【ブロンプトン編】石井正則さんと最新&定番モデルを乗り比べ!いま選ぶべき折りたたみ自転車

目次

モデルごとにがらりと違う個性を見せる折りたたみ自転車。どれを選ぶかは、単に性能のよし悪しといった尺度だけではなく、乗り手の用途や価値観が決め手になる。

数多くの折りたたみ自転車を所有し、生活と旅の双方で活用してきた石井正則さんがブロンプトンのC・P・Tラインを乗り比べた。経験と直感、そして「趣味性」に基づいたモノ選びに定評がある。もう一人の案内人は、「折りたたみ自転車で旅に出る」編集長である田村浩。輪行を駆使して全国を走ってきた経験を活かし、各モデルの特徴や適した用途を解き明かす。

石井正則さん

石井正則
ドラマや舞台で幅広く活躍するタレント・俳優・ナレーター。初代ミニベロ親善大使や7代目自転車名人に任命されるほどの折りたたみ自転車愛好家。写真撮影、喫茶店めぐり、軽量ギアを活用したハイキング、オーディオ機器選びなど、自転車を軸に多彩な遊びを実践する趣味人でもある。

BROMPTON C Line

Cライン

ブロンプトン・シーライン
価格/26万150円〜(Urban)、 28万4350円〜(Explore)

その魅力は揺るがない英国生まれの傑作モデル

英国ロンドンで生まれ、今も同地でハンドメイドされる究極の折りたたみ自転車、それがブロンプトンである。コンピュータや造園のエンジニアだったアンドリュー・リッチー氏がそのプロトタイプを作ったのは1975年。以来、基本構造を変えずに作り続けられている不朽の名作だ。そのあまりに高い完成度は、究極の小径自転車であるアレックス・モールトンを考案したモールトン博士をして「折りたたみ自転車は作らないほうがいい。ブロンプトンを超えられはしないから」と言わしめたのは有名なエピソードだ。

後輪をフレームの下に抱え込み、フレーム前半部をZ字状にたたんで前輪を脇に添える折りたたみ構造は文句なしに絶品。簡単な操作で収まりのよい小ささになってくれる。それでいて展開時のホイールベースは極めて長いため、小径車でありながら安定感に満ちた走りを味わわせてくれる。スチール製フレームならではの適度な振動吸収性も上質な走行感に貢献しており、やや重いことを除けば誰もが満足できる自転車だ。優れたバッグシステムやキャリアの存在によって、実用性も抜群。

折りたたみスタイル

端正な折りたたみスタイル。10秒以内でたたむことができる

駐輪スタイル

後輪のみ折りたたんだ駐輪スタイル。スタンドいらずで省スペース

変速部分

内装と外装変速を組み合わせて、幅広いシーンを効率よく走ることができるのがエクスプロア

ヒンジ部

ヒンジや各部の樹脂パーツなどは随時改良が加えられており、全体の剛性感と扱いやすさが向上

SPEC
フォーク/スチール
コンポーネント/2スピード(Urban)、スターメーアーチャー3スピード×外装2スピード(Explore)
タイヤ/シュワルベ・マラソンレーサー 16×1-1/3インチ
重量/11.2kg〜(Urban)、12.1kg〜(Explore)
折りたたみ寸法/高さ565mm×幅585mm×奥行き 270mm
カラー/ユズライム、デューンサンド、オーシャンブル ー、マッチャグリーン、マットブラック、フレームラッカー

インプレッション

石井さん

石井:使い込んだ野球のグローブのように、どんな状況もちゃんと受け止めてくれるニュアンスを感じましたね。僕が持ってる世代のモデルよりも各パーツがブラッシュアップされているので、しっかり感もある。より新しいPラインやTラインに比べると重量はありますが、優しい包容力を感じます。Cラインならではのよさがあり、そのクラシック感はむしろ安心。いつも一緒にいたくなります。決して下位グレードではありません。所有する喜びは健在です。

田村さん

田村:現在のブロンプトンは、C・P・Tの3シリーズ展開になり、それぞれに変速段数が違うアーバン、エクスプロアという設定があります。ストレートなローハンドル、M字のミッドハンドルは購入時に選ぶことができ、特徴的だったリアラックは全シリーズでオプション。PとTラインはブロンプトンを知り尽くしたベテラン向けなので、多くの人はCラインから好みの変速段数とハンドル、そして色のモデルを選べば間違いありません。価格も比較的こなれています。

評価

Cラインの評価

BROMPTON P Line

Pライン

ブロンプトン・ピーライン
価格/44万1100円〜(Urban)、48万700円〜(Explore)

チタン素材を採用した軽量ブロンプトン

走りと折りたたみ機構の双方で完璧に近い完成度に達し、50年近く基本デザインを変えてないブロンプトンだが、唯一の欠点が「手に持った時の重さ」だった。走ったり、たたんで転がす際に重さは気にならないのだが、日本の輪行シーンでは肩に担ぐ機会が多いため(輪行袋に収納する必要があるため転がしにくい)、軽さを求める声は常にあった。

それに応えるブロンプトンの特別バージョンがPライン。従来はモデル名に「X」を付け、スーパーライトと呼ばれていたモデルである。初登場は2005年だった。Pラインにおける最大の特徴は、フォークとリアフレームを、チタン素材で作り替えたこと。オールスチール製のCラインに比べて1.85㎏も軽い。手に持った時に軽さを感じるだけでなく、走りの軽快さも大幅に向上した。また、最新バージョンではサスペンションブロックが扁平になり、フレームとの接触面積が広がったことで乗り心地の快適さも高まっている。

オールチタン製のTラインに最軽量モデルの座は譲ったが、Pラインは軽いブロンプトンが欲しい人にとって現実的な選択肢だ。

折りたたみスタイル

小ささと軽さを両立した特別なブロンプトンがPライン

フォーク

フォーククラウン(左右フォークブレードの接合部)の形状がPラインの特徴。チタン製なので、ラグレスの溶接仕上げ。折りたたみ時、外した左ペダルをクラウンの裏に固定するのもPおよびTラインの特徴

リヤフレーム

同じくチタン製となったリアフレーム。見た目はCラインとほとんど変わらない

変速機

内装3段×外装4段の12速仕様

SPEC
フレーム/スチール+チタン
フォーク/チタン
コンポーネント/4スピード(Urban)、スターメーアーチャー3スピード×外装4スピード(Explore)
タイヤ/コンチネンタル・コンタクトアーバン 16×1.35インチ
重量/9.7kg〜(Urban)、10.5kg〜(Explore)
折りたたみ寸法/高さ565mm×幅585mm×奥行き270mm
カラー/ブロンズスカイ、ルナアイス、ミッドナイトブラック、フレームラッカー、ボルトブルーラッカー

インプレッション

石井さん

石井:Cラインに比べると、Pラインは走りにカチッとした硬質感があって、たとえるなら几帳面男子。細いフレームの眼鏡をかけたような……。包容力がある優しい雰囲気のCラインにするか、清潔感があってインテリ系のPラインを選ぶかは、異性のタイプと同じで人それぞれの好みですね(笑)。今はTラインというオールチタン製モデルがありますが、価格差が大きい。Tラインは凄すぎて恐縮しちゃうので、Pラインが理想という人も多いのではないでしょうか。

田村さん

田村:かつて究極のブロンプトンといえば、このPライン。ぱっと見はどこも変わってないのに、手に持つと驚くほど軽い。オールスチール製ブロンプトンの所有者としては、ずっとあこがれでした。より軽量なTラインが登場したことで、少し影が薄くなった感はありますが、伝統的なブロンプトンの質感を守りながら十分な軽さを実現しているPラインは、今も色褪せない魅力を持っていると感じます。また、個人的にMハンドル派なので、このPラインはいっそう好印象でした。

評価

Pラインの評価

BROMPTON T Line

Tライン

チタン特有のニビ色とカーボン素材のブラックが精悍なTライン。サドル、タイヤ、チューブに至るまで軽量なタイプが組み合わされている

ブロンプトン・ティーライン
価格/85万2500円〜(Urban)、89万4850円〜(Explore)

新時代を切り開くフラッグシップモデル

2022年に登場したTラインは、ブロンプトン史上最軽量モデルだ。4速仕様のアーバンは重量7.45kg。フレームのすべてをチタン製とし、フォークやハンドル、シートポストなどはカーボン製になった。その結果、Cラインに比べて実に37%もの軽量化に成功している。50年に及ぶブロンプトンの歴史で、もっとも革新的なモデルなのは間違いない。

この超軽量ブロンプトンは、創業者アンドリューと現CEOであるウィルの間で共有されていた夢だったという。チタンフレームはロンドン工場の北300kmに位置する工業都市、シェフィールドのティグ溶接工場で作られている。ハンドメイドであることに変わりはないが、設計や製造にはスチール製のブロンプトンとは次元が異なる専門性が要求され、市販まで10年以上の歳月を費やしている。基本的な折りたたみ構造はオリジナルに忠実だが、各部は完全に新設計されている。わずかに太くなったメインフレームは剛性感が高く、車重の軽さと相まって走りの軽快感は別次元だ。各部に採用されたカーボン製パーツの恩恵で、振動吸収性も十分に備えている。オールスチールのブロンプトンが、各部のしなりや自重ゆえの安定感を感じさせたのに対し、設計と素材の進化で新感覚の乗車フィールを実現しており、その軽快さはむしろロードバイクに近い。

購入にあたっては、Pラインの倍に及ぶ価格が課題になるのは間違いないが、それを含めて特別なモデルである。

フォーク

カーボン製フォークと大径化されたヘッドチューブ

肉抜きされたヒンジ

肉抜きされたヒンジ。圧倒的に軽くなったメインフレームだが、剛性感はむしろ向上

BB・リヤフレームの接合部

鋼板を箱型に溶接していたBB・リアフレームの接合部は、チタン鍛造の一体型に。軽量化に大きく貢献している

SPEC
フレーム/チタン
フォーク/チタン
コンポーネント/4スピード(Urban)、スターメーアーチャー3スピード×外装4スピード(Explore)
タイヤ/シュワルベ・ワン 16×1.35インチ
重量/7.95kg
折りたたみ寸法/高さ565mm×幅585mm×奥行き270mm
カラー/ブラストチタン

インプレッション

石井さん

石井:Pラインはカチッとした印象ですが、このTラインはシャキッとした印象。軽いけれど硬すぎない。ラグジュアリーな感じがあります。けれど、すべてにハイスペックすぎて落ち着かない感じもあります。もう僕なんて告白するまでもない、他の人と付き合ったほうがいいんじゃないの?と恐縮してしまいます。価格も考えざるをえませんし……。本当にブロンプトンを愛している人が選ぶモデルでしょうね。結局、僕が一番落ち着くのはCラインです。

田村さん

田村:折りたたみは完璧だけど、走りは少し野暮ったい……という従来のブロンプトンに対する認識が改まります。やはり、軽さと剛性の高さはスポーツ自転車において正義なのでしょう。価格は価値観次第としか言いようがありません。先日、CEOのウィルに会った際にTラインは高価すぎないかと伝えたら、「君のスマホはいくらした?それが何年使える?」と言われて答えに窮しました。10年、20年と乗り続けるなら高い買い物ではない……のかもしれません。

評価

Tラインの評価

 

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