東京サイクルデザイン専門学校 2023年度「卒業制作展」の受賞作
目次
自転車業界に毎年多くの人材を輩出している自転車の専門学校「東京サイクルデザイン専門学校」(以下TCD)。3月といえば、TCDの卒業制作展が恒例となっており、業界での注目度も高い。
3月8日(金)からの3日間、青山にある校舎で開催された卒業制作展は、学園祭を同時に開催する「卒祭」として大いな賑わいを見せていた。今年は自転車クリエーションコースの卒業生による32作品が並んだが、会場に並ぶ自転車たちを前にあらためて思ったことがある。それは伸び伸びとした「自由な発想」と、それを見事に形にする「技術力」、さらには来場者を意識した「魅せる力」がとにかくハイレベルだということ。
そんな溢れんばかりの個性と自転車愛を満載した、3年間の集大成となる作品の中から、グランプリをはじめとする各賞の受賞作品を中心とした卒業制作展の様子をTCDの学科長を務める高橋晶先生のご紹介で見ていこう!
グランプリ『STAR FIGHTER』
「まずは、今年のグランプリとなる『TCD AWARD 2023 GRAND PRIZE』の作品をご紹介しましょう。伊藤匠真さんの作品、作品名は『STAR FIGHTER』です!」
「この作品は企業賞も同時受賞しているのですが、何より今までの自転車の常識を覆すような試みがされていて、非常に新しく画期的なアイデアであることが受賞のポイントです。前輪駆動で、後輪操舵の構造となっています。ダウンチューブ内にリアフォークコラムを通して、その先にハンドルが接続されており、後輪をダイレクトに操作できるようになっています。
自作のパーツも多く、溶接の技術を巧みに使いこなし、この特殊な構造を実現するために3DCADを駆使して試作機も作るなど、このカタチに仕上げるまでのプロセスも素晴らしいものがありました。実際に乗るには多少の改良は必要ですが、これから色々と発展していく可能性に満ちた作品です」
準グランプリ『RONDE BIKE』
続いては、準グランプリの作品をご紹介いただく。
「準グランプリに選ばれたのは、泉田勇太さんの作品で作品名『RONDE BIKE』です」
「特に都市部における住宅事情を考えると、自転車を室内に置くスペースの確保は難しいものがあります。一方で折り畳み自転車という選択もありますが、折り畳む手間があります。この『RONDE BIKE』は、そのまま玄関先に置けるコンパクトな1台です。玄関先に置いてあって、それこそサンダルを履くような感覚で使えるというアイデアの面白さを感じさせる作品です。コンパクトでありながら、リアは26インチというのもいいですね。面白いアイデアを見事にカタチにしています」
学生がぶち当たる“壁”と、その乗り越え方
今年の卒業制作では、例年よりも制作期間を長くしたという。その狙いと、成果はいかほどだったのだろうか。
「例年にくらべて1.2倍の制作期間を設けました。それも試作期間と本作期間の2期に分けています。まず、春先のデザインの授業でコンセプトワークの授業があります。卒業制作に特化した授業ではありませんが、コンセプトの立て方を多角的にトレーニングして、そこから自分の作品に繋がるコンセプトを立てていきました。
その後、アイデアを形にするためにまずは試作期間で構造や素材のリサーチを進めながら、モックなどコンパクトな試作機を作ります。そうした丁寧な準備期間を経て、10月から2月までの本作期間に入ります」
試作期間で十分に準備をしていても本作期間に入ると、学生たちはまず“壁”にぶち当たるという。
「具体的な形を思い浮かべて理想を広げ、夢を広げているときは、学生は生き生きとしますが、実際の制作に入ると、思っていたパイプがない、パーツがうまく合わないなど、壁にぶち当たります。でも、そういう時期こそが大きな学びになっていると思います」
壁があったとしても、学生たちはちゃんと乗り越えていくのだという。そこには、4月からTCDの学校長に就任するハンドメイドバイクブランド『ケルビム』の今野真一氏をはじめとする講師の存在があるからだ。
「本校にはビルディングはもちろん、デザインやコンセプトワーク、自転車カルチャーに至るまで、専門的な技術や知識を持った先生が揃っています。学生たちにあらゆる角度からアドバイスをしてくれるので、学生もしっかりと課題を消化して作品に仕上げることができるのです」
プロの目線からアドバイスをしてくれる講師陣や、「自転車が好き」という共通の思いを持った仲間がいるのもTCDならではの学びの深さとなっているのではないだろうか。
たくさんの学びが詰まった集大成
さて、グランプリ、準グランプリに続いて、もう2作品紹介したい。今回の卒業制作にあたって学校から2つの部門、コンセプトモデル部門とプロダクションモデル部門が設けられた。学生はいずれかを選んで作品をつくったという。
「コンセプトモデル部門は『来るべき自転車の将来の役割を提案するモデル』、プロダクションモデル部門は『現在の自転車市場に対し、直接提案するモデル』という内容です。
コンセプトモデル部門の受賞作品は姜京柱さん作の『Back’n Time』です。コンセプトはカーボンハイブリッド自転車を現代的な解釈でレストアするというものです。パーツアッセンブルも80、90年代の雰囲気に合わせて当時のモノや復刻パーツをうまく使っています」
「プロダクションモデル部門の受賞作品は横山航大さん作の『DIVISION3』です。昨年、東京都でもタンデムバイクが解禁となりました。ただ、都内の住宅事情では置けません。乗りたくても置く場所がないという悩みを解消すべく、このバイクはフレームの中央部分を取り外すと1人乗り自転車にもなるという、デモンタブルのタンデムバイクです。何よりアイデアが面白く、それをうまく形にしたと思います」
こうして受賞作を見てみると、これからの自転車がもっと面白くなるのではないかと感じさせてくれる。
「自転車の歴史もそうですが、先人が作ったものをブラッシュアップしてより良いものにしてきました。卒業制作に関しても、先輩たちが作った作品があり、そこに今年の卒業生たちならではの肉付けがされることで、どんどん良くなっていると感じます。
ただ、ここに至るまでにCADやデザインの授業、高度な溶接技術、コンセプトワーク、さらには自転車に乗る楽しさの提案など、それこそ3年間で培った“オール・アバウト・バイク”の学びが、集大成として作品になったのではないでしょうか」
これから自転車業界へ巣立つ学生たちの今後の活躍ぶりに、大いなる期待をさせてくれる卒業制作展だった。