10年目の「サイクリングしまなみ」を満喫
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10月27日(日)、国際的な知名度を誇る瀬戸内しまなみ海道を舞台に「サイクリングしまなみ2024」が開催された。2014年の第一回大会から10年の節目に、大会立ち上げ当時に愛媛県の自転車アドバイザーとして関わった筆者が6年ぶりにゲスト参加。A〜Hの8コース中で最短のHコース(OSHIMA40・参加定員500人)を走った。
大会名:瀬戸内しまなみ海道・国際サイクリング大会 サイクリングしまなみ2024
開催日:2024年10月27日(日)
主催:サイクリングしまなみ2024実行委員会
共催:一般社団法人愛媛県観光物産協会、愛媛新聞社、中国新聞社
特別協力:グルメ・海の印象派-おのみち-実行委員会、せとうちみなとマルシェ実行委員会
コース:瀬戸内しまなみ海道及びその周辺地域/約40km〜140kmの全8コース
[スタート会場]
西瀬戸自動車道今治IC〈今治市〉
西瀬戸自動車道向島IC〈尾道市〉
[フィニッシュ会場]
広小路(今治市街地)〈今治市〉
向島運動公園〈尾道市〉、弓削港〈上島町〉
高速道路を自転車ジャックする特別感で世界にアピール
本大会は、しまなみ海道という場所の魅力を世界に知らしめるべく、共用中の自動車専用道を2年に1日だけ自転車で占有できるという希少性を強く打ち出した、言うなれば官製の地域PRイベントだ。
ことの発端は12年ほど前。台湾自転車メーカーの関係者として愛媛を訪れた筆者が、「瀬戸内しまなみ海道」とはそもそも地域名ではなく「西瀬戸自動車道」の愛称だと知り、「それならバイクニューヨークみたいに高速道路を止めちゃって自転車を走らせれば知名度アップは間違いないっしょ!」と言い放ったジャストアイデアを受け入れてくれた地元行政マン達の頑張りだった。つまり本大会は最初から国際的イベントとなるべくして生まれたのだ。
ともあれ、無茶振りに向き合った関係者たちの血のにじむような努力と、時運や人脈が引き寄せたいくつかのウルトラCが重なり、大規模自動車道を止めるサイクリングイベントが実現。以降はそのインパクトの激しさから2年毎の開催となったものの、健脚サイクリストから初心者&ファミリーまで全てを満足させる多様なコース設定や、愛媛・広島両県のボランティアおよび自治体関係者による手厚いおもてなし、そして場所の魅力が相まって、瞬く間に日本を代表する国際サイクリングイベントの座に上り詰めた。しかも、今回大会では今治側の大会フィニッシュが市街中心部の今治港に置かれるなど、毎回その歩みを止めることなく着実に進化を重ねており、その成果は今回3500名弱の参加者のうち500名以上を外国人が占めるという数字に大きく現れている。
楽しいぞ40km!新たなサイクリストを産みだすポテンシャルに敬服
筆者は自転車業界人の端くれとしてご多分に漏れず「長距離上等」という意識が強く、行政イベントに設定されがちな20〜50km程度のコースは正直言いうと軽視していた。それが今回、サイクリング経験の浅い友人をアテンドするため、今治から最初の橋だけ渡って折り返す40kmの最短コースを走ることになり、内心では物足りなさを感じつつも本業であるサイクリングガイドの延長と割り切って参加した。
ところが、スタートして今治インターの料金所を通過すると、ほどなく己の間違いに気づいた。自動車道ならではの美しい舗装路を、前後で数百人いるであろう参加者と共に走っているだけでグルーヴ感がハンパない。高速道路上は撮影禁止なのでむしろ走りと景色に集中できたのも良いし、立哨スタッフが100m位の間隔で立っていて、その全員が声を掛けてくださったのもまた良かった。距離もこれで十分。単なるロングならいつでもできるのだから、わざわざ自動車道だけ何十kmも走らなくても良いのだと納得しつつ、スタートから17kmほどで自動車道から大島を縦断する一般道へと降りた。インターチェンジではなくここは自動車道の管理車両用の出入り口だろうか。大島北ICまで進んでしまうと一般道の折り返しで長い坂を上ることになるので、これは初心者に優しい大英断だと思う。
ちょうど20kmでHコース唯一のエイドステーションとなる「よしうみバラ公園」に到着。居心地の良さそうな芝生の広場を囲んで、エイド食や飲み物、無料のマッサージサービスなどのテントが並ぶ。高さも強度も完璧な鋼管製のサイクルラックにバイクをかけてからエイド食を取りにいくと、手渡されたそれは… 何と「チャーシュー」と「じゃこ天」そして「ブルーベリー」だ。これはおいしいサプライズ!なるほど、それぞれ今治、愛媛、そして大島を象徴する食べ物なのだと思い至った。ちなみに、飲み物はコカコーラ社から提供されている「アクエリアス」。家で飲むことはほとんどないけどライド中に飲むと本当にうまい。きっと入念に設計されているのだろう。
さて、数日前までは大会中止の懸念すらあった天気もすっかり上々。参加者の取材をせねばとうろうろしていると、父子とおぼしきお二人に目が止まった。ひと目でカープファンだと分かる真っ赤なウェアが印象的な織井智靖さんと、お顔も雰囲気もお父さまにそっくりの敬大さん。自動車専用道を自転車で走ってみたいという理由で大会にエントリーされ、参加確定を機に自転車を2台とも新調されたと聞き、自転車業界人として改めてイベントのパワーを再認識。ご購入後にはお二人で何度か自転車の練習をされたそうで、今回の参加を通じて父子の絆が深まったご様子。敬大さんいわく「ここまで初めて20kmも走ったけど、意外に楽勝だった」とのことなので、ぜひ次回大会もお二人で参加いただきたい。
取材している間にHコース参加者のほとんど全員が再出発してしまい、入れ違いで尾道から今治を目指す70km のAコース参加者が続々と到着するので、旧知の関係者が現れる度に言葉を交わしていたら、着いてから1時間半以上も経過していた。いやはや、楽しい。知人が多い大会ということもあるが、そうでなくとも海外からの参加者やこだわりのバイクのオーナーさんをつかまえてしゃべっているとあっという間に時間が過ぎる。
しかし、制限時間はたっぷりあるので焦りもまったくない。なるほど、普段のソロライドなら距離を走りたいが、イベントなら敢えて距離を抑えて仲間とまったり過ごすのも悪くないし、外国人参加者の皆さんも楽しそうだ。自動車道を走る体験という意味でも、しまなみ海道で最大の来島海峡大橋だけ渡るというのは非常に効率が良く、大島に降りてからの地形と景観も良い。いやはや、たかが40km、されど40km。Hコースにもしまなみ海道サイクリングの魅力は十二分に詰まっており、心からオススメできる。
大島の外周で台湾からのツアー団体を撮っていたら、小さな女の子と小径車の男性がゆっくり走ってきたのでお声掛けしてみた。大河原学さんと愛月さん親娘。自動車専用道を走ることができるイベントとして一昨年ぐらいから気になっていたところ、Hコースなら小学校4年生の愛月さんも参加できることに背中を押されてエントリーされたそう。来島海峡大橋の上まで25km走った時点で「上りがキツかった」という愛月さんだが、これまで最長だった5kmを更新できたことを指摘すると笑顔に。ソロキャンプ好きという学さんは自転車もソロ主体だったのが、大会参加が決まってから一緒に家の近所で練習を重ねるうちに親娘ライドの楽しさに目覚めて、今はホノルルセンチュリーライドにも興味津々だそう。と言いつつも「家族で行ったら結局一人だけで走ることになるかもですね……」とやや自虐気味。健闘を祈りたい。
フィニッシュ会場でまたまた2時間……
復路はいつものサイクリングルート。しまなみ海道らしい景観を得られる大島の西海岸から来島海峡を渡り、海峡沿いの静かな道路を経て今治市街のフィニッシュへ向かう。途中に何か所か細い道もあるが、総じて快適で安全性も高いルート設定がなされており、ほとんど全ての交差点に立哨スタッフがいるので、マップデータなどまったく見ずにフィニッシュできた。
今回からフィニッシュ会場が今治港となったのは、街との一体感という意味で本当に素晴らしいと思う。さらに、地域のにぎやかしで2週に一回ペースで実施しているという「まるしぇ」と共催されているのも良く、一般的なライドイベントではあり得ない数のキッチンカーや飲食ブースが並び、大会フィニッシュフードと合わせて走行カロリーを遥かに超えるカロリーを摂取するハメになること請け合いだ。
自転車関連ブランドやサイクルツーリズム関連の出展者も多く、のんびり練り歩いていたらここでも2時間以上を費やしてしまったが、これも走行距離の短いコースならではの楽しさなのだと思う。個人的には次回こそフルコースで尾道往復したいと思っているものの、友人や子供たちを誘って今年のようにのんびり走れるのならそれも悪くないとも思える。それもこれも本大会ならではの懐の深さなのだろう。やはりしまなみ海道はイベントでもひと味違う。
次回の2026年は8000人規模のフル大会となるはずなので、今からカレンダーにいれておこうと思う。
<ライタープロフィール>
スポーツサイクル振興事業全般に関わるサイクルビジネスプロデューサー。ジャイアントの広報・宣伝・イベント担当者として2012年に開催したしまなみ海道での大型イベントを契機に、「愛媛県自転車新文化推進事業総合アドバイザー」となり、以来サイクルツーリズム振興の全般に携わっている。台湾一周サイクリングツアーイベント「FORMOSA900」では公式日本チームのツアーガイドとして7周しており、台湾一周に呼応するかたちでスタートした四国一周については、2014年にジャイアント側でツアー計画に着手し、その実績から2016年に自治体側の基本ルート設計も受任。以後も各施策にアドバイスしている。また、国際的なサイクリングツアーでの現場経験からサイクリングガイドの必要性を痛感し、「一般社団法人日本サイクリングガイド協会」を2014年に設立。スポーツサイクリストとしての立場から、サイクルツーリズムの根幹を支える専門技術の標準化と専門人材の育成・組織化に心血を注いでいる。1967年東京生まれ。