“アワイチじゃない淡路島サイクリング”イベント体験レポート

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淡路島を海沿いに一周するサイクリングは通称「アワイチ」と呼ばれ、多くのサイクリストに親しまれている。しかしその海沿い一周コースしか知らないサイクリストが多いが、実は内陸の丘陵地帯にも非常に魅力的なコースが豊富にある。そうしたコースを体験できるサイクリングイベントが開催されたので、編集部で参加してみた。そのレポートをお届けしよう。

花みどりフェア・サイクリング

長澤地区の美しい棚田風景(2020年5月撮影)

1日目 eバイクだからこそ行ける淡路島北部の丘陵地帯

「アワイチじゃない淡路島を走ってみませんか?」という誘いをもらい、秋晴れの中、編集部の迫田が体験してきた。誘ってもらったのは大好評のムック「旧街道じてんしゃ旅シリーズ」の執筆&撮影でおなじみ、ライダス代表の井上さんだ。ライダスでは一昨年より、兵庫県立淡路景観園芸学校においてサイクルツーリズム造成の授業の手伝いをしているという。その一環として「淡路花博20周年記念花みどりフェア・プレイベント」が開催されることとなり、その中の一イベントとして「淡路島の原風景をめぐるサイクリングツアー」を実施することになった。旧街道じてんしゃ旅では、筆者の相棒として、今まで気づかなかった日本の魅力を教えてくれている井上さんのツアーだけに、興味を引かれ今回も二つ返事で行かせてもらうことにした。

花みどりフェア・サイクリング

初日のスタート&ゴール地点。淡路景観園芸学校。自然の中に溶け込む美しい建物だ

今回のサイクリングツアーは2日間で2コースを走行する設定だ。そのいずれもが島の丘陵部を行くもの。淡路島は、走ったことがある方ならお分かりかと思うが、周回部分から内陸に入ったとたん、どの道も激坂になる。それも道が細く斜度も相当にきつい坂だ。自動車で走っていても不安になるのに自転車でサイクリングなんかできるのかとやや不安になったが、現地について不安は解消された。今回は全員がeバイクを使ってのサイクリングだったのだ。

さて、スタート地点に向けて明石海峡大橋を渡り、淡路島の北淡地区とよばれる北側の丘陵地帯に入った。細い道を抜けていくと突然ヨーロッパ風の建物が現れあっと驚く。スタート地点の淡路景観園芸学校だ。景観という名前がつくだけあって、学校の周辺はとてもすばらしい景色だ。山には景観を害する電線の影もなく、遠くまで見渡せる。こんな景色があるなんて関西人なのにまったく知らなかった。

花みどりフェア・サイクリング

今回は16台ものeバイクを用意。健脚派向けのeロードも用意されていた

さて現地では井上さんとライダスのスタッフが準備万端でツアーの準備をしてくれていた。今回の参加者はシリアスなサイクリストは一人もいない。ほとんどの参加者がふだん着に近く、初めてサイクリングイベントに参加する人ばかりだ。イベントのタイトルからしても、今までサイクリングをしたことがなかった人にも楽しめるサイクリングのようだ。いつものイベントとはちょっと勝手が違うので戸惑っていると、参加者の一人が声を掛けてくれた。「ものすごく楽しみにしていたんですよ! このイベント! eバイクに乗れるんですって!」eバイクという言葉が知られていることに少し驚いたのと、声を掛けてくれたのが若い女性で、本当に楽しみにワクワクしている様子がとても印象的だった。

ふだんのシリアスなサイクリングシーンを追いかけていると、こういったエントリー層の方の反応を見るのがとても新鮮に思える。

花みどりフェア・サイクリング

ライダスのスタッフが丁寧なブリーフィングを実施。初めてサイクリングツアーに参加する人にも懇切丁寧にレクチャー。質問にもゆっくりしっかりと答えていた。これなら安心だ

花みどりフェア・サイクリング

日本サイクリングガイド協会所属のプロのサイクリングガイドである井上さんがガイドを行う

花みどりフェア・サイクリング

井上さんのガイドは、ガイドのペースではなく、あくまでゲストの安全と安心を追求するスタイルだ

アワイチしか知らないサイクリストに伝えたい絶景の淡路島

さてサイクリングはスタート直後から驚きの連続だった。目の前に広がる淡路島独特のダイナミックな景色。晩秋らしく田んぼに架けられた「はさがけ」、そして地域の人だけが知るような小さな祠(ほこら)などを細い山道を使って巡るのだ。その道は軽トラックが1台走れるかどうかというもの。ロードバイクでは絶対行きたくないような急坂で、それもグネグネと曲がりながら上っていく複雑な道だ。しかし参加者はeバイクのアシストで楽しげに上っていく。少し路面が荒い所などは、サブガイドのスタッフが参加者の間に入って安全確保をしている。そうやってガイドに守られながらグループは少し走っては止まりを繰り返す。そしてその合間に祠のいわれや岩石の種類、アニミズムの話など、多岐にわたってガイドする井上さん。地形や道のおもしろさに、eバイクのアシストがぴったりとフィットし、参加者にきつさや疲れを感じさせず、まったく飽きさせない。これがガイドつきサイクリングの面白さなのだと改めて思った。

花みどりフェア・サイクリング

島の北部は火成岩でできた地形。こうした石にまつわる神社や祠が散在する

花みどりフェア・サイクリング

きれいに整えられた「はさがけ」

花みどりフェア・サイクリング

牧場近くから。奥に見えるのが播磨灘の海。すばらしい

花みどりフェア・サイクリング

左に目をやると大阪湾の海。2つの海が見渡せる希少なポイントだ

10kmほどのコースだったが、どこをどう走ったかは分からない。GPSではまったく広範囲でないことは分かるのだが、いざ思い出してみてもどう走ったか思い出せない。それぐらいに複雑な道を走ったようだ。そして獲得標高は400m近く(!)途中には20%近くの勾配もあったし……。こんなのロードじゃかなり厳しい。でも参加者の誰もが異口同音に「楽しい!」と口にしている。淡路の特徴的な地形と農業風景、それにeバイクのアシストと、井上さんのガイドが見事にシンクロしていた。

淡路景観園芸学校の生徒さんによるおもてなし

花みどりフェア・サイクリング

ゴール後には淡路景観園芸学校の生徒さんによるおもてなし。生徒の日吉さんはカフェ経営の経験があり、手作りのスープを作ってくださった

さて今回はゴール後にお楽しみがあった。何と淡路景観園芸学校の生徒の皆さんによる、手作りのおもてなしがあったのだ。地元の農家や景観学校の畑で採れた無農薬の野菜をふんだんに使った温かいスープに、地元のパン屋さんのバンズ、フレッシュなフルーツと、サイクリングに適したメニューを考えて参加者に振る舞ってくれたのだ。これが最高においしい! 思わずおかわりしたくなる逸品だった。花みどりフェアというイベントから考えてこうしたものがあると予測していたが、期待以上のすばらしさに感激した。ふだんから仕事柄、速く走るレースや100kmを超えるロングライドに目がいきがちだが、こうしたサイクリングのあり方もとても良いものだと思った。

食事をしながら学生に話を聞く。この活動は観光プロデュースの授業の一環だそうで、その中でも井上さんはサイクルツーリズムと観光の授業を行なっているという。学生の中にはサイクリングのビジネスにも興味を持っている人がいるそうで、今回のサイクリングツアーでも、授業の一環としてツアーの手伝いをしているのだそうだ。サイクリングでフィールドワーク授業をするという、サイクリングの新しい形を見たようだった。

花みどりフェア・サイクリング

サイクリストの疲れを癒しつつ、胃に負担にならないボリュームと食べ応えを両立。素材は地元の農家と学校で採れた新鮮な野菜。水は一切使っていないそうだ

花みどりフェア・サイクリング

思わず喉が鳴る! 参加者も大満足のスープ!

花みどりフェア・サイクリング

淡路景観園芸学校では、観光を学ぶ過程でサイクルツーリズムの講座を開いている(写真は今年の5月の実習風景)

花みどりフェア・サイクリング

はじめて触れるスポーツバイク。思わず笑みがこぼれる。ライダスでは来年度よりインターンシップの受入れを予定している

花みどりフェア・サイクリング

サイクリングで里山での生態系の授業を実施。スポーツバイクの新たなカタチがそこにあった

花みどりフェア・サイクリング

地域資源を再発見するサイクルツーリズム

2日目 美しい田園風景が広がる淡路島の原風景をeバイクで行く!

花みどりフェア・サイクリング

2日目は島の中ほどにある長澤地区の廃校をリノベーションした「カフェ・ノマド村」がスタート地点

2日目は長澤地区という所にある、小学校の廃校をリノベーションした「カフェ・ノマド村」がスタート地点。建物の中は地元の食材を使ったメニューがそろうカフェと、アーティストが個展を開くことができるスペースとなっている。

この日はスタート前に食事をしたのだが、これがまた絶品。ビーガン(※完全菜食主義者)対応のメニューだが、そんなふうには思えない食べ応えとおいしさ。淡路島は古代より御食国(みけつくに)と呼ばれるぐらい、食材の豊富な島だっただけに、おいしい素材が豊富なのだ。

さてお腹も満たされたので、早速サイクリングツアーに出発だ。昨日の北淡コースと少し変わって、棚田が続く険しい土地を上り下りするコース。ガイドの井上さんから、「集落の中を通るときは、スローダウンでお願いします。止まって会話するときはサングラスを取って小声で。後々まで走れる環境を保つためにご協力をお願いします!」というレクチャーがあった。なるほど、コース途中に数軒の家が集まった集落をいくつか通った。途中で農作業をされている老夫婦の方に、井上さんが挨拶をしつつ話しかける。「ああ、“花博”のイベントかいな。楽しそうでええなあ」と気さくにお返しいただく。地元の道を走らせていただくには、こうしたコミュニケーションの大切さを知ることとなった。なるほど、地域の再発見とは土地の魅力だけではなく、地域の人との触れ合いもそうなのだ!

コースは美しい棚田が広がる田園地帯をゆく。自動車に乗っていたのでは見ることができないきれいな棚田。ゆっくり走ってみて初めて見ることができる。しかしここの棚田は美しい。獣よけの電柵も小さめで、ほとんど目立たない。これはぜひグリーンシーズンに再訪したいものだ。

花みどりフェア・サイクリング

元小学校ということで日当たりの良い窓。カフェ・ノマド村はすてきな空間だった(兵庫県淡路市長澤727、TEL:0799-70-1165)

花みどりフェア・サイクリング

ビーガン対応のカフェメニューもそろう

花みどりフェア・サイクリング

あまりのおいしさに思わずこの笑顔の筆者

花みどりフェア・サイクリング

淡路島の地元素材の産品もたくさん販売されていた

花みどりフェア・サイクリング

この日も天気は快晴。最高の秋晴れ。晴れ男として面目躍如の筆者

花みどりフェア・サイクリング

グリーンシーズンにはこんなに美しい棚田風景が広がるエリア

花みどりフェア・サイクリング

収穫後の棚田だったが、ガイドの井上さんからグリーンシーズンの話を聞いて思わず撮影する参加者

誰しもが笑顔になれるサイクリングを目指して……

さて、今回「淡路花博20周年記念花みどりフェア・プレイベントサイクリングツアー」に参加してみて、最も印象に残ったこと。それは参加者の誰もが満面の笑顔をたたえていたことだった。ふだんのサイクリングイベントやツアーの取材では、疲れて置いていかれたり、放置されたり、速い人についていくのに必死で、あまり楽しめなかったりということをよく耳にする。しかし今回のサイクリングツアーでは、ほとんどの参加者が、ほぼ初体験であったにも関わらず、皆一様に満足していた。それは速さや距離の長さを競うようなサイクリングではなく、地域の求める観光の要素を、eバイクという最新の機材を使って、うまく相乗効果を出すやり方を取っているからだと思った。この2日間でのサイクリングでは、今までの日本のサイクルシーンでは見ることができなかったような新たなスタイルのサイクルツーリズムを見たような気がした。参加者もガイドをしているライダスの面々も、そしてお手伝いをしている淡路景観園芸学校の生徒たちも、皆笑顔にあふれていた。来年の春もぜひこのツアーに参加したいと思う。

花みどりフェア・サイクリング

淡路景観園芸学校の生徒の皆さん

花みどりフェア・サイクリング

淡路景観園芸学校の生徒の皆さん。今回はライダスのアシストをしていた

花みどりフェア・サイクリング

eバイク小径車でツアー参加

花みどりフェア・サイクリング

編集部迫田(写真右)も盛り上げ役に!

花みどりフェア・サイクリング

参加者の笑顔が印象的なツアーだった

花みどりフェア・サイクリング

誰ひとりきつい思いをせず、置いて行かれず、みんな笑顔になれる淡路島のeバイクサイクリングツアー

花みどりフェア・サイクリング

淡路花博20周年記念花みどりフェア、来年も春と秋2回のサイクリングツアーを予定しているので、公式サイトをチェックしておこう!