「ラファ・プレステージ裏磐梯」レポート。祝祭の扉が開く
目次
世界に点在する景勝地をチームで駆け抜ける「ラファ・プレステージ」。 美しくも険しい裏磐梯(うらばんだい)、その“裏側”に迫る実走録。
「裏磐梯」に潜む光景
“裏”という響きにあらぬ期待をしてしまう、それは人間の性だろうか。裏技、裏ルート、そして裏磐梯。この先に隠された景色がある、直感がそう告げていた。息を合わせて、仲間と共に非日常へと蹴り出していく。晩夏を告げる冷風が、優しく頬をなでた。
ラファ・プレステージ(以下RP)とは、世界各地に点在する「自転車で走るべき」魅惑の地を舞台に、最大5人のグループで挑むライドイベントだ。主催者は、世界のサイクルアパレルをリードする「ラファ」。いにしえより続くロードサイクリングのルーツ、そして土地への敬意を表すイベントとして世界中で開催されている。2024年は世界6か国での開催となり、日本会場は福島県の裏磐梯が選出された。
まずありがちな誤解を解いておきたいのだが、RPはラファを着ずとも、RCC(ラファサイクリングクラブ)のメンバーでなくとも参加可能だ。4〜5人のグループを組めればよく、ラファの内輪イベントという趣は一切ない。熱烈なリピーターも多い一方で、初参加率5割というフレッシュな顔ぶれがそろった。
過去はグループでジャージを統一する規定があったが、裏磐梯では自由選択とされた。しかし、ほとんどのチームは示し合わせたかのようにそろいのジャージでスタート列に並んだ。ファッションショーのランウェイのように、しゃれたサイクリストたちが路上に解き放たれていく。その光景は、脈々と受け継がれるRPの伝統そのものだ。距離150km、獲得標高3300mの長い一日が始まった。
誰がためのイベントか?
RPの運営は驚くほどアッサリしている。コース上にエイド、立哨、サポートカーは一切なく、ありのままの景色に放り出される。補給は全て自前で、ルートデータを頼りに道を選び、メカトラブルは自己解決を迫られる。また、チームメイト同士離れて走ることはできず、常にチーム走行を是とする。これらの性質から、サイクリストとして独立独歩できる個の力と、オール・フォー・ワンの精神が完走の鍵を握る。
俯瞰(ふかん)で見れば、RPと身内のサンデーライドとで、やっていることはそう変わらない。唯一違うのは、ここが裏磐梯という秘所であること、そして多彩なグループが同じゴールを目指して行き交うことだ。裏磐梯は初訪問という参加者も多く、新鮮なライドに酔いしれたことだろう。ルートは決まっているが、どう走るかはあなた次第だ。
コースのハイライトは標高1600m台に広がる浄土平(じょうどだいら)だ。伸びやかに続く磐梯吾妻スカイラインは、さながら天国への階段。一面に広がる浮世絵離れした荒野は、まさしく「自転車で走るべき魅惑の地」とうなずける。ここにたどり着く頃には、チームの結束は揺るぎないものとなっている。幾重もの坂を乗り越え、脚は重く、心は軽く。土地と一つに溶け合う感覚が心地良い。
ゴールも非常にサッパリしている。ビッグライドを完遂してもなお、華やかなセレモニーや大掛かりなアナウンスは用意されない。目を閉じて苦楽の半日を振り返ると、名声(プレステージ)を勝ち取った仲間たちとの軌跡が胸に渦巻く。グループライドの純粋性を煮詰めた、とびきり濃厚な時間がリフレインする。数字では測れない、形に残らないものこそ美しいと思えるはずだ。一方で、夜のアフターパーティは華やかに、翌日のソーシャルライドはにぎやかに執り行われた。
いつかはプレステージ。そんな大仰な物言いも決してオーバーではない。ハードコアなライドを仲間と共に乗り越えたあなたは、紛れもなくいっぱしのサイクリストと胸を張れるはずだから。来年は西日本で開催予定。その祝祭の扉をぜひたたいてほしい。
Interview
Course Directer 辻 啓
「RPはチームで乗り越えるからこそ美しい」
「前年の熊野ステージでコースディレクターを担当し、その延長で今回も携わりました。ローカルライダーの口コミや、自らのサイクリストとしてのセンス、そしてフォトグラファー目線で撮影ポイントを勘案してコースを引きました。結果、RPらしさを残しつつ走り応えと絶景を味わえる、裏磐梯ならではのコースに仕上がりました。緩い坂が多かったので、実際の獲得標高よりはラクに感じたかもしれませんね。
RPはレースともヒルクライムともグランフォンドとも違う。ハードなグループライドがもたらす苦楽こそイベントの醍醐味です。ブランドによる縛りを設けず、あらゆる属性を受け入れるラファの哲学は、今後もイベントの要となるでしょう」
Community Co-Ordinator, Japan 三井 裕樹
「数字で測れない体験を、共に分かち合いたい」
「三条や熊野での開催実績を踏まえ、RPにふさわしい場所として裏磐梯を選びました。間口を広げるためにグラベルのないルートを引き、その結果半数が新規参加となりました。参加者が積極的に、自ら苦楽を見出すイベントコンセプトは今回も健在となりました。
グループ同士での交流が自然発生するのもRPならではです。知らない人同士でも、走れば仲間になれる。その高揚感は、数字に表れない要素として大切にしたいです。間口を広げたい一方でルートをやさしくするつもりは全くなく、だからこそ走力と経験を積んで参加してもらえたらベストですね。ハードなイベントですが虜(とりこ)になる人も多く、ぜひ海外のプレステージにも足を運んでほしいと思います」
Team for RP URABANDAI
Team No.1 RCC petit mimosa
大会唯一のオール・ウィメンズチーム
右腕に蝶を模したアクセサリーを、ジャージ背面にレース風手作りゼッケンをあしらった遊び心たっぷりのチーム。RP熊野を初めて走った1人が発起人となり、「女子だけのチームで出たい」というコンセプトで未経験の4人を集めて結成した。チーム名に入るミモザの花言葉は「感謝・友情・エレガンス」。とびきりの個性と統率のとれた走りはオーガナイザーの目に留まり、RPらしさを体現したベストチームとして特別表彰を受けた。
Team No.2 Team Metro
仙台のカフェを拠点とする実力派チーム
宮城県仙台にあるRCCパートナーカフェ「カフェモーツァルトメトロ」のオーナーを中心としたチーム。健脚なオーナーの下には同じく健脚なお客さんがつくのが世の常か、大会トップクラスの実走派集団として存在感を示した。ラファのカスタムオーダーで製作したハイビズピンクのジャージは、胸にチームロゴをあしらったシンプルかつハイセンスなもの。遠方からの被視認性もバッチリだ。9時間半を切るハイペースでフィニッシュ。
Team No.3 borda
愛知と長野、縁でつながったRCCの仲間たち
チーム名のborda(ボーダ)はポルトガル語で“縁”の意。愛知から4人、長野から1人、いろいろな縁でチームを組むことになったことがその由来だ。3人はRP初参加で、長野の開田高原での練習ライドを経て本番に挑んだ。前回大会の熊野が激しいコースだったので身構えていたそうだが、裏磐梯は100%オンロードで楽しく走れたという。上りで遅れたメンバーは全員でサポートしながら走り、経験者のリードが光るチームとなった。
Team No.4 Speed Donuts CYCLO
流山のドーナツショップは走りも一線級
千葉県流山を拠点とするRCCパートナーカフェドーナツ屋「CYCLO」のスタッフチーム。道中のCPでドーナツ販売を行い、補給ポイントの少ないコースにおける貴重なオアシスとなった。少人数ながら個々の走力は高く、浄土平のハイキングとカレーランチをしっかり満喫しつつも余裕の10時間切りで完走。同じくパートナーカフェであるTeam Metroとも道中を共にし、仙台と流山との意見交換会となったようだ。
Team No.5 SKYLINE
チーム名の由来はスカイブルーのソックス
関東圏のRCC仲間で結成したチーム。出走に際して買いそろえたブルーのトップスは、ラファのワードローブからユニセックス展開のあるものを選んだという。同系色で合わせたスカイラインソックスは、アメリカンメーカーの「Ridge Supply(リッジ・サプライ)」から調達したもの。奇しくも、コースのハイライトは磐梯吾妻“スカイライン”であった。メンバーの一人はこのRPで自己最長距離を達成した。
Team No.6 RoadToNowhere
プレステージならではの一期一会に感謝
昨年5月に行われた「ラファ・ジェントルマンズレース京都」の参加メンバーを中心に、RP初挑戦者を加えた混成チーム。パープルのジャージとソックスでチームの結束力を表現した。スタート前はいかにチームで楽しむか頭を悩ませたというが、実際には走力差はさほど問題にならず、足並みそろえて最後まで走り切ることができたという。標高差3000m以上を上ったとは思えないくらい楽しかったと、全員が笑顔を見せた。
アフターパーティに全員集合!
ハードな一日を締めくくるパーティタイムは、RPの欠かせない1ピースだ。豪華なビュッフェを楽しみつつ、辻啓氏のフォトギャラリーと軽快なトークが会場の笑いを誘った。最後に、RPのコンセプトを体現したベストチームに特別表彰と豪華商品が贈られた。