ホイールインプレッション2021 Pick Up!

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巨人たちが動いた。そういう印象だ。2021シーズンのロード用ホイールシーン。シマノ、カンパニョーロ、マヴィックという主要ホイールメーカーがそろってトップモデルを発表したからだ。フルクラム、DTスイス、カデックス、コリマ、スピナジーも新作を出した。ヴィジョンやスコープなどの実力派も積極的に動いている。さらに、10年ほど前に日本のロードバイクシーンを席巻したFFWDが再上陸し、ボルテックス、ルン、スミスといったサードウェーブ系メーカーも注目を集めている。かように動きが激しいロード用ホイール。本誌2021年12月号では、注目の新作を集めてホイールインプレッションを行った。タイトルには“インプレッション”とあるが、印象を述べるだけでなく、採点を行って各性能を数値化する。しかも、忖度なしの、辛口評価だ。俎上に載せるのは、最新のディスク用ロードホイール25本。意図したわけではないが、結果的に全てカーボンリムとなった。カーボンホイールの低価格化とメインストリーム化を実感する。ディスクロードが定着期へ入りつつある今。それに伴ってホイールの熟成も進んでいるのか、それとも未熟な段階なのか。結果から言うと、問題は根深く残っているが、希望が見えた試乗だった。今回、サイクルスポーツ.jpではそのうち7ブランド12本をピックアップした。

ホイールインプレッション2021
 
あえて主張するようなことではないのだが、ホイールの性能を採点するということは、文章だけのインプレッション記事に比べ、評者としての責任がずっと重くなる。「剛性が低くて進まない」ことを「ロングライド向け」と言い換えたり、「快適性が低いこと」を「レーシー」とごまかしたりすることができない。全て数字に表れてしまうからである。
 
しかも本誌のインプレ企画は低い点数も容赦なく付けるし、辛口コメントもそのまま載せる。もし勘違いでうっかりいい点数を付けてしまったら、読者の皆様に失礼になる。間違って悪い採点をしてしまったら、メーカーや代理店の方々に失礼になるだけでなく、ややこしい問題に発展する可能性だってある。それだけに、試乗条件の設定には細心の注意を払っているつもりだ。
 
まず、試乗に使うローターはグレードを統一した。ローターの重量や形状が、ホイールの軽快感やハンドリングに影響を与えるためだ。スプロケットはグレードだけでなく歯数までそろえた。ワイドなギヤを付けると、加速がいいように錯覚する可能性が払拭できない。
 
走行性能に大きな影響を与えるタイヤは「タイヤのタイプ(クリンチャー、チューブレス、チューブレスレディ)もホイールの性能の一環」と考え、ホイールに合わせたタイプのタイヤで試乗を行う。なお、フックレスリムのカデックスは使用可能タイヤに制限があるため、フックレスリム用タイヤ(カデックス・レース)で試乗している。
 
評者は本誌インプレ企画ではおなじみの、吉本、小笠原、安井という、体型も機材も脚質も異なる3人。当然、各人の採点と評価は異なったものになるが、それを踏まえて読んでいただきたい。バイクは各々の私物を使うが、シマノの新型デュラエースホイールはシマノ12速専用のため、新型デュラエースで組まれた試乗車(メリダ・スクルトゥーラディスク)で試乗する。
 
バイクに乗るインプレライダー3人
 
 

カンパニョーロ・ボーラWTOウルトラ33

2018年に登場したボーラの新シリーズ。リムブレーキ時代にはワンとウルトラという2グレード体制だったが、ディスクブレーキ用は今までウルトラが設定されていなかった。2021年、WTOについにウルトラグレードが登場する。ベアリングと受けがCULTになり、フロントハブがカーボン化。それだけでなく、WTOのウルトラはリムも違う。形状は同じだが、繊維と樹脂を変更して軽量化。ニップルを内蔵して空力性能をさらに高めた。33mm、45mm、60mmというラインナップは従来どおりだが、ウルトラはディスクブレーキ仕様のみとなる。ボーラWTOウルトラ33のみリム内幅が21mmだ。

→カンパニョーロ・ボーラWTOウルトラ33〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

ボーラWTOウルトラ33

カンパニョーロ・ボーラWTOウルトラ33

 

カンパニョーロ・ボーラWTOウルトラ45

上記のリムハイト45mm版がボーラWTOウルトラ45。リム内幅は19mmだ。

→カンパニョーロ・ボーラWTOウルトラ45〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

ボーラWTOウルトラ45

カンパニョーロ・ボーラWTOウルトラ45

 

カンパニョーロ・シャマルカーボンDB 2ウェイ

カンパニョーロが20万円台前半に投入した新型カーボンホイール。コンセプトは「エンデュランス性に特化したホイール」というもので、グラベルユースまで視野に入れている。アルミリムの名作シャマルの名称を受け継ぐが、カーボンリムにステンレススポークと、その設計はアルミ版とは大きく異なる。ロード用タイヤなら25~30C、グラベル用タイヤなら65Cまで対応。グラベルに対応させたからか重量はアルミシャマルより重い1585g。

→カンパニョーロ・シャマルカーボンDB 2ウェイ〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

シャマルカーボンDB 2ウェイ

カンパニョーロ・シャマルカーボンDB 2ウェイ

 

シマノ・WH-R9270-C50

シマノがR9200系デュラエースと同時に発表した新型ホイール。リムハイトは3種類。ディスクブレーキ用はチューブレスとチューブラーが用意されるが、リムブレーキ用はチューブラーのみ。今回試乗するのはディスク用チューブレスモデル3種。全モデル前後セット23万円強という価格にも注目だ。なお、フリーボディがシマノ12速専用であるため、試乗は新型デュラエースで組まれた試乗車(メリダ・スクルトゥーラディスク)で行っている。WH-R9270-C50は万能に使うことができるモデルだ。

→シマノ・WH-R9270-C50〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

WH-R9270-C50

シマノ・WH-R9270-C50

 

シマノ・WH-R9270-C36

上記のリムハイト36mm版。WH-R9270-C36はヒルクライム用だ。

→シマノ・WH-R9270-C36〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

WH-R9270-C36

シマノ・WH-R9270-C36

 

シマノ・WH-R9270-C60

上記のリムハイト60mm版。WH-R9270-C60は高速向けだ。

→シマノ・WH-R9270-C60〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

WH-R9270-C60

シマノ・WH-R9270-C60

 

ヴィジョン・メトロン45SL ディスク

EFエデュケーション・NIPPOとバーレーン・ヴィクトリアスが2021年のツール・ド・フランスに投入したことで話題を呼んだ新型ホイール。リムハイトは45mmと60mmの2種類となり、チューブラーとクリンチャー/チューブレスレディの計4種類。メトロン45SL ディスクのリム幅は31.1mmまで拡張され、空力性能がさらに高められているという。試乗するクリンチャー/チューブレスレディのリム内幅は21mmで、28Cタイヤに最適化。

→ヴィジョン・メトロン45SL ディスク〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

メトロン45SL ディスク

ヴィジョン・メトロン45SL ディスク

 

ヴィジョン・メトロン60SL ディスク

上記のリムハイト60mm版。メトロン60SL ディスクのリム幅は33mmまで拡張された。

→ヴィジョン・メトロン60SL ディスク〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

メトロン60SL ディスク

ヴィジョン・メトロン60SL ディスク

 

カデックス・36ディスク

ジャイアントが2019年に立ち上げた高性能パーツブランド、カデックスのカーボンホイール。リムハイトが45mmと60mmという2種類のラインナップだったが、そこに36mmの36ディスクが加わった。快適性・動力伝達性・軽量性をバランスさせるためカーボンスポークを採用していることが特徴。フックレスリムのため認定タイヤのみ使用できる。今回の試乗は相性が最も良いはずのカデックス・レースで行った。

→カデックス・36ディスク〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

36ディスク

カデックス・36ディスク

 

フルクラム・エアービート400DB2ウェイーレディ

フルクラムのカーボンホイールファミリーに加わった注目の新作。40mm高、27mm幅(内幅21mm)のチューブレスレディカーボンリムは25~40mmまでのタイヤに対応し、舗装路はもちろん、砂利道のグラベルロードまでオールマイティーに使えるという。目を引くのはリムの色。UDカーボンの表面にほのかに青色が付けられており、従来のカーボンホイールにはない雰囲気を湛えている。最大の特徴は税込14万円という低価格だ。

→フルクラム・エアービート400DB2ウェイーレディ〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

エアービート400DB2ウェイーレディ

フルクラム・エアービート400DB2ウェイーレディ

 

コリマ・32mmMCC WS+ DX TA

リムブレーキの時代からコリマは太いカーボンスポークをリムとハブに接着するコンプレッション構造のMCCシリーズを作ってきたが、昨年ディスクブレーキ用のMCC DXシリーズを発表。Y字のジョイントを使って2本のスポークを根本で1本にまとめ、それをハブに接続して駆動力にも制動力にも耐える設計が特徴だ。リムハイトは47mmと32mmで、それぞれにチューブラーとクリンチャーがある。試乗するのは32mmクリンチャー。

→コリマ・32mmMCC WS+ DX TA〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

32mmMCC WS+ DX TA

コリマ・32mmMCC WS+ DX TA

 

ボルテックス・N4

中国からやってきた注目のホイールメーカー。主力モデルはNシリーズで、太いカーボンスポークを使うことが特徴。当然リムもハブも専用設計だが、ライトウェイトのような一体型ではなく、スポークは交換可能。スポーク穴周辺のみ積層が増やされたリムはオフセットしており、スポーク角の左右差を抑える。Nシリーズは計8モデルがあるが、試乗するのはハイト40mmのディスク用チューブレスモデル。1280gとかなり軽い。

→ボルテックス・N4〜ホイールインプレッション2021 Pick Up!〜

N4

ボルテックス・N4

 

テストライダー

吉本 司

吉本さん

身長:186cm、体重:73kg
脚質:ルーラー
使用バイク:スペシャライズド・Sワークスエートス

本誌編集長を経て現在はフリーの自転車ライター。ピュアロードからMTBまで、自転車遊びの幅は多岐に及ぶ。最近購入したばかりのSワークスエートスで試乗に挑む。

 

安井行生

安井さん

身長:164cm、体重:52㎏
脚質:クライマー
使用バイク:タイム・アルプデュエズ21

さまざまな自転車メディアで執筆を行う自転車ライター。小柄で体重も軽いからか、しなやかで一体感のあるホイールを好む。体力は落ちてきたが、やっぱり上りが好き。

 

小笠原崇裕

小笠原さん

身長:170cm、体重:66kg
脚質:オールラウンダー
使用バイク:メリダ・スクルトゥーラ10K

幼少期から自転車競技を経験、ロードレース、トライアスロン、アドベンチャーレースなどで活躍。近年はイベントのアドバイザーやジュニアの育成にも力を入れている。

 

ホイールの評価基準

評者3人がホイールの各性能を100点満点で採点。意味のない「満点連発インプレ」を避けるため、「ここからがいいレベル」という標準ラインを60点に設定。メーカーにこびることなく、低い点数も容赦なくつけた。

加速性(低速)

ゼロスタートや低速域の加速性能。リム重量や剛性に左右される。レースではほとんど必要とされないが、低速域の加速力は「操る楽しさ」に直結する。

加速性(高速)

時速30~40kmからの加速性能。アタックへの反応やスプリントなどロードレースで必要とされる項目。空力、重量、剛性、しなりなどのバランスが求められる。

高速巡航性

空力性能は重量などと同じく絶対性能だが、空力に加え高負荷時のペダリングのしやすさ、高速維持のしやすさなどを加味した高速巡航性を評価した。

登坂性

ヒルクライム性能。重量や剛性が影響するが、軽くて硬ければいいというわけではない。体重・好み・脚力・使用フレームによって評価が大きく分かれる。

快適性

振動吸収性の良し悪し。リム素材や形状、構造などに左右される。正確に評価するため、タイヤ、インナーチューブ、空気圧を統一してテストした。

ハンドリング

扱いやすさや横風に対する影響度を評価したもの。前輪のリムハイト、リム形状、剛性感に左右される。制動性と同様に、安全に直結する性能。

お気に入り度

「高得点は付けられないがいいホイール」に光を当てたい、という評者の悩みを解決するために追加した項目。「好きか嫌いか」を数値化したもの。

 

使用タイヤ

フルチューブレス▶IRC・フォーミュラ プロ チューブレス RBCC(700C×25C)
チューブレスレディ▶IRC・フォーミュラ プロ チューブレスレディ スーパーライト(700C×25C)
クリンチャーIRC・アスピーテ プロ RBCC(700×26C)