【バーディー編】石井正則さんと最新&定番モデルを乗り比べ!いま選ぶべき折りたたみ自転車
目次
モデルごとにがらりと違う個性を見せる折りたたみ自転車。どれを選ぶかは、単に性能のよし悪しといった尺度だけではなく、乗り手の用途や価値観が決め手になる。
数多くの折りたたみ自転車を所有し、生活と旅の双方で活用してきた石井正則さんがパシフィックサイクルズのバーディー4モデルを乗り比べた。経験と直感、そして「趣味性」に基づいたモノ選びに定評がある。もう一人の案内人は、「折りたたみ自転車で旅に出る」編集長である田村浩。輪行を駆使して全国を走ってきた経験を活かし、各モデルの特徴や適した用途を解き明かす。
石井正則
ドラマや舞台で幅広く活躍するタレント・俳優・ナレーター。初代ミニベロ親善大使や7代目自転車名人に任命されるほどの折りたたみ自転車愛好家。写真撮影、喫茶店めぐり、軽量ギアを活用したハイキング、オーディオ機器選びなど、自転車を軸に多彩な遊びを実践する趣味人でもある。
Pacific Cycles birdy Standard
パシフィックサイクルズ・バーディースタンダード
価格/28万6000円、29万7000円(フラッシュシルバーブルー、フラッシュシルバーパープル)
可能性に満ちた万能モデルの最新バージョン
バーディーの歴史は、プロトタイプが誕生した1992年にさかのぼる。当時はMTBがスポーツ自転車の主流だったが、ドイツの青年ハイコ・ミューラーとマーカース・リーズは「いつでも、どこでも走れる自転車」を夢み、実際に創り出す。MTBライクなサスペンションを折りたたみ機構に応用することで、メインフレームを折らない構造ながら圧倒的に小さくなる自転車だ。そして台湾のパシフィックサイクルズ社の高い技術力で量産に成功した。
1997年に日本に上陸するとまたたく間に人気を博し、それまで実用車的な存在だった折りたたみ自転車が、趣味として楽しめるスポーツ自転車として認知されるきっかけとなった。2005年にはパイプ構造だったフレームがモノコックへ進化、2015年には構成パーツとジオメトリーをロードバイク志向へ転換した。今我々が目にするバーディーは、長い歴史と進化がもたらした第3世代だ。
現在のバーディーは、パーツ構成やフレーム形状が異なる8モデルが展開されている。もっともベーシックなモデルが、ここで紹介する「スタンダード」だ。
SPEC
フレーム/6061-T6、7005-T4アルミ
フォーク/7005-T4アルミ
コンポーネント/シマノ・ソラ 9スピード
ギヤ/52×11-32T
タイヤ/CST 18×1.5インチ
重量/10.9kg(ペダル含まず)
折りたたみ寸法/高さ60cm×幅34cm×長さ72cm
カラー/サンディブルー、サンディベージュ、グロスイエロー&マットブラック、グロスホワイト&マットブラック、サテンメタルグレー、フラッシュシルバーブルー、フラッシュシルバーパープル
インプレッション
石井:折りたたみ自転車を選ぶとき、必ず選択肢に入ってきます。迷ったら、やっぱりこの一台を選ぶなあ。特にスタンダードは、安定感が高いのに軽やかで、イメージは細マッチョ。タイヤ幅が1.5インチで、太くもなく細くもなく、まさにスタンダードです。靴に例えるなら、ゴアテックス(防水透湿素材)を使ったスニーカー。どんな旅先にも履いていけるニュアンス。完成度が高いのに、ガジェット的な楽しさもあるのがバーディーの魅力ですね。
田村:ロングセラーですが、年々細部に磨きがかかってます。昔乗ってたよ、という人が改めて最新バージョンのバーディーに乗ってみると、走りが格段に滑らかなことに驚くでしょう。スタンダードは、まさにクロスバイク。ロードバイクのように走りたい人は「R」を、グラベルを走りたい人は「GT」を選べばよいですが、何にでも使ってみたい、という欲張りな人には、案外このスタンダードが一番適しているかもしれません。バーディーの素顔が楽しめます。
評価
Pacific Cycles birdy GT
パシフィックサイクルズ・バーディージーティー
価格/30万8000円
グラベルを視野に入れたツーリング仕様
バーディーGT(グランドツアラー)の最大の特徴は、MTBライクなブロックタイヤを採用したこと。これによって、路面状況がわからない初めての道や、少々荒れたグラベル林道にも進んでいける走破性を手に入れた。持ち前の前後サスペンションと、十分に長いホイールベース(100cm)が相まって、走りの安定感が抜群に高いモデルだ。18インチの小径車ということを感じさせない自然な乗り味が魅力であり、ディスクブレーキの制動力も高いので、キャンプ道具など荷物を積載した状態でも安心して身を任せることができる。スラムX5という10スピードの駆動系も心強い。グレー、グリーン、ブラウンなど、アース系のカラーがそろっているのもGTらしい設定だろう。
SPEC
フレーム/6061-T6、7005-T4アルミ
フォーク/7005-T4アルミ
コンポーネント/スラム・X5 10スピード
ギヤ/52×11-32T
タイヤ/シュワルベ・ブラックジャック 18×1.9インチ
重量/10.3kg(ペダル含まず)
折りたたみ寸法/高さ60cm×幅34cm×長さ72cm
カラー/フィールドグリーン、フィールドブラウン、ミリタリーグレー、ライトビームレッド&マットブラック
インプレッション
石井:小柄だけど完全なマッチョ。小さなMTBですね。オフロードを強く意識したモデル。やっぱりタイヤの印象が違いますね。バーディーは全体として「デニムのジーンズ」という感じがありますが、このGTが一番デニムっぽいかもしれません。
田村:持ち前の前後サスペンションに加え、悪路で滑りにくい太めのブロックタイヤを履いたことで、700Cタイヤのグラベルバイクに劣らない走破性があります。空気圧を高めれば舗装路の転がりもよいので、舗装路がメインのルートも苦になりません。
評価
Pacific Cycles birdy Touring
パシフィックサイクルズ・バーディーツーリング
価格/34万1000円
内装×外装ギヤが多様なシーンで心強い
3段変速の内装ハブと、8段変速の外装変速システムを組み合わせた多用途モデルが「ツーリング」である。内装ハブはブロンプトンにも採用されるスターメーアーチャー製、外装のスプロケットはシマノ・ソラを採用している。これによって得られるワイドレシオによって、かなり急な上り坂でも脚をクルクル回すことができ、下り坂で速度が乗って脚が余ってしまうようなシーンも減らすことができる。
タイヤにクラス最大幅を誇るシュワルベのビッグアップルを標準装備していることも特徴だ。街乗り用のプチファットタイヤであり、その恩恵は車輪の大径化と抜群のクッション性。長時間のライドをいっそうスムーズに楽しむことができる一台に仕上がっている。
SPEC
フレーム/6061-T6、7005-T4アルミ
フォーク/7005-T4アルミ
コンポーネント/シマノ・ソラ 8スピード×スターメーアーチャー 3スピード
ギヤ/52×11-30T
タイヤ/シュワルベ・ビッグアップル18×2.0インチ
重量/11.0kg(ペダル含まず)
折りたたみ寸法/高さ60cm×幅34cm×長さ72cm
カラー/ラバブラウン
インプレッション
石井:これは守備範囲が広い。どこにでも行けちゃう感じがします。ヨーロッパへ行った時、石畳ばかりでお尻が痛くなるようなシーンがあったのですが、このツーリングなら安心して連れていけます。「ドカベン」で言うところの殿馬みたいな万能選手。
田村:フロント変速と同じ役割を内装変速ハブが果たすので、自分のペースで走れるシーンが増えます。東京など急坂が多い街乗りで心強いですし、もちろん峠越えでも有利。カスタマイズの定番であるビッグアップルが優れたタイヤなのは間違いありません。
評価
Pacific Cycles birdy Classic EVO
パシフィックサイクルズ・ バーディークラシックエヴォ
価格/31万3500円
伝統と革新が融合し新たな可能性を広げる
初代バーディーの特徴だったストレートフレームを、再び採用したモデルが「クラシック」。クラシック自体は早くも2013年に復活しているが、この「エヴォ」は第3世代モデルで採用された新型フォークなどを搭載した完全新作として2023年に登場した。これは日本からの要望で開発されたモデルであり、クラシックと銘打ってはいるが、実はバーディーの最進化形といえる存在だ。もちろんディスクブレーキを採用している。当初は日本国内における限定販売モデルだったが、その人気が注目を集め、諸外国でも発売されるようになった。
ストレートフレームの特徴は、そのシンプルな見た目もさることながら、MTBを強く意識したフレームの角度寸法にある。特に顕著なのがBBの位置で、モノコックフレームより20mmほど高い。このため、より軽快で悪路に強い印象を乗り手に与えてくれる。タイヤはシュワルベ・ビリーボンカーズ。これはダートコース用だが、舗装路のこぎも軽い万能タイヤ。適度な前傾姿勢が取れるハンドルステムと相まって、ロングライドもこなせる万能モデルだ。
SPEC
フレーム/6061-T6、7005-T4アルミ
フォーク/7005-T4アルミ
コンポーネント/シマノ・ティアグラ 10スピード
ギヤ/52×11-32T
タイヤ/シュワルベ・ビリーボンカー 18×2.0インチ
重量/11.3kg(ペダル含まず)
折りたたみ寸法/高さ62cm×幅33cm×長さ72cm
カラー/ブラック×シルバー、シルバー×ブラック
インプレッション
石井:今回乗った4タイプのバーディーから1台選ぶなら、僕はクラシックエヴォですね。バランスがいい。オンロードでは下半身が安定するような印象ですし、全体のグラベルバイク的なチューニングも好印象です。デザイン的には伝統のジーンズであるリーバイスの501みたい。本当に定番なので、長く付き合っていける。それでいて、折りたたみ自転車に大事な「楽しさ」やガジェット感もあります。ストレートフレーム、やっぱりいいなあ。
田村:懐かしさと新鮮さという、相反する要素が調和していて心が躍りました。ストレートフレームはいま見ても機能美そのもの。それに第三世代のフォーク・スイングアームが組み合わされて走りはスムーズ。ハンドルステムが前へ傾いて、ちょうどよいポジションが得られたのも魅力。ビリーボンカーズというタイヤは、空気圧次第でグラベルにも舗装路にも最適化できます。流麗なモノコックフレームを選ぶか、シンプルなストレートか……もう好みの問題ですね。
評価
今回のバーディーを紹介しているサイクルスポーツ特別編集「折りたたみ自転車で旅に出る」は好評発売中です。誌面では、他の車種のインプレッションも掲載しています。