「キャノンデールグラベルクラシックやくらい」2024レポート!グラベルの熱意の先へ

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台風が真夏のピークを連れ去った2024年9月朔日、宮城県加美郡加美町のほぼ中央に位置する薬菜山(やくらいさん)で、キャノンデールジャパン主催のグラベルイベント「キャノンデールグラベルクラシックやくらい(以下、グラベルクラシックやくらい)」が開催された。

これまで同イベントを作り上げてきた関係者やスタッフの熱意、キャノンデールジャパンの関わり方、そして参加者の声から、同イベントのこれまでとこれからに焦点を当ててレポートする。

宮城のシンボル「やくらい」で、グラベルロードを走る

2023年に続き第2回として開催されたグラベルクラシックやくらいは、同エリアで過去に開催された「JEROBOAM JAPAN GRAVEL CHALLENGE」(2021年)や「ラファエクスプロアプレステージやくらい」(2022年)といったイベントのDNAを引き継ぎ、東北エリアを代表するグラベルイベントの一つに成長した。

それとともに、本イベントの冠スポンサーであるキャノンデールジャパンは2024年秋に解散が発表されたこともあり、現在の形での開催は今回が最後になる。

 

午前4時30分、まだ太陽も上がり切らぬ時間帯にも関わらず、今回のベース基地であるペンションKAMIFUJIの目の前の広場には多くのグラベルライダーたちがブリーフィングに参加するにひしめき合っていた。

台風の影響を受けて変更されたコースは若干ハードなプロファイルになり、「ロングコース」は距離127.7km・獲得標高2730m、「ショートコース」は68.8km・獲得標高1353mと、ショートコースですら決して簡単なコースプロファイルではない。それを受けてか、参加者の間に漂う空気には緊張感も感じられた。

午前5時ちょうど、ロングコースの参加者が徐々にスタートを始めた。我々サイクルスポーツチームは、編集のエリグチと、彼から急遽招集された筆者・タムーとのコンビだ。そしてスタートでキャノンデールジャパンの山本和弘さん(以下、カズさん)と「鈴なり妖怪 鈴」こと木下友梨奈さん(以下、鈴さん)にジョインして、まずは4人のチームで走ることに。

スタートして2kmほど走ると、すぐに最初のグラベル区間に突入し、一息で400mアップを駆け抜ける。路面は比較的小さめの石が多い、いわゆるジープロードのダブルトラックだ。こういった路面では、リヤ荷重が高まるにつれてキングピン・サスペンションがしなり始め、リヤタイヤのトラクションを高めてくれるのを感じる。そう、こんな道を淡々と上っていくのは、キャノンデール・トップストーンカーボンのまさに得意分野。そしてそんなグラベルバイクは、私タムーの愛車でもある。

斜度が高まったあたりでは、カズさんと鈴さんとエリグチに引き離されて自分のペースで上っていく。あまりの斜度に堪らず足をついている参加者とすれ違う。息も絶え絶えにお互いを励まし合いながら上ること10km弱、おもむろにダウンヒルが始まる。上ってきたのと同じようなジープロードのダウンヒルは、朝の山の冷たい空気を切り裂いて下っていくかのような心地良さだった。

photo:Tamoore P. Savolsky

上ってきた半分程度の標高を下ると合流地点に出た。序盤に出発したいくつかのチームがたむろし、グラベルの興奮冷めやらぬといった様子で盛り上がっている。先行してもらったカズさん&鈴さんも他の参加者と談笑していた。

一般参加者と運営側の参加者の距離が近いと感じたのもこのイベントの特徴だ。やくらいエリアのある種「秘境」っぽい雰囲気がライダー同士の一体感を生んでいるのかもしれない。

再スタートを切ると、先ほどとは打って変わって土の路面のグラベルが始まった。この週の初めに降った大雨の影響か、路面はウェット。徐々に深い森の中に入っていくと、土はどんどん水を含んで重くなっていく。

路面はタイヤをつかむような泥で、轍は水溜りになっている。避けられずに水溜りを突っ切ると、さながらスプラッシュ系のジェットコースターのように水しぶきが上がる。他の参加者たちと一緒に「きゃあきゃあ」と成人男性らしくない叫び声をあげながら泥を切り付けていく。

少し下ると、徐々に木立がひらけて明るくなってきた。畑の間を縫う、開放感のあるグラベルを駆け抜けて第二のグラベル区間はフィニッシュ。舗装路を抜けて第一チェックポイントである加美町のまちづくりセンターにたどり着く頃には、参加者の間には疲れも見え始めていた。

photo:Tamoore P. Savolsky

photo:Tamoore P. Savolsky

第一チェックポイントを出発すると、次のグラベルまでは20km弱の舗装路でのアプローチだ。普段はロードレースの実業団として活躍するチームの快速なトレインに乗る。

走りながら会話をする楽しさもまた、走る速度域が比較的低いグラベルイベントならでは。狭いダブルトラックの緩やかなグラベルを淡々と上ってから、アップダウンを繰り返しながら舗装路とグラベルを交互に下っていく。グラベルから流れ出した砂利が舗装路に転がっておりスリッピーだ。グラベルには雨で洗掘されてできた深い溝も多く、油断しているとハンドルを取られそうになる。

ブラインドとなっている大きな溝を回避して停止し、後続ライダーに安全なラインの指示を出す。このイベントへ複数回参加されている方曰く、「ダウンヒルは頑張ったらダメなんですよ」とのことであったが、ここに来てその通りだと実感する。

気の抜けないやくらいのグラベルだが、しっかりとブレーキを握ってコントローラブルな速度域を保ち、落ち着いて路面の様子を見極めれば、グラベルのテクニックを一段階も二段階も高められるだろう。

スリリングなグラベルを抜けて鳴子温泉に着いたのは午前11時ごろ。行程の半分以上を過ぎて初めて見えたコンビニだったこともあり、大きめの休憩をとる参加者たちの姿が見られた。我々は簡単な昼食をとった後、カズさんと鈴さんと一緒に鳴子温泉の足湯へ寄り道を楽しんだ。

実は今回のイベントが2回目の本格的なグラベルライドだと語る鈴さんは、以前のグラベルライドで激しい落車を経験したことで、グラベルライドへの恐怖を覚えていたそうだ。

前日に開催されたライドイベントである「ソーシャルライド」でも不安を語っていた鈴さんだったが、足湯に浸かりながら話を聞いた際には、既にグラベルライドの自信がついてきたようだった。鈴さんの住まいの近くにはグラベルが少ないそうだが、今回のコースでは上り・下りともに大ボリュームのグラベルを経験できたことで、大きくレベルアップしたようだ。キャノンデールジャパンのカズさんとチームを組んで走ったことで、カズさんのライドテクニックからも多くのことを吸収しているように見えた。

13時前、我々は、カズさんと鈴さんのパックにキャノンデールジャパンチームが合流するのを見届けて、再び走り始めた。

鳴子温泉の脇の細道を上り、鳴子火山のカルデラ湖である潟沼のほとりを通り抜け、森深いシングルトラックのグラベルを上る。今回のコースで最も激坂のグラベルに耐えきれず足をつくも、アブの羽音を感じて再び走り始める。斜度が若干緩んだところで上りの計測区間(KOM区間)が始まるも、すでに両脚とも攣っており踏み切れないのが歯痒い。

淡々と自分のペースで上っていると、後方からタイヤが砂利を弾く音が聞こえた。カズさんと鈴さんのパックだ。二人はすでに2000m近く上ってきたとは思えないペースで、あっという間に通り過ぎていってしまった。おもむろに始まったダウンヒルの途中でどうにか二人と合流し、第二チェックポイントに滑り込んだ。

休憩もほどほどに、ダウンヒルの続きを再開する。トータル10kmのダウンヒルは、砂利っぽくもウェットで引き締まっており、タイヤのグリップを最大限に生かして駆け抜けられる気持ちの良いグラベルだった。

1時間以上かけて上った距離をその3分の1もかからずに走り終えると舗装路に出た。その後も小高い丘のグラベルを挟みながら10kmの道のりをゴールに向けてペダルを踏む。

道沿いのレストラン「いっぷく亭」で用意されていたイベント参加者向けの水の補給をありがたくいただき、最後のヒルクライムへ向かう。その途中、二本めのグラベルで一緒に騒いだチームに追いつき、数時間ぶりの挨拶を笑顔で交わす。基本的に人気の少ないコースを走るグラベルイベントだからこそ、再会の喜びもひとしおだ。

舗装路を下り、脇道に入ると最後のグラベルが始まった。ストラーデビアンケの白い道を思わせる細かな砂利のグラベルは開けた畑の真ん中を切り裂き、正面に薬菜山を臨む絶景のグラベルだった。

そのグラベルの中でも最も景色の良い場所には、ソファが設置されていた。世界でのイベントでの設置をきっかけに、日本のグラベルイベントでもすっかりお馴染みとなりつつあるそのグラベルソファに腰掛ける。NBこと田辺信彦さんが待ち構えており、薬菜山をバックに最高のフォトを撮ってもらう。ここまでのハードな道のりが全て報われるような気持ちだった。

舗装路を下り、西陽とスタッフの皆さんに迎えられてペンションKAMIFUJIでゴールしたのは17時前。およそ12時間のロングツアーとなったが、さまざまなグラベルが顔を覗かせるバラエティに富んだコースのおかげで、体感よりも長く走ったように感じられる。

ゴール後の参加者の方々に話を聞くと、コースの激しさに苦しんだという声や、機材選択の反省を生かして次に向けてどう変えていきたいといった話が多く聞こえてきた。また、激しいコースプロファイルだったにも関わらず、次も参加したいという声が多く聞こえてきたのも印象的だった。

特に東北エリアでのグラベルライドイベントは少ないことから、東北を舞台に日本を代表的するグラベルイベントが宮城県で開催されていることを喜ぶ声は多かった。

さらに、今回のイベントでは、鈴さんのようなグラベル初心者のライダーが、先輩ライダーに連れられてチームで参加し、激しいグラベルライドによってレベルアップしている姿も多く見られた。

こういった面もまた、本イベントがグラベル文化の醸成において重要な役割を担っていることを表しているだろう。

イベント参加者が駆るグラベルバイクは多種多様であったが、多くの参加者が同社のキャノンデールのトップストーンシリーズに乗っていたのは、さすがキャノンデールを名に冠するイベントである。

「キャノンデールのユーザーに対してグラベルバイクを楽しむ場を用意するため、そして素晴らしかったラファエクスプロアプレステージやくらいのイベントを絶やしてはいけないという思いから、グラベルクラシックの開催を決めた」と語るのはキャノンデールのカズさんだ。

「キャノンデールジャパンは、社長も含めて社員みんなで実際に走ってきたことで、2年間のイベントを通してユーザーにグラベル遊びの楽しさを伝えられたのではないか」と実感を持って語る。

キャノンデールジャパンにとってグラベルクラシックやくらいは、マーケティングとしての役割を超えて、ユーザーとの重要な接点となっていたようだ。

また、本イベントを今回主催するのは、仙台を代表するショップの一つである「ハヤサカサイクル」だ。

同店は、以前からやくらい地域でのグラベルライドイベントを行なってきており、ハヤサカサイクルのグラベルクラシックやくらいの担当者である菅田純也さん(以下、菅田さん)は、この近辺のグラベルを自ら走って知り尽くす人。本イベントにおいても、コース選定に重要な役割を担ってきた。

「元々私たちハヤサカサイクルは、『ラファ・エクスプロアプレステージやくらい』の頃からイベントの協力に入ったのですが、ラファプレステージは開催地を転々と変えていくという性質上、毎年やくらい地域で開催することはできないものです。しかしながらハヤサカサイクルとしては、走る環境が豊富なやくらい地域でのグラベルイベントを継続することで、グラベル文化を育てていきたいと考えていました」

「そこにキャノンデールジャパンとタッグを組んで生まれたのが『キャノンデールグラベルクラシックやくらい』です。残念ながらキャノンデールジャパンさんは解散となってしまい、この先冠スポンサーが変わっていったとしても、私たちはやくらい地域のイベントとして、今後も継続して開催していきたい」と語ってくれた。

さらに菅田さんによると「今後は自治体とも組んで町おこしの一環として、UCIのグラベル世界選手権のようなグローバルなレースの誘致をすることや、日本各地で開催される他のグラベルイベントとも連携してシリーズ化するという構想もある」とのことで、やくらい地域のグラベルイベントは、これからより大きなイベントに育っていくことを期待できそうだ。

ハヤサカサイクルのグラベルクラシックやくらいの担当者である菅田純也さん

ライド前日には「ソーシャルライド」も開催

ソーシャルライド ソーシャルライド
ライド前日には「グラベルクラシックやくらいソーシャルライド」と称して、13km弱のライドイベントが開催された。数十人の大きな集団でグラベルを楽しみ、その途中では、キャノンデールのカズさんによるグラベルライド指南や、鈴さんによる今後の活動への意気込みなどが語られた。

前夜祭のウェルカムパーティでは豪華賞品も!?

ウェルカムパーティ ウェルカムパーティ

前日夜にはペンションKAMIFUJIでウェルカムパーティが開催された。特製のカレーやジンギスカン焼肉をやくらいビールのピルスナーでいただく。大抽選会ではスポンサー各社から提供された豪華プレゼントを前に大いに盛り上がった。

参加者の声を紹介!

やくライダーズ

photo:Tamoore P. Savolsky

宮城と青森から参加した「やくライダーズ」。これまで参加したイベントの中で一番厳しかったと話す皆さんだったが、来年も参加したいと意気込みを語ってくれた。

ジャリだぁー

photo:Tamoore P. Savolsky

青森と秋田から参加した「Jarider (ジャリだぁー)」の野沢さん、田畑さん、佐藤さん。同じショップの常連仲間であるジャリだぁーの皆さんは、ホームコースである青森・秋田のグラベル熊などの危険もあることから、普段からご一緒にグラベルを走っているそう。