楽だから速く・遠くへ。スペシャライズドの「フューチャーショック」
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スペシャライズドのフューチャーショック(Future Shock)。フロントフォークとステムの間に組み込まれた小さなパーツが、路面の細かな凹凸からライダーを切り離し、長距離・長時間ライドでの快適な乗り心地を実現する。ルーベに端を発したこの技術は、多くのモデルで採用され、今話題のeバイクにも搭載さ
独自のショック吸収機構「フューチャーショック」
ステムとフロントフォーク(ステアリングコラム)の間に取り付けられているのが“フューチャーショック”。上下に約20㎜動く小さなサスペンションが、ライダーを地面から浮かして(サスペンドして)しまう。内部はスプリングとオイルダンパー(フューチャーショック2.0仕様の場合)で構成され、衝撃や振動を効率的に吸収する。もはや路面の凹凸に気を遣ったり、疲労を感じることもない。
フューチャーショック搭載のバイク
フューチャーショックが搭載されるスペシャライズドのバイクは4シリーズ。エンデュランスロードに位置づけられるルーベ(ROUBAIX )シリーズ、eロードバイクのクレオ(CREO)シリーズ、eクロスバイクのヴァド(VADO)シリーズ(ヴァドについては5.0と5.0 EQのみ)、そしてグラベルロードのディヴァージュ(DIVERGE)シリーズだ。
2人の“識者”がフューチャーショックを語る
スムーズだから速い。それは軽さ以上にメリットを生む。それをいち早く体験してきたのが、実際にプライベートでルーベを所有しているこの二人。サイクルスポーツ誌編集長の中島丈博と、同誌でライターを務める鏑木 裕だ。彼らが日々感じている“フューチャーショック”の魅力とは!?
司会/サイクルスポーツ編集部(以下CS):フューチャーショックがルーベだけでなく、その後発売されたグラベル用のディバージュやeバイクのクレオにも搭載されるようになりました。今回は改めて、それらバイクの走りを支えているフューチャーショックにスポットを当ててみたいと思います。
二人ともフューチャーショックユーザー。そのきっかけは!?
鏑木:僕は、初代フューチャーショックが搭載された先代ルーベがリリースされたときに、すぐにオーダーを入れたんだよね。これは面白い、良さそうだって思って。
中島:それ以前にも、ZERTS(ゼルツ/樹脂製の衝撃吸収パーツ)を搭載していたルーベにも乗っていましたよね?
鏑木:そうそう。ルーベ自体は、もともとすごく気に入っていたの。途中、他のロードバイクも所有したけれど、自分の中で“競技”というストイックな乗り方に一区切りをつけた段階で、「やっぱりルーベだな」という感覚が蘇って、戻ってきた感じ。
CS:ルーベ自体はどういうバイクですか?
鏑木:フィールドや走り方への幅を広く受け止めてくれて、とにかく引き出しが多いバイクだよ。ディメンション自体は直進安定性がやや強めで、典型的なエンデュランスロード。BB位置の高さ(低さ)を含めて「これは自分にとって良い自転車だな」って分かる。そこに、フューチャーショックという物理的なギミックが加わって、興味をそそられたんだよね。
中島:フューチャーショックのジェネレーション1.0が出たのって、もう5、6年前ですよね。
鏑木:その頃ってまだ、エンデュランスロードが今ほど市民権を得ていなかったよね。ロードバイクって、しばしば車で言うF1マシンにたとえられる中で、“長く快適に”なんて緩いバイクが現在のように求められていなかった。実際に、ツールだジロだで活躍したモデルがもてはやされていたじゃん。
中島:実際に、ターマックやヴェンジに注目が集まって、それらと比べるとルーベはマイナーで異端な存在でしたね。
鏑木:乱暴に言うと“おじさんの乗り物”って世間では捉えられてしまった。でもね、乗ってみると本当に良いの。で、フューチャーショック2.0になった19年のタイミングでは、むしろそっちがマジョリティになってきたじゃない。
中島:21年モデルとして日本でヴェンジが販売されなくなった一方で、ルーベや、同じフューチャーショックを搭載したある意味“兄弟車”が増えて、結果的にそうなりましたね。
鏑木:サイクリストの人口が世界的にすごく増えたじゃない。分母が増えたことで、認識が大きく変わってきた。皆がランナーを目指すわけじゃなくて、“ジョガー”が増えたってことだと思う。
中島:サイクリングが大衆化したからこそ、ガチガチではない機材が求められているんでしょう。
鏑木:ちょっと前まで、“入門ロード=安価な製品”っていう認識があったけれど、今は違うじゃない。初心者だって、高価であっても乗りやすいバイクが欲しい、っていう層が増えた。そういう風にマーケットや社会が成熟してきたんだと思う。ナカジはどうして(フューチャーショックが搭載された)ルーベを買ったの?
中島:ロバールの新製品ホイールの試乗会があったんですよ。CLX60だったかな。そうしたら峠の下り、とくに高速コーナーでめちゃめちゃ安定していて、これはホイールだけの問題じゃないぞって思ったんです。その試乗車がルーベだった。長い峠の下りって、場所によっては路面に段差があったりして、何気なく突っ込むと目線がブレて怖いでしょう? ルーベだとそれが起こらないから、いいなと思って買ったんです。
鏑木:まさにフューチャー(未来)だったよね。峠の下りなんて自分がうまくなったって感じるもの。明らかに走行スピードは速いし、同じスピードならより身体がリラックスするから心拍が下がる。
中島:フューチャーショックって、サスペンションとしてはどうなんですか? サスに関しては、さんざんMTBとかで見てきているとは思いますが。
鏑木:フューチャーショック1.0の時点でも効果は明確だったけれど、2.0に乗るとこれが全然スムーズ! というか、ストローク感や作動感みたいなものが消えてしまった。1.0は「動いている」というのを感じ取れたけれど、もはやライド中に動いているのかどうかすら分からないもの。
中島:でも存在している!
鏑木:そう! で、働いてくれている。摺動面もスムーズになったんだろうけれど、オイルダンパーがしっかりと機能している。
スケールの大きなロングライドこそルーベ最速説
中島:そういえば、高岡亮寛さんの日本縦断(※)もルーベでしたよね。
鏑木:彼はバイクに関していろいろな選択肢を持っている中で「Sワークス・ルーベチームだ」と本人が強く主張したの。で、乗ったら「やっぱりこれは最高だ!」って。11月にも東京の日本橋から大阪の日本橋までキャノンボール的に一気に走っていたけれど、500kmちょいを17時間弱で走り切っていたよ。あきれるほど速い。しかも、「眠気はさておき、身体はまだまだ走れる」って言っていたんだもの。
鏑木:「時速●kmで走るには●Wでペダルを踏み続けなくてはいけないのに、つじつまが合わない」みたいなことなんだけれど、それはあくまでも机上の空論でさ。走り慣れた人は、時として幹線国道を車並みの速度で一緒に走っちゃうじゃない。車が作る風の流れに乗ると、非常に少ない出力で効率良く巡航したり。
中島:その状況下でハンドリングが安定しているというのは大切でしょうね。
鏑木:たとえ100W程度だったとしても、緊張していたら心拍が上がっちゃうからね。そもそも時速45kmを超えると、バイクのちょっとした挙動変化に気を遣う。そこの安定感が、フューチャーショックを搭載しているルーベは圧倒的に高いんだよ。上半身をリラックスさせて、バイクに委ねられる。
中島:バイクの仕様って日本縦断と同じだったんですか?
鏑木:そう。違いは取りつけたバッグ類と、フェンダー(泥よけ)の有無くらいかな。タイヤなんて縦断で使ったのをそのまま装着していったよ。
中島:何㎞走っているんですか!? 減っていない?
鏑木:もう4000kmほど使っているのにちょっとしか減っていないんだよ。急加速・急減速をしないからだと思うんだけれど、そういう走り方をするとルーベは最高なんだってば。
中島:自分も、本当なら20年に仙台まで300kmをルーベで走る予定だったんですよ。コロナでできなかったけど、だからこそその気持ちはすごい分かる。
鏑木:僕も山形までの400kmを毎年走っているんだけれど、20年はできなかったなぁ。
中島:高岡さんとはスケールは違いますが、ルーベでロングライドというベクトルは一緒ですね。そういえば高岡さんのルーベにはTTバーがついていますが、自分もたまに上ハン部分に肘を載せるんですよ。乗る前はハンドルが沈み込んでしまうか心配だったんですけれど、気にならないどころかむしろ快適! フューチャーショックがあるおかげで全然振動が来ないんです。先入観を持ちすぎちゃダメだと反省しましたよ。
鏑木:乗り手の脚力によるとはいえ、その人にとってスケールの大きなサイクリングをするのには、ルーベは最高の相棒だよな。
※RXバイクのオーナー店長を務める高岡亮寛さんが、2020年8月5~11日にかけて行った自転車による日本縦断チャレンジ。佐多岬(鹿児島県)から宗谷岬(北海道)までを6日間13時間28分で走り切り、ギネス世界記録として認定された。
グラベルやeバイクこそフューチャーショック!?
鏑木:個人的にはさ、神奈川県の鶴見川サイクリングロードをたまに走るんだけれど、そこの舗装がガッタガタなの。で、アルミの固いフレームで行くと、ペダルを踏んでいるのにチェーンがカチャカチャずっと鳴り続ける。それが最近のカーボンバイクになるとちょっと静かになって、フューチャーショックが搭載されているとめっちゃなめらか! タイヤやホイールは上下しているんだろうけれど、それがライダーまで伝わってこない。この違いは走りに行くたびに驚かされる。スペシャライズドが、ルーベのテーマとして“smoother is faster(スムーズさは速さ)”って言っていたけれど、本当にそのとおり。
中島:そういうことだと、“ちょいグラベル”みたいなところは良いんじゃないですか?
鏑木:ルーベだって32Cのドライ用CXタイヤが入るし、そもそもグラベルバイクのディバージュなんて、上位モデルならフューチャーショックに太いタイヤが組み合わされて最強だよね。フューチャーショックって、高層ビルでいう免震構造みたいなもんで、そういうところ(タワーマンション等)に住んでいる人は、震度3ぐらいの地震だと、地面が揺れていたことも知らないし、もちろん免震機構が作動していたことも気づかない。
中島:縁の下の力持ちですね。さらにeバイクになると、ペダルを踏んでいる力も弱くなります。
鏑木:体重を脚で支えなくなるぶん、サドルやハンドルに載るよね。
中島:段差があれば、ドスってモロに衝撃が来やすくなる。そういえば先日、バドで白石峠(埼玉県)を走ったんですよ。上りがあれば下りがあるっていうことで、その安定がすばらしい。クロスバイクって、いわゆる“普通の人”が乗るじゃないですか。そうなったら、フューチャーショックがついていた方が安心感が違う。予算が許すなら、VADO-SL5.0を手にして欲しいと思うんです。
鏑木:で、バドだってタイヤを太くすればグラベルを走れちゃうからアドベンチャーな使い方をしやすいよね。ドロップハンドルのクレオだって、一見するとロードバイクだけれど、38Cのブロックタイヤが余裕で入る。結局、eグラベル!
中島:実際に、どのぐらいの凹凸までだったらフューチャーショックが有効だと思います?
鏑木:フューチャーショックの作動量っておよそ20㎜でしょう? そうすると、20㎜を大きく超える凹凸段差が断続的に来るなら、MTBにあるようなサスペンションを考えた方がいいかもね。それこそ山深い林道を走るとかさ。でも、生活に接するエリアだと、例えば農道だったり河川敷ダートだったり、そこまで凸凹していないじゃん。それこそ歩道スロープの段差だってちょうど2㎝ぐらい。もうフューチャーショックの独壇場でしょ。
フューチャーショック搭載のeバイクについて詳しく知りたい人はこちらの記事もチェック!
Cycle Sportsの姉妹メディアでeバイクの情報サイト「e-Bike JAPAN」でも、フューチャーショック搭載のeバイクについて詳しく特集している。ぜひこちらの記事もチェックしてみてほしい(編集部)。