旧街道じてんしゃ旅 鎌倉街道編最終日 府中(東京都)〜鶴岡八幡(神奈川県)
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サイクルショップ(ストラーダバイシクルズ)とツアーイベント会社(ライダス)の経営者(井上 寿。通称“テンチョー”)と自転車メディア・サイクルスポーツの責任者(八重洲出版・迫田賢一。通称“シシャチョー”)の男2人、“令和のやじきた”が旧街道を自転車で巡る旅企画。五街道を走破したが、二人の旅は終わらない。次の旅は「鎌倉街道編」。三日目は、府中から鶴岡八幡へ。
東京都内からほど近く、旧街道風情を楽しめる絶好の道
共通の友人と府中のホテルのロビーでひとしきり自転車談義をした翌日、早朝からセミの鳴き声に起こされ、眠気まなこで鎌倉街道の最終日を出発した。朝7時だというのにもう全身から汗が吹き出している……。
ここまでの鎌倉街道は旧街道を走ってきた中でもかなり満足の街道だ。風情もたっぷりだし、いろいろな遺物を見つけることができる。都会の中に通っている道であっても、明らかに幹線道路と違う何かを感じ取ることができる道で、走っていて飽きることはまったくない。
今日は多摩丘陵を通り抜け、神奈川県に入り鶴岡八幡宮に至る。鶴岡八幡宮に至る最後の上りや源氏山公園は、街道の締めくくりにふさわしい場所のようだ。
都会の中の藪蚊は生命力抜群……
出発してまもなく分倍河原(ぶばいがわら)の古戦場に着く。ここは鎌倉幕府滅亡のきっかけとなった合戦の舞台。街道筋にあるのでせっかくなら見ておこうと寄ってみる。被写体らしきものは見当たらなかったので、石碑でも撮っておこうとカメラを向けたのだが、石碑に猫がのっそりと寝転がっていて、それが何ともおかしく、合戦場に似つかわしくない光景で思わず笑いが出てしまった。何度もアングルを変えて写真を撮っていたら猫が迷惑そうに振り返ってこちらを見ていた。
多摩丘陵に入ると辺りは緑に囲まれ、日中には人通りも少なくなり、東京近郊とも思えない静かさになる。「この辺りも初めて走るけど……エエですなあ。ワシ都心に住んでますけどここまでならすぐに来れるし」。今やベテランの旧街道ハンターとなったシシャチョーの眼から見ても、かなり良好な道のようだ。町田市に入って小野路宿に至り、宿場跡や一里塚を見ても、これが東京都にあるのが不思議な感じに思える。都内近郊でポピュラーなサイクリングである、川沿いコースなどなどとはまたひと味違ったサイクリングを楽しめること間違いなしだ。
しかしそうやって喜んでいた後の七国山緑地で、未舗装の歩道区間で数え切れないほどの藪蚊に襲われ、自転車を押しながら必死で走り逃げ回ったのはキツかったが……。
いざ鎌倉!
神奈川県に入っても、都市部の中に細くうねった道が続き、道標や石仏が祀られた辻があったりと、相変わらず旧街道の風情が続いていった。都市部では人口密度や開発によって古いものは全て埋もれてしまっているように思えるが、そこはしっかりと息づいている鎌倉街道。何の配慮もなしに開発され拡幅され、直線化されてしまった街道もある中で、とてもたくましく貴重な存在に思える。
さて、いよいよ鎌倉に入った。源氏山公園に至る道は住宅街の中を一気に上る道。残暑厳しい中、パニアバッグをつけたバイクではとても厳しく感じたが、それでも到着するワクワク感に疲労感は消し飛んでいた。シシャチョーも満足げな表情になっている。最後の化粧坂を自転車を担いで下り、いよいよ鶴岡八幡宮に入ったときは、すでに夕方になっていた。鎌倉街道を走り切った。
二人して記念撮影を終え、源頼朝の墓所に感謝のお参りに行った。充実した鎌倉街道の旅。それは旧東海道や旧中山道を走り終えた時の充実感や達成感と似たものだった。都心からほど近い場所に、旧街道じてんしゃ旅のエッセンスがぎっしりと詰まった道がある。読者の方もぜひ一度訪れてほしい。そんな道だった。
今回の距離:
府中〜鶴岡八幡宮・約55.6km
参考文献:
「地名用語語源辞典」東京堂出版
「現代訳 旅行用心集」八隅盧菴著 桜井正信訳 八坂書房
「宿場と飯盛女」宇佐美ミサ子著 岡成社
「道路の日本史」武部健一著 中公新書
「地名は警告する」谷川健一著 冨山房
「図解気象入門」古川武彦・大木勇人著 講談社
「歩く江戸の旅人たち」谷釜尋徳著 晃洋書房
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