誌とかの向こうの世界でしか見たことのないスターが目の前にいて、一緒に走れているなんて夢みたい!」と大喜びだった。
新型TCRの国内初お披露目に続き、デュムランのファンミーティングも開催
ライドイベント終了後、イベントへの応募者の中から抽選に当選したおよそ70人を対象にTREX川崎で新型TCRのプレゼンテーションが行われた。会場には国内では初めて新型TCRの実車が各モデル展示された。
プレゼンテーションに引き続き、デュムランのファンミーティングが行われた。司会はJスポーツのサイクルロードレースの実況でおなじみのサッシャさん。冒頭、サッシャさんが東京五輪の会場でアナウンスしていたことを伝えると、デュムランは「どこかで聞いたことがある声だと思った!」と返し、和やかな雰囲気の中でトークが始まった。
サッシャさんが東京五輪や日本のファンの印象について尋ねると「東京五輪はとても美しいコース。ホテルから見た富士山がキレイで印象的だった。日本のファンもリスペクトを持って接してくれてうれしかった」と日本や日本人に強い好意を抱いていると明かしたデュムラン。新型TCRについて質問すると、「新しいTCRは歴代モデルの個性や良さを引き継ぎながらも、完成度がさらに高まっている」と絶賛した。サッシャさんは「覚えていってほしい日本語がある」と新型TCRの特徴である「軽い、硬い、速い、TCR」という日本語をレクチャーし、デュムランがリピートする場面もあった。
続いて会場のファンからの質問タイムへと移行した。ファンからは「東京五輪では他社製のバイクを駆って銀メダルだったが、もしジャイアントのバイクだったら金メダルを取れた?」と際どい質問も飛び出した。デュムランは「TCRでは最新型でも無理だったと思うけれど、TTバイクのトリニティなら金メダルだったろうね!」と返し、会場を大いに盛り上げた。また、別のファンからは選手のキャリアを一時中断した後に復活した理由について聞かれ、「リオ五輪で金メダルを取れなくて東京五輪ではリベンジしたいと当初は思っていたが、プロ選手としての晩年はモチベーションを保つのに苦労した」ことや、そこから東京五輪に出場したのは「勝ちたいという気持ちより、長年目標としてきた東京五輪の舞台に立って全力を尽くすことが大事だという気持ちがモチベーションになった」と語った。
質問タイムに引き続き、新型TCRのTシャツ(非売品)や2017年のジロ・デ・イタリアでのデュムランの総合優勝を記念して作られたタンブラーが当たるじゃんけん大会が行われ、デュムランがオランダ語でじゃんけんを行った。
トークショー後に行わたサイン会では、会場の外まで続くほど長蛇の列ができたが、一人一人に対し丁寧にサインや握手、記念撮影に応じた。
最後は参加者全員と集合写真撮影。このころには雨も完全に上がって晴天となった。デュムランは午後には韓国に飛ぶタイトスケジュールだったが、タイムリミットギリギリまで笑顔でファンとの交流を楽しんでいた。
デュムランのファンイベント一問一答まとめ
当日のファンイベントでのサッシャさんからデュムランへの一問一答の内容をまとめて紹介する。
——日本に来るのは何回目ですか?
デュムラン 今回で2回目。前回は東京五輪に出場したときだよ。
——東京五輪出場時の滞在ではどんな思い出がありますか?
デュムラン 東京オリンピックの時は、まだコロナで外出もファンとの接触も制限されていたけれど、滞在した御殿場のホテルから富士山が見えてすごく美しかったのが印象的だったね。
——日本のファンについてはどう思う?
デュムラン 日本のファンは優しく、リスペクトを持って接してくれるから好きだよ。今朝のライドでも楽しく会話できてうれしかった。
——東京五輪の時はなかなかファンと交流できなかったのでは?
デュムラン 確かにそうだね。でも、今回来日して、自分のファンが日本にこんなにいてくれることがとても印象的だった。それに、日本では自転車が生きているというか、自転車に乗る人がこんなに多いのだと知ることができたのもうれしいね。
——何か日本語も覚えていますか?
デュムラン 「ありがとう」と「こんにちは」かな(笑)。
——じゃあ、今日はTCRの特徴の「軽い」「硬い」「速い」を覚えましょう!
デュムラン OK! (サッシャさんに教わりながらリピート)軽い、硬い、速い、TCR!
——新しいTCRの印象はどうでしたか?
デュムラン 自分が2012年にプロ選手としてのキャリアをスタートさせて以来、TCRの歴代モデルに乗り続けきたよ。台湾本社に訪問したときに歴代のTCRが展示されていたけれど、最新モデルまで後半の5台は全部乗っているね。歴代のTCRには軽さ、硬さ、速さのすべてが備わっているけれど、10代目のTCRも歴代モデルの個性や良さはそのまま受け継いでいるね。それでいて完成度はさらにアップしている。すごいバイクだよ!
——どんなところが進化していると感じた?
デュムラン 自分が乗り始めたころはまだリムブレーキで、そこからディスクブレーキになって、僕が先代モデルに乗り始めたのは現役引退後の2年前だけど、それと比べても大幅に進化しているね。特にホイールがすごく進化していると思う。あとはパワーの伝達効率が上がったと感じるね。特にコーナーでの立ち上がりで、ペダルを踏んだ力がムダなく推進力になっていると感じる。
——新しいTCRはどんな人に勧めたい?
オールラウンドでパーフェクトなバイクで、選手が乗るようなトップモデルからエントリーモデルまであるから、どんなサイクリストにも合うと思うよ!
ファンならではの鋭い質問も? 来場者からの質問まとめ
続いてファンイベントの来場者からの質問とそれに対するデュムランの回答もまとめて紹介する。
——ジャイアントのグローバルアンバサダーに就任して、カスタムペイントのTCRを贈られたと聞いていますが、デュムランにとってTCRはどんなバイク?
デュムラン 僕にとっては特別なバイクだよ。ジロで総合優勝できたし、2015年のブエルタでグランツールの総合争いに絡んでいるとき、第9ステージで落車に巻き込まれてしまってスペアバイクに乗り換えたんだけど、自分のバイクと微妙にポジションも違ってちょっと違和感があったんだ。それでもフルームを下してステージ優勝できたし、すごいバイクだよ!
——東京五輪を走った感想は?
デュムラン すごく美しいコースだという強い印象が残っているよ。TTコースはフラットではなくてアップダウンがあったから、自分には有利だと感じた。
——最近オールラウンドな超人のような選手が増えているような気がするがなぜだと思いますか?
デュムラン ポガチャルとかヴィンゲゴーとか才能のある選手が入ってきたことがひとつ。もうひとつはトレーニングや食事、機材を含めて科学的なアプローチが進んだことかな。これらの相乗効果で、ビックリするようなパフォーマンスを発揮する選手が増えているのだと思う。特に資金力のあるビッグチームは、予算も豊富だから科学的なアプローチで機材やトレーニングを改善できるから強いね。
——東京五輪の来日中にトレーニング中に会ったが、とてもリラックスしているように見えました。大きなレース前に緊張しないコツがあれば教えてください。
デュムラン いつも適度にリラックスした状態でレースに臨めるように心がけている。東京五輪の際に日本で走ったのはレース直前だったので「やれることはやってきた。やり尽くした」という自信があって、落ち着いていられたのかも。これがもう少し前のハードに追い込む時期だとそんな余裕はなかったと思うよ(笑)。
——実業団でレースを走っているのですが、トレーニングとレストのとり方を教えて欲しいです。
デュムラン 自分は2〜3日ハードな練習をして1日休むというブロックを基本としていて、ハードな練習をする日は4〜6時間のライドで、上りでのインターバルをしたり、一定ペースで走ったりしている。限界をオーバーするペースと低いペースを交互に繰り返す練習は、レースでアタックに反応するのに重要だと考えているよ。レストの日は1時間程度のレストライドをして、疲労を抜くようにしているんだ。
——アジアで印象的な場所はありますか?
デュムラン タイやインドネシア、ベトナムかな。タイでは冬のキャンプとしてチェンライで4日間合宿したことがあって、アップダウンのあるエリアを走っていい思い出になっているよ。
——東京五輪ではTTで銀メダルを獲得されました。それはとてもすばらしいことだと思うのですが、残念ながら他社製のバイクでしたよね? もしジャイアントのバイクだったら結果はどうだったと思いますか?
デュムラン TTだからTCRだと新型でも厳しいだろうけど、トリニティ(ジャイアントのTTバイク)だったら金メダルが取れていたかもね(笑)
——2017年のジロ・デ・イタリアの16ステージではトイレストップで絶体絶命のピンチになりましたが、絶体絶命の状況になったときにどのような心境になるのか、またどう克服したのかを教えてください。
デュムラン 2017年のジロ、思い出深いね(笑)。あのとき、僕より年上で総合優勝経験のある選手が僕のことをアシストしてくれたんだけど、彼から言われていたのは「めいっぱいサポートする。だからいつも全力で走ってほしい」ってことだったんだ。だからトイレストップを余儀なくされたときも「全力で行く」って気持ちは揺るがなかった。全力で行けばなんとかなるって信じていたから。
——デュムランは、一度選手生活を中断して復活されていますね。モチベーションを再び高めるのは大変だったと思うのですが、どうして一線に復帰できたのですか?
デュムラン 自分は2016年のリオ五輪のTTで金メダルを取ることを大きな目標にしていた。その年は直前のツール・ド・フランスでもステージ優勝もしていたし、調子もよかったんだ。でも、その後落車に巻き込まれて骨折し、リオ五輪でも調子が上がらなくて銀メダルに終わった。「負けてしまった」って気持ちが強くて、次の東京五輪でリベンジしたいと思っていた。その後、自転車を楽しめなくなって少しの間休養することにしたんだけど、「ずっと目標にしていた東京五輪に行かなくていいのか?」って気持ちになって、「勝つことよりも東京五輪に行くことが大切、勝つことも大切だけど、全力を尽くしたらいいじゃないか」っていう心境になったから、東京五輪には出場したんだよ。