旧街道じてんしゃ旅 其の二 旧中山道編 プロローグ
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「旧街道じてんしゃ旅 旧東海道編」の感動的な取材が終わり、いよいよムック本の編集作業が始まったのが2020年1月下旬。私は打ち合わせのために、東京の八丁堀にある八重洲出版のサイクルスポーツ編集部を訪れた。
旅の予定は居酒屋で決まる!?
編集を担当してくれる吉本 司氏と、シシャチョーこと八重洲出版自転車事業部の迫田事業部長とで、今回出版する本のコンセプトやデザイン、執筆内容、掲載写真などの打合わせを一とおり行なった。
長時間の打合せが終わり、帰路に着くためにスマートフォンで新幹線の予約をし始めたところ、「あれ? 井上さんもう帰るんでっか? 泊まらへんのですか? 次の旅の打合わせもしようと思ってましたのに……」とシシャチョー。
「あ、明日滋賀県で仕事があるんですよ。次の旅の打合わせならもうしばらく時間はあるのでここでやりますか?」
「何言うてるんですか! 我々の旅は居酒屋でハイボールをグビグビしながら決まるのが常でしょ。水くさいわ〜、泊まっていきなはれ!」
どうやらシシャチョーとの仕事は酒抜きにはいかなようである。
「旧中山道の話を聞いておきたいし、焼き鳥でも行きましょや!」
という流れで断る術もなく、例のごとく居酒屋で一杯引っかけることになった。
まあ滋賀県には朝イチの新幹線で帰ればいいか。
「じゃあ行きますか!」
こうして「旧街道じてんしゃ旅 旧中山道編」の居酒屋検討会が開催された。
焼き鳥屋でセセリの串を食べながらハイボールを飲み始める。
一杯目から赤ら顔になったシシャチョーが尋ねてきた。
「旧東海道であれだけ感動したんやから、旧中山道はもっと感動できますかね??」
「旧中山道は日本列島の山岳地帯を走ってます。だから太平洋側で経済発展にさらされた旧東海道と比べると随分と自然や文化的な遺物が残っているんですよ。前回の旅では初めての旧街道のサイクリングだったので、いろいろと感動してもらいましたよね。その知識を得た今なら、旧中山道はもっと感動しますよ!!」
「ほー! そらまた、どんな感じで??」
「一里塚も山中に昔のままの姿をとどめているとか、旅人の安全を祈った石仏や道祖神などがひっそりと残っていたりとか……。何より人寂しい所や、山がちな所は旅情が感じられます。」
「へー! そりゃ楽しみですな!ちょっと写真を見せてくださいよ! ……おおっ! こんな宿場町があるんですな!!」
「あ、でもいくら旧街道の風情があると言っても、やはり最近の開発で都心から長野に入るまでは都市化してしまっていて残念なところも多いです。日本は無秩序な開発が進められてるし……やっぱりその流れには逆らえないです。それに急速な人口減少で寂れてしまった場所も通ります。だから風情や道そのものがなくなってしまう前に走っておきたいですね……。」
「ナニ!!! それはいかん! すぐに旅立たないと! はよ出発せな!!」
「いやいや、長野や木曽はまだ冬ですよ! 去年も3月末に木曽路を走りましたが雪降ってましたよ!」
「今年は暖冬ですやん! いけるいける! それより風情がなくなる前にはよ!!(そこまで急にはなくならないでしょうに……(笑)、あ!! お兄さんハイボールおかわり2つ!」
「わ、わかりました! 3月下旬にはスタートしましょう!(こう言ったつもりだった)」
例によって5、6杯のハイボールを飲んだところで記憶がなくなり、やっぱりと言うか、当然と言うか翌日の新幹線も寝坊してしまう羽目になった。昼前に再予約した新幹線の車内で何気なくスケジュール帳を開くと、ヘロヘロの文字でメモ書きがされている。まったく記憶がないが、この一言だけは書き留めておいたようだ。
「旧中山道の旅 3月上旬出発」……。
かくしてシシャチョー&テンチョーの令和のやじきた“輪道中”「旧街道じてんしゃ旅 旧中山道編」の取材日程が決まった。
結果的に3月中旬の出発になったが、実は、もし下旬だったら出発はできていなかったかもしれない。
そう……新型コロナウイルスの蔓延だ。
我々が出発を予定したのが3月17日。桜も咲き始めた頃で写真的にも良いだろうということで決まった。
当時はまだ外出自粛などの対応が取られていなかった。
実際に旅を終えた翌日が例の三連休だった。
そして月末には外出自粛が始まる。
そんな形で微妙な時期であることは当時は知る由もなく旅の支度を整え、新幹線に乗って東京に向かった。
今回の旅は日本橋を出発して京都三条を目指す。
前回の終点が今回の始点になる。
何となく面白い感じがする。
さて今回の旅もどんなハプニングが起こるやら……。
何せシシャチョーはいろんな人を引きつけるから、今回も笑いがあふれること間違いなしだろう。
東京駅の八重洲口近くのホテルに投宿した。
久しぶりにワクワクしてなかなか寝付けなかった。
【text & photo:井上 寿】
滋賀県でスポーツバイシクルショップ「ストラーダバイシクルズ」を2店舗経営するかたわら、ツアーイベント会社「株式会社ライダス」を運営。各地のサイクルツーリズム造成事業を主軸としつつ、「日本の原風景を旅する」ことをテーマにした独自のサイクルツアーを主宰する。高校生の頃から旧街道に興味を持ち、以来五街道をはじめ各地の旧街道をルートハンティングする「旧街道サイクリング」をライフワークにしている。趣味は写真撮影、トライアスロン、猫の飼育。日本サイクリングガイド協会(JCGA)公認サイクリングガイド。
取材協力:RIDAS(ライダス)