23区には、その数700とも800とも言われるほど多くの坂がある。そのほとんどが武蔵野台地のフチである皇居の西側エリアに集中している。そこを一筆書きに貫いて、激坂の情緒を濃密に味わうのが本コースである。
目白通りから入る「のぞき坂」は、文字通りのぞきこまないと下が見えないほどの急勾配。そろりそろりと降りていこう
コース情報
走行距離 約29km
池袋駅→のぞき坂→神楽坂→九段坂→紀尾井坂→乃木坂→日吉坂→行人坂→恵比寿駅
コースデータはこちら
その名で街の情景が浮かぶような都心の坂を結んだ。世田谷区の多摩川沿いや大田区の池上も激坂エリアだが、そこまで足を延ばすと軽く死ねてしまう。
異様に坂ばかりのコースだが、上りは半数以下の14。
①のぞき坂 下り
②富士見坂 上り
③幽霊坂 下り
④胸突坂 見上げるだけ
⑤夏目坂 上り
⑥地蔵坂 上り
⑦神楽坂 下り
⑧軽子坂 下り
⑨九段坂 横断(上り下りなし)
⑩善国寺坂 上り
⑪清水谷坂 下り
⑫紀尾井坂 見上げるだけ
⑬三べ坂 下り
⑭新坂 下り
⑮牛鳴坂 上り
⑯薬研坂 下りのち上り
⑰三分坂 下り
⑱転坂 上り
⑲南部坂 下り
⑳檜坂 下り
㉑乃木坂 上り
㉒鳥居坂 下り
㉓暗闇坂 上り
㉔一本松坂 上り
㉕仙台坂 横断
㉖薬園坂 下り
㉗釣堀坂 下り
㉘三光坂 上り
㉙日吉坂 横断
㉚天神坂 上り
㉛高輪のS字階段 下り
㉜都内で一番の急坂 上り
㉝行人坂 下り
㉞茶屋坂 上り
㉟別所坂 上り
上るのがつらければ、下ればいい。それが坂
一般人の感覚と異なり、サイクリストには坂が好きという人がいる。筆者もその一人だが、やはり上り坂はしんどい。しかし、上りがあれば下りもあるのが坂の真実である。池袋という比較的標高がある地点から走り出せば、激坂二つ分くらいは下駄をはける。さらに、のぞき坂(目白)や行人坂(目黒)といった最強クラスが下りになるよう、慎重に道筋を選んだ。勾配20%を超える急坂が頻出するが、いずれも標高差は30mに満たず、距離もせいぜい200m。つらければ無理に乗車せず、押し歩けばいい。
目黒駅前から目黒川へと急降下する行人坂。雪が積もると歩行者も進めないほどの急坂だ。下りにあてる場合、くれぐれも慎重に進もう
のぞき坂の下に立つ勾配22%の標識。クルマは下りの一方通行なので、まるで自転車用だ。アニメ「冴えない彼女の育てかた」の舞台としても有名な激坂
手強い坂は、序盤に持ってくるのがセオリーだ。元気なうちに上ってしまおう。それが自信になり、続々現れる坂が「あれに比べればチョロい」と思えるようになる。また、都心部の坂には名前と由来が書かれていることが多く、読みながら進むと飽きない。
のぞき坂から3筋ほど東にある富士見坂。階段の日無坂と目白通り直下で合流する。新宿方面の展望が広いが、富士山が見えたことはない
目白台公園の脇から肥後細川庭園がある神田川沿いへ急降下する幽霊坂。いかにもといった暗い坂だが、地元民の抜け道として重宝されている
階段の胸突坂は見上げるだけにしておこう。目白通りと新目白通りの間は激坂の密集エリアだ。神田川が武蔵野台地を削り込んでいる地形が実感できる
早稲田通りから延びる夏目坂。その入り口が夏目漱石の生誕地であり、上った先の裏道には漱石山房記念館がある。先の激坂群に比べると勾配は緩い
神楽坂は、メインストリートである早稲田通りから外れた路地裏が魅力。地図を見ても迷子になるほど、細い道が入り組んでいる
明治4年に建てられたという高灯篭が保存されている九段坂。神楽坂から進むと、あまり上らずに到達できる。周辺は再整備され、きれいなトイレなどが設けられている
紀州徳川、尾張徳川、井伊の各大名屋敷があったことで命名された紀尾井坂。思いのほかしんどいので、麓から見上げるだけで済むコースにした
メキシコ大使館と日比谷高校の間で待ち受ける新坂は、別名「遅刻坂」。国会に遅れそうな議員や寝坊した生徒が駆け上がるのだとか……
麻布や赤坂といったセレブの代名詞のような街も実は坂ばかりであり、仙台坂や南部坂といった東北諸藩に由来を持つ坂が点々と現れる。都心にいながらにして地方を旅しているような錯覚も楽しめる。釣堀坂という俗称めいた坂もあるが、それがグーグルマップにも載っているのが面白い。
美しい築地塀に沿った三分坂。車賃を銀三分増しにしたのが由来だが、計算が合わず誤り……と自問自答する妙な解説板が立つ
アメリカ大使館の横を抜ける南部坂。盛岡の南部家の屋敷があったそうで、険しいことから難歩坂とも呼ばれたとか
乃木坂の上には、由来となった乃木将軍の住まいが残る
坂を上れば視点が変わり、予期せぬ風景に出合える(鳥居坂)
釣堀坂と呼ばれる路地裏へ。釣堀は見当たらない
「都内で一番の急坂」と自称する坂は確かに手強く、下りにあてればよかったと少し悔やむ。こうした後半パートになってくると元気の魔法も薄れてくるが、自分が立てた計画に自分で負けを認めるのは悔しいので、淡々とこなしていく。最後の別所坂は力尽きて押し歩いてしまった。坂を盛り過ぎた感が否めないコースなので、ご自身の体力に合わせてアレンジしてほしい。
「都内で一番の急坂」を自称する坂も。距離がごく短いのが救い
黒川の谷間から住宅街を抜けてクネクネと上昇する別所坂。押せば越えられない坂はない、という悟りの境地に達した
使用バイク:バッソ・ファンゴ
ロードバイクのようなドロップハンドルを備えつつ、タイヤはマウンテンバイクに近いほど太い。それが「グラベルバイク」の特徴だ。グラベルとは砂利道のこと。そうした荒れた道も楽しめるように設計されており、スポーツ自転車の新しいジャンルとして注目を集めている。
グラベルバイクの太いタイヤとスポーティーな乗車ポジションは、街中ライドにも最適だ。舗装の段差なども安心して越えることができ、適度な前傾姿勢と思い切り軽くなるギアによって急坂も乗り切れる。油圧ディスクブレーキだから下りも安心。異色の坂道コースを走り切れたのは、グラベルバイクのおかげだ。
バッソ・ファンゴ
価格:17万3800円
問:ジョブインターナショナル
流麗なアルミフレームに荷物用のアイレット付きカーボンフォークをセット。シマノ・GRXのレバーと油圧ディスクブレーキを採用しつつ価格は手頃。街乗りからキャンプツーリングまでこなせる万能モデルだ
「都内で一番の急坂」も、太めのタイヤと軽いギアによって乗り越えたぞ!
今回ピックアップした魅力いっぱいのコースだけでなく、ほかにもたくさんのコースを紹介しているサイクルスポーツ特別編集「東京サイクリング 23区編」は都民や近隣にお住いの方はもちろん、観光やビジネスで東京を訪れる人も楽しめるコース情報が満載。江戸・東京の魅力を、自転車で存分に味わうためのノウハウが凝縮した一冊です。
協力:Life Creation Space OVE
「東京サイクリング23区編」お買い求めはこちら