カスタムペイントでバイクを“オレ色”に染めよう・前編

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連載「アサノ試乗します!」担当のライターアサノは、無類の青好きだ。乗りたいと思ったバイクの標準カラーでは青が選べず、新品で購入したフレームに一度も乗ることなく、業者に塗装をお願いしたことが何度もある。最近、新しくディスクブレーキロードを手に入れたのだが、フレームカラーが「半分青い」だけで赤が目立ってしまうのがどうしても気になる。またフレームを塗装したい意欲がムクムクとわき上がってきたので、今回カーボンドライジャパンで塗装をお願いすることにした。前編ではカスタムペイントの魅力について熱く語りながら、塗装前の打ち合わせまでをレポートする。

 

なぜカスタムペイントをするのか?-好きな色の好きなバイクに乗るよろこび-

今回塗装するベース車両・ジャイアント・TCRアドバンスドSL2021年モデル。半分青いのだが、赤が目立つのが青好きの青ゴルゴとしてはどうも気になる

今回塗装するベース車両・ジャイアント・TCRアドバンスドSL2021年モデル。半分青いのだが、赤が目立つのが青好きの青ゴルゴとしてはどうも気になる

アサノは激怒している。ロードバイクを購入するのに好きな色を選べないケースがなんと多いことか、と。黒とか白とか無難な色のフレームばかり作っているんじゃない、と。ブランドカラーをプッシュしたいのは分かるが、それが好きではない人もいるのだから一方的に押しつけるのではない、と。

ロードバイクはクルマでいうなら高級車だ。もっと廉価なファミリーカーだってさまざまなカラーバリエーションの中から好きな色が選べるし、高級外車なら内外装を好きな色にカスタムできるサービスがあったりするではないか。ロードバイクでも一部の良心的なブランドはカラーオーダーを展開しているが、そのブランドを扱っているショップが近くになければどうするのだ。そもそも好きな色が選べないから乗りたいバイクに乗らないというのも考えてみたらヘンではないか。僕の願いはシンプルにただひとつ。好きな色の好きなバイクに乗りたい——ただそれだけなのに。

今回塗装しようと思ったのは、完成車で入手したジャイアント・TCRアドバンスドSL1 KOMの2021年モデル。以前「アサノ試乗します!」のインプレで乗ったときに絶賛したように、バイクそのものはいたく気に入っている。フレームカラーは朝ドラ風にいうと「半分、青い。」のだが、半分赤いので、「青好きとしては全部青ければいいのに」という思いがずっとくすぶっていた。それだけに、フレームが好みの色にできればさらに幸せになれるのは間違いない。

そんな折、シマノのデュラエースとアルテグラがモデルチェンジし、運良く入手できたためコンポーネントを載せ替えすることになった。つまり一度フレームの状態にバラすわけで、このタイミングで塗装に出せば工賃が余分にかからない。やるなら今だ!

前置きが長くなったが、なぜ僕がフレームのカスタムペイントをするのか? 理由を話そう。

最大の理由は、「好きな色の好きなバイクに乗れる」ということだ。

僕は無類の青好きだ。ウェアもヘルメットもシューズも青いし、プライベートで乗るバイクはほぼすべて青い。乗りたいと思うバイクが青くなければ、新品のフレームでもカスタムペイントで青くしてきた。その数、これまでに3台。前科3犯である。

青く塗った僕のバイクは、世界に1台だけのオンリーワンだ。好きな色の好きなバイクというだけでも所有欲が満たされるが、それが他の人とかぶらないのだからなおさらだ。

さらに僕にとって青いバイクに乗ることは個性を主張することでもある。僕は青いものを偏愛しすぎるあまり、業界関係者やチームメイトから「青ゴルゴ」というニックネームを付けられている。プライベートで青くないバイクに乗っていたら青ゴルゴの名がすたるというものだ。

さらにもうひとつ、カスタムペイントすることでバイクが生年不詳になるというメリットもある。つるしのフレームなら、フレームの色やデザインを見てなんとなく「何年モデルか」というのが分かってしまう。下手すりゃ同じフレームなのに購入の翌年にデザインが大きく変わってしまい、とたんに古くさい印象になることだってあり得る。中身が同じでパッケージが違うだけでとたんに古びて見えるから不思議だが、こうしたこともカスタムペイントすればなくなる。フレームの形状が大きく変わらない限り、何年モデルかはぼやかせる。これは自分のようにたまに私物のバイクで誌面・WEBに登場するような場合にも好都合で、読者やメーカーの担当者に「古いバイクに乗ってますね」と言われることも少なくなるのだ。

 

カーボンドライジャパンにカスタムペントを依頼

愛知県日進市のカーボンドライジャパン。入り口近くに飾られたフレームが目印だ

愛知県日進市のカーボンドライジャパン。入り口近くに飾られたフレームが目印だ

様々なアイテムにカスタムペイントができる

様々なアイテムにカスタムペイントができる

 

自転車のフレーム塗装に応じてくれる業者は、実はそれほど多くない。特にカーボンフレームの塗装に対応する業者となるとさらに限定される。自転車のフレームは車などと比べて塗装面が細く、各チューブの接合部周辺(シートステーとシートチューブの接合部の裏側など)のように均一に塗装するのが難しい部分も多いからだ。

カーボンフレームのリペアやビッグプーリーでお馴染みのカーボンドライジャパン(愛知県日進市)は、自転車のカーボンフレーム塗装に対応する数少ない業者のひとつだ。カーボンドライジャパンの特徴は、自動車やバイク用品などオリジナルのドライカーボン製品の製造で培ったノウハウを生かした高い塗装技術を誇り、自転車のフレームだけでなくあらゆるパーツやヘルメットの塗装にも対応し、カーボンだけでなく金属製品の塗装も可能という点だ。

自転車のフレームセット塗装に関しては、下地処理から2〜3色までの塗装、4か所までのロゴ入れ、簡単なライン入れまでトータルで9万9000円という分かりやすい価格設定の「オールペイントスペシャルプライスパック」というサービスを用意している。凝ったデザインにしたり、特別な塗料を使う場合は別途アップチャージがかかるそうだが、今回はこのプランをベースにカスタムペイントをお願いすることにする。

作業の流れだが、フレームセットの塗装の場合、まずフォークとフレーム単体にする必要がある。この際、コンポーネントやハンドルなどのパーツだけでなく、ヘッドやBBのベアリング類、エンド金具なども外す。多くの場合、この作業は行きつけのショップにお願いすることになるので、コンポーネントの載せ替えやオーバーホールなど、完成車をばらすタイミングで発注するのがおすすめだ。

ここから先は塗装の依頼をかけ、塗装したいアイテム(今回はフレームとフォーク)を先方に送る。客とカーボンドライジャパンとのやりとりは、ショップを介して行うか、ショップに許可を得てバイクのオーナーが直接行うかのいずれかの方法が考えられる。今回はショップの許可を得てフレームとフォークを直接カーボンドライジャパンに持ち込むことにした。色の細かい調子や要望を直接口頭で伝えたいと思ったからだ。

「直接のお持ち込みは予約制になりますが、その方が当社としても話がスムーズなので大歓迎です」
とカーボンドライジャパンの早川洋文さん。

 

担当者と入念に打ち合わせてイメージ通りの色にしていく

担当の古谷さんと入念に打ち合わせ

担当の古谷さんと入念に打ち合わせ

 

今回の担当は同社の営業・企画担当の古谷深那さん。サイクルデザイン専門学校の卒業生で高校でデザインを学んだそうだ。

さっそくイメージを伝える。「こうしたい」という具体的なイメージがあれば写真やイラストを持っていくのが早い。今回僕は、他社のカスタムプログラムで近い色目のものを作った上で、色見本として愛用のバイクとチームジャージ姿の写真を持っていった。

今回のカスタムでは、メタリック系の紺色をベースに、チームジャージのスカイブルーに近い青をロゴの色に入れたいと思っている。単色フレームに単色ロゴという組み合わせは定番の組み合わせとして常にあり、飽きにくいうえに、はやり廃りがないので、長く乗り続けても古くささを感じにくいというメリットがあるのだ。

「メールなどの文面や口頭で説明していただくだけより、絵や写真を見せていただける方がイメージがつかみやすく、思いを形にしやすいです。より具体的であればあるほどイメージに近いモノが作れると思います。さらに直接ご希望を伝えていただけると、私もイメージをつかみやすいので助かります」と古谷さん。

色指定はデザイン業界やファッション業界では必須アイテムと言えるパントーンのカラーチャートなどを活用して行う。カーボンドライでは車に関するパーツを手がけるだけに、各ブランドのボディカラーの見本もあった。愛車(車の方の)と同じ色にフレームを塗装する……なんてこともできそうだ。

ちなみに僕の場合は、フレームのメインカラーとなるメタリック系の紺色は、現在のレースバイクの紺色部分とほぼ同じ色にしたいので、それを元にカラーチャートで近い色を探した。ロゴ部分に使うジャージの色も同様の方法で探した。

僕も出版業界の片隅で20年以上のキャリアを積んできたので、レイアウト出しの際にデザイナーさんに文字色や背景色などの指定をすることもあるし、校正時には色の違いもチェックしたりするから色を見分ける目にはそれなりに自信がある。しかし、カラーチャートは非常に微妙なトーンの違いも違う色として掲載しているので、膨大な色の中から近い色を指定するのも至難の業だった。さらに光の当たり方によって色が違って見えたりするので、それも色指定の難しさに拍車をかけていたように思う。

 

カラーチャートを見ながら色を決めていく。イメージの元になるアイテムがあれば、より確実、スムーズに色が決まる

カラーチャートを見ながら色を決めていく。イメージの元になるアイテムがあれば、より確実、スムーズに色が決まる

 

古谷さんの力を借り、何とか色指定を終えた。僕はフレーム1色、ロゴ1色なのでシンプルだが、これを細かく塗り分けるとなるとその分色指定の回数が増えることになる。

続いてロゴの再現箇所の打ち合わせ。ロゴの再現には塗装やカッティングシート+クリア吹きつけ、水転写デカールなど適材適所で使い分けるという。僕はなるべくシンプルにしたかったので、ダウンチューブ横のブランドロゴを残しつつ、細かなロゴは割愛することにした。

レースに出る人にとっての関心事は、フレームやフォークに付いているUCIの認証機材である証のUCIステッカーだろう。普通に塗装するとステッカー類はなくなってしまうので、残したいものはあらかじめマスキングして保護するのだという。僕はUCIロゴを残してもらうようお願いした。これでUCIグランフォンドでもJBCFでもどんなレースでも出られるはずだ。

これで一通り打ち合わせが終了。所要時間は1時間半程度だった。

打ち合わせから1週間ほどたって完成イメージのイラストが届いた。イラスト上ではメタリックカラーの再現はできないとのことだが、新しいフレームカラーの大まかなイメージをつかむには十分だ。もちろんこれでOK! あとは塗り替え作業の完了までしばし待つのみだ。

ちなみに、作業開始のGOサインを出してから、作業完了まではおおむね1か月程度とのこと。作業が立て込んでいるときや年末年始などの長期休暇をはさむ場合は1か月半〜2か月ほど見てほしいとのことだ。

僕は年末に頼んだので、フレームが出来上がるのは2月に入ってから。何とかシーズンインには間に合いそうだ。今から仕上がりが楽しみだ!

 

完成イメージ