ウルトラサイクリスト、ジャックの日本縦断チャレンジ
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2024年10月、オーストラリア出身のジャック・トンプソンは、Japan End to End=日本縦断のため、来日した。彼の職業は、自転車業界でも数少ないプロのウルトラエンデュランスサイクリストだ。
きっかけ
ジャックは、これまでも何度か日本をサイクリングしている。最初は2017年、父親と稚内から鹿児島まで約3週間かけてサイクリングした。翌年2018年には、東京から大阪まで24時間以内に走る、通称”キャノンボール”と呼ばれるサイクリング。ただし、通常は海沿いの東海道ルートで行われることが多いこのチャレンジに、「面白そうだから」という理由で、中山道ルートを選択、制限時間内に完走している。
そして、次に日本で達成するチャレンジとしてジャックが選んだのが日本縦断のギネスチャレンジだった。ここ数年、日本人のサイクリストが立て続けに挑戦しているこのチャレンジ。これまでの記録は落合佑介による5日16時間30分。ジャックはこれを「5日」で走りきる計画を立てた。
モチベーションと困難
ジャック曰く「モチベーションは常に情熱と共にあります。ウルトラサイクリングの世界は、誰かの記録に挑み、それを破ってみたいというのは大きいです。そして、記録を更新できたとしても、いつの日か、今度は自分の記録が誰かによって破られる。長い長い物語なんです」
約5日間のチャレンジを振り返って彼は「日本の景色を楽しんだり、人との出会いがとても魅力的でした。日本人はフレンドリーですね。言葉をかわすことは難しいけれど、応援してくれる気持ちはすごく感じました。一緒に写真を撮ったりもしましたよ。
ウルトラサイクリングの世界は、この数年で知名度が上がりましたが、まだまだマイナーです。それでも、自分を応援してくれる人が日本にこんなにいるということがうれしかったです」
このチャレンジの難しかった点について聞くと
「都市部は信号が多くてペースが上がらなかったです。4日目に青森から北海道に渡るところで、フェリーに間に合うか、かなりギリギリのペースでした。結果的には出航10分前に港に到着! スタッフが先回りしてチケットなどを手配してくれていたので、タイムをロスしなくてすみました。
そして5日目に残っていた距離は約200㎞。鹿が自分の周りを走っているのが感じられて、とてもナーバスでしたね。道に飛び出して来たら、クラッシュしてしまうから。幸いにして熊には出会わなかった。
最後、稚内まで30㎞くらいの地点で、それまでのアップダウンで汗をかいてしまったのが元で、体が冷えてしまい、いっきに体温が下がって、指の感覚がなくなってしまいました。5日も走ってきて、最後の最後まで気を抜けなかったですね。
補給食で何を食べるか「自分の体の声を聞く」
補給食はいろいろ食べられるようにトレーニングしました。ジェルだけで走るとどうしても糖質では飽きてきたり、体が受け付けなくなったりするので。いろいろなものを食べられるように。
僕の補給は、常に自分の体の調子に耳を傾けるようにしています。
科学的に補給についてアプローチすることもできますが、ウルトラロングでは何が起きるかわからないですし、車のように走った距離ごとにガソリンを給油すればいいという簡単なものではないんです。
1日目はジェルを食べていました。2日目は糖質だけだと体が受け付けなくなっていたので、セブンイレブンでスムージーを買っておいてもらいました。たくさんのスムージーをサポートカーにストックしておいてもらい、それを飲んでいました。注文してから受け取るまで時間がかかるのが問題だとクルーが言っていました。
後半はフライドチキンや牛乳、クロワッサンなど脂質を多めにとるようになりました。ほかにもチキンカレーやミルクティーも。
飲み物は、暑ければ冷たいものを、寒ければ暖かいものを飲むようにしました。
日本はローソン、セブンイレブン、ファミリーマート、デイリーヤマザキなどコンビニがどこにでもあるので、すごくありがたいです。
基礎代謝は3500kcalくらいあります。補給で何kcal摂取するかは感覚にゆだねています。
体重は80㎏から76㎏に減りました。妻から「元の体重にもどって、私が太って見えるから」って言われています(笑)
日本のサイクリストへ
ウルトラサイクリングというと、今回のチャレンジのように、超長距離を走るイメージがあるかもしれません。でも僕は一人一人にとってウルトラサイクリングの距離は違うと思っています。
50㎞だとしても、それがその人にとってアドベンチャーだったら。50㎞でもウルトラサイクリングです。それが100㎞の人もいるし、200㎞の人もいる。
まずは挑戦してみてください!
機材スペシャライズド・ルーベSL8
使用したのはスペシャライズド・ルーベSL8。タイヤはスペシャライズド・モンドの32c。これを空気圧60PSIで運用した。距離500㎞のチャレンジ中、パンクは一度もなく、それどころか目立ったメカトラブルもなかった。3日目にディスクブレーキパッドを新品に交換しただけで走り切っている。