関西に新たな一周サイクリングルート「クマイチ」が誕生!

目次

自転車で熊野を一周する「クマイチ」を活用したサイクルツーリズムについて考える「クマイチ・シンポジウム」とモニターツアーが2日間に渡り、和歌山県上富田町で開催された。

開催日時:2021年3月13日、14日
主催:一般社団法人 紀州くちくまの未来想像機構

クマイチ

クマイチとは?

関西人の筆者でも初耳の「クマイチ」とは、一体何なのか?
今年の2月、ナショナルサイクルルートの候補に選ばれた太平洋岸自転車道と、和歌山県全域、約800kmに渡るブルーラインを整備したサイクリングロード「WAKAYAM800」を活用した、和歌山県南部の熊野地域を反時計回りに一周するサイクリングルート。「口熊野(くちくまの)」と呼ばれる上富田を出発、海岸線が美しい国道42号に沿って、すさみ、串本または古座川を通過、熊野那智大社、熊野速玉大社へ。新宮からは熊野の山々が織り成す美しい光景を見ながら、熊野川沿いの国道168号を走り、熊野本宮大社を詣でる。最後に清流富田川に沿って走る国道311号を下り、上富田へ戻る230kmのルートのことだ。(※熊野古道はクマイチには含まれていない)
このルートマップをサイクルスポーツで監修したので、手に入れたい方は、以下へ問い合わせてみよう。

上富田サイクルステーションKMICH(クミッチ)
〒649-2105 和歌山県西牟婁郡上富田町朝来2538(上富田町産業振興・文化交流館内)

クマイチ クマイチ

クマイチ・シンポジウムのトークセッション

基調講演では、地元白浜出身で本誌の人気連載「僕の細道」でおなじみの旅行作家、石田ゆうすけ氏が、「世界中でいろんな景色を見て、人とふれあい、その土地土地の独特な空気を感じてきたが、帰国してすぐに熊野本宮へ行った際、自然崇拝、世界とは違った空気を感じ、とんでもない宝が地元にあったと気づいた」と和歌山県紀南地方の魅力を熱く語った。

また、パネルディスカッションでは、以下のような意見が出た。

<和歌山大学観光学部教授でMTBユーザーでもある加藤久美氏>
SDGsの観点から「世界的にカーボンニュートラルな移動手段として自転車が注目されており、自転車を使って、歴史を辿り、よみがえりの地を回れるのは、持続可能な観光の先進地になれる大きなポテンシャルをもっている」

<サイクルスポーツ元編集長でサイクルツーリズムコンサルタントの宮内忍氏>
ヨーロッパの自転車観光先進地における広域ルートのネットワーク化について触れ「クマイチは、太平洋岸自転車道とWAKAYAMA800の一部を含んでいるので、そことの連携が大切だ」

<石田ゆうすけ氏>
「クマイチは、自転車巡礼がキーワードだと思う。昔の参詣路に沿って自転車で回れるのが唯一無二ではないだろうか。世界で最も巡礼サイクリングで人気のあるスペインのサンティアゴのようになれると思う。そのためには、継続的にアピールすることが重要」

<WINGS PLUS CYCLING TEAM 牧瀬翼選手>
「「ライドオンすさみ」で走った時、街の方の声援が多く、サイクリストウェルカムな街だと感じた。立地は申し分ないので、車、歩行者、自転車住み分けルールの徹底を街の中でも広めていくことが必要」

<キナンサイクリングチーム 山本大喜選手>
「新宮に住んでるが、このエリアは海も山もあり、トレーニング環境としては申し分ないところなので、選手である限りずっと住み続けたい地域。また、清流も多く、景色も良く走りやすいので、情報発信していけば、もっともっと自転車で盛り上がる地域になると思う」

クマイチ

クマイチ

シンポジウム会場では、JALのCAさんが、JALオリジナル輪行箱「エスビーコン」をPR

クマイチ・モニターツアー(1日目)

シンポジウム終了後、関係者、地元サイクリングチーム(橋本おっさんサイクルマン(橋本市)、紀の川サイクリングクラブ(紀の川市)、チームサンレモ(和歌山市)、ライドオンすさみチーム(すさみ町)、ベイサイクル(那智勝浦町)、RC白浜(田辺市・白浜町・上富田町))の方達とモニターツアーに参加。初日は上富田からすさみまでで、走行距離は45kmほどだが、獲得標高900mと聞き、一瞬ビビるも、用意されていたバイクを見て、ひと安心。ヨカッタ~eバイクで……。

クマイチ

和歌山県紀南エリアで実際にレンタルバイクとして活用しているベネリのeMTBが18台用意されていた

ちなみに今回のモニターツアーは、クマイチのルートは走らずに、2日間でクマイチのエッセンス(海、川、山、熊野古道)を感じてもらい、「いつかはクマイチ!」と思ってもらえるようにと主催者が意図したルートを走った。
スタートしてまもなく、富田川沿いに出ると、ええ感じにひなびた橋の登場だ。こういうのに萌えるアラフィフオヤジ多いんちゃうかな。その橋を渡り見えてきたのは、何と沈下橋。「和歌山にもあるんすね?」と石田ゆうすけさんに聞いたら「私も初めて見ましたわ~」とびっくりされてた(笑)。

クマイチ

クマイチ

その後、最初の上りに差し掛かった時、目の前でカッコいいダンシングで上る後ろ姿が出現した。まさかプロのダンシングを目の前で、しかもeバイクで口笛を吹きながら見られるとは……。この上ない贅沢……。しかし、カッコええフォームやな~、キナンサイクリングチーム ・山本大喜選手のダンシング。ふだん、スポーツバイクに乗り慣れていないひとでも、プロと一緒に坂を上れるというのもeバイクの魅力やと、初めて気づく。うんうん、ええ気づきやないかと、自分を褒める。

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昨年Jプロツアー第8戦で初優勝を飾った山本大喜選手のダンシングフォーム

しばらく上った後、大きな川に出た。日置川の標識を見て「ふーん、ひおきがわね」と独りごちてたら、すかさず周りから「ひきがわと読みますねんっ!」とツッコミが入る。やっぱ関西はええな~とニンマリする東京単身赴任オヤジ。

クマイチ

ヌケ感のある景色がずっと続くので、とても気持ちいい

そして、いよいよ1日目のハイライト「安居の渡し(あごのわたし)」に到着。熊野三山に通ずる参詣道のひとつである大辺路(おおへち)街道では唯一、船で渡る仏坂越えの熊野古道らしい。昔ながらの川船で日置川の清流を渡れるのは、非日常感をたっぷりと味わえる最高のエンタメだ(※利用は予約制で料金は500円)。また、ここでは、地元の絶品名物スイーツ「芋餅」が振る舞われ、ほとんどの参加者が「これ、おいしいわ~」と何個もおかわりしていた(笑)。

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クマイチ

距離は50mほどだが、流れがきついところもあり、乗ってみるとなかなかの迫力だ

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安居の渡しに乗船すると、もれなく通行手形がプレゼントされる

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山本選手、牧瀬選手、絹代さんに記念撮影を求める参加者の皆さん

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さつまいもともち米をつき合わせた中にあんこが入っていて、甘すぎずおいしい

その後、日置川沿いを南に下り、初日のゴール地すさみに到着した。

走行距離:45.5km、獲得標高:938m

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日置川沿いは、清流を横目に透き通ったような空気を感じながら走れる。しかも路面状況もとてもいい

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参加者全員で記念撮影(※撮影の瞬間のみマスクを外してます)

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夕暮れを売りにしているすさみだけあって、バイクの写真も映える

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サンセットすさみは、バイクも館内で保管してくれるので安心だ

クマイチ・モニターツアー(2日目)

2日目は、おいしい朝ごはんからの始まりだ。鯛茶漬けは、何度も食べたことあるが、カツオ茶漬けは、初めてだ。存在すら知らなかったが、脂も乗ってて、たいへんおいしゅうございました。

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宗田節がまるごと入った「俺んだしっ!」を垂らしたお茶漬けは、絶品そのもの!

1日目は川沿いから始まったが、2日目はのっけから海岸線沿いだ。対向車線では、ブルベの人たちがたくさん走っていて、すれ違うたびに挨拶を交わす。「グッドモーニング、サイクリスト!」
そうこうしているうちにスタートしてわずか10分ほどで、「日本童謡の園」でお茶休憩。ちと早くないかい?と思いつつ、地元の名産「めじろずし」をいただいた。朝食でお腹はパンパンだったが、これまた初めて見た食べ物なんで、食べずにはいられない。しかし、昨日からエイドごとに提供される地の食べ物を「地産地消」が大事だと食べ続けているが、なんせeバイクなんで……、需給バランスが……。まあええか、これも仕事やし、と自分を納得させて、走り始める。

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道路の矢羽根は太平洋岸自転車道のルートのもの

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地元特産のレタスで巻かれていて、シャキシャキで絶妙な塩分がきいていて、うまい

山本選手から、2日目のほうが上りが多いと聞いてたとおり、コカシ峠はだらだらと上りが続く。
これロードやったら、絶対足つくやつやん!と思いながらも、しゃべりながら上っている。eバイク恐るべし……。峠の頂上に近くにつれ、山桜がたくさん咲いていて、おのずとテンション上がる。

クマイチ クマイチ

峠を下り、しばらく行くと、里山のようなところに出た。海、川ももちろんいいのだが、旧街道じてんしゃ旅を始めてからは、師匠の影響もあって、里山とか棚田が大のお気に入りだ。

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白とピンクのコントラストがきれいな花が咲いていた。名前わからず……

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大好物の里山と棚田が出現し、テンション上がるアラフィフオヤジ

里山を抜けると、民家がほとんどない地域に入った。ランチタイムは、佐本深谷にある「お山のカフェ・アウル」へ到着。まだ11時なんすけど……。
地元で採れた無農薬食材を使った、意識高い系ランチとケーキのお店だ。

クマイチ

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お山のカフェ・アウル
和歌山県西牟婁郡すさみ町佐本深谷117
メール:kokoperin@moon.chew.jp
営業日:毎月第3土曜日・日曜日
営業時間:10:00〜16:30

 

昼食後、「古座街道」という司馬遼太郎の「街道をゆく」に出てくる山道を散歩し、その後グラベル区間を少し走った後、2日目のハイライトである「一枚岩」へ向かった。そう、2019年にアルベルト・コンタドールが来日し、「ニッポンのじてんしゃ旅 和歌山編」で撮影したところだ。石田ゆうすけ氏にその話をしたところ「コンタドールて、どこか海外の地名ですか?」「……」。このひと、本誌で連載してくれてるけど、絶対他の記事読んではらへんわと気づく(汗)。

クマイチ
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初めて見たが、スケールのデカさに正直驚いた。清流沿いにこんなデカい岩を見ることができるのは、世界中探してもないんちゃうかな!? ですよね、石田ゆうすけさん!

その後、最後の見どころである「滝の拝」へ。さすが「水の国」わかやま!を象徴するかのような、ものすごい水流で自然の岩穴が開いた姿は、ダイナミックそのものだが、高所恐怖症の私は、足がすくんで、あまり凝視できなかったのが残念……(汗)。
(※一枚岩と滝の拝は、WAKAYAMA800ルートに入っている)

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そして生活感のある細い道を抜け、下り基調でゴールのぼたん荘へ到着した、2日間、無事故で全員ゴールした。

走行距離:72.9km、獲得標高:1890m

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生活感のある小道も筆者の大好物のひとつだ

クマイチ

どうですか?この風景。時間が止まったるような静か空間に癒されっぱなし

クマイチ

スポーツバイク初体験の旅行会社、鉄道会社の皆さんもeバイクを使えば、2日で120kmも走れることを実感されていた

筆者は、関西の定番コースである、ビワイチ(約200km)、アワイチ(約150km)共に一周したことあるが、今回のモニターツアーを走らせてもらいまず感じたのは、信号がほとんどなく、車が少なくて走りやすかったこと。あと、ドライバーのマナーの良さを感じた。追い抜きの際、自転車に細心の注意を払ってくれていて、且つ、アクセルをふかして煽られることもなく、自転車が地元の理解を得られていると感じた。これからもこの環境を育てていくためにも、サイクリストは並走や、5人以上のトレインで走らない等、相互理解に努めていくことが大事だ。そして、石田氏ゆうすけ氏が話されてたように、巡礼サイクリングをテーマにPRしていけば、ビワイチにもアワイチにもない、唯一無二のサイクリングルートになる可能性を秘めていると思う。そして、川あり、山あり、海あり、里山あり、棚田あり、と人工的ではないあらゆる日本の原風景が見られるのもおすすめしたいポイントである。ほな、今年のゴールデンウィークは、クマイチに行きましょや!

 

 

このエリアを走ってみたいと思ったら、サイクルスポーツ特別編集のサイクリングガイドがオススメだ!

ニッポンのじてんしゃ旅 vol.6 わかやまサイクリングガイド