トレック新型エモンダは何がすごい?
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2014年からトレック最軽量モデルを担うエモンダの新型がついに発表された。通常新製品発表は各国のジャーナリストを1か所に集めて試乗を含むプレゼンテーションを行うのが通例だが、今回は新型コロナウイルス禍を考慮して、オンラインでユーチューブライブを介して行われた。
※新型エモンダの概要はこちらから
軽量化と空力性能向上のために、OCLV800という新世代の素材を開発した。OCLV700と比較して30%高強度になったことによって、素材の使用料を減らすことができたのだ。そしてフレーム形状は、空気抵抗を抑えることを目指した。それでいてマドンと同じ形状にはならないようにとも考えられている。軽くて空力にも優れる、峠を速く走り抜けることを目的に開発された。そのためにターゲットとされたのはツール・ド・フランスにもたびたび登場する名峠アルプ・デュエズだ。
軽さとエアロの最適解を求めて
その実験アプローチはこうだ。まず先代のエモンダでアルプ・デュエズを上り、タイムを計測する。次に空気抵抗を100g減らすために、重量を500g増やしたらどうなるのかを試した。そして重量を増減させたり、空気抵抗を増減させたりして、最適なバランスがどこなのかを探った。それを表したのが下のグラフだ。縦軸が重量、横軸が空気抵抗。
その結果、単位重量ごとの空気抵抗を約3倍減らすと、アルプ・デュエズを最速手で上れることがわかったという。それをふまえてフレーム形状がデザインされていった。CFD解析を駆使して重量と剛性、ジオメトリについて検討したデータ、空気抵抗が少なくなる形状について検討したデータを作成。それらをHEEDSというソフトで統合して最も理想的なバランスになる形状を導き出している。
空気抵抗を低減する方法は、フレーム前側を通った風がなるべく乱れずに通り抜けていることを重視。またステム一体型ハンドルは、フラット部をカムテール形状としつつ、握り心地の良さも考慮にいれた形状になっている。
そしてフォークからダウンチューブにかけてはボトルを取り付けることも想定して気流が乱れないような形状が与えられている。これらCFDで解析されたデータをもとに製作したプロトタイプのフレームを使って3回の風洞実験を実施して形状が決定された。もちろん空力性能に優れたバイクは平地でもアドバンテージをもたらす。前作と比較して18wセーブすることができ、平坦を走った場合、1時間あたり60秒のタイム短縮になる。そしてこれはアルプ・デュエズを1時間走った場合約18秒のタイム短縮をもたらすという。例えばレースでトップ争いをしていたとする、トップから6秒遅れている選手が、新型エモンダに乗ることで12秒タイムを上回ることができるのだ。
新素材OCLV800
このタイム短縮にはフレーム素材のOCVL800が大きな役割を果たしている。OCLVとはトレックが特許をもつカーボンの製法で、Optimum Compaction Low Void(超高密度圧縮、低空隙)の略。製造過程で高圧縮するのはカーボンの製法の一つであるが、それを超高圧で行うことにより、残留空隙を極力減らし強度と軽さを実現している。これが700から800へと1世代進化した。軽さに加えて空気抵抗の低減が必要だった新型エモンダにはこれが必要だったのだ。新作エモンダの形状と軽さ、強度を実現するためには、OCLV700では目標重量を達成することができなかった。そのためOCLV800という700よりも強度が30%向上している素材を用いたのだ。同じフレームをOCLV700で作った場合よりも60g軽量化することができたという。
この新素材を開発し、フレームにもちいるまでに2年の歳月と250本のテストフレームを費やしている。これにより56cmサイズのフレーム重量は698g(BB込み、無塗装)、フォークは365g(コラム長22cm、無塗装)。
ジオメトリーはH1.5
かつてトレックのロードバイクには2種類のジオメトリが存在した。H2と、それよりも深い前傾姿勢を可能にするH1だ。だが、いまはH1.5という両社の間を取るジオメトリに落ち着いている。上りでも下りでも最適なポジションを実現できる。性別によるジオメトリの違いはないが、52cm以下の小さいフレームサイズには、幅が狭いハンドルバーが装備。またクランク長も異なる。エモンダSLR7ディスクの場合、一番小さいフレームサイズ47cmのハンドル幅は38cm、ステム長80mm、クランク長は165mmであるのに対して、54cmサイズのフレームにはハンドル幅42cm、ステム長90mm、クランク長は172.5mmが設定されるという具合だ。またトレックのカスタムシステム「プロジェクトワン」を使えば、希望のサイズのパーツ、コンポーネント、ホイールを選ぶことができる。そしてカラーリングも。最上位の「プロジェクトワンアルチメイト」を利用すれば、オリジナルグラフィックを実現することも可能だ。
新しいプレゼンテーションスタイル
以上のように、新型エモンダの概要が解説されたあと、ジャーナリストからの質問にマーケティングマネージャーのアンドレス・アルバーグ氏(右)とロードプロダクトマネージャーのジョーダン・ルーシング氏(左)が答えてくれた。
Q.新作エモンダの空力性能は、以前のエモンダやマドンと比べてどれほど優れている?
A.確かにエモンダは空力性能が向上しています。前作のエモンダとマドンの中間くらいの空力性能を持っています。マドンは依然として空力に優れているバイクです。
Q.空力性能を意識した場合、シートステーの位置を低くするメーカーが多いですが、新型エモンダはそうなっていません。理由は?
A.美しいデザインをまとっていることもまた重要です。ひとめでトレックのバイクであると人々が認識してもらえるデザインである事です。そして空気抵抗の観点からと、バイクを速くするためという観点から考えたときに、シートステーの位置を低くしない方が速く走るバイクになると判断しました。アルプ・デュエズではその方が速かったのです。
Q.シートマストはエアロ形状(KVF)ではなく、真円です。空力性能を考えるなら真円ではない方がいいと思うが、その理由は?
A.空気抵抗を低減するということと、重量とのトレードオフがこのエモンダの開発では常に行われていました。軽さと快適性、そして空力が共存できるのかを検討。突き詰めたのは空力性能だけでは無いということです。その結果、エアロ形状にするよりも真円にして重量のアドバンテージを確保した方が効率的であると結論づけました。
Q.ISOスピードの搭載は検討しましたか?
A.検討しました。トレックが考えるバイクの性能を実現するために、乗り心地の観点からISOスピードを搭載することにメリットがあります。それによって重量が増えればバイクは遅くなってしまいます。エモンダはフレーム全体の垂直方向の快適性が先代エモンダとほとんど変わらりません。捻り剛性のみに焦点を当てた数値も同様です。
Q.旧作エモンダよりも新作エモンダは重量が増えました。それはBBにT47を採用したからですか?
A.確かにT47規格はアルミのスリーブを挿入する必要があるので、約30gほど重量増につながります。ですがT47を採用することによりフレーム全体の表面積を変更することができ、ダウンチューブのカムテールセクションを十分に獲得することができました。そしてOCLV700で今の形状を再現しようとしたならば100gの重量増が見込まれました。T47を採用し、スラムの新BBシャフト規格DUB(ダブ)を組み合わせた方が、以前の規格であるBB90+スラム・GXPクランクの組み合わせよりも結果的に軽くすることができます。
Q.一番軽く仕上がる色は何色ですか?
A.マットブラックにクロームのロゴを配置したデザインです。ペイント層が一番少ないからです。
Q.現在トレックはロードバイクのラインナップをエモンダ、ドマーネ、マドンという3つ持っています。エモンダが空力性能を手に入れたことによって、将来的にはこれらを統合する可能性がありますか?
A.バイクの種類はある程度分かれている必要があると考えています。ドマーネは非常にようとが広いバイクですし、マドンは空力性能を究極に追求しているバイクです。そして、チェックポイントというグラベルバイクは、世界的に拡大している新しいマーケットのためのバイクです。それらを統合する必要な今はありません。今後のトレンドによっては変化があるかもしれません。