パナレーサーニセコグラベル主催者インタビュー「ニセコグラベルのたどり行く道」

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スキーリゾートとして、今や世界的なブランドとなっている北海道のニセコエリアは、UCI(国際自転車競技連合)公認のグランフォンド「ニセコクラシック」の開催により、ここ数年で一気にサイクリストにも注目されるエリアとなっている。そんな地で2021年から開催されているグラベルイベントが「ニセコグラベル」であり、これら2つのイベントの開催を軸にして、ニセコはサイクリストにより愛されるライディングエリアへ進化しようとしている。

 

ニセコグラベルのたどり行く道

 

始まりは5人のライド

(ニセコ)クラシックは競技志向が強く、“ガチ勢”の方々に多く集まっていただいた反面、サイクリングを楽しみたい方にはちょっとハードルが高いので、もう一つ違ったファンライド寄りのイベントが欲しいと考えていたのです」というのは、大会を主催する「HOKKAIDO EVENTS」の前田和輝さんだ。

 

前田和輝さん

HOKKAIDO EVENTS事務局長
前田和輝さん

 

そして同団体のメンバーで今大会のコースをプロデュースした田村弘彰さんは、「ニセコは、羊蹄山のまわりはフラットなのですが、それ以外はアンヌプリ側の山岳ルートになりハードになってしまうんです。であれば特徴である山の地形を生かしながら、もう少し気軽に走れるイベントを作る場合、グラベルを利用してルートを引くのはどうかと考えました」と、ニセコグラベルが生まれた背景を語る。

 

田村弘彰さん

HOKKAIDO EVENTS大会プロデューサー/コースプレゼンター
田村弘彰さん

 

グラベルというコンテンツに注目した当初は、それがどんなものかもよく分からないほど手探りの状態でのスタートだったという。手始めに2020年に参加者5人の“同好会”レベルで走行会が開催された。その当初から田村さんたちが教えを請うていたのが、「グラベルキング」のヒットにより、世界的なグラベルシーンで存在感を高めているパナレーサーだった。

そして2021年に、参加者が100人規模となる「ニセコグラベル」が初開催されるわけだが、パナレーサーの協力もあって予想以上の協賛メーカーや参加者も集まる。その多くは本州からの参加者で、しかもしっかりグラベルを走り込んでいる経験豊富なライダーも多かった。そんな彼らの大会に対するポジティブな印象、さらにはフィードバックを得られることによって、「イベントとしてやっていける」という手応えを得たという。

「2021年の走行距離90km、グラベル率50%弱というコースレイアウトは、正直なところ自信はなかったのですが、開催してみると好印象でした。それと同時にイベントをカルチャー寄りに膨らませていけないかという着想も生まれてきました」と田村さん。2022年のコースは、昨年の経験があってのレイアウトだという。

 

楽しみの幅が広いコース設定

「昨年の大会を開催するまでは、グラベルに対する上りや下りの楽しさ、グラベル率に対する考え方を明確に持つことができていませんでした。下りで使った方が楽しい道を上ったり、グラベルの距離を稼ぐことに固執していたり、コースの緩急みたいなものも2021年の大会は、うまくできていなかったように思います」と、田村さんは前年を振り返る。

グラベルロードは一つの上り下りでも、その路面状況や勾配によって上りと下りのどちらで使うか、また、それらをどのように組み合わせてルートを引くかによって走りの良いリズムが生まれるなど、コース全体の楽しさが変わってくる。単にグラベルの割合が高いから、路面がハードだからいいというだけではないのだ。

田村さんによれば2022年大会は、2021年のフィードバックから、体感的にもう少し緩急を付けたコースに仕上げられているという。また、経験豊富なライダーたちに「もっと走ってほしい」という思いもあって、110kmの「エクストラロング」のクラスを新設することにしたという。

今大会は4つのコースを設けたが、それらのダート率はショートのみ20~25%だが、それ以外の3コースは50%弱に設定される。そして面白いのがエントリー数だ。田村さんは「良い意味で裏切られました」と語るが、最もエントリーが多かったのは、ミドルカテゴリーの65km。応募開始当初は90km、110kmのロングカテゴリーが一気に数を伸ばし、65kmの動きは鈍かったが、徐々に上向き最多の参加者を集めることになった。

国内最長の110kmというグラベルイベントはこれまでにないスケールとハードさで、それはグラベル上級者にとってはこのうえない魅力となっている。しかし、そこばかりがクローズアップされてしまうと、エンジョイできるサイクリストは少なくなってしまい、ニセコグラベルが大切にしている価値である“楽しさ”という部分が希薄になってくる。

もちろん参加者によってその価値はさまざまだ。“きつい”を楽しいと感じの人もいれば、北海道の景色を見ながらマイペースで走ることが楽しいと感じる人もいる。田村さんは“楽しさ”という価値の中で、参加者がそれぞれ楽しさの幅を取ることができるようなコースを考えたという。

グラベルロードというライドエクスペリエンスはまだ成熟したカテゴリーとはいえず、それだけにエントリー層も多い。そこを考えると65kmクラスが最大の参加者を集めたのは必然であり、グラベルライドの魅力を身近に満喫できる、ちょうど良いさじ加減だったのだろう。

 

グラベルライドの文化を醸成する

「ニセコグラベルが目指すのは、まだまだ間口の狭いグラベルライドという文化を、このニセコから広げていくことです。もちろん“苦しいのが好き”なトップ側の人たちをおろそかにすることはないですが、これから私たちが目指していくのは、その下に位置する人たちに、どんどんグラベルライドにのめり込んでもらうための仕掛けを作っていくことです」

田村さんがそう目指す、より多くのグラベルサイクリストを生むための取り組みは、ライドコースの充実度だけではない。走ること以外でも楽しむことのできるイベントを盛り込み、開催期間にわたり総合的にニセコグラベルを満喫できる、いわば音楽フェスのような立体的なしつらえだ。

そして、その先にあるのは、イベントだけでなく夏の間を通じてサイクリストを呼び込み、ニセコならではのサイクリングアクティビティとして、グラベルライドを根付かせること。

さらにはそうしたグラベルライドの文化を醸成していくと同時に、オンロードではロードバイク、オフロードではMTBやeバイクなど、ニセコではバイクのカテゴリーや楽しみ方に捕らわれることのない、幅のある自転車遊びの充実した環境を作り上げることも目指しているという。

雄大なニセコアンヌプリと羊蹄山、その麓に広がる土地が、全てのサイクリストを包み込んでくれる未来が、今切り開かれようとしている。ニセコグラベルとニセコクラシックを軸にした、ニセコのサイクリングフィールドのこれからに大いに注目したい。

 

 

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