開発者インタビュー パールイズミの新型パッド3D-X&3D MEGAⅡを深掘り

目次

パールイズミからサイクリングパンツのための新たな2種類のパッドが誕生した。その開発ストーリーや、パッド開発において重視しているポイントなどについて、パールイズミの製品開発を担当する生産部デザイン課に所属する佐藤充氏、同課のパタンナーの鎌田圭介氏に話を聞いた。さらに、新たな2種類のパッドを使用するアイテムも最後に紹介していこう。

パールイズミの新型パッド

サイクルウェアならではの“パーツ”であるパッド

サイクリングを始めたばかりの人たちがまず悩まされるのは、お尻や股間部の痛みだろう。それを解決してくれるのが、パッド付きサイクルパンツだ。多くのライダーたちにとって、一度履けば、履かずにはいられない、サイクリングに欠かせないアイテムの一つだ。

サイクルパンツのパッドというのは、乗り慣れた人ほど普段あまり意識が向かない部分かもしれないが、自転車ウェアならではの重要な“パーツ”であり、ウェアメーカーはあらゆる面で開発に心血を注ぐ部分でもある。

その中でも主に使われるのは4種類。
短距離も長距離もこなせる万人向けの3D NEO PLUS、初心者や長距離ライダー向けの3D MEGA、価格を抑えてオールラウンドに使える3D-R、さらに手軽に初心者にも気軽に使える3D-Eだ。

今年、このラインナップから、3D NEO PLUSと3D MEGAの2種類のパッドが新たに生まれ変わった。それが中級~上級ライダー向けの薄手で高反発パッド3D-Xと、ロングライドや初心者向けの厚手でしなやかなパッド3D MEGAIIだ。

ここからは、その新型パッドの開発背景を掘り下げていこう。

3D-X

新しく生まれた薄手で高反発なパッド3D-X

3D MEGAⅡ

厚手でクッション性の高い3D MEGAⅡ

新型パッド3D-X&3D MEGAⅡ開発ストーリー

佐藤充氏と鎌田圭介氏

開発ストーリーを語った佐藤充氏(手前)と鎌田圭介氏(奥)

新型パッドの開発のきっかけとなったのは、東京オリンピックだった。
「結論として東京オリンピックでは使っていないんですが、東京オリンピックでの使用を目指したのが開発のきっかけです。今までは、乗り込まれいる方に向けておすすめしていたのが3D NEO PLUSで、それを使ってもらっていたんですが、ちょっと厚みがあると言われていたんです。他にも、薄いパッドが欲しいという要望もありました。乗り込む方は薄いパッドを好まれる傾向にありますね」
そう話したのは、パッドだけでなくパールイズミのあらゆる商品開発に携わる佐藤充氏。

しかし、薄くしようにもある程度厚みを持たせなければ物理的にクッション性が効かず、路面からの衝撃を吸収することができない。かつ、これまでよりさらに薄くしようとすると、すぐにお尻がサドル面につき、痛みの原因となってしまう。
「痛みを発生させずに薄いパッドを作るにはどう作ればいいかを考え始めたのがこの新型パッド開発の第一歩です」
佐藤氏は続ける。
それから素材の選定や技法などの策定を始め、およそ3年の歳月をかけて、3D-X、そしてそれに付随して3D MEGAⅡの2種類の新型パッドが出来上がった。

レーサーなど乗り込む人に向けて作られていた前の世代のパッド、3D NEO PLUSと比較して、3D-Xが最も変わった点はやはり薄さだ。
「前のものよりも若干薄めに仕上がっています。薄めなんですが、しっかりとしたクッション性があってお尻が痛くならないようになっています。前の3D NEO PLUSと圧倒的に違うのは、ウレタンフォームの組み合わせ方が違うのと、作り方が違います」

従来のものは、ウレタンを重ね、そこに金型で熱をかけて押して形を作るモールドテクノロジーと呼ばれる手法で作られていた。
「この作り方の特徴として、段階的に厚いところ、薄いところと熱をかけて形を作るんですが、ピュアなウレタンから熱をかけると、ウレタンの弾力性が死んでしまう。そうすると、ウレタン自体のもちも良くないですし、もともと2cmとか厚さがあったものを圧縮して薄くすると、どうしても硬くなっちゃうんですよね。それで硬い部分がペダリングしている内に肌に当たって痛くなってしまうこともあったりしました。なので、あまり熱で潰しすぎるのも良くないのではという考えになりました」

シェービングテクノロジーによって削り出されたウレタンフォーム

シェービングテクノロジーによって削り出されたウレタンフォーム。左が3D-X、右が3D MEGAⅡで使われるもの

そこで、今回の新型パッドでは熱成形ではない『シェービングテクノロジー』という新たな技法を用いることにした。シェービングテクノロジーは、寝具などで使われている技法であり、それを応用した。熱をかけていない凹凸のついた金型でウレタンを押した状態でカッターで削り出すというものだ。
「熱で潰さなければ元々のウレタンの弾性が死なないので、使っていて長持ちしますし、押されて戻ってくる反発力が生かせるんです」
熱で圧縮して成形しないことで、薄くしても素材が持つクッション性を100%そのまま使えるのだ。

凹凸の位置、厚さ、素材を変えるなど何度も試作を繰り返しては社内のメンバーで乗り込んだ。その内の一人であったパタンナーの鎌田圭介氏はこう話す。
「自分は、バイクも取っ替え引っ替えで試しました。今日はMTBで、今日はいつもと違うサドルのロードで、とかやってみたり。あとは、乗り方もハンドルの位置を変えてみたりとか、いろんな人にポイントが合ってるかどうかを確認しながら作っています」

3D MEGAⅡ

ウレタンの組み合わせ方によってクッション性能や厚みが変わってくる。3D MEGAⅡは、ソファに座って包み込まれるような感覚を目指した

パッドの素材として主となるウレタンフォームは、厚みや求めるクッショニングにすべく、異なる密度のものを組み合わせて使用していると佐藤氏は話す。
「例えば、パッドの素材として柔らかいウレタンだけを使ったとします。そうすると、柔らかいために衝撃は吸収するんですが、すぐに潰れてお尻がサドルについてしまう。それだと、ただウレタンが入っているだけでクッショニング性能が高いとは言えない。その上に硬いものを重ねてあげると、衝撃が分散して、柔らかいウレタンがそれを受け止めてくれるんです。
組み合わせ方は、持っていきたい方向性によって変わってきます。密度によっては重ね方を逆にしたり、他の素材を使ったりもします。例えば、3D MEGAⅡは下の層に多少柔らかいウレタンを引いて、上の層にさらに柔らかいウレタンを引いています。そうすることで、座った時に柔らかいウレタンが沈んで、ソファに座っているような、包まれるような感覚になるんです」

SEBSゲル

坐骨が当たる部分には、圧力を分散させるSEBSゲルというエラストマーを使用する

3D-Xでは、ただ薄くするだけでなく、お尻がサドル面に付かないよう、一部分だけウレタン以外の別の素材を使う。
「3D-Xは薄めですが、お尻の当たる部分は結構しっかりしていて、中にSEBSゲルというエラストマーが入っています。これをはめることで、物理的に底につかないんです。坐骨で押されて底につくときに、このエラストマーがグニュグニュしているので、前後左右に圧力を分散するんですよね。ウレタンだけじゃなくて、こういう飛び道具的なものを入れることで薄さを実現したという感じです」
アメリカの食品衛生局の許可を受けて、医療用としても使用されるエラストマーを入れたことでウレタンだけではできない薄さを実現した。

パールイズミの新型パッド

素材ごとで特性が異なるため、微妙に縫い合わせる位置を変えてフィット感を調整しているという

パールイズミでは、素材選びから生産まで一貫して自社で行うことこそ強みだと佐藤氏は話す。
「素材選びを自分たちでやって、パターンも自分たちで作って、パッドも自分たちで作っているので、全部が一体感を持てるような仕組みになっています。僕たちが『こういう形にしたいんだけど』と言うと、パタンナーの鎌田たちが『こうしてもらわないと縫えないよ』とすぐに話ができるので」

また、一体感を出すために、素材とパッドとのテンションを商品ごとに変えていたりもすると鎌田氏は言う。
「素材によって伸び感などが違うので、位置を微妙に変えながら、フィット感を調整しています。秋冬と春夏のレーサーパンツでも少し位置をずらしたりもします。生産的な部分でも量産しにくかったらまたそれも問題なので、量産の面も考えながらやっています」
そうして一つのウェアとして出来上がっているのがパールイズミの製品なのだ。

3D-Xで使用する素材

3D-Xで使用する素材。3D-X、3D MEGAⅡともに通気性の良さにもこだわる。ウレタンフォームは空気の通りやすいものを使用し、パンツに貼り込む糊のフィルムにもスリットを入れて、空気が通りやすいように工夫を凝らしている

 

パッドに求められる性能、選び方

パールイズミの新型パッド

使用する人にとって、硬い、柔らかい、厚い、薄い程度でしか認識することの少ないパッドだが、開発において、重視する点があると佐藤氏は言う。
「まずはクッショニングが一番大事ですね。体重が乗っかって、沈むじゃないですか。その時にサドル面に坐骨が物理的に当たらないことが大切です。当たるとお尻が痛くなってしまうので。
それに必要なのがクッション材となるものの密度と跳ね返りです。路面からショックが突き上げた時に、凹んだままだと座面にお尻がつきやすくなってしまいます。凹むときは凹んで、戻るときはしっかり戻ってくれないとだめです。跳ね返りの瞬発力は大事になってきます」

二つ目に挙げたのは形状だ。
「脚の入る股間の幅や、坐骨が乗っかる部分の幅も非常に大事です。今回の新型もそうなんですが、少し前にライダーの下半身の石膏を取ったことがあって、それを元に幅とかを決めているので、割とリアルな寸法にはなっているかなと思います」
股間の幅や坐骨の幅など、もちろん個人差はあるものの、大きくは変わらないという。標準的な坐骨の形を定め、それに対して余裕を持たせるように広めの幅を設定している。

3D-Xと3D MEGAⅡ

3D-X(左)と3D MEGAⅡ(右)。肌が直接触れる部分は、微起毛の素材を使用し、肌触りならぬ“尻触り”の良さを実現している

また、実際に選ぶ際のポイントについて佐藤氏はこう語った。
「乗っていると、股間が蒸れるじゃないですか。そうすると肌が柔らかくなるんですよね。そこに角が当たったりすると擦れたりして、肌障害を起こしてしまいます。なので、通気性が良くて、柔らかくて、肌に当たる面があまり凹凸感がないものがいいかなと思います。選び方としては、まず履いてみて、あまり薄すぎないものがいいと思います。また、価格が高ければ良いという訳もないので、ご自身の予算と相談しながらフィット感を試した方がいいですね」

 

薄さとクッション性を両立した最新パッド3D-Xが使われるアイテム

パッドはそんなに厚くなくてもいいというレース志向や中級〜上級ライダーには、薄さとフィット感、クッション性能を兼ね備える3D-Xを使用したアイテムがオススメ。

ウィンドブレークサーモタイツ

ウィンドブレーク サーモ タイツ
価格/1万9800円
サイズ/S、M、L、XL

0°Cに対応する防風性と保温性を兼ね備えた「ウィンドブレーク® 」素材を使用するタイツ。

ウィンドブレーク クイック ビブ サーモ タイツ

ウィンドブレーク クイック ビブ サーモ タイツ
価格/2万5080円
サイズ/M、L、XL

0°C対応の厳冬期用ビブタイツ。クイックビブでタイツ部分とタンクトップ部分を簡単にセパレートできる。

ウィンドブレーク レーサー タイツ

ウィンドブレーク レーサー タイツ
価格/1万8150円
サイズ/S、M、L、XL

5°Cに対応するビブなしのタイツ。優れた透湿機能で汗冷えを軽減する。

ウィンドブレーク クイック ビブ タイツ

ウィンドブレーク クイック ビブ タイツ
価格/2万2880円
サイズ/M、L、XL

5°C対応のビブタイツ。改良されたクイックビブは、ファスナー部の生地の重なりを減らしている。

しなやかさが加わった極厚パッド3D MEGAⅡが使われるアイテム

200km程度のロングライドをするライダーやパッドは厚めがいいという初心者には、従来のものよりも柔らかさとフィット感がアップした厚みのあるパッド、3D MEGAⅡを使用したアイテムがオススメ。

ウィンドブレーク メガ タイツ

ウィンドブレーク メガ タイツ
価格/1万8480円
サイズ/M、L、XL

腿、膝、すねの3分割立体設計によりスムーズなペダリングを実現するウィンドブレーク メガ タイツは、5°C対応。

ブライト メガ タイツ

ブライト メガ タイツ
価格/1万6280円
サイズ/M、L、XL

10°C対応のブライト メガ タイツは、ストレッチ性と保温性に優れた「スーパーサーマフリース® プラス」を使用する。