ロード乗りの新しい選択肢 BROMPTON T-LINEの実力

目次

ブロンプトンTライン

ロードサイクリストには少しばかり縁遠い存在にも思える小径車だが、そんな先入観を変えてくれるのがブロンプトンの「Tライン」シリーズだ。元プロロード選手の佐野淳哉さんと共に、その魅力を体験する。

ブロンプトンTライン

(右)Tライン アーバン4スピード
価格/85万2500円
Spec.
フレーム素材/チタン
重量/7.95kg

(左)Tライン エクスプローラー12スピード
価格/89万4850円
Spec.
フレーム素材/チタン
重量/8.8kg

問・ブロンプトン ジャパン

ブロンプトンTライン

20秒以内に作業が終わる簡単・小型になる折り畳み機構により、いつでもどこでも自転車のある生活を楽しめる「ブロンプトン」。

その基本構造は、折り畳み方法をはじめ1975年の誕生以来、不変の完成されたものだが、常に最新技術を取り入れて進化をしている。そんな同社が2年前に投入したのが「Tライン」シリーズ。

車名の「T」はチタンフレームを意味する。同社ではスチール製のメインフレームにチタン製のバックステーを組み合わせた「Pライン」もあるが、「Tライン」はフルチタンのフレームだ。

さらにカーボン製パーツを搭載して徹底的に軽量化を追求。4段変速でコミューター的な使用を想定した「アーバン」と、行動半径を広げる12段変速の「エクスプローラー」を展開するが、前者は7.95kg、後者は8.8kgという、極めて軽い車重を実現した。

もちろん作業性と携行性に優れる折り畳み機構、乗り心地を高めてくれるリヤのサスペンションなど、ブロンプトンの機能や性能はしっかり維持されている。

ロードサイクリストからすると折り畳み小径車は遅いという印象もあるが、ブロンプトンの英知を結集して生まれたTラインは、そんな考えを一掃してくれる存在だ。以下では、その性能をガチのロード勢が検証する。

行動半径がさらに広がる、ぜいたくなスペック

ブロンプトンTライン
ブロンプトンTライン

今回の試乗のため、アップダウンのある郊外へ足を運んだ。特に12段仕様はかなりワイドなギヤ設定なので、最も軽いギヤを選べばサドルに腰を下ろしたまま、マイペースで上りを進める。街中の移動だけでなく、郊外でサイクリングを楽しめる機動性がある。

折りたたむ

3か所を折り畳むと、一辺60cmくらいの正方形の状態となる。コンパクトなサイズはもちろん、超軽量なので持ち運びは信じられないほどに楽。トライブトレインが露出しない状態で折り畳めるため、運搬時に衣服への油汚れが付きにくい

エラストマー

同社の「Cライン」とは、前後フレームをつなぐ部分にあるエラストマーの形状が違う。前者は円柱状だが、「Pライン」と「Tライン」は専用に設計された台形状のものを装備する。接合面が広げられてねじれなどに強くなり、フレームセットとしての剛性感が高まった

ハンドルステム

ハンドルステムもチタン製。フラットバーはカーボン製でとことん軽量化を追求

フロントフォーク

カーボン製のフロントフォークはかなり太めのブレードで、軽量化と剛性感の両立を図る。タイヤはシュワルベの高級ロードタイヤ「ワン」の16×1.35サイズ。チューブはTPUのチューボリートを挿入する。単に軽量化だけでなく、小径車の弱点である乗り心地や接地感を高める効果も絶大だ

リヤディレーラーまわり

12スピード仕様はスターメーアーチャー製3段変速ハブに、外装4段ギヤを組み合わせる。後輪はCラインとは異なり、5mmの六角レンチで着脱が可能

Impression

吉本さん

RIDER1
吉本 司

フリーの自転車ジャーナリスト。ロードバイクを軸としているが、40年にわたる自転車キャリアの中で、様々な車種、遊び方に触れ幅広い知識を持つことで知られる。自らを“雑食サイクリスト”と呼ぶ。

佐野さん

RIDER2
佐野淳哉

先頃20年近い活動に終止符を打った元プロロード選手。現役時代はルーラーの脚質を生かし、2017年の全日本ロードで逃げ切り優勝を果たすなど国内外の大会で活躍した。

ロード好きが乗っても全く不満のない走行性能

吉本:そもそも小径の折り畳み車には、どんな印象をお持ちですか?
佐野:ロードのように距離を稼ぐというより、街中の移動をする自転車ですね。
吉本:多くのロード乗りもそんな認識だと思います。で、今回実際にTラインに乗った率直な感想はいかがでしたか?
佐野:小径車はやわくて進まない印象でしたが、Tラインは断然カッチリとしています。ロードバイクみたいに自分の意志と相違ないレベルで進んでくれます。
吉本:僕は以前のモデルのM6(Cラインの6速仕様相当)に乗っているんですけど、フレーム自体の剛性感、リヤサス部のカッチリ感に明確な差があります。これは同じブロンプトンでも別物だと。
佐野:確かにパワーをかけて踏み込んでも頼りなさもなければ、立ちこぎでもグニャグニャする感じもありません。
吉本:事前に4段仕様を試乗したのですが80kmほど走ってしまい……。M6よりも無理なくスピードを出せるので、自然に距離が延びちゃいました!
佐野:僕も(12段仕様で)30kmくらいを走りました。小径車だと普通は車道を走るような速度を出せないのですが、今回はロードみたいに普通に車道を走りました。ギヤ比の構成も高い速度を出せる仕様になっているようですし、下りでもギヤが足りないとは感じませんでした。
吉本:今回サイコンを付けて走ったのですが、平地で時速30kmの巡航は頑張らなくてもできますし、平地でもがけば時速40kmを出すことだってできちゃいます。
佐野:そもそも小径車で、そこまで頑張ろうと思うことはありません。それこそTラインの性能は街中ではオーバースペックに思えるくらいで、郊外でスピードを出すのが楽しいくらい。僕の住む地域だと隣町まで10kmほどありますが、もう一つ隣の町でも全然余裕です。この12段の仕様なら箱根だって上れます。
吉本:これだけ走行性能が高いと、小径車でも行動半径がかなり広がりますね。
佐野:ゆっくり近場を走るのもいいですけど、持ち運びも便利なので、どこかに持って行ってツーリングするという楽しみ方も良さそうですね。
吉本:加えて感心したのは、Tラインの高価な仕様がインスタ映えするような単なる“お飾り”ではなく、的確に性能の利点として体感できることです。チタンフレームとカーボンフォークは軽量化だけでなく乗り心地を高めてくれるし、TPUのチューブにしてもそうです。小径車に共通する弱点であるごつごつとした乗り心地を和らげて、走行性能を相当に引き上げてくれています。
佐野:チタンフレームは路面の凹凸の角を丸めてくれる感覚がありますね。細部の作りもすごくきれいですし、高級感があります。折り畳みの接合部も精度が高くて、それが悪いと走りがギクシャクしますが、そういうのも全くないです。
吉本:価格を見たときは驚きましたが、乗り終えて冷静に考えると決してコスパは悪くないのかなと。最新の高級ロードバイクは150万円くらいなわけで、しかも4年ほどで型遅れになっちゃいます。
佐野:ブロンプトンって基本的にフレーム形状とか変わりませんよね。
吉本:なので、きっと15年たっても魅力はあせない。そもそもブロンプトンは価値の永続性に優れる自転車なんで、Tラインはさらに極まっていると感じます。
佐野:だから既に(上級グレード)ロードバイクを持っている人がもう一台自転車を買うなら、ロードバイクよりもブロンプトンを選んだ方が、違った楽しみ方ができるので面白そうですね。ロードバイクとイコールではないけれど、ロード好きが乗っても全く不満のない走行性能なので、ゆっくりと走るだけでなく幅広く楽しめると思います。
吉本:価格の絶対値は高いので簡単には買えませんが、その壁を乗り越えれば必ずや大きな満足を得られる一台ですね。

吉本さんと佐野さん