進化を続ける自転車島、淡路島の最新自転車ツアー
目次
初めてサイクリングで淡路島を訪れたのは20数年も前になる。友人に誘われて、ぶらりとロードバイクで1周してみた。橋を1本渡っただけで、本州側の喧噪が嘘のような静かな佇まいに一目惚れならぬ、一走り惚れ。以来、何度となく訪れてきた。徐々に「行きたい」と思う回数が減ってきたが、それはまだまだ遊び方に工夫が足らないからだと教えてもらう体験をした。
晩秋の鱧に釣られて、テストイベントに
「生の鱧(はも)を食べたことありますか?」と淡路島でビジネスを営む友人の言葉が、今回の訪問のきっかけだ。関東の人間なので、鱧といえば、関西のものであり、夏の食材という印象だ。しかし、「実は冬眠前の晩秋は脂がのっていて、一番おいしいんです。ただ、高く売れるのは夏なので、漁師さんもあまり捕らない」のだという。ならば、いつか食べてみたいと思っていたら、東浦のバスターミナルにあるレンタサイクル“バイシクルハブあわじ”が、生鱧丼と明石海峡大橋の橋塔に登れるテストイベントをするという。「参加します!」とメールして、新幹線に。
新神戸でバスに乗り換えると、70分ほどで東浦のバスターミナルに到着。気温は東京と大して変わらないが、日が暮れるのがわずかに遅い。調べてみたら、違いは16分ほどらしいが、それだけでも遠くに来た感じがする。今回は輪行袋を持たず淡路島へやってきた。以前はどこに行くにも自転車を持参したが、最近は質のいいレンタルがあるなら、海外であれ国内であれ、積極的に利用している。見知らぬ道をはじめての自転車で走ると、それだけで旅感もアップする。今回はチネリ・ヴェルトリクスが借りられるというので、身軽に訪島することができた。
翌朝、初心者クラスの方たちに交じらせてもらい、東浦からスタート。3kmほど北にある翼港まで裏道を使いながら、ゆっくりとしたペースで走る。ポタリングペースで裏道を走ると、庭先に布団を干している家がたくさんあったりして、ガンガンペースでアワイチ(淡路島1周)を目指す人が見逃してしまう景色に触れることもできる。以前はゆっくり走るのが苦手な時期もあったが、最近はポタリングもサイクリングの醍醐味のひとつだと心から思えるようになった。そして、エアボリュームの大きな最近のロードバイクは、こういうポタリングも苦手じゃない。
翼港で内良水産(公式サイト)の「絆奈(きずな)丸」に乗り換える。サイクリングに来たのに、なぜ船に? という疑問が湧くだろう。その答えは「淡路島がサイクリングで適しているのは間違いないんです。でも、全てのエリアが最高いうわけじゃない。アワイチに挑戦して失敗してしまう人も多いので、クルージングで気分転換しつつ体力温存する。そんな提案をしてみたいというのが、イベントの狙いのひとつ」なのだという。
出港して1分も経っていないというのに、「いやぁ、ぜいたくやわぁ、これはぜいたく……」と隣で営業部Nの感激が止まらない。出鼻をくじかれたので言葉にはしなかったが、漁船に乗る機会などないし、走り慣れたルートや景色を海側から見ると、こんなにも新鮮なのかと驚いた。実は計画を聞いたときに少々心配だった。クルージングは魅力的だが、それ以上に自転車は海水に濡らしたくない。しかし、それは杞憂だった。自転車は船尾側の濡れにくい場所に置かれ、上からシートがしっかりと被されている。全く濡れる心配はないとはいえないけど、海水を1滴も浴びずに戻ってきた。
船上では内良水産の内海明大さんの話が印象的だった。なぜ渦潮ができるのか、ここで溺れたら無理して泳がずに……、この辺りは◎◎が釣れるけど初心者が釣るには難しいなどなど、興味深い話が続々と披露された。内海さん、ステレオタイプに想像する漁師さんよりもずっとおしゃれで、聞くと、この日のために散髪に行ってくれたのだという。さらに初心者コースは“はまち”釣りもメニューに含まれていたのだが、みんなのために内海さんが本気で釣ろうとしている姿は微笑ましく、釣果はなかったけど、気持ちだけで十分。
サイクリング前に、まずは腹ごしらえ
育波(いくは)港で内海さんと別れて、港から3分ほど走った「さくま」で生鱧丼をいただいだ。砥粉色の刺身に酢橘を搾ると、上品な甘みと爽やかさが口の中に広がる。なるほど、これはおいしい。グルメサイトにも掲載されていないし、主要道から逸れているため観光客の目にもとまりにくいが、やはり地元の人に聞けば知られざるスポットはある。
ふと気がついた、まだ自転車にほとんど乗っていない。しかも満足な食事の後だ、ガンガン走ろうというモチベーションはなく……もう、このまま終わりでも十分満足、ありがとうございました。そう思ったが、ビンディングペダルにシューズを固定して次の目的地は明石海峡大橋へ。
北西部のシーサイドコースは、淡路島の海岸線の中でも屈指の景観だ。手つかずの自然にあふれたエリアであるが、大手人材派遣会社の本社移転が決まっている。こんな景色を見ながら生活できるなら、都会を離れて……と思う人たちがいるのも納得のエリアだ。また、素敵なカフェやショップができて急速に開発が進みつつある。以前は路面が荒れている場所もあったし、「いいところだけど、缶ジュース1本買うのも大変」だったことを思えば、本当に走りやすくなった。またこのシーサイドコースは日本の夕陽百選にも選ばれているエリアに近く、夕方のマジックアワーに走ると最高に気持ちいい。
本日のメインディッシュ明石海峡大橋について、多くの説明は必要ないだろう。橋長3991m、中央支間1991mの世界最大の吊り橋だ。その主塔の頂上は海抜298m。そのたもとは水深60mの地点なので、塔の高さ(長さ?)は東京タワーをしのぐ。神戸側の主塔は見学ツアーが行なわれているが、淡路側を一般に公開するのは、何とこれがはじめて。点検用のエレベーターを使って上った先は、ビルにすると98階。絶景なのは、写真の通り。ただ、思ったよりも怖くないし、全てを上から見下ろす視界は万能感があって想像以上に気分がいい。
テストイベントだったはずが……
関西のサイクリストにとって、淡路島は馴染み深い定番コースであり、手近な距離にある非日常だという。世界一とは言え、わずか4kmの橋を渡っただけで、こんなにもトリップ感があるなんて、まさに現実離れしている。橋を渡ったときのホッとする感じは、日本の原風景に帰ってきたような気持ちになる。このテストイベント、開催されたのは2020年11月だった。随分と時間が経ってしまったが、朗報もある。あのときは、まさにテストであって、内容に再現性があるか分からない状況だった。あれから2か月。コロナ禍の影響もあって、詳しい時期は未定だが、生鱧丼も明石海峡大橋の橋塔登頂も実現する方向で調整しているという。
さて、次はいつ行こう。
東京に戻って思うことは、いつも同じだ。淡路島の魅力は簡単にいうと、多様性にある。離島というのは道が少なく、コースのアレンジがしにくいのがスタンダードだが、淡路島は平坦基調で1周することもできるし、坂を加えるのもさじ加減で行なえる。ここ数年、絶妙なロケーションにカフェは増えたし、地元の人たちが通う中華やイタリアンのおいしいレストランもある。ホテルも高級リゾートから民宿まで、様々なタイプが選べる。コロナ禍が落ちつくまで、手放しで“みんなで淡路島へ”とはいかないが、状況を見ながら新しいツアーを模索していくというので、どんな提案があるのか楽しみにしていきたい。
バイシクルハブあわじ
営業時間:
3月~11月中旬 8:30~18:00(返却は17:30まで)
11月下旬~2月 8:30~17:00(返却は17:00まで)
住所:兵庫県淡路市浦657 道の駅東浦ターミナルパーク東浦物産館103
電話番号:0799-70-4252