ロードバイク用“超”低抵抗ベアリング「鬼ベアリング」がラインナップ拡充【試乗レポート】
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トヨタグループの部品メーカーであるジェイテクトが、ロードバイク用ホイールの高性能セラミックボール軸受“鬼ベアリング”を発売してからちょうど1年。ラインナップ拡充にあたり、プレス関係者向けに試乗会が行われた。DTスイスをはじめ、同社のハブを使用するロヴァールやボントレガーのユーザーにとっては、待ちに待った朗報と言えるだろう。
鬼ベアリングとは
日本三大ベアリングメーカーの一角であるジェイテクトは、1984年に世界で初めてセラミックボール軸受を実用化した企業だ。このセラミックベアリングの技術は、超高速工作機械の主軸をはじめ、ロードレース世界選手権に参戦するモーターサイクルのエンジンクランク、パリ・ダカールラリーに出場する競技車両のハブベアリング、パソコンのハードディスク、風力発電機など幅広く生かされていく。そして、ジェイテクトが自転車分野へ参入するきっかけとなったのが、2021年に開催された東京五輪だった。新家工業からの依頼で、同社のディスクホイール用に専用のセラミックベアリングを開発。これをアメリカのナショナルチームが採用し、トラック競技の女子オムニアムで見事に金メダルを獲得したのだ。
このときに培ったテクノロジーを、ロードバイク用ホイールに生かしたのが“鬼ベアリング”である。コンセプトは「徹底的に転がり抵抗を軽くすること」で、ベンチマークとされたのはデンマークのC社の製品だ。内外輪は一般的な炭素鋼ではなくサビに強いステンレス製で、玉はもちろんセラミック。そして保持器は樹脂製となっており、1個あたりの重量はオリジナル(純正装着)のベアリングに比べ13〜20%も軽量なのだ。また、内外輪の軌道のうち、玉が転がっていない部分に独自の潤滑装置を設け、そこから必要最低限のオイルを供給するシステムを採用。ちなみにセラミックとステンレスは相性が良く、潤滑剤が微量でも焼き付きにくいという。この特殊な構造は特許出願中とのことだ。
ラインナップを拡充し全市販ホイール(カートリッジベアリングタイプ)の90%に対応へ
昨年8月10日に発売された鬼ベアリングの第1弾は、ベアリングの型番でいうところの「6902」と「6903」の2種類のみだった。このサイズのカートリッジベアリングを採用するのは、マヴィックとジップのディスクブレーキホイールが主で、それ以外にヴィジョンやエンヴィの一部製品に対応していたのみ。つまり、それ以外のホイールを持っているユーザーにとっては、鬼ベアリングを試したくても試せない状況だったのだ。
今回、第2弾として追加された型番は「6901」、「6802」、「6803」という規格品3種類のほか、特殊サイズが2種類用意されている。これによりDTスイスをはじめ、同社のハブを使用するロヴァールやボントレガー、さらには多くのリムブレーキホイールにも対応できるようになった。ジェイテクトによると、カートリッジベアリングを採用するホイールのおよそ90%は現状の7サイズで対応できるという。
そして、この7サイズの中にはフリーボディに対応したものもあり、すでに鬼ベアリングをインストール済みのユーザーにとっても、さらなるアップグレードが図れるというのも朗報だろう。なお、手持ちのホイールに合う鬼ベアリングがあるかどうかは、ジェイテクトの公式サイトにある製品適合表で確認してほしい。
鬼ベアリング販売数ナンバー1を誇るワイズロード川崎店。研究熱心な奥平店長が、各社のホイールに使われているカートリッジベアリングの型番を調査。それが今回のラインナップ拡充につながっている。「鬼ベアリングは組み付けがシビアなんですよ。マヴィックは比較的問題ないのですが、DTスイスなどは奥まで圧入するときつすぎるし、緩く入れるとガタが出てしまいます。それと、今回はフリーボディ用の鬼ベアリングも発売されましたが、例えばマヴィックのフリーボディは分解NGなので、そもそもベアリングを脱着する専用工具がない。それをどう工夫するかはショップの腕の見せどころですね。ウチにはマヴィックのコスミックSLR45、SL45、SLR32、キシリウムS(リムブレーキ)の試乗用ホイールがあるので、検討されている方はぜひ自分のバイクで試してみてください!」
鬼ベアリング インプレッション〜スピードの落ちにくさを実感できた
これまでにさまざまなホイールを所有、あるいはテストさせてもらっており、その中にはハブのカートリッジベアリングにセラミックを採用したものもある。だが、ベアリング単体での性能差を実感したことは一度もなく、最初に断っておくと今回の試乗会においてもオリジナル品(標準装着のスチールベアリング)との比較は叶わなかった。だが、鬼ベアリングの実力の一端を見られたのは事実である。
DTスイス製の試乗ホイールには、前後ハブとフリーボディの6か所に鬼ベアリングが組み込まれている。用意されたピナレロの試乗車に触れること自体が初めてなので、こぎ出しの軽さが果たして鬼ベアリングに起因するものなのか、それともタイヤその他のおかげなのかは判別が付かない。
試乗時間は10分程度。河川敷のフラットなサイクリングロードと、堤防を上り下りするスロープを走るだけなので、鬼ベアリングの性能とやらがさっぱり分からない。これは困ったぞと思い、脚を止めてしばらくすると、慣性で進んでいる距離がかなり長いことに気付く。それもただ長いだけでなく、速度の落ち方も少ない印象なのだ。
風向きも影響するので、河川敷を何度か往復する。風の雰囲気から速度の落ち方は何となく体に染み付いているものだが、それよりもやはりスピードの低下が少ない。これについても、フレームやホイールの空力性能が良かったからでは? と言われれば返す言葉もないが、エアロの差が出にくい低速域でもバイクがなかなか止まらなかったのは事実だ。
今回のラインナップ拡充は、ユーザーの声を反映したものだという。回転性能を高めたいのであれば、ホイール自体をアップグレードしてしまうのが手っ取り早いが、現在使っているホイールの乗り味が気に入っているのであれば、ベアリング交換というのは最良の手段だろう。ライバル製品よりもかなり高額ではあるが、マトリックスパワータグの選手たちが1シーズン使っても内部の摩耗がほとんどなかったというから、長寿命という点でも推せる製品だ。ワイズロード川崎店をはじめ、試乗ホイールを置いているショップもあるので、気になる方はぜひ自分の愛車に履かせて試してほしい。