テーマを決めて旅に出よう!折りたたみ自転車と相性がいい「島」
目次
島には個性があり、独自の文化や生活が息づいている。さあ、気軽に伊勢の島旅に出かけてみよう。
伊勢湾最大の離島 答志島へ
答志島は鳥羽から定期船で20分ほど。起点となる鳥羽は、近鉄特急ネットワークで関西・中京はもちろん、関東からも日帰り可能。島のコースは海沿いはほぼ平坦、唯一上りの答志スカイラインも大したことはない。気軽に走れる離島だ。
走行距離 18km
今回の旅に使用したバイク KHS F-20 RC
価格:22万円
問・ケイ・エイチ・エス・ジャパン
info@khsjapan.com
輪行サイクリングのベストパートナー
text 田村浩
大きな451サイズの車輪とフロント変速メカ、そしてブルホーンバーを採用し、それまでの折りたたみ自転車の常識を覆すような高い走行性能を実現したF-20RC。2002年のデビュー以来、多くのファンに支持されている人気モデルだ。アルミフレームが主流の折りたたみ自転車にあって、一貫してクロモリのスチールフレームを採用しているのも特徴。クロモリならではの振動吸収性と、シートチューブとシートステーを結ぶサスペンション機構が相まって、乗り心地はどこまでも上質。最上級グレードであるRCは軽量なカーボンフォークを採用していことも見逃せない。コンポーネントはロードバイクと同様なので、ロングライドやヒルクライムも余裕でこなすことができる。直感的に扱うことができるシンプルな折りたたみ構造も魅力だ。
市営定期船でどこか懐かしい答志島へ
観光でにぎわう伊勢志摩の中心、鳥羽の沖合には4つの島が浮かんでいる。なかでも一番大きな島が答志島だ。まずは市営定期船の発着の港である鳥羽マリンターミナルに向かう。乗船券と自転車の切符を買っておこう。運よく新造船がやってきた。自転車の積み込みは船員さんの誘導に従う。手際よく船内に自転車を固定してくれる。
短い時間であるが、船旅は爽やかだ。気がつけば答志島の玄関である和具(わぐ)港に接岸する。和具港は定期船の船着場だけでなく、漁船の物揚場も併設され、にぎわいのある港である。答志島は海の幸が豊富であり、なかでも一本釣りのブランド魚「トロさわら」が有名。秋冬が旬だ。
答志島は九鬼水軍の将、九鬼嘉隆が自刃した場所として有名だ。嘉隆の首が埋葬されたという首塚まで行ってみる。麓に自転車を停め、山道を少し歩く。織田信長や豊臣秀吉の下で活躍した九鬼嘉隆。関ヶ原の戦いで自身は西軍、子の守隆は東軍へついた。戦国を生きる術だ。自刃した後は、その遺言に従って鳥羽城(嘉隆の居城だった)を一望できる山頂に埋葬された。
首塚から降り、次は答志港方面へ進んでいく。答志島の集落は漁村独特の密集した民家が狭い範囲に立ち並び、あちこちで漁具を目にする。港では小さな漁船が接岸し、給油を終えて再び出ていく光景が繰り返されている。
答志島は寝屋子(ねやこ)制度という風習が日本で唯一残る場所だ。戸籍上のつながりがない者同士が、実の親兄弟のように絆を深める。地域の世話役の家に若者が集まり、寝起きを共にする。そうやって島で生活していく術を学ぶのだろう。
答志東漁港の入り口となる水路の向こうに、赤い橋でつながった小島があり、八幡神社が鎮座する。大漁祈願と海上安全など漁業の守り神だ。毎年1月には島民総出で勇壮な八幡祭りが行われる。
八幡神社のすぐ先が、古い町並みが迎えてくれる答志港だが、いったん通り過ぎてトンネルを抜け、隣の大答志漁港の北端にあるブルーフィールドに行ってみる。海水浴場にウッドデッキが設けられており、白浜の向こうに海を望む人気のスポットだ。
答志港に戻り、迷路のような路地でお目当てのお店を探す。昭和レトロな「ロンク食堂」さんだ。食堂の実力はラーメンを食べればわかる。スープは魚ベースなのだろう。島ならではの味がした。
答志港の路地を探検してみた。どこのお宅にも手作りのカートのような物がある。「じんじろ車ぐるま」と呼ばれ、島の鍛冶屋によるオーダーメイドらしい。車が入れない路地では欠かせないそうだ。
答志島スカイラインを越えて島を一周
いったん和具港に戻って、答志島一周をめざす。南国風の和具サンシャインビーチを横目で見ながら、島を横断する答志島スカイラインのヒルクライムが始まる。標高100mちょっとがピークだ。
ここから天望山レイフィールドに向かう山道がつながっている。レイフィールドは山頂にある不思議な形のウッドデッキだ。伊勢湾を望む大パノラマが楽しめる。ここは春分秋分時の太陽の道(レイライン)の緯度らしく、答志のブルーフィールドと対をなす施設だ。
桃取港に向かっての下りは短く、すぐに海が見える。桃取港は小島に囲まれており、海辺は穏やかで牡蠣(かき)いかだが多く浮かんでいる。港に架かる橋を渡り、集落に入っていく。桃取港は市営定期船も発着する島の西の玄関口である。
桃取港でしばし休憩の後、答志島一周をめざして再び和具港へ向かう。今度は島の北側を時計回りに走る。島の北側に新しい漁港ができ、この港と桃取・和具をつなぐ新道ができている。これで答志島一周が可能になっている。
島の北側の一周道路は、いったん答志島スカイラインをちょっと上り返してから左に分岐する。多少のアップダウンはあるが、先ほどの答志島スカイラインに比べれば穏やか。島の南へ向かう上りをクリアすれば、すぐに和具港だ。
結局、帰りの定期船の出航時刻の1時間前には戻ってきた。帰りの便には鳥羽に戻る人が集中するのか、待合室は人だかりである。帰りの便は新造船ではなく、使い込まれた船がやってきた。日帰り客と荷物だけでなく、島から出荷される魚も積み込み、旅客船と言うより貨客船の様相である。
出航時刻となり、帰りはデッキに陣取った。島を離れる船の航跡を見ていると、明日から元の生活に戻る実感が湧かない。島風に吹かれすぎたせいだろうか。
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