太平洋岸自転車道 じてんしゃ旅 十三日目 新宮(和歌山県)〜すさみ(和歌山県)
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サイクルショップ(ストラーダバイシクルズ)とツアーイベント会社(ライダス)の経営者(井上 寿。通称“テンチョー”)と自転車メディア・サイクルスポーツの責任者(八重洲出版・迫田賢一。通称“シシャチョー”)の男2人、“令和のやじきた”が旧街道を自転車で巡る旅企画の番外編となる「太平洋岸自転車道編」。千葉県銚子から神奈川県、静岡県、愛知県、三重県の各太平洋岸沿いを走り和歌山県和歌山市に至る1400kmの長旅もいよいよゴールに近づく。十三日目は新宮(和歌山県)からすさみ(和歌山県)へ。
和歌山県を激走
昨夜の宴ですっかり寝坊気味の令和のやじきた二人。朝起きてどちらからともなく「やばいですな! これは……。今日も必死で飛ばしましょう!!」という話になった。なんせ最後の和歌山県もかなりの難所続きだ。これは急がねばならない。
コンビニで朝食を摂りながら今日の宿を予約することに。いつもの旅なら行きあたりばったりでその日の宿を決めるのだが、昨日のように一歩間違えば宿無し状態になるおそれがあるからだ。
「井上はん、今日はすさみ町まで行きましょう! けっこう距離もあるし頑張らないとあきまへん!」
「今日も国道沿いは車が多いでしょうね……」
「いや、新宮から串本までは高速道路があるので国道42号は意外と空いてまっせ! ただ串本からすさみは高速道路の工事中でダンプだらけすけどね……」とシシャチョー。何でも以前、別の取材でこのルートは走ったことがあるそうだ。今日はひとつシシャチョーにリードをしてもらおう。朝からドタバタしながらも出発した。
まず目指したのは捕鯨で有名な太子町にある「町立くじらの博物館」。ここには巨大な捕鯨船が陸揚げされて展示されているのだ。博物館に近づいていくと巨大な船体が目前に迫ってくるようで迫力満点。しかも快晴の空の中に船体が浮いているように見える。公園内で船体に近づくこともできるのだ。
早朝だったので残念ながら博物館は入ることができなかったが、捕鯨の歴史を含め一度ぜひ見てみたいと思った。
潮岬でオジサンに出会う
太子町を出てからもシシャチョーはひたすら飛ばす。日頃から早朝ランニングと筋トレをしているそうで、体幹が強くなっているのだろう。ペダリングもスムーズだ。
「調子よさそうですねぇ!! 相変わらず鍛えてるんですか?」
「そりゃあモテるためには努力を惜しみませんわな」
自転車に乗るためじゃないんかい!! 相変わらずのシシャチョーである。
相変わらずといえば国道42号も変わり映えしない。道路外側線は防波堤ギリギリで古い国道だからか道幅は狭い。左手に海を見ながら似たような風景が続く。しかしずっと海沿いなのと、天気が良いので気持ちよく走れる。
橋杭(はしくい)岩で写真撮影と小休憩をした後は再びサドルにまたがり先を急ぐ。潮岬(しおのみさき)でしっかりと取材をしたいからだった。
学生時代にも潮岬を訪れている私はこの地で数人のサイクリストに出会い、語り合った思い出があった。サイクリスト同士、岬で腰を下ろし、旅のことや将来のことを話し写真を撮りあった。30年以上前の思い出だ。
久しぶりに訪れた潮岬はその頃からあまり風景は変わっていないように思える。
二人して自転車を置いて岬に歩いていく。
その時だった。
「あ、あ、アンタら、自転車か? 岬で写真撮るんか? それやったらここから入れるで!!」
大きな声がする方を見ると、原付バイクにまたがったヘルメット姿のオジサンがいた。
「石碑で写真撮るんやろ! それやったら案内したるわ!」
「い、いや結構ですわ……またワシ呼び寄せましたかな……」シシャチョーが呟きながら筆者の顔を見る。
「親切にありがとうございます。ちょっと取材で来ていますんでボチボチ行きますので!!」と筆者はやんわりと断ったのだが、別ルートで石碑まで行くとそこには先ほどのオジサンが待っていたのだった……。
15分ぐらいオジサンの話を聞いて、なぜだか一緒に記念撮影まですることになってしまった(汗)。苦い顔をしながらもシシャチョーが「これも旅の出会いですな……」とボヤいていた。
潮岬を回ったところから急に追い風が吹いてきた。その後は調子が上がったようにペダルを回すことができ、予想以上に早く宿に着くことができた。
今回の走行距離:新宮〜すさみ(100km)