浅草発の輪行特別列車で“埼玉の田舎・加須”を巡るサイクリングツアー開催
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埼玉県の北東部に位置する加須市。都心から50km圏内にあり東京近辺からの日帰りサイクリングにもおすすめのスポットだ。2023年2月26日に浅草駅発の輪行専用特別列車を活用したサイクリングツアー『KAZOLINGトレインツアー』が加須市内で開催された。今回のイベントに自身のロードバイク持参で参加したおおやようこがレポートをお送りする。
KAZOLING(カゾリング)トレインツアーとは
加須市物産観光協会が“加須はサイクリング天国だ。”をキャッチフレーズに2020年に立ち上げた『KAZOLING(カゾリング)』。加須とサイクリングを掛け合わせた造語だ。加須は首都圏のサイクリスト達が日帰りで楽しむのに『ちょうど良い、いなか』でもある。また、群馬県や栃木県とも接し、利根川水系の中心に位置しているため河川沿いのサイクリングロードにも恵まれている。昨年までコースの策定や小規模モニターツアーを行いながら加須をサイクリング天国にすべく試行錯誤を重ねてきた。2022年11月には渡良瀬遊水地で『KAZO CYCLE EXPO』を初開催し成功を収めた。そして今回、東武鉄道の協力により輪行専用列車を走らせ規模を拡大したサイクリングツアーを開催する運びとなった。
豪華ゲスト
ゲストは総勢10名。KAZOLING立ち上げ期から関わるメンバーや加須に関心のある自転車系インフルエンサー、埼玉を拠点とするプロサイクリングチームの選手、コース制作や輪行のプロ達がイベントを全力で盛り上げサポートした。
ツアーレポート〜快適な裏道と地元グルメでおもてなし
イベント当日の朝。東武鉄道浅草駅近くの隅田公園に沢山のサイクリストが集まった。輪行の準備をしていざ出発! 今回は東武鉄道の展望型車両『特別列車634型スカイツリートレイン』を貸し切り、加須駅直通の臨時特急列車として走らせた。普段は乗ることができない観光列車に参加者も大盛り上がり。車内は広々としていて、窓に面して設置された座席に座り景色を堪能しているうちに気づけば加須駅へ到着していた。実は直通運転では浅草から1時間かからずに加須駅へ到着するのだ。
今回は約35kmのショートコースと約60kmのロングコースの2種類が設定された。ショートコースは加須市内を満喫するコースで、ご当地名物が並ぶエイドステーションを巡りながら地元の人たちと思う存分触れ合うツアー。ロングコースは『利根川水系を巡る広域ツアー』と称し、加須市を中心に近隣の市町も巡るコースだ。筆者はショートコースの先導として参加者と一緒に走行した。
加須駅前からスタート。少し走ると一気に田畑が広がり景色が開けてくる。最初に到着したのは『早川農場』。加須市内で農業を営む若手農家達『ヤング農マンKAZO』が担当するエイドステーションだ。加須市特産の香り豚を朝から贅沢に炭火焼きして作られた豚丼が振る舞われた。ご飯は米農家を営むヤング農マンKAZO代表の角田さんが丹精込めて育てたものだ。味噌汁には地元の浮野味噌を使用。具の小松菜ももちろんメンバーが育てたもの。彼らの主戦場である大型ビニルハウスの中を借り、暖を取りながら舌鼓を打った。
実は、当日は晴天に恵まれたものの群馬や埼玉北部の冬の定番である北西部からの強風、通称『赤城おろし』が強く吹いていた。周りに住宅や建造物があればまだ良いのだが、景色がひらけた道を進むときは風を遮るものがなく、自転車が斜めに傾くほどの強風が吹き荒れていた。初めて冬の加須を走る参加者からは「これか!」と声が上がり「カゾリングじゃなくてカゼリングだな」といったジョークが飛びグループを和ませた。この風もまた加須の冬の風物詩。皆、慎重にバイクコントロールをしながら自転車を走らせた。
緑のヘルシーロードを走り旧騎西町エリアへと進む。騎西城前のエイドでは、加須市名産のうどんをはじめ、ローカルフードの塩あんびんやいがまんじゅうが振る舞われた。第2エイドにして「もうおなかいっぱい」と笑う参加者も出始める。
少し走ればまた田畑が広がる景色が続く。遠くに男体山や雪をかぶった浅間山が見える。地平線が見えそうなほどの平坦さに初めて加須に来た人は驚いた表情を見せる。
第3エイドは『やさしい味工房メリーさんち』という洋食店だ。ビンディングシューズを脱ぎスリッパに履き替え貸切の店内へ。席につくと、何と皿に盛られたあつあつのグラタンが目の前にやってきた。窓辺から約200km離れた富士山を望みながらほっと一息つく。これがサイクリングイベントだということを忘れてしまいそうだ。仕上げにソーサー付きのカップでホットコーヒーが運ばれてきた。イベント初参加の方に対してベテランサイクリストが「普通のサイクリングイベントではこんな豪華なエイドステーションはないから」と念をおす姿に皆が笑う。
店を後にし、筆者のグループは『浮野の里』へと向かった。浮野の里一帯では屋敷林や田堀、くぬぎ並木などの田園景観が保全され昔ながらの武蔵野の景色を楽しむことができる。最終エイドは『樋遣川農家』。加須市にキャンパスがある平成国際大学の学生達が担当し、いちごトマトや長沼メンチカツ、田上精肉店のコロッケが振る舞われた。
お腹と心を満たして加須駅前にゴール。今回初めて加須を走ったメンバーはご当地グルメや風の強さを満喫した様子だった。地元のサイクリストからは「初めて通る裏道や初めて味わったグルメがあり楽しかった」「今度はエイドで食べたグルメを店舗へ買いに行ってみたい」という感想があがった。
帰りも同じくスカイツリートレインを貸し切って浅草駅へ。日暮れにそびえるスカイツリーを眺めつつ輪行をほどき各自解散となった。充実した1日だったのにもう浅草にいる。何だか夢のような時間だった。
今回のKAZOLINGサイクリングツアーは『おもてなし』をテーマにしていた。エイドには加須の定番と呼ばれる食から今注目の食材や料理まで、加須に行ったら一度は食べてみてほしいグルメがめいいっぱいそろえられていたように思う。裏道をつなぐルートもサイクリストには走りやすく、そして加須らしいのどかな景色だった。まさに『ちょうどいいいなか』加須を心と体で味わえるイベントだった。自転車に熱い街、加須市が『サイクリング天国』になるための挑戦は続く。興味をもった方は都心からもアクセスのいい埼玉県加須市へ、ふらっと走りに行ってみてはいかがだろうか。