旧街道じてんしゃ旅 鎌倉街道編二日目 武蔵嵐山(埼玉県)〜府中(東京都)
目次
サイクルショップ(ストラーダバイシクルズ)とツアーイベント会社(ライダス)の経営者(井上 寿。通称“テンチョー”)と自転車メディア・サイクルスポーツの責任者(八重洲出版・迫田賢一。通称“シシャチョー”)の男2人、“令和のやじきた”が旧街道を自転車で巡る旅企画。五街道を走破したが、二人の旅は終わらない。次の旅は「鎌倉街道編」。二日目は、武蔵嵐山から府中へ。
雰囲気満点の雨の鎌倉街道
武蔵嵐山からの2日目はあいにくの雨。久しぶりのレインウェアを着込んで出発する。しばらく山あいの緑の中を走る。湿気のひどさに思わずレインウェアを脱いだ。快適! 残暑厳しい中の雨だ。濡れていったって構いやしない。そう気づいたのはかなり汗をかいてしまってからだった。
都市部の中に残るいにしえの道をたどって
「埼玉といえば都市部で走りにくい道というイメージやったけど、鎌倉街道沿いは雰囲気ええなあ〜!」レインウェアを脱いでいる横で、自販機のアイスクリームを食べならがシシャチョーが言った。確かに旧中山道や旧日光道中では、旧街道は国道となってしまっており、往来も激しい。ずっと車にあおられてクラクションを鳴らされながら走っていたイメージがある。止まって写真を撮ることも少なく、どちらかといえばネガティブなイメージだったが、確かに鎌倉街道沿いはとても走りやすく、そして古い御堂やお寺、未舗装路の道など今までの街道旅の見どころが凝縮されたような区間で、埼玉のイメージがずいぶん変わってしまった。都市のすぐ近くに古い道が残されている。中途半端な開発がされているより、メリハリが効いているような気がした。
さて街道中、最高地点の峠に向かう。笛吹峠だ。気合を入れて上る。何せ連泊用の荷物とカメラ2機を積み込んだ重量級の旅バイクに乗っている。ゆっくり着実に上ろう……。と思った矢先、峠に着いてしまった。なんでも埼玉県で最も低い峠だとシシャチョーがニヤニヤしながら言う。だったら早く言ってよ~。今回は下調べがないのでハプニングの連続。でもそれが楽しい。
さて鎌倉街道は旧東海道や旧中山道のような江戸時代に整備された街道と少し趣が違うような雰囲気を感じる。宿場町を示すものも少ない。代わりに鎌倉街道であることを示す私設の石碑や道標、自治体による鎌倉街道の説明看板などが随所に見られる。何だか鎌倉という文字に誇りを感じているような気がした。この辺りは江戸時代の旧街道を中心に走ってきた筆者にとっても新鮮に映る。なるほど、源頼朝の存在は関東では大きなものがあるようだ。
シシャチョーの応援団が登場
入間市に入ったところでシシャチョーが急にソワソワし始めた。「どうしたんですか??」「いや、井上はん……自衛隊の入間基地ってどのあたりにありまっか?」「街道のすぐそばのようですよ……」「やたっ! ちょっと寄っていいですか? ブルーインパルスが今日はおるはずなんで……」聞くとオリンピックの開会式で飛んだブルーインパルスが、今日は本拠地である松島基地に帰る日だそうだ。基地で金網にへばりつくシシャチョー。まるで飛行機大好きな少年のようだった。シシャチョー本当に楽しんでますなあ!
入間基地を後にしようと準備していると、横でシシャチョーが電話で誰かと話している。
聞くと学生時代の友人が狭山に住んでいるそうで、応援のために道沿いで待ってくれているとのこと。
しばらく走った先のコンビニでその友人は待ってくれていた。友人の関谷道章さん。シシャチョーの学生時代に知り合い、この辺りで左官業をされているとのこと。わざわざ迎えてくれて差し入れまでしてくださった。旧街道じてんしゃ旅の本も買っていただいているとのことで本当にうれしい限りだ。旧街道じてんしゃ旅の魅力の一つに人との出会いや語らいがある。これは単に走り去るだけのレース的、トレーニング的なサイクリングでは味わえない魅力だ。
「ところで関谷さん、同級生なのに迫田さんに敬語でしたねぇ……」「いや、アイツ年下ですねん。社会人になってから入った専門学校の同級生で……ほんでいつもおちょくって遊んでましてん〜」
……。
容易に想像できる……。昔からこんなキャラだったんだろうな……。
玉川上水に出たところで今日の宿を決める。今日は府中まで行くことに決めた。そうした矢先、シシャチョーと私の共通の友人からメッセージが入る。「鎌倉街道サイクリング頑張って! 今日はどのあたりで宿泊?」何気なく府中泊まりだと返信しておいた。そのまま走り、駅前のホテルに投宿。シャワーを浴びて一休みして買い出しに行こうと表に出たところ……。何と! その友人が偶然にもホテルの前で休んでいたのだ。
「いや、途中で一緒に走ろうかと思ったけど、メシ食っている間に先にいかれちゃったようだな! しかしホテルの前で偶然会うとは……ハハハハハ」何と我々を追いかけてきてくれたというのだ。何ともありがたくうれしい限り。しかも偶然ホテルの前で会うとは……。やっぱり旅の醍醐味は人との触れ合いなのだ。
今回の距離:
武蔵嵐山〜府中・約54.1km
参考文献:
「地名用語語源辞典」東京堂出版
「現代訳 旅行用心集」八隅盧菴著 桜井正信訳 八坂書房
「宿場と飯盛女」宇佐美ミサ子著 岡成社
「道路の日本史」武部健一著 中公新書
「地名は警告する」谷川健一著 冨山房
「図解気象入門」古川武彦・大木勇人著 講談社
「歩く江戸の旅人たち」谷釜尋徳著 晃洋書房
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