来期は? 何を食べてる? 「新城幸也選手ファンミーティング」レポート
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2024年12月7日、新城幸也(チーム・バーレーン ヴィクトリアス)が静岡県の伊豆の国市、河津町、三島市の3市町に子どもたちへ自転車ヘルメットを贈呈し、その贈呈式が伊豆の国市のMERIDA X-BASEにて行われた。
その後のトークショーで新城は、自身の19年にわたる競技生活の中で培った世界レベルのプロならではの知識を惜しみなく披露。その模様をお伝えする。
現在バーレーン ヴィクトリアスに所属し、来シーズンはトスカーナファクトリー・ヴィーニファンティーニに入団することが発表された新城。その発表の2日後に、MERIDA X-BASEにて「新城幸也選手ファンミーティング」が行われた。
これは、新城を9年にわたりサポートし続けたメリダジャパンが主催したもの。新城がファンと一緒にライドを行い、その後に3市町へのヘルメット贈呈式、さらに新城がさまざまな質問に答えるトークショーが行われた。
新城は、ランプレ・メリダ所属の2016年から、今年所属のバーレーン ヴィクトリアスまで9年間メリダの自転車に乗り続けてきたが、来季のチーム移籍に伴い、自転車もメリダから変更されるとのこと。ここまで9年間のサポートを受けてきたメリダに対し、新城はこう述べた。
「メリダさんには本当に感謝しかないですね。『桜号』(2016年/REACTO TEAM E 新城幸也モデル)も作ってもらいましたし、いい思い出ばかりです。もちろんコロナ禍などつらい場面もありましたけど、2016年にチームがスタートしてからどんどんメリダのバイクも良くなって、チームも強くなっていきました。
日本に帰ってきても、こうやってすごくサポートをしてもらえていました。なぜ全日本選手権に帰ってくるかっていうと、メリダさんのサポートがあったからです。ここ2年間は伊豆だったので、もうX-BASEのお膝元ですし、そういう意味でも出たいと思って来ていました。今回でメリダとは一旦お別れになりますけど、また何か縁があれば戻ることもあるでしょう」
静岡県の3市町に子ども用ヘルメットを贈呈
子ども用ヘルメットの贈呈は、静岡県の伊豆の国市、河津町、三島市に行われた。X-BASEのある伊豆の国市からは山脇裕之・副市長が、河津町からは鈴木弘光・教育長が、三島市からは豊岡武士・市長が登壇。それぞれに新城からヘルメットが贈られた。
新城は、ヘルメットの贈呈についての想いをこう述べた。
「今の子どもたちには安全に走ってほしいというのが僕の願いです。こうして子どもたちの安全を守る手助けができるのは、すごく良いことだと思います。オーストラリアなんかでは(ヘルメット着用は)義務で、たとえ100mでもヘルメットを被らないといけない。日本では、いわゆるママチャリに乗る方には難しいかもしれませんが、子どもが被っていて大人が被らないのはおかしい話。そうした部分で少しずつですが、最初の一歩としてヘルメットを寄贈させてもらって、『自転車に乗る時はヘルメット』っていうセットが自転車の正装のようになっていけばいいなと思います」
トークショー「来季も走り続ける一番の理由」
ここからは「新城幸也選手ファンミーティング」となり、新城のトークショーが行われた。
新城から話を引き出したのは、新城のことを最もよく知る方である新城美和さん。夫婦ならではの息の合ったトークで、新城の近年9シーズンを振り返った。
大きなポイントとなったのは、やはり3度のオリンピック出場。さらに2016年ツール・ド・フランス第6ステージでの敢闘賞獲得や、オリンピック出場にまつわるエピソードをさまざま振り返った。
また、来シーズンも走り続けるという判断をした理由については、こう語る。
「一番は、体が元気なので、もっとやりたいという気持ちです。僕は自転車を始めたのが18歳と遅かったので、まだ22年ちょっとなんですよ。もっと走りたい」
来年のレーススケジュールはまだ確定していないが、日本で走る機会は増えるという。
「チームのレースプログラムが確定次第、どういうふうに1年走っていくかがわかります。ただ、一番はやっぱり日本のレースを僕はもう一回走りたいんですよね。日本の選手の強さを見たいし、それは強いチームで帰ってこないと意味がないので。
僕が日本のチームで日本のレースを走るのとは違って、ヨーロッパの選手を連れて来て、みんなと競争することは良いことだと思う。それが刺激になって、日本の選手たちがどんどんレベルアップして、ヨーロッパに行きたいと思ってくれればいいかなと。
でないと、次のオリンピックまでに強化して、強いポイントを取れる選手を集めていかないと難しいと思います。今回も(パリ2024オリンピック)ギリギリでしたから。誰かが言わないと気づかないこともあるので、オリンピックに出るためには黙っていては出られない。
アジアの中でも、日本は自転車ロードレースの強い国の一つですから、アジアで負けるわけにはいきません。僕がまだ現役のうちは、がんばりたいと思います」
質問タイム「沿道からの応援は聞こえてる?」
この後、ファンからの質問コーナーがあり、これが非常に聞きごたえがあった。事前にファンから募った質問を新城がくじ引きのように選び、答えるという形式だった。その引き当てる質問は、日本で唯一世界トップレースを走り続けている新城だからこそ答えてもらいたい内容ばかり。自転車競技に関心のある人なら知りたい話題だった。
――周りの歓声やレース中の応援は聞こえていますか?
「はい、もちろん聞こえます。多分、選手が言っていることは通り過ぎるだけなので観客には聞こえないと思うんですけど、僕らは観客が何か言っているのはけっこう聞こえるんです。しっかりこっちに向けて声をかけてくれているので、わりとわかります。観客の顔も見えています。『あ、ここでこんな応援してくれてるんだな』とか。
『あれ? 新城?』なんてよく言われますが、『そうですよ〜』ってなります」
――2025年の目標は? いつまで走りますか?
「2025年の目標はこれからですね。レーススケジュールもターゲットレースもこれから決まります。でもさっきも言ったように、日本のレースをたくさん走ります。僕、まだ40歳ですけど、日本のレースで勝っていないものが2つあるんです。全日本選手権のタイムトライアルとジャパンカップ。この2つを獲れたらなって思います。いつまで走るかは…わかりません!」
「どれぐらい走るの?」「なにをいつ食べるの?」
――月間の走行距離はどれくらい? 1日のトレーニングリズムは?
「走行距離はあまり気にしていないんですよね。僕らはトレーニングを時間でやっているので、山を走れば時間はかかるけど距離は短くなります。トレーナーから送られるメニューは時間単位で、週で24~30時間くらいですね。冬場は30時間の週もあります。それで月3000kmぐらい乗ります。ステージレースが続けば、1週間毎日200km近く乗ることもありますし。
うちは山の中に住んでいるので、4時間走っても120kmだったりします。1日のリズムとしては、朝起きて朝食を食べて練習するしか仕事がないんですけど(笑)、僕が思うに、選手は24時間仕事中。食べるのも寝るのも仕事。他の日常生活で怪我しないことも仕事。規則正しい生活が理想ですね。
朝8時や9時に練習に行く選手もいますが、僕らのレースは絶対11時や12時スタートなんですよ。だから僕はそのリズムで12時に出発します。だいぶ遅いですよね。みんなが帰ってくる頃に僕が行く感じです。だいたい3〜4時に帰ってくるので、それを逆算して今日は4時間なのか5時間なのかを考えて出かけます」
――中学3年です。ロードバイクで世界を目指すのはまだ間に合いますか?
「全然間に合います(笑)。僕も高校卒業してからヨーロッパに行ったので。中学3年なら今は自転車だけじゃなく、いろんな体力作りが必要ですね。あと、いいものをバランスよく食べるのが大事。野菜、肉、炭水化物をバランスよく摂る。体が丈夫じゃないとロードレースは続かないです。自然とも戦わなきゃいけないし、マイナス気温でも走るし、40度でも走らなきゃいけない。
最近は枕を持参する選手もいますが、どんな環境でも寝られる『鈍感力』も大事ですね。中3なら全然間に合います。がんばってください」
――脚を作るにはどうすればいいですか?
「地脚を作るには、下りも上りも含め、同じパワーでまず1時間ずっと走ることが大事なんです。それが慣れれば2時間、3時間と延ばせるようになる。
というのも、そのペースは集団で走っているペースなので、それで集団にいるだけで脚を使わされたら、勝負がかかった時にはもう置いていかれているので、集団の中に走っている時には脚を使わないことが一番大事。なので、常にそのペースで練習をするんです。
最初1時間ずっとを200Wで走るの大変だなと思っても、それを毎日やれば、楽に走れるようになってきて、1時間も2時間になってくる。集団にいる時にも200W出していたら脚も消耗せず、勝負所まで脚を残せる、という感じですかね」
――好きな色は何ですか?
「メリダグリーンです」(一同拍手)
――レース前に決まった食べ物はありますか?
「基本は炭水化物ですね。今までは3時間前に『これぐらい食べればいいや』と特に決まりはなかったんですが、今はチームで炭水化物の量を、朝・昼・晩はもちろん、練習中にどれだけ摂ったか、どれだけ必要か、全部数字で管理しています。
朝とレース後に体重計に乗って、次の日のレース距離を見て夕食の量を決める。例えば、世界選手権やオリンピックで170kmくらい走るなら、前日の夜に180gの炭水化物、朝も同じ180gを摂る。練習中は1時間に90gの炭水化物が最低限必要。90gっておにぎり3つ分ぐらいですね。
実際にはジェルやバーを食べるのでおにぎりだけじゃないですけど、レース後は使ったワットを計算して夜ご飯の量が決まります。がんばった日はいっぱい食べられるけど、仕事量が少なかった日は少ない量しか食べられない。ずっと腹八分目ぐらいをキープする感じです。
研究でも、マラソンで2時間の間に炭水化物を摂らない人、30g、60g、90gと摂る人で比較すると、90g摂っている人がパフォーマンスが落ちにくいんです。全く摂らないとどんどん落ちていく。1時間おきにちゃんと摂り続けましょうということですね」
その後、抽選会が行われ、メリダの完成車『SCULTURA RIM 100』も景品に登場。最後は当選者全員との記念撮影と握手&サイン会でファンミーティングは幕を閉じた。
バーレーン ヴィクトリアスのジャージを着た新城にとって、これがその8年を締めくくる公式イベントとなった。レースシーズン中にはなかなか見られない、新城のリラックスした雰囲気と、その強さを支える秘訣を惜しみなく伝えようとする姿勢が見られたイベントだった。
新城幸也選手ファンミーティング
日時:2024年12月7日(土)
場所;MERIDA X BASE(〒410-2315 静岡県伊豆の国市田京195-2)
寄贈内容:伊豆の国市、河津町、三島市の各市町に子ども用ヘルメット10個