iRCから第6世代フォーミュラプロ登場

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ロードバイク用チューブレスタイヤ黎明期の2008年に発売されたiRCの『フォーミュラプロチューブレス』。
その後、モデルチェンジを重ね、第6世代となるニューモデルが2024年8月1日に発売される。
発売に先駆けて、7月25日にメディア向けの新製品発表会と試乗会が行われた。

 

フォーミュラプロの歴史

第6世代フォーミュラプロの製品解説をする井上ゴム工業の山田浩志さん。

2004年から開発を開始した初代フォーミュラプロが発売された2008年当時、市販されているロードチューブレスはiRCとハッチンソンの2社のみだった。
フォーミュラプロは『SC(ソフトコンパウンド)』と『HC(ハードコンパウンド)』という、トレッドゴムの硬さの違う2タイプを発売。用途によって使い分けることができた。
その後、第2世代ではRBCC(ライスブランセラミックスコンパウンド=米ヌカから生成されたセラミックの微細な粒子をゴムに配合)を採用し、特にウェットコンディションでのグリップ性能を高めたスタンダードモデル(その名も『RBCC』)や超低抵抗モデルの『トップシークレット』、耐パンク性能に特化した『Xガード(クロスガード)』のバリエーションに分化。後に軽量モデルの『ライト』が追加された。
2012年からの第3世代では全てのモデルでライトと同じ180TPIのケーシング採用し、性能アップだけでなく、タイヤの装着も楽になった。また、25Cサイズが追加された。2015年からプロチームの『NIPPO・ヴィーニファンティーニ』に供給し、ジロ・デ・イタリアに実戦投入された。
翌2016年にはプロ選手からのフィードバックで改良された第4世代が登場。これまでスリックだったトレッド面に、杉目のパターンが刻まれた。これは、「スリックはグリップは高いが限界点が分かりづらい。パターンがあった方がグリップが抜ける直前の感覚がつかみやすい」というプロ選手からの要望によるもの。全モデルに28Cが追加された。
そして続く第5世代は2020年に登場。基本的には先代を踏襲するものの、Sライト(スーパーライト)がチューブレスレディ化された。杉目パターンはトレッド面のみになった(先代ではタイヤサイドまでパターンが入っていた)。タイヤの太幅化は進み、全モデルに30Cが追加された。さらに、2022年には全モデルがフックレスリムに対応、『フォーミュラプロフックレス』となった。
そして2024年、第6世代の登場である。

 

第6世代フォーミュラプロのコンセプトと改善点

今回発売された第6世代フォーミュラプロのキーとなるコンセプトは
1)転がり抵抗の軽減
2)コーナリング性能は第5世代を踏襲
3)耐久性、耐摩耗性向上
4)嵌合性改善
の4つ。
まず1)の『転がり抵抗の軽減』だが、第5世代以前は、各タイヤメーカーはこぞって『グリップの向上』を目指していた。iRCもそれにならってハイグリップ方向での開発をしていた。しかし、近年、各メーカーは『低抵抗』を狙ったタイヤ作りをするようになっている。iRCもその流れに乗ったというわけだ。
続いて2)のコーナリング性能だが、転がり抵抗の軽減とグリップの向上を両立させるのは難しい。さらに『コーナリング性能』はグリップ力だけで生み出されるものではないので、そこも難しいところ。
そして3)の『耐久性、耐摩耗性向上』。
これらを解決するためにトレッドが一新された。
まずはデュアルトレッド。センター部にシリカとカーボンのハイブリッドで補強した新配合のコンパウンドを採用。センター部のスリックパターンとの相乗効果で、転がり抵抗が先代比で9.97%軽減された。
さらにこのことにより耐摩耗性が先代比で約1.8倍と大幅に向上することになった。先代のセンター部の杉目パターンは目の細かさもあり、やや磨耗が早いという弱点もあった。それがスリックになることで改善されたという面もあるのだろう。
トレッドの両サイドには定評あるRBCC²コンパウンドを使用。新しい『フィッシュボーンパターン』との組み合わせにより、0〜30度のキャンバー角全域で、先代を上回るコーナリングフォースを発生させる。
この『フィッシュボーンパターン』は、コーナリング時に車体を傾けていく際に、その角度に応じてタイヤのコーナリングフォースが最適になるように設計されたもので、今回のフォーミュラプロのアイコンにもなっている。

第6世代フォーミュラプロSライト(TLR)のトレッド。センターのスリック部分はシリカ&カーボン配合のコンパウンド、特徴的なフィッシュボーンパターンがある両サイド部分はRBCC²を採用。回転方向は右が前。

第5世代フォーミュラプロHL RBCC(TL)のトラディショナルなトレッドパターン。コンパウンドは全面RBCC²。進行方向は上が前。

4)の『嵌合性改善』については、先代ではフックレスリムに対応させる際に、指定内圧を高めのまま(500-800kPa)フックレス化したため、タイヤ外れを防ぐために嵌合をややきつめに設計していた。それを第6世代では内圧を低め(フックド450-650kPa、フックレス450-500kPa)に設定することで、設計寸法や製法の見直しを行い、嵌合性が大幅に改善された。

編集長ナカジも自分で装着にチャレンジ。なんとか素手ではめられた。

フロアポンプだけですんなりビードは上がった。

 

レースでのフォーミュラプロ

発表会にはiRCを使用しているスパークルおおいたの住吉宏太選手とキナンレーシングチームの孫崎大樹選手の2人も参加した。
両チームは第6世代フォーミュラプロのプロトタイプの段階からテストしており、2人とも良い印象を持っているようだ。
特に、今回のキーコンセプトである『転がり抵抗』に関しては、2人とも「前モデルと比べて明らかに抵抗が小さくなったのを感じる」と口を揃える。
住吉選手はトレーニング中の峠で第5世代と第6世代をできるだけ同条件で内圧を変えながら何度も乗り比べ、タイムが向上したという。
孫崎選手は第5世代の転がり抵抗の大きさから、クリンチャーの『アスピーテRBCC』を使用していた時期があったのだが、レース中のパンク対応などの問題もあり、チューブレスに戻ってきたのだそうだ。
「第5世代はグリップが高い分、トレッドに砂や石を拾うことがあったのですが、第6世代は砂の多いツアー・オブ・ターキーでも全くと言っていいほど砂を拾っていなかったので、そういう意味で耐パンク性能は高まるのではないか。ターキーでも、砂が原因でのパンクはありませんでした」と語る。
先日の全日本選手権は、雨でパンクや落車が目立ったレースだったが、両チームともパンクも落車もゼロで、無事にレースを終えられたそうだ。
TLとTLRの使い分けについても聞いてみたが「レース中のパンクのリスクを考え、TLでもシーラントを入れてしまうので、それだったら軽くてしなやかなTLR一択ですね」と2人の意見が一致していた。

ゲストライダーは住吉宏太選手(スパークルおおいた・左)と孫崎大樹選手(キナンレーシングチーム・右)。

住吉選手は28Cをセレクト。

孫崎選手は23Cのリムとの組み合わせでのタイヤ形状から25Cを愛用。空力的な面と、タイヤの潰れ方が好みなのだそうだ。

 

インプレッション

さて、プレゼンテーションの後はいよいよ試乗会だ。
編集部からは編集長ナカジと筆者の2人が参加した。

編集長ナカジは新型のTLの28Cを試乗。好印象を持った。

ナカジは最近使用している第5世代のTLRの28Cから第6世代のTLの28Cの比較で、第6世代はタイヤのしなやかさが増したという印象を持ったようだ。

「前作の杉目パターンと新作を比べると、新作の方が路面に対する”グリップ感”が強い。それでいて、ねちょっとした感じがないのは面白い。

個人的に、最近は28C幅の乗り心地の良さにすっかり体が慣れてしまって、いろいろな28C幅のタイヤを試しているが、重量とグリップのバランスが悩みどころ。

他社製の軽い28Cクリンチャー+TPUチューブのセットアップも所有している。それは軽快だけれど、28Cらしいグリップ感が薄くなってしまう。TPUチューブの硬さが目立ちすぎてしまうのだ。それに比べてTLの28Cは、タイヤが路面をしっかり食っている感じがわかるし、コーナーでもタイヤの変化を感じやすい。私自身は速度の激しい上げ下げが必要な走り方はしていないので、TLの重さはそこまで気にならない。

フォーミュラプロシリーズは第2世代の時に初めて使って、着脱でかなり苦労したトラウマがあったが、今回それも和らいだ。タイヤ、リム共にTL規格が進歩していることは間違いない。

山田さんにタイヤの性能という観点から見た場合、TLRとTLはどちらが上かと聞いたら”TLだ”という回答もあったので、せっかく使うならiRCの技術が詰まったTLを体感してみてはどうだろうか」

筆者は第6世代のTLR(手前)と第5世代のTLとを比較。両方ともサイズは28C。

第2世代のライトからずっとフォーミュラプロを使い続けている筆者は、今回は第5世代のTLの28Cから第6世代のTLRの28Cの比較。
タイヤ重量が先代がTLで実測331g(内側に乾いたシーラントの膜が付着しているのを含む。カタログ重量は310g)、第6世代がTLRで実測250gと、1本あたり80g以上の差。シーラントの重量を考慮しても50g以上は軽くなる計算。
この重量差は明確に感じることができ、走り出しや上り坂、スプリントのかかりなどが明らかに軽かった。
転がり抵抗については筆者では違いを感じ取ることはできなかったが、滑らかなアスファルト舗装の走行中に、先代では僅かにタイヤから接地音がしたのだが、第6世代は音が小さく感じられたことから、パターンの有無が影響しているものと思われる。
やや荒れた路面では、第6世代の方が路面からの振動を飲み込んでくれているような印象があった。これはTLとTLRの違いである可能性もあるのだが、ナカジは先代TLRから第6世代のTLに乗り換えてもしなやかさが増した印象だと言っていたので、第6世代のしなやかさが増した分も大きいのではないかと思われる。
コーナリング性能やグリップ性能については、今回筆者が試乗したコースはほぼ直線で、コーナリングらしいコーナリングを試すことがほとんどできなかったので断言はできないが、第5世代を上回っているというのが事実であれば、個人的には全く不安のないレベルであると思われる。

 

ラインナップ

第6世代フォーミュラプロは『フォーミュラプロTL RBCC』『フォーミュラプロTLR Sライト』『フォーミュラプロTL Xガード』の3モデル。
タイヤ幅は3モデルとも700×25C、700×28C、700×30C、700×32Cの4サイズ。
RBCCとSライトにはタンサイドもラインナップされる(Xガードはブラックサイドのみ)。
価格は全て1万1000円。

なお、まずはRBCCとSライトの25Cと28Cのブラックから発売。その他のサイズやタンカラー、Xガードについては追って秋頃にデリバリーが開始される予定だ。

ロゴのカラーがゴールドに変わった第6世代フォーミュラプロ。写真のタンサイドは試作品のため旧モデルのロゴが貼られているx。