オン・オフで活躍するシマノのサイクリングシューズ「ET3」の実力に迫る【輪行&キャンプ編】
目次
ビンディングシューズに迫るペダリング性能と歩きやすさとを両立し、“オン・オフ”両方で活躍するサイクリングシューズ、「ET3」がシマノから新登場。前回の【通勤編】に引き続き、今回は【輪行&キャンプ編】として、週末の“オフ”の性能に迫る。輪行&自転車キャンプの達人に試してもらった(編集部)。
おさらい:ペダリング効率と歩行時の快適性を両立させたツーリングシューズ「ET3」
走りやすさと歩きやすさ……要求される機能がまったく正反対ともいえる2つの要素を、非常に高いレベルで満たしてくれるのがシマノのフラットペダル用シューズ「ET3」だ。ルックスはカジュアルなスニーカーだが、シマノが30年間にわたって開発・販売してきた自転車用シューズの理想と技術が結集した最新モデルである。前回の【自転車通勤編】では、通勤ライドを通してET3を紹介したが、今回はキャンプツーリングを舞台として、ET3の実力に迫る。
ペダリング効率を高める新フラットペダル「PD-EF202」&「PD-EF205」も登場
ET3のベストパートナーとなる新型フラットペダルも登場。ワンピース形状でダイレクトな踏み感が味わえる「PD-EF202」と、よりワイドなグリップ面を配してさまざまなシューズで踏みやすい「PD-EF205」という2モデルが用意される。どんなスポーツ自転車にも合わせやすいモダンなデザインも魅力だ。
輪行&自転車キャンプの達人がその性能をチェック!
風を切って走る爽快感がサイクリングの原点だ。しかし「走るだけ」じゃないのが、ツーリングと呼ばれる旅情志向のサイクリングの特徴でもある。立ち去りがたい絶景に出合えば写真を撮り、気になる史跡があれば自転車を降りて寄ってみる。未知の道を目指すから、乗車が難しいほど荒れた道に出くわして押し歩くこともある。自宅から遠く離れたエリアを訪れるためには「輪行」という移動手段も欠かせない。そして、キャンプ道具を積んで走り、好みのキャンプ場で一夜を過ごすことも多い。自転車を軸にして、さまざまな遊びを組み合わせるのがツーリングの醍醐味だろう。つまり、歩くシーンも大切、というのがツーリングにおけるシューズ選びの特徴だ。
「だから歩きやすいET3がいいんでしょ?」という声が聞こえてきそうだ。まさにそのとおりだが、シマノには「SPD」(シマノ・ペダリング・ダイナミクス)という伝統のシューズ&ペダルがある。30年前から「高効率なペダリングと快適な歩行性」を実現しているギアである。MTB用のビンディングというイメージがあるSPDだが、登場時から今に至るまでロード用モデルもあるし、全体としてはツーリングやカジュアルライドを意識したシューズ&ペダルである。これがツーリングにおける最適解であり、多くの人が標準スタイルとして取り入れている。筆者も基本的にはSPDを常用している。
だから、ET3でペダリング効率と歩行時の快適性を両立……なんて言われても、シマノ自身が30年前に答え(SPD)を出してるよね? なぜ今さらフラットペダル用のシューズ? と感じたのが正直なところだ。
しかし、先入観と経験に囚われるのはオッサンの悪癖である。名残惜しくもSPDペダルをフラットペダルのPD-EF202に代え、ET3を履いて一泊二日のキャンプツーリングに出かけたのだった。そして分かってきたのは、SPDとは平行線上にある「高効率なペダリングと快適な歩行性」である。
輪行がもっと楽になるという事実
筆者の旅は常に輪行で始まる。よって、ET3の第一印象は「歩きやすい」である。クリート(ペダルとの接続金具)がないから、当然といえば当然だ。ふだん使いのスニーカーに比べると、軽登山靴のようなほどよい硬さをソールに感じる。グリップ感は十分に高く、輪行袋を担いでの階段の上り下りも安心だった。爪先がよくしなるので、かがむ姿勢もとりやすい。すると、輪行のために自転車を解体・収納する作業も行いやすかった。すっかりSPDに慣れていたので、ビンディングシューズでの輪行も苦には感じてなかったが、ET3の快適さを知ってしまうと、いろいろな不便を半ば無意識にしのいでいたんだな、と実感した。輪行が苦手、という人が意外なほど多いけれど、シューズを代えればストレスは格段に少なくなりそうだ。
絶妙なグリップ感が生む一体感
今回、JR常磐線の石岡駅まで輪行し、そこから茨城県北部の大洗町まで走った。お気に入りのキャンプ場を目指す、距離50kmほどの長閑なコースだ。正直なところ、ET3&フラットペダルに走りは期待してなかった。むしろ、踏み外すのが怖いと感じていたくらいだが、まったくの杞憂だった。ソールとペダルの摩擦力が絶妙で、軽いギヤをくるくる回しても、重いギヤを踏み込んでも安定している。滑るとか踏み外すとか、そうした気配は微塵もない。ペダルと接するソール中央部に十分な硬さがあるため、力がスムーズに伝わるようだ。
ビンディングでこそないが、やはり専用のシューズとペダルは優秀だなと実感する。しばらく走っていると、まるで足元を意識しないようになった。いつものSPDと変わらない気分だ。停車前、無意識に左足をひねる自分に苦笑するが、接地したシューズの安定感が「あ、SPDじゃなかったんだ」と気づかせる。
存在を感じさせないのがすばらしい
目的地に着いたら終わり……じゃないのがキャンプツーリングの面白さ。自転車のバッグに詰め込んできたキャンプ道具を降ろし、テントを設営し、調理器具などを展開して一夜の我が家をセッティングする。ソロ用のキャンプ道具はいずれもコンパクトかつ軽量なので手間はかからないが、ちょこまかと歩き回ることになるので、ET3の歩きやすさがうれしい。いつものビンディングシューズだと、こうした立ち回りの際に「ソールが削れてもったいない」「クリートに土が詰まる」なんて心配もするのだが、はき替えるサンダルや簡易シューズを用意すると荷物が増えてしまう。けっきょくはビンディングシューズを傷めながら一夜を過ごしていたが、ET3ならストレスフリーだ。よい意味で存在を感じさせない。
総合評価〜編集長・中島と田村氏が対談
中島:ふだんからフラットペダルとスニーカーで通勤しているので、このET3は欲しくなりますね。こうした専用のシューズがなくても通勤やサイクリングは成り立つには成り立つのですが、より良いモノが欲しくなるのはギア好きの性ですね。
田村:フラットペダルは完成車のおまけ、シューズはふだん使いのフニャフニャなスニーカー……そんな組み合わせだとビンディングペダルとシューズの効率には敵いません。でも、フラットペダルも専用の組み合わせで走ってみると、ビンディングとの性能差はさほど感じないですね。走りにくいけど歩きやすい、じゃなくて、“ちゃんと走れて歩きやすい”。大きなメリットを感じます。
中島:ソールのセンターがあまりしならない構造が走りの質を高めてますね。通勤パートを任されておきながら、50kmくらいのツーリングもET3で体験したのですが、まったく不足を感じませんでした。通勤くらいの短時間ならいい、と軽くみていましたが、長時間のライドも好印象でした。平日の通勤という“オン”のライドと、休日のツーリングという”オフ”のライド、どちらも満足度が高いと思います。
田村:通勤とツーリングの共通点は、必ずしも何時間も乗り続けない、ということでしょうか。乗ったり降りたりするシーンが頻繁です。ずっとサドルの上にいるロングライドのようなシーンならビンディングペダル&シューズ、立ち寄りが多ければフラットペダル&シューズのメリットが際立ってきます。乗車時間とそうでない時間の割合に応じて使い分けるのがベストでしょうね。
【SPEC】
ET3
●価格/8500円(税抜)
●サイズ/36〜48
●カラー/カーキ、ネイビー、グレー
●参考重量/332g(42サイズ)
PD-EF202
●価格/4054円(税抜)
●カラー/ブルー、ゴールド、ブラック、レッド、シルバー
●参考重量/512g
PD-EF205
●価格/4543円(税抜)
●カラー/ブルー、ゴールド、ブラック、レッド、シルバー
●参考重量/612g