老舗義肢装具メーカーが作る競技者向けインソール「FUSION-FLEXI SPRINT」
目次
老舗義肢装具メーカー勤務の元競輪選手が企画・開発に携わるスポーツインソール・FUSION-FLEXI(フュージョンフレキシ)シリーズに新製品SPRINT(スプリント)が登場。芯材と天然皮革だけでクッション材なしというミニマムな構造で1.3mm厚という薄さが特徴で、サイクルスポーツに求められるダイレクト感と軽さを高い次元で両立している。他のモデルとどう違うのか、半年ほど先行して使っていたライター浅野がレポートする。
パフォーマンスとケガの予防をもたらすインソール
フュージョンフレキシは、愛知県の義肢装具メーカー・松本義肢製作所のスポーツインソール。「全ての競技者にベストパフォーマンスを。全ての競技者にけがのない競技生活を」との願いを込め、同社の元競輪選手のテクニカルプランナー・山下竜児氏が開発に携わっている。
現在、フュージョンフレキシシリーズのサイクルスポーツ向けのモデルは3種類ある。標準モデルの+S、クッションが厚めの軽量モデル・lite(ライト)、そして今回発売された極薄・超軽量モデルのSPRINT(スプリント)だ。新製品・スプリントの紹介の前に、まずはインソールの役割と同シリーズの特徴について教えていただいた。
インソールは足の裏と直接接し、シューズと足との一体感を大きく左右する重要なパーツだ。インソールがシューズと足の一体感を増すことにより、シューズの中で足を安定させることで関節への負担を減らし、けがの発生を抑えることに貢献する。
インソールにはもう一つ大きな役割がある。パフォーマンスの向上だ。特に自転車においては、ペダリングで脚を回転させる際に股関節、膝関節、足関節を動かしているが、自転車との接点であるシューズの中で足が安定することでペダリング時のパワーロスが少なくなり、パワーの伝達効率アップにつながる。シューズと足のフィット感に影響するインソールの善し悪しがパフォーマンスに大きな影響を与えると言っても過言ではない。
とはいえ、「インソールの固定力が強すぎると逆に関節への負担が増えることも考えられる」と山下さんは指摘する。ペダリングは踏み込み局面と引き脚局面で関節の動きが異なり、股関節、膝関節、足関節は微妙にねじれながら3次元の動きをしているからだ。そこで、フュージョンフレキシシリーズは足の動きに追従するフレキシブルな材料を厳選し、関節の動きをいなしながら安定性を高めているという。
薄さと軽さを高い次元で兼ね備えた新製品・スプリント
最新モデルのスプリントは、開発に15年もの歳月が掛かっているという。競輪選手やロード選手などにテストしてもらってフィードバックをもらい、改良を重ねてようやく製品化にこぎ着けたという。まずはスプリントの特徴をチェックしていこう。
●ポイント1:爪先の厚み1.3mmという薄さがもたらすダイレクト感と軽さ
スプリントは全面芯材の1枚プレートに表皮として天然皮革を貼り付け、かかとにスタビライザーを装着しただけのミニマムかつシンプルな構造が特徴。クッション材を使わず、爪先部分はわずか1.3mmという薄さを実現している。この薄さはペダリング時に踏力をダイレクトに伝えるだけでなく、カット前で30g(Mサイズ)という重量の軽さにも貢献している。
●ポイント2:剛性を高めるスタビライザー
かかとの裏側から母指球の後ろ付近にかけて、厚さ1.1mmのスタビライザーが設けられている。ソールの剛性を高め、足の安定感を高めるため、踏力を余すことなく推進力に変換するほかケガの防止にも役立つ。スタビライザーのかかと付近は円形にくりぬかれているが、これはかかとの厚みを抑えてシューズのかかと部分のフィット感を高めるデザインだ。
●ポイント3:ソール表面に天然皮革のヌバックを使用
ソール表面にはフュージョンフレキシシリーズとして初めて天然の豚革のヌバックを使っている。適度に毛羽立っているため、ソックスをはいてもシューズの中で足が滑りにくく、パワーの伝達効率向上とけがの防止に貢献する。
フュージョンフレキシの自転車向け3モデル、履き比べブリーフインプレッション
フュージョンフレキシの自転車向けインソールは+S、ライト、スプリントの3モデル。他のモデルもどうか気になるところだ。
まずは各モデルのスペックをまとめる。
FUSION-FLEXI +S | FUSION-FLEXI lite | FUSION-FLEXI SPRINT | |
爪先部分厚み(mm) | 3 | 4 | 1.3 |
スタビライザー | 〇 | ― | 〇 |
Mサイズカット前平均重量(g) | 42 | 32 | 30 |
ドロップ(mm) | 0.5 | 0.5 | 0 |
土踏まずサポート | 高い | 中間 | 低い |
土踏まず横幅 | 広い | 中間 | 狭い |
かかとサポート | 高い | 中間 | 低い |
表について補足すると、スタビライザーとはソールの裏側にある黒い部分で、ソールの剛性を高め、足を安定させる効果がある。また、ドロップとは、かかとと爪先の落差のことで、ドロップが大きい方が重心が前に行きやすくなるが、自転車の場合はあまり関係ないという。
これを踏まえて各モデルを履き比べた印象を紹介しよう。
FUSION-FLEXI +S
●モデル概要
サポート力の強いオールラウンドモデル。
●どんな用途に向く?
ロングライドもレースも楽しむあらゆるサイクリスト向け。
●ブリーフインプレッション
・ソールの裏のかかと側にスタビライザー付き。かかとのサポートの高さも相まって足の安定性が高く、踏力がしっかり伝わる。
・土踏まずのサポート高め、かかとの縁も立ち上がっているため、安定感がある。
・土踏まずあたりの幅も広め。足幅が広めの人に向く。
・かかとの部分に厚みがあり、シューズとの相性によってはかかとのフィットに違和感を生じるケースも。特にヒールカップが浅めのシューズは要注意
・純正の薄いインソールと比べるとやや厚めで、足を入れたときに少しふわふわした感じがある。一方、ペダリング時のダイレクト感はやや薄れる。
FUSION-FLEXI lite
●製品概要
厚みがあって衝撃吸収性が高く、重量も軽い。
●どんなサイクリストに向く?
・MTBやグラベルライドを楽しむ人。ロングライドでの快適性を重視する人にも。
●ブリーフインプレッション
・土踏まずのサポートはやや高め。かかとの縁の立ち上がりもやや高め。土踏まずあたりの幅はやや広め。
・ソールが全体的に厚め。ヒールカップの浅いシューズだとかかとのフィット感に違和感を生じる可能性が高い。足の爪先側もシューズによっては窮屈さが増してしまうかも。
・純正の薄いインソールと比べるとかなり厚みを感じる。足を入れたときやペダルを踏み込んだときにふわふわした感じがある。ペダリング時のダイレクト感は希薄。
FUSION-FLEXI SPRINT
●製品概要
クッションレスで薄く、ダイレクト感がある。競輪選手の愛用者も多い。
●どんなサイクリストに向く?
競技志向でダイレクト感を重視するサイクリスト。特にロードレースやヒルクライム志向の強いサイクリスト向き。
●ブリーフインプレッション
・ソールの裏のかかと側にスタビライザー付いていて足の安定性が高い。
・クッションレスの極薄の構造で、踏力がダイレクトに伝わる。
・土踏まずのサポートは他のモデルと比べると控えめ。かかとの縁の立ち上がりも低い。
・シリーズでは唯一、足と接する面に天然皮革(豚革)を採用。ヌバックになっていて、ソックスをはいていても足が滑りにくく安定感がある。
・ソールが全体的に薄いので、シューズの履き心地に全くといっていいほど響かない。さまざまなシューズに合わせやすく、ヒールカップが浅めの靴でも履き心地やフィット感を損ないにくい。
・クッション材がまったくないので、履き心地はやや硬く感じる。レース志向の人にはお薦めだが、ロングライド中心の人だと好みが分かれるかも。
インプレ総括
個人的にはインソールにはダイレクト感と安定感を求めるので、インソールは薄い方がいい。また、できればクッションも必要最低限で硬めな方がいい。ペダルへの踏力の伝達効率が高まるからだ。
自分は熱成形シューズを履いているが、純正ソールが薄く、そのソールを履いて成形してしっくりきていたので、あまり厚みのあるインソールは使いにくい。インソールに興味はあったが、手軽に使えて薄く、しっかり剛性があるものがあまりなく、今のシューズに変えてから純正のソールで半年ほど過ごしてきた。
そんな折にスプリントに出会った。薄くて軽く、硬い。サイズを合わせてカットし、シューズに装着して足を入れてみると、純正のペラペラのインソールより土踏まずのサポートがあり、硬さも感じる。そのまま入れても違和感はほとんどなかったが、熱可塑性の樹脂を使っているので、部分的に気になるところがある場合はヘアドライヤーなどで部分的に熱を加えてシューズに入れて足入れしてフィット感を高めることもできる。
実際に走ってみると、ダイレクト感が非常に高い。スプリントはクッション材を持たないので、踏力がインソールに吸収されず、ダイレクトに推進力に変換されるイメージだ。純正のインソールと比べると重量は少しだけ重くなったが、それを感じさせないのも、踏力がしっかり伝わってバイクが良く進むようになったからだろう。
自分がいつもトレーニングで使っている上り基調のコースでインソールだけを変えて20分走をしたところ、スプリントを使うようになってから平均出力も平均時速も向上した。
もう一つすばらしいと思ったのがソールの表皮だ。天然豚革のヌバックを採用していて、表面が少し毛羽立っているので、ペダリング中に靴の中で足が滑る感じがまったくない。インソールを介し、より足とシューズの一体感が増したように思う。
唯一デメリットと思われるのは、ダイレクト感の高さゆえの路面からの衝撃を伝えやすい点だ。アスファルトが荒れた路面を走ると、クッション材があるインソールよりは少なからず路面からの衝撃が伝わりやすいと感じる。自分の場合は膝の痛みや足の痛みが出るわけではないので、個人的にはロードレースや舗装路のロングライドならまったく問題ないと思う。レース志向の強いサイクリストで、薄くてダイレクト感のあるインソールを探している人はぜひ試してみてほしい。
インソールの選び方のポイント
最後に山下さんにインソールの選び方のポイントについて教えていただいた。
―どのモデルがいい?
「用途だけでなく、シューズとの相性も見ながら選んでください。
まずは用途別。ダイレクトなパワー伝達を重視し、スプリント力を向上させたいなら、薄くてクッションレスのスプリント。クッション性重視で路面からの衝撃を減らしたいロングライド志向の方は、クッション性のあるliteがお薦めです。
続いて機能面の違い。+SとSPRINTは、スタビライザーで補強されているため、踏力がペダルにダイレクトに伝わります。ロングライドでクッション性を高めたい人は、liteや+Sのような厚めでクッション性のあるモデルが相性が良いと思います。
フィット感で選ぶなら、足の固定力が+S>lite>SPRINTの順、厚みではlite >+S>SPRINTの順です。フュージョンフレキシシリーズは柔軟性の高い素材を使用していて後から入れる場合でもさまざまなシューズにフィットさせやすいのが特徴ですが、熱成形シューズなど、シューズがそもそも足にフィットしている場合は薄いスプリントでないと窮屈さが増してしまう恐れもあります」。
―足やシューズとのフィット感で見るべきポイントは?
「まず足長と足幅が自分の足に合ったシューズを履くことは大前提。シューズは万人向けに作られているので、インソールで足とシューズのフィット感を高めます。自転車競技は底面は硬めの方がペダルへの力の伝達が良くなります」。
―シューズに実際に入れたときに見るべきポイントは?
「自分のサイズにカットして使いますが、切りすぎるとシューズの中でインソールがずれてしまうので注意してください。逆に爪先が大きすぎると、爪先がよれてしまい、フィット感が損なわれます。
シューズに入れた際にシューズのクロージャーの位置とインソールの壁の位置が干渉して圧迫していないかもチェックしてください。
また、スプリントに関してはつま先の部分も芯材+表皮だけなので、たわみやひずみが母指球や小指球付近に出ていないかもチェックし、必要であれば裏側からドライヤーで部分的に軽く熱を加えて成形してください」。