辻啓さんの「山口県西部ぐるり一周じてんしゃ旅」秋吉台に角島までサイクリングスポット満載!
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本州最西端の山口県は瀬戸内海と日本海に囲まれつつ、日本最大級のカルスト大地も広がっていることから、自転車での走りごたえも観光の見どころも満載! そこでサイクルフォトグラファーの辻啓さんが、山口県西部をぐるっと一周するサイクリングに出発だ。
今回の自転車旅人
辻 啓さん
大阪は堺から、世界を駆け巡るサイクルフォトグラファー。ツール・ド・フランスをはじめとしたグランツールなど国内外のレースシーンの最前線を撮影し続ける。そして釣りはライフワーク。
山口県西部の約267kmを3日に分けてライド!
今回辻啓さんは山陽新幹線の新下関駅を起点とした、一周約267kmを3日間に分けてライド。
一日目は下関から関門海峡を経て北上し、角島を経て長門温泉郷に一泊する海岸線ルートで、距離125kmに獲得標高は1500mだ。
そして二日目は長門温泉から日本海側のアップダウンを経て、萩の城下町へ宿泊。約38kmのショートコースだからこそ、維新の志士たちの歴史息づく町並みや名所をゆっくりと散策しよう。
三日目は萩から秋吉台・秋芳洞を抜け、最後は瀬戸内海をほど近くに感じつつ西へ向かう約100km。この最終日は山口県を北から南に横断するが、一日での獲得標高は約1000mと、目にする絶景を考えるとライドコストパフォーマンス抜群!
今回の辻啓さんの旅は関西発だが、首都圏からアクセスする場合は、山口宇部空港を起点にすると同様の一周コースをプランニングすることが可能だ。もちろん、自転車が押し歩きで通行可能な関門トンネル人道を利用すれば、九州・福岡県から輪行不要で行き来できるほか、お隣広島県側からのしまなみ海道サイクリングに続くルートとしても活用できる。
辻啓さんが山口県サイクリングで気に入った場所は?
「山口県にはこれまで、観光客としてきたことはありましたが、自転車で走ったのは今回が初めてです。まず下関を出発すれば、関門海峡から九州が本当に間近に見えるので驚きますね。そこから山陰方面に向かっていくと、日本海の海は綺麗だし、本州最西端や角島、赤鳥居が続く元乃隅神社と見どころが良い距離感で現れるので、走っていて飽きさせません。序盤は基本日本海沿岸を進むので、アップダウンがあり走りごたえはなかなかです。
そんななか、ふと立ち寄った道の駅で食べる海鮮丼もこれまた美味しい! 醤油のちょっとした甘みの違いが、遠くに来た気持ちを引き立てます。
「そうしてたどり着いた萩の町には、とても特別な印象がありました。昔観光客としてきたことはあったのだけど、奥までしっかり入って見たことがなく……正直こんなに趣きのある町だとは思っていませんでした。城下町があり偉人の出身地、という前提となる知識はありましたが、それでもどうしてこんなに東京から遠く離れた町で、実際にこれだけ歴代首相が何人も出て、近代の日本を動かしたのだろうかと不思議に思っていたのだけど。そんな理由が肌で感じられるほどに、町の雰囲気が特別な場所だったように思います。これは歴史が好きな人にはたまらないでしょうね!
「そしてやはりライドのハイライトは秋吉台。もう言うまでもなく、ロードバイクで走っていて気持ちの良い場所です。でもMTBで走ることができる機会があるのであれば、改めてまた訪れて走ってみたいな。グラベルバイクでも楽しめそうです! フォトグラファーとしてはやっぱりこの秋吉台が、一番自転車と撮影したくなるベストスポットです
「そんな山口ですが、大阪から新幹線で3時間かからないということもあり、輪行さえすればここに訪れる難易度が高くなく、一度来てしまえば交通量が少なく走りやすい。このコースはかなり再現しやすく、トレースをお薦めしたいプランではないでしょうか?
また、取れる日程次第では、週末二日だけでも、あるいはもっとゆっくりと滞在することもできそうです。輪行を活用して、新山口など別の場所をアウトにしてもいいかもしれません」
自転車&釣り好きには、山口県はパラダイス!
「ちなみに、釣り好きとしては山口県で食べるなら甘鯛(あまだい)がオススメです。ほのかな甘みがあっておいしいですよ。だけど甘鯛に限らず、日本海と瀬戸内海を有する山口県は、海鮮物は豊かですね。
ふぐ(山口では『ふく』)は、県内の様々なお店で食べることができます。もちろん安い魚ではないのだけど、山口に来てみたら、超高級魚という価格よりは、手の届きやすい値段が多く、庶民的な店でもリーズナブルにふぐの唐揚げなんかをおいしく食べることができる。食に関してもいろんなバリエーションもあって飽きさせません。短い距離でコンパクトにいろんな文化や風景、食べ物と、様々な要素がまとまっていますね。
「今はまだまだ、山口県だけを目的地にするのではなく、九州やしまなみと合わせて訪れる、という人も多いかもしれません。だけど今回走ったうえで言いたいのは『山口めっちゃいいやん!』、です。
だって秋吉台は、最高標高は400m程度なのに、まるで森林限界を超えるほど上ったように感じることができる景色が広がっているんです。これってサイクリスト的にめっちゃお得ですよ!
何より、日本海側と瀬戸内海側の本州最西端の北と南をぐるっと一気に体験できるのは日本全国広しといえど山口県だけ。正直、山口県、期待以上でした!」
辻啓さんイチオシの立ち寄りスポットを大紹介!
スポット①関門トンネル人道
自転車と歩いて渡れる!本州と九州を結ぶ海底トンネル
本州から九州へ、輪行せずにアクセスする唯一のルートが「関門トンネル人道」だ。全長780m、海底約55〜60mの深さに位置する歩行者用海底トンネルは1958年に開通。トンネル内は自転車の走行が禁止されているため、徒歩の押し歩きでのみ通行しよう。ちょうど真ん中の通路上には「福岡県」と「山口県」の県境が記されており、ぜひ跨いで写真に収めたい。
スポット②毘沙ノ鼻
ここが本州最西端の岬
海岸線から、100m程度の獲得標高の上り坂をヒルクライムしてたどり着くのが、下関市の毘沙ノ鼻(びしゃのはな)。ここは北緯34度6分38秒、東経130度51分37秒に位置する本州最西端の岬だ。岬には自転車でもアクセスできる展望広場が整備されており、ダイナミックな岩崖が続く様と、美しい水平線が一望できる。“最西端”のため、サンセットの時間を狙うのもオススメだ。
スポット③道の駅北浦街道ほうほく
本州最西端の道の駅は海鮮もたっぷり
下関を出発し、角島大橋や長門へと向かう際に走行する国道191号沿いにあるこの道の駅は、海外の旅行サイトにおいて日本全国1位に選ばれたことがあるほどの充実度。名物は、地元の漁師や農家直送の新鮮な海産物や野菜たちで、そんなグルメをいただける併設のレストラン「わくわく亭」からは、日本海と角島の大パノラマが広がる。辻啓さんは「下関ふくタタキ丼セット(2200円)」をペロリ!
スポット④角島大橋
日本屈指の自転車×海のフォトスポット!
山口県の絶景観光スポットとして全国的な知名度を誇る角島大橋(つのしまおおはし)は、1780mの距離の無料で渡れる離島架橋。北長門海岸国定公園である角島の景観や自然への影響を最小限に抑えて設計されたこの「海上の道」からは、美しい白い砂浜やコバルトブルーの海を間近に感じながらサイクリングが楽しめる。「沖縄や離島では経験したことがあったタイプの橋ですが、本州でこの長さと海の綺麗さ、そして構造物としても美しい橋を渡ることができるのは、自転車ならではの特別な体験ですね」(辻啓さん)
スポット⑤角島ジェラートポポロ
牛乳からこだわった、ここでしか出会えないジェラート
角島大橋を自転車で渡ってもどって、そろそろ甘い物でちょっと一息入れたいところ。そんな時は、角島大橋から約1kmの距離にある島戸漁港付近に店を構えるポポロへどうぞ。こちらは実は宮城県松島で18年間愛されてきたジェラート屋さんが、2018年に山口へ移転。当時から現在まで、できる限り添加物や着色料を使用せず、そしてこだわりの「山吹色のジャージー牛乳」やご当地の食材を使用した、体に優しいジェラートを作り続けている。
スポット⑥元乃隅神社
海に向かって真っ赤な鳥居がズラリと続く……123基の鳥居が100m以上に渡って続くこの光景は、ポスターやSNSで一度は目にしたことがある人が多いのでは? その神社こそが、この長門市の元乃隅神社だ。網元であった神主の枕元に現れた、白狐のお告げにより建立されたこの神社には、商売繁盛や大漁・海上安全をはじめ、良縁、子宝、開運厄除、福徳円満、交通安全、学業成就といったご利益があるとされ、今や日本だけでなく世界中から祈願に人が訪れる。細い山道を上っていくアクセスのため、この日のサイクリングのクライマックスになるだろう。
スポット⑦長門湯本温泉(恩湯)
長門の奥座敷で、伝統と革新の湯に浸かる
長門の町から約5kmを南下した先、深川川沿いに広がる温泉郷が長門湯本温泉。県内最古の約600年の歴史を持つといわれ、県民に愛されてきたこの温泉街は、現在も老舗の旅館からモダンなホテルまで多様な温泉宿が立ち並ぶ。そんな町のシンボルが、立ち寄り湯の「恩湯(おんとう)」だ。2020年3月に地域の若い人々の手によって再建され、リニューアルオープンしたこの公衆浴場は、木材をふんだんに使った素朴な佇まいからそれだけでも心落ち着かせるものだ。そしてぜひ入浴してみて、この源泉や温泉文化が昇華された現代アート的な湯も体験してほしい。
スポット⑧道の駅センザキッチン
仙崎のグルメがズラリ。ライド後に行くと食べ過ぎます
「みんなちがって、みんないい」、詩人の金子みすゞの故郷である長門市の仙崎は、古くから漁業とともに水産加工業や農業が発展してきた町だ。そこで近隣に暮らす人々と市内外からの観光客にとっての台所(キッチン)として、食と交流の場となるのがこの道の駅。店内にはそのままテイクアウトできる一品や丼、お総菜も豊富。北浦の地魚を使用した「アジフライバーガー(550円・テイクアウト)」は、揚げたてアツアツをいただきます!レンタルできるスポーツバイクやeバイク、そして子ども車までが多数用意されている。
スポット⑨萩城跡・萩城下町
辻啓さんも感嘆の、長州藩の中心地
毛利輝元が築城した萩城は、明治維新後の1874年(明治7年)まで天守や櫓などが存続したものの、その年に解体となり、令和の今は石垣と掘の一部が往時の姿を留めている。そんな萩城の外堀以東には、碁盤目状の町筋そのままの城下町が広がり、商家や武家屋敷跡に、維新の志士ゆかりの地までが点在。堀内の「鍵曲」といった道筋はもちろん、白壁となまこ壁や黒板塀といった豊かで美しい町並みが広範囲に残っているので、散策には自転車がぴったりだ。
スポット⑩松陰神社・明倫館
激動の時代の学びの場がそのままに
後に明治維新を主導することになる藩の一つである長州藩は、藩政の早い段階から家臣の教育に力を注いだ、まさに「人づくり」を重要視した藩だ。萩城下町からそのまま自転車で進めば、長州藩の藩校である「明倫館」や、私塾である「松下村塾」吉田松陰ゆかりの「松陰神社」にたどり着く。それぞれに、幕末・明治の人材が育っていったその場所や空気をそのままに感じることのできる展示やイベントも充実。ぜひゆっくりと時間をかけ、萩の風土を感じて欲しい。
スポット⑪秋吉台(カルストロード)・秋芳洞
これぞ山口のサイクリング! 秋吉台カルストロード
日本最大級の広さを誇るカルスト台地として、国定公園や特別天然記念物、日本ジオパークに認定されている秋吉台および秋芳洞。石灰岩など水に溶解しやすい岩石で形成されたこの台地には、「カルストロード」としてゆるやかなアップダウンのあるスムースな車道が整備されているので、奇岩群と草原が広がる絶景のサイクリングが楽しめる。一方で地下には、「秋芳洞」に代表される、雨水の浸食によってできた巨大な鍾乳洞群が広がっている。大地が作り出しした圧倒的なスケールを体感するために、カルストロードと合わせて脚を運びたい。
【TOPIC! 2025年春より、秋吉台のトレイルを走るMTBツアーが開催予定!】
国定公園・特別天然記念物に認定されている秋吉台内は、自然保護などの観点から許可車輌以外の自転車走行は禁止されている。そんななか山口県では、ガイド付きの有料ツアーとして、MTBや電動アシスト付きのeMTBでこの広大なフィールドを走行できる機会を設けることを計画中。モンベルやミヤタサイクルの、本格的なeMTBもレンタル用に用意される。2025年春の続報を待とう!
スポット⑫花の海
まるでツール・ド・フランスの一場面のように
夏には黄色一色のひまわり畑、春には菜の花、秋にはコスモスと、その季節ごとに一面に広がる花畑によって、多くの老若男女から人気の「花の海」。ここは西日本最大級のシステム農場として、花畑を楽しむだけでなく総合的な農業体験ができる場だ。穫れたて野菜がいただける併設のカフェレストラン「いたりあん食堂」にはオープンエアのスペースもあり、愛車を近くに置いて食事ができるので、サイクリング途中にも立ち寄りやすい。
スポット⑬功山寺
倒幕運動の決起地となった静かな山寺
山口一周の旅は終わりも間近。左手に穏やかな瀬戸内海を眺めつつ、新下関駅にゴールする前に静かに一息をつきに行こう。こちらの功山寺は桜と紅葉の名所であり、山門をくぐれば日本最古の禅宗様建築の仏殿(国宝)が迎え入れてくれる。そして幕末の長州藩防衛のための混成部隊「奇兵隊」を、高杉晋作が挙兵した寺として、境内には馬上姿の晋作の銅像も設置されている。
【GATEWAY! 新下関駅】
山口県はサイクリスト向けサービスがますます拡充中!
山口県では、誰もが県内各地で四季を通じて、サイクルスポーツを快適に楽しむことができることを目指して「サイクル県やまぐちProject」の取り組みを進めている。それに伴いゲートウェイや道の駅、個人商店など各地で、サイクルラックの設置やエアポンプ・工具の貸し出しを行う「サイクルエイド」や「サイクルステーション」を拡充中。
山陽新幹線が運行する新下関駅では、それら工具貸しだしサービスのうえで、輪行してきた自転車を整備するためのスペースを確保した「サイクルピット」を設けている。新大阪から約2時間30分、博多駅からは約30分と、新幹線ですぐにアクセスできる新下関駅。次の大きな週末には、ここを起点に山口各地を巡る自転車の旅に出よう!