東京発! サイクリング コース2 多摩湖サイクリング
目次
武蔵野市・西東京市といった東京西部の市街地を貫き、多摩湖(村山貯水池)をぐるりと一周する自転車道が、多摩湖自転車歩行者道だ。前半の10kmほどは浄水場から始まる水道道路(地下に水道管が延びている)なので、ひたすらまっすぐで平坦。そして、後半は複雑な地形の湖畔に沿ってクネクネ進むという二部構成のような展開だ。都心からほど近いこともあって、都民にとってなじみ深い自転車道である。また、沿道には里山と呼べるような素朴な光景が広がり、都会だけではない「東京」の一面を知ることができるだろう。多摩湖は人造湖だが、湖畔を渡る風の爽やかさは本物だ。
コース情報
走行距離 約35km
武蔵境駅→(約10分・約2km)→多摩湖自転車歩行者道起点→(約30分・約5km)→小平ふるさと村→(約40分・約7km)→多摩湖→(約90分・約10km)→六道山公園展望台→(約70分・約7km)→狭山湖→(約30分・約5km)→多摩湖駅
前半の直線コースは市街地を進む。後半は人家が途絶える区間が長いので、食事などを済ませてから進もう。
アクセス
JR中央本線の三鷹駅〜立川駅のいずれからも遠くないコース。さらに西武新宿線・西武多摩湖線がつかず離れずのため、輪行すれば走行距離をいくらでも調節できる。いずれの路線も通勤・通学時間帯は非常に混むので、往路は早朝、復路は夕方前に利用したい。東京西部や埼玉南部にお住まいなら自走圏内だ。
まっすぐな自転車道で湖と里山へ
自転車道に、どこから走るべきと言った決まりはないが、さまざまなエリアからアクセスしやすいJR中央本線の武蔵境駅から走り出すと便利だろう。駅を後にして北へ向かうと、すぐに井ノ頭通りにぶつかる。左折し、自転車歩行者道に入ってしばらく進むと五日市街道と交差する。そこが多摩湖自転車歩行者道の起点だ。この先は多摩湖まで、一般のクルマが入ってこない道を進むことができる。
東京といえば、高層ビルやマンションが海のように広がるイメージがあるが、多摩湖自転車歩行者道を進んでいくと、ほどなくして住宅に間隔が生まれ、点々と畑も現れる。先ほどまでの幹線道路沿いとは印象が一変し、もっと遠い他県へ行ったようだ。とはいえ、多摩湖自転車歩行者道はいつもサイクリストと歩行者が多く、のどかだけれどにぎやかでもある。西武新宿線や西武多摩湖線が自転車歩行者道と並行して延びているので、頻繁に電車が視界に入ってくる。道端には野菜の直売屋台も現れ、買い求める地域の人たちが集まってくる。今では懐かしい駄菓子屋も沿道にある。
一部には自転車ですれちがうのがやっとといった細い区間があり、一般車の侵入を防ぐ車止めも多め。だから、ロードバイクでスカッと疾走するような道ではない。歩くより速い、くらいのペースでのんびり進んでいこう。どんなにゆっくりでも、信号がないだけで爽快だ。感覚的にはあっという間に直線区間は終わってしまう。江戸時代の農家や水車などを保存している小平ふるさと村に立ち寄れば、「武蔵野」と呼ばれた東京の原風景が感じられるはずだ。
多摩湖自転車歩行者道の直線区間は、新宿や池袋から延びる西武鉄道の各路線が網の目のように広がるエリアだ。すぐ脇の土手を列車が通過したかと思えば、自転車道と交差する踏切が現れたりする。都内の鉄道路線は高架や地下鉄が多いので、自転車に乗りながら列車を眺められるのは新鮮でもある。この自転車道だけの特徴の一つだ。駅の周辺には食事処も多いので、多摩湖を周回するコースに入る前にお昼ご飯を済ませておくといいだろう。
多摩湖が近づくと、途端に道は左右に曲がり出し、キュッと上る坂も現れる。今まで楽々と回してきたペダルが急に重くなるが、すぐに湖面を見下ろす堤防上に達する(記事冒頭の写真)。ここが本コースで一番の展望が広がるスポットだ。自転車歩行者道は車道よりも湖寄りに設けられ、谷を橋でまたぎながら続いていく。湖の南側は急な斜面に広がる住宅街で、そこには37%といった強烈な坂道も存在する。ちょっとのぞいてみるのも面白い。
道なりに自転車道を進んでいけば多摩湖をシンプルに一周することができるが、かつての軽便鉄道跡を訪れるために南の森へ逸れてみよう。フェンスの一角に入口があり、軽いやぶこぎを交えて進んでいくと、たまこヒルズという福祉施設の裏に出る。その脇を道なりに進んでいくと、3つの細いトンネルが続く自転車道が現れる。多摩湖から離れるので訪れるサイクリストが少なく、ちょっとした冒険気分が味わえる。この風変わりな自転車道を抜けると、県道沿いに給食センターが現れる。そこから分け入る遊歩道が本コースのハイライト。水源を守る森林を縫うように、締まった砂利の細道が続く。都内近郊でグラベルライドが楽しめる貴重なエリアだ。
多摩湖・狭山湖の西に広がる狭山丘陵には、首都圏で唯一にして最大の里山が広がる。給食センターの脇から続く砂利の細道は、MTBの入門コースとしても有名だ。周辺は都立の野山北・六道山公園であり、今では貴重な雑木林が保存されている。バードウオッチングのスポットとしても人気があり、ハイカーも多い。自転車は「お邪魔させていただいてる」気持ちで、ゆっくり進んでいこう。思わず深呼吸したくなる澄んだ空気と、タイヤとハンドルを通して伝わる砂利と土の感触が心地いい。タイヤが細すぎるロードバイクでは走りづらいが、少し太めのタイヤを履いていれば、小径車でも十分に楽しめる道だ。
こうした里山は、かつての農村を支えてきた水と肥料の供給源であり、山岳地のような荒々しい自然ではなく、地域の人と共生してきた。木々は薪や炭となって生活に暖を与え、落ち葉は田畑の肥やしに利用されてきたという。狭山丘陵は、アニメ映画「となりのトトロ」で描かれた農村風景のモデルとも言われている。里山が身近だった頃の日本に、サイクリングを通して思いを馳せることができる貴重なエリアだ。
使用バイク:Pacific Cycles birdy Standard
旅へ誘う折りたたみ自転車
Pacific Cycles birdy Standard
価格:24万7500円
問:パシフィックサイクルズジャパン
スポーツライドが楽しめる折りたたみ自転車のパイオニアが「バーディー」。1997年に日本に上陸し、MTBライクなサスペンションを生かした折りたたみ構造が注目を集め、ブームといえるほどの人気を集めた傑作だ。25年に及ぶ超ロングセラーだが、進化と熟成が進んだ現行モデルは第3世代となっており、その走行性能と小ささのバランスは圧倒的で、今も折りたたみ自転車の頂点と呼べる存在だ。ほどよい太さのタイヤを備えた「スタンダード」モデルはクロスバイクのような万能さが特徴。ロードバイクのような快速性能を誇る「R」や、ブロックタイヤを備えて悪路の走破性と搭載力を高めた「GT」など、特色あるラインナップも魅力だ。
今回ピックアップした魅力いっぱいのコースだけでなく、他にもたくさんのコースを紹介しているサイクルスポーツ特別編集「東京発! サイクリング」は、都民や近県にお住まいで、自転車通勤や休日ライドによってサイクリングに関心が高まっている方へ贈るコースガイドです。都心から自走圏内、もしくは輪行で1時間〜2時間ほどでアクセスできる関東近郊での、超おすすめなサイクリングコースを紹介します。巻頭では、関東を代表する5つの自転車道を徹底リポート。輪行の方法もわかりやすく解説します。日帰りから一泊二日で楽しめる、自転車をとおした「大人の遠足」を提案します。