福島県・安達太良山の火山の下で雪上ファットバイクレース!取材レポート
目次
福島県の安達太良山の麓にある「あだたら高原スキー場」で日本では珍しいファットバイクだけの雪上レースが開催された。
TBFT東北ファットバイクツアー開催
福島県二本松市で、日本では珍しいファットバイクによる雪上レースが開催された。レースの名称は「TBFT東北ファットバイクツアー」。会場となったのは安達太良山の麓にある「あだたら高原スキー場」で、営業シーズンの終わったスキー場を借り切って雪上でファットバイクによる耐久レースを行うという。
筆者も以前はよくマウンテンバイクで耐久レースに出場した記憶がある。シリアスにレースに臨むこともできるし、仲間とワイワイと応援を楽しみながら.ることができる。その両方を楽しめることが耐久レースの魅力だ。今回のレースでも、案内のパンフレットに雪の上で笑いながら転んでいる楽しそうな写真が載せられており、取材前からかなりファンなイベントであることはうかがい知れた。
手ぶらで参加できるファットバイクレース
レース当日は春の到来を感じさせる暖かさ。しかもまったく雲ひとつない超快晴ともいうべき好天だ。高地特有の紺碧の空と雪の白さの対比が目に痛いほどのコントラストを生み出している。
そんななか、会場には参加者が続々と集まってきた。気合の入ったカスタムバイクを持ち込む人や、思い思いにデコレーションした変わったファットバイクを持ち込む人、そしてチームメイトとのピットエリアの機材を持ち込む人など、さまざまな参加者たちだ。
しかしバイクを持ち込んでいないチームもある。これはどうしたのかと訝しんだのだが、受付に行ってみて驚いた。何と20台近いレンタル用のファットバイクが用意されている。しかもキッズ用から本格的なレースバイクまでがある。だから手ぶらで来て、ファットバイクとヘルメットを借りて出場できるわけだ。これなら参加のハードルを下げることができる。
前半2時間→休憩1時間→後半4時間の珍しい耐久レース
レースは1時間のランチタイムを挟んだ4時間の耐久レースの形式。ファンなイベントとはいえ運営はしっかりとしており、スキー場の全面協力のもとゲレンデを圧雪車で整備したうえで本格的なループコースを設営してある。そして安全もプロフェッショナル山岳ガイドによるレスキュー体制が構築されていた。とはいえ計時は.計測だし、オーガナイザー自らが初心者や慣れていない参加者にコース攻略をレクチャーするなど、とてもアットホームな雰囲気な印象だ。
レースはいよいよスタート。全車一斉になってゲレンデの坂を上っていく。先頭集団を形成しているのは日頃からトレーニングを積んでいそうなレーシングウエアを着込んだライダーの人たち。しばらくしてから上りをひたすらバイクを押して進む一団が続く。
抜けるような青空と真っ白なゲレンデ。そこを押し上がるライダーたち。みんな出だしから雪と格闘しているようだ。あちこちからゲラゲラと笑い声が聞こえてくる。他のレースでは決して見ることができないだろうちょっと変わった光景だ。
そして下りに差し掛かるとあちこちでズルズルと滑って転ぶライダーが続出。でもみんな笑いながら起き上がって乗り出していく。先頭集団の人たちでさえ、私を見つけると毎周回笑いながら声を掛けてくれる。何とも言えない心地よさに会場全体が包まれている。
応援の様子を撮ろうとピットエリアに行ってみた。「ダメだ!気合が足りてないぞ!笑」「もう一周走れ〜!」どこかの自治体か?観光関係のチームだろうか、地元の名前の入ったそろいのはっぴを着て大声で応援している。他にもライダー交代の瞬間に二人とも滑って転がっているチーム、ピットで交代しようとしたら全員がどこかに出かけていて交代できないチームなど、写真を撮っているこちらが爆笑してしまうシーンが続出。
休憩時間にポイント獲得?
ランチタイムになると今度はチームテントのあちこちから煙と湯気がのぼり出す。このレースでは「キャンピングポイント」なるものが設けられており、目立って面白いピットエリアや食事を作るとレース結果にポイントが加算されるようになっている。
レースは割と接戦になることが多いらしく、キャンピングポイントの点数も勝敗に影響するため決して侮れないものになっているそうだ。だから各ピット真剣になって趣向を凝らしたものを作るのだそう。これがまた実に楽しそうなのだ。チームメンバーが各人1つずつ料理を作り合い、テーブルの上が豪華なメニューでいっぱいになるチームや、本格機材を持ち込んでプロ顔負けのチーズフォンデュを作るチーム、現場でミンチからこねたハンバーガーを作るチームなど、おおよそ自転車レースとは思えない様相だ。
他にもソロで出場しつつも、現場で薪割りから火を起こしてキャンプする人、自転車レースなのに突然コートネットを張ってバレーボールに興じるチームなど、キャンピングポイントも見どころ続出。何でも今年の2月の第1戦では雪上で雀荘を開く人も出たとか。
こんな形でワイワイとレースは進んでいき、あっという間に4時間が済んでしまった。
筆者は過去たくさんのホビーレースに参加してきたが、ここまでファンで笑いが多く、そしてアットホームなイベントは初めてかもしれない。
レースなのでもちろん順位は着く。先頭付近でレースする人達はかなりのフィジカルの持ち主だ。だがレースの楽しみ方という点では勝者も敗者もなかった。そして自転車レースでありがちな「俺すごいだろ!」「このシロウトがあ!」と 言うような自称プロレーサー的な人もいない、参加者全員がハッピーになれる稀有なレースだった。
スポーツと観光をダブルで楽しめる磐梯朝日国立公園
このレースシリーズを仕掛けているのは、地元・二本松市在住の冒険家である一瀬圭介氏。アラスカなど極北地帯の雪上をファットバイクで数百km進む、超長距離バイクパッキングレースを中心にファットバイクによる競技活動を行っている。山岳カメラマンとして国内外のアウトドアフィールドにおけるTV番組撮影や映像制作に携わる山のプロフェッショナルだ。また一瀬氏は安達太良山の麓の岳温泉にある「安達太良山自然センター」の代表も務めている。
一瀬さんにレースについて聞いてみた。
「レースという形を取りながらも「ツアー」の名前がついているように、このレースはシリーズ戦として東北各地を回るものにしていきたいんです。自転車を使うけれど単なるスポーツとしてだけではなく、観光としても開催地を楽しんでいただけるものにしたいですね!特に安達太良山は磐梯朝日国立公園なんです。国立公園でレースできるなんてなかなかできないですよ!」と語ってくれた。
実際に筆者も今回のレースの取材では岳温泉に投宿し、地元の居酒屋や地域通貨を使った取り組みを体験することができた。そして安達太良山のあまりの美しさに見惚れ、レース翌日、取材ついでに岳温泉の源泉を訪れるスノーシューツアーに参加することになった。ツアーはもちろん楽しんだが、環境に慮してトレイルに入ることや、自然の厳しさや美しさを学ぶことができた。そういう意味でもレース以上のものが得られたと言える。
今回のイベントは、自転車レース愛好者の目線で見たらイージーなものに見えるだろう。だが地域振興と経済効果を含めば、単なるレースよりもはるかにポテンシャルのあるイベントだと言えるかもしれない。 今後のシリーズ戦の発展に期待だ。
<東北ファットバイクツアー>
問い合わせ:安達太良自然センター
〒964-0074福島県二本松市岳温泉1-104 お宿花かんざし1 F
公式サイト(facebook)
https://www.facebook.com/tohoku.fatbike/
TEL:090-7171-0350
MAIL:info@adatara.jp