テーマを決めて旅に出よう!折りたたみ自転車と相性がいい「峠」
目次
旅人を異界へ誘う扉が峠である。峠を含むルートは決して楽ではないが、それだけに達成感が待っている。
伝説の里を抜けて北アルプスに迫る
長野駅から国道406号でシンプルに嶺方峠へ。新幹線のおかげで日帰りも可能だが、せめて一泊しないともったいない。時間と脚力に余裕があれば、戸隠高原を経由すると達成感が増す。帰路はJR大糸線・中央本線を利用して、その車窓も楽しみたい。
走行距離 67km
今回の旅に使用したバイク 5LINKS MUSASHI/R
フレームセット価格:26万4000円
問・ファイブリンクス
たためるロードバイクは究極の輪行車
一般的なロードバイクと同じ700Cという大きな車輪を採用した折りたたみ自転車が、5リンクスのムサシR。走行状態の姿は折りたたみ自転車であることをまったく感じさせず、実際の走りもロードバイクそのもの。どんなに健脚でも剛性感に不満は感じないはずだ。安定性も高く、カーボンフォークが十分に快適な乗り味を体験させてくれる。ロングライドもヒルクライムも、気兼ねなく楽しむことができる。フレーム自体の折りたたみ構造に加え、オリジナルのハブやステムクランプによって、完全なロードバイクでありながら驚くほどコンパクトな形態になる。鉄道輪行で列車内の置き場所に困ることが格段に減り、空輸する際などのコストも、従来の700Cロードバイクに比べて大幅に抑えることができるサイズに収まってくれる。
大幅にコンパクトになるため、8kg台の重量と相まって鉄道輪行で置き場に困ることが減り、別売りのプラスチックダンボール箱(三辺の合計200cm以内)を利用すると、宅配便サイズに収まる全国配送が可能になる。
また飛行機では倉庫手荷物として無料扱い(三辺の合計205cm、23kg未満)となり、輸送時の労力やコストを抑え、お手軽輪行の範囲を広げることができる。
サイクリストに絶大な人気を誇る信州の峠へ
山高きが故に貴(たっと)からず、と古人は言う。サイクリストが好む峠も似ている。世間一般的には無名でも、繰り返し訪れる峠がある。その筆頭が信州の嶺方峠だ。標高はおよそ1100m。2000m級の峠がひしめく信州において、決して目立つ存在ではない。峠の定義とされる地理院地図に記載がなく、現地にも看板一つない。北アルプスの絶景が有名だが、似た景色はそこかしこから見ることもできる。それでも嶺方峠はサイクリストを惹きつけてやまない。筆者も季節を変えて10回以上訪れているが、いつ訪れても飽きることがない。今回も嶺方峠をめざそう。そして、峠を降りた先で湖畔のキャンプ場に泊まろう。嶺方峠なら、キャンプ道具も重くは感じない。
スタートするのはJR北陸新幹線が利用できる長野駅が定番だ。嶺方峠の最寄駅は西方の麓にある大糸線の白馬駅だが、あまりに近すぎるし、最初から北アルプスが見えてしまうので物語性に欠ける。アプローチが長くなる長野から少しずつ標高を稼ぎ、ピークで「やっと着いた」と安堵する気持ちとともに北アルプスが現れる、という展開が嶺方峠にふさわしい。
北陸新幹線の速達タイプ「かがやき」に大宮駅から乗ると、途中駅にまったく停まらず、たった1時間で長野駅に着いてしまう。すでに標高が360mあるから、かなりゲタを履いた状態で走り出せる。駅から北上すると善光寺だ。国宝の本堂にお参りして、旅の無事とキャンプ場での静かな夜を祈ろう。参道で名物の「七味唐からし」を買いたかったが、長野駅に着いたのが8時前と早すぎて店が開いてない。あきらめて国道406号を西へと進む。ほどなくして、クランク状に道が屈曲する地点に白馬までの道のりで最終となるコンビニが現れる。少々の補給食を用意しておけば安心だ。そして、ちゃんと七味唐からしが棚に並んでいる。さすが信州のコンビニだ。
国道は裾花川に沿うようになり、じわじわと標高を上げていく。道は年々改良され、一部を除いて路面は平滑。次々と現れるトンネルも走りやすい。裾花ダムを過ぎると交通量は減るが、山岳路にありがちな無人の山林が続くわけではなく、ぽつりぽつりと集落が現れる。長野駅から20kmほど進むと、このあたりで中心的な町である鬼無里(きなさ)に入る。字面からして由緒を感じさせるが、実際に伝説の宝庫である。「旅の駅」の向かい側に資料館があるので、ぜひ立ち寄ってみよう。天武天皇が鬼無里への遷都を計画されたとか、貴女が鬼女になったとか、木曽義仲の遺児がかくまわれたなど、驚くような伝説が紹介されている。鬼無里はただの山村ではないのだ。
一人旅の夜はキャンプに限る
鬼無里を過ぎると人家は減り、道筋は山肌を縫っていく。さいわい勾配は終始5%前後で、キャンプ道具を積んでいてもゆっくり進む限りは息が切れるほどの負荷は生じない。左手の谷がどんどん深くなり、頭上の空が広がってくると、朱色の鉄骨で組まれたスノーシェッドが現れる。嶺方峠の正式名称といえる白沢洞門だ。
カーブしながら真っ暗なトンネルに入り、それを抜けると北アルプスが眼前に……なのだが、この日はやや雲が厚く、山塊の天辺は見えなかった。それでも、印象的な注意標識(直進すると崖に落ちる)の向こうに手が届きそうな近さで迫る北アルプスは見事だ。
国道を下っていけば白馬の市街地に入るが、途中で左折して県道を選び、仁科三湖へ直行する。上から見るとハート型の青木湖、小さいが西岸に自転車歩行者道が延びる中綱湖、そして木崎湖へと進む。国道148号は交通量が多いので裏道へ。すると「塩の道」と重なる区間もあり、旧街道らしく石仏や庚申塚が立っている。
木崎湖に着いても、標高はまだ760mもあるので夏も涼しい。だからキャンプしたくなる。冬の冷え込みは厳しいが、それも筆者には非日常的であり、あえて冬キャンをしたこともある。あいにく、というのは失礼だが、この日は利用者が多く静けさは得られなかったが、善光寺の七味唐からしを振ったモツ煮を食べながらビールを飲み出すと他愛なく気持ちよくなる。キャンプ場は木崎湖の南端にあり、水面越しにJR大糸線の架線が小さく見える。日が暮れると、やってくる列車の窓から漏れる灯りがチカチカと輝き出す。カタンカタンとレールを刻む音も聞こえてくる。クルマやオートバイは騒音でしかないが、ローカル線の音色は不思議と心地よい。そのうち眠気がやってきたので、小さなテントに潜り込んだ。
折りたたみ自転車だから、キャンプだからと強調するまでもなく、やっぱり信州は最高だ。
今回の峠旅を紹介しているサイクルスポーツ特別編集「折りたたみ自転車で旅に出る」は好評発売中です。5リンクス・ムサシRを始め、誌面では、他の車種のインプレッションも掲載しています。