“大人の”四国一周サイクリング完全ガイド Vol.3:いよいよ四国一周に走り出す。
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いつかは走りたい憧れの四国一周サイクリング。人生に何度もない貴重なチャンスに恵まれるなら、ぜひ最高のサイクリング体験にしてほしい。そこで、四国一周基本ルートの設計者であり、台湾一周ツアーを日本人最多の5周回完走した筆者が、四国一周基本ルートをベースに細部をアレンジした11日間/約1,100kmのソロ1周ライドを通じて、これから四国を目指すサイクリストに「大人の四国一周」の実践的ノウハウから裏話まで包み隠さず大公開。連載3回目にしてようやく四国一周サイクリングがスタートする。
DAY-0:松山に前泊。移動日の余裕が成否を決める。
前回Vol.2では、松山空港に到着してバイクケースをシレッと預けたが、あらためてリアルなタイムラインを記すと筆者が松山へ移動したのは2021年10月15日(金)のANA 589便で、羽田空港第2ターミナルを12時05分に出発、松山空港に定刻通りの13時40分に到着し、機内預けのバイクケースを受け取ってゲートを出たのが13時50分。そこから屋外のサイクルステーションに移動して、写真を撮ったり電話かけたりしながらバイクを組み立てて14時55分。それからバイクとバイクケースを押し歩いてインフォメーションカウンターに移動し、バイクケースを預けてスタンプを押したら15時ぴったりだった。かなりのんびりした作業だったが、それでも日没の17時35分までほぼ3時間は走ることができるので、Vol.2に記した通り、「松山市周辺なら観光の余裕あり。頑張れば今治市中心部にも行ける」という時間だ。松山空港から今治市中心部までほぼ平坦で50kmないので、クロスバイクでも3時間あれば走破できるだろうし、もしフライトを早められれば、しまなみ海道や西条、新居浜あたりまで進むことも可能だ。
しかしながら筆者は、松山に前泊して翌朝にスタートすることを強くオススメする。理由はいくつかあるが、スタート直後のトラブルに対して「四国最大の都市である松山」が最強、というのがまず一番の理由だ。もちろんバイクについては出発前に完璧に整備しておくのが本筋だが、それでも移動中のトラブルや忘れ物などは十分あり得るし、もしそうなった場合には最短の走行距離でスポーツ自転車専門店にアプローチできる環境がその旅の成否を別けるといっても過言ではない。また、バイク以外の忘れ物についても、走行距離の少ない初日であれば調達に時間を割いたとしてもそれほど無理は生じないだろう。実際に筆者も今回の松山前泊で2つの重大な忘れ物、「ボトル」と「USB充電器」をリカバーできている。いずれも、もし入手が翌日以降となればスマホのナビ機能を使えないことによるタイムロスやサイコンのバッテリー切れによるGPSログの空白など、「QOR=Quality Of Ride ※筆者造語」の低下は避けられないので必須アイテムといえる。特に後者はホテル至近に「ドン・キホーテ」がある松山でなければ諦めていたと思う。自分はそんなウッカリ野郎じゃないから大丈夫と仰る方も多いと思うが、現実的には我々大人はうっかりミスからもう逃れられないので、ここは騙されたと思ってぜひ松山前泊を選んでいただきたい。
■バイクチェックを兼ねて地元グルメに回り道
ガチのソロ旅なのでサイスポ的なガッツポーズのスタート写真などは存在しないのだが、ここでようやく空港を出発する。まず最初の目的地は、筆者が機内のランチに手をつけず我慢するほどの大好物である「三津浜焼き」の名店だ。
走り始めは意識的にのんびりペース。すぐに裏道に入り、バイクの異音や不具合などに耳を傾けつつライドする。2kmぐらい先から2車線道路になるので少しギアを掛けて走ってみる。2段回右折ではガタガタの歩道にわざと上がってみたり、重目のギアで立ち漕ぎしてみたり、とにかく今日のうちに不具合の芽を摘んでおくつもりで緩いながらも真剣にライドした。筆者の経験上、バイクの不具合に気づくのは、主要道を快走しているときよりも静かな裏道などで加減速や変速を繰り返しているときが多い。また、周囲の車両に気兼ねせずマイペースで走り出せれば、もしうっかり組み立てミスがあったとしても大事に至る前に停車もできる。だから敢えての裏道なのだ。
そうこうしているうちに三津の街に到着した。
「松山空港から三津浜へ」※筆者によるYouTube映像
三津浜焼きはお好み焼きの元祖とも言われる松山のソウルフードで、広島風お好み焼き(こう言うと広島県民は必ず怒る)と同様に具と麺とタネを鉄板で別々に焼いて合わせる重ね焼きタイプである。三津浜地区を中心として市内に数十店あり、50年以上続く老舗もある。今回は過去に3回ほど訪れた人気の「日の出」に直行したらコロナの影響でまだテイクアウトのみの営業だったため、これまた2回訪問済みの「みよし三津店」に転じた。こちらも人気店で、近隣に2支店を展開する。注文したのは肉玉“台付き”そばの肉増し。本当はダブルにしたかったが夕食までそれほど間がないので控えておいた。三津浜焼きの一番の特徴は、あらかじめソースで味付けしたそばまたはうどんを“台”、すなわち焼きかためた水溶き小麦粉の上に載せてから、肉やキャベツなどの具を合わせるその製法にある。結果として広島風より麺自体にしっかり焼きが入り、潰し焼きはしないのでキャベツの食感も良く、硬軟とりまぜた食感のバリエーションと味の一体感が両立されてことのほか満足感が高い。
久しぶりなので以前と同じなのかは分からないが、きっと変わらぬ美味さなのだろうと思わせるホッとするような食味がソウルフードたる所以なのだろう。帰り際にお母さんと立ち話をしたら、本店・支店とともにコロナ中も変わらず営業を続けられてそれなりに繁盛されていたというので、いちファンとしては嬉しい限りだ。
三津からは道後温泉を目指して走る。この辺り松山市西側の裏道は、しまなみ海道の国際サイクリングイベントやツアーなどを計画した時に試走して概ね把握しているのでGPSマップに頼ることなく自由気ままに走ってしまったが、それでは一般の方の参考にならないので、安全に走行できる「RIDEwithGPS」ルートを事後に作成したので参照いただきたい。
■松山市中心部の「ジャイアントストア松山」へ
さて、三津浜から道後温泉に向かう主要道が市の中心部に達し、あと800mほどで道後温泉という便利な場所に「ジャイアントストア松山」がある。筆者は立場上、元々ここは素通りできないのだが、今回は前述した忘れ物のボトルを調達するという大命題があったので、PR業務というよりむしろリアルに立ち寄ることになった。自作自演の言い訳のようで恐縮だがこれも松山前泊の恩恵といえよう。
さて、筆者のバイクについては空港から市内へのテストライドでは不具合が見られなかったためストアでは特に何も作業しなかったが、もし整備系の問題が生じた場合には、スポーツ自転車に精通したスタッフのいる専門ショップの存在は心強い。ただし、最近はコロナ禍で自転車に乗る人が増えたせいか、ストアへのメンテナンス依頼が日常的に増えているので、県外から当日いきなり訪店して「明朝までに整備よろしく」なんて言われてもストア側の作業が詰まっていれば当然ながら対応できない。もし事前整備もせず四国に乗り込むような確信犯なら、出発前に一報入れてみるべきだろう。
「ジャイアントストア松山」※筆者によるYouTube映像
また、もし「ジャイアントストア松山」が定休の火曜日に市内のスポーツ自転車店を探すのであれば、松山城の北西方向にある「杉山輪業」がオススメだ。こちらは平日だと20時まで営業しており、立地も在庫のバリエーションも良いので、遅い時間に忘れ物に気付いた時などには助けになってくれるかもしれない。
■「道後温泉」をひとまわりしてホテルへ
さて、日没までまだ30分以上あるので予定通り道後温泉に向かう。「ジャイアントストア松山」から東進すると程なく道後の観光商店街になり、「飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)」あたりからバイクを押し歩いて道後温泉本館に向かうといきなり観光モードになって楽しい。ただ、現在の道後温泉本館は大掛かりな保存修理工事中のため撮影するのが忍びなく、1周したらバイクに跨り直して路面電車の道後温泉駅の方にまわった。
駅前広場は先の商店街にT字型にぶつかる南北方向の商店街への入り口になり、西川に駅舎、東側に「坊ちゃんカラクリ時計」と「足湯」があるが、鉄分多めな昭和の少年には「坊ちゃん列車」が刺さる。道後温泉駅の引き込み線に留置されている「伊予鉄道1号機関車(復元機)」は、明治時代に坊ちゃん夏目漱石を乗せた蒸気機関車の実物ではなく、それを模したディーゼル機関車なのだが、煙突から立派な煙(水蒸気のダミー煙)を吐いて汽笛も鳴らす観光列車として頑張っている現行車両だ。特筆すべきは、蒸気機関車の雰囲気を出すため折り返す毎に人力で機関車を180度回転させることだ。運が良ければこちらか松山市駅でその作業を目撃できる。ちなみに伊予鉄道が開業した明治22年当時の坊ちゃん列車は、三津浜焼きを食べてきた三津から松山までの区間で運行されていたそうだ。
夕暮れの道後から7-8分ほど走り、今夜の宿である「ANAクラウンプラザホテル松山」に着いたところでちょうど日没となった。時間を使い切っている感じがして実に気分がいい。こちらは「おもてなしサポーター」指定の宿ではないが、愛媛県庁と繁華街のいずれにも近い立地と、格式の割に料金が手頃ということもあって、筆者の定宿となっている。サイクリング関係者も多く利用するのでバイクにも手慣れたもので、フロントやクロークが丁重に預かってくれてストレスがない。館内のバーもレストランもすべて上質かつリーズナブルだし、朝食ビュッフェを早朝6時から食べられるのもサイクリストには嬉しいポイントだ。もし観光滞在で長居できるなら道後の温泉宿が良いと思うが、ソロで飲みに行くつもりならこのホテルが間違いなくイチオシだ。
■松山で四国の第一夜を満喫
チェックイン後、スマホで数本のメール返信を済ませてから、前述のUSB充電器を求めて大街道のドン・キホーテに向かった。ホテルの客室からドアtoドアで6分ジャストという近さと親切な販売員さんに助けられて希望のものを入手できたので、一軒目の19時予約に滑り込むことができた。
今宵の晩餐は、地元愛媛はもとより日本各地から取り寄せた旬の食材を、上方で修行した大将が最良かつシンプルな調理で供する松山で名うての高級居酒屋。この日はおまかせでお願いし、写真のような少量盛りの料理を10皿以上と3種の日本酒を堪能した。こちらは料理や酒の質と価格設定からいえば割烹と言った方が通りも良いのだが、店主があくまでも居酒屋と言い張るので自分も居酒屋として毎回きっちり酒を飲むようにしている。今回はほぼ1年ぶりだったのと四国一周の前祝いという意味から、妥協せず張り込んでおいた。なお、こちらは一見だとソロでは入りづらいので店名は伏せておくが、大人のサイクリング前夜には上質な祝杯が相応しいという思いから敢えて紹介した。
22時を少し回ったあたりで2軒目の「バー露口(つゆぐち)」へ。こちらはオーナーバーテンダー自らカウンターに立つバーとしては国内最高齢という露口貴雄マスターと奥さまの朝子さんがご夫婦お二人で営むサントリーバー。昭和30年代前半にサントリーが日本国内で洋酒文化を広めるため全国でバーの出店を推進した当時にオープンされ、2021年8月に63周年を迎えられた。ウイスキー好きを自認する筆者にとってはまさに聖地というべき場所で、初めて松山に滞在した10年前の夜から行くたびに必ず訪れているが、二代三代に渡って通い続ける松山の先人たちに比べれば永遠の新参者であるので、毎回胸を借りるような心持ちで席をいただいている。筆者も齢五十を超える日本のおっさんなりに傲慢だと自認しているが、ここに来ると謙虚な姿勢で地元の人や先人たちに相対する大切さを思い出すことができるので、四国一周ソロライドの前夜に訪れるバーとしてはここより相応しい場所が思いあたらない。そんなこじつけに共感できる大人のサイクリストなら、ぜひ一人で、訪れて欲しいと思う。
さて、よせばイイのに深夜の〆に足が向かうのも大人の夜のリアルだ。そうなったら抗っても無駄なので、割り切って美味いものをチャージすべきだろう。そんな大人気ない大人の欲望に応えてくれる実力店の存在もまた松山の良いところなのだが、今回は縁起担ぎで“赤”の「辛麺屋 桝元(からめんや・ますもと)松山店」を選んだ。宮崎県延岡市発祥という「辛麺」は、蕎麦粉入りの麺をニンニクと唐辛子たっぷりのスープで食べるご当地ラーメン。九州を中心に全国展開しているので関東でも食べられるが、松山店は飲み屋レベルの豊富なサイドメニューが突出しており、筆者もそれ込みで訪店している。「ナンコツ」が全店共通の名物メニューらしく美味いのだが、イチオシは「生センマイ」で、「豚足」もまたレベルが高い。それらと共に瓶ビールを2本ほどやっつけたところで「辛麺のハーフ(半玉)」で〆るのがここでの大人の流儀だ。辛いもの好きの筆者は大体いつも「SUPER超激辛(25倍)」をいくが、今回は翌朝からのライドを考慮して「超激辛(15倍)」に抑えておいた。ちなみにこの25や15という数はレンゲのようなさじで唐辛子をスープに入れる回数そのものらしく、25倍だと1cmぐらいの唐辛子の層がどんぶりを埋め尽くす感じになる。したがって注文は自身の辛さ耐性や体調に合わせて自己責任でお願いする。
さてさて、辛麺と格闘している途中で日付が変わってしまったので、今宵はここでお開きにしてホテルに戻った。想定より少し就寝時刻が遅くなったが、松山に泊まった甲斐のある充実した1日になったと思う。
一方、筆者は飲酒からライドまで9時間以上をあけるという内規を設定しているため、明朝のスタート時刻が予定から1時間押しの8時45分以降になることは就寝時点でもう確定だ。こうした予定変更の自由度もソロならではのメリットだが、同時にソロゆえの独断で無理を押し通してしまう怖さもある。そのため、飲酒時刻や睡眠時間、体温のほか、降水量、風速、気温、落雷警報など、絶対的な数値でライドの是非を判断する基準を自身であらかじめ決めておくことが重要だ。
ここで本件「“大人の”四国一周」の定義を再掲しておくと、それはただ単に早くあるいは速くサイクリングすることではなく、ただ単に遠く長くサイクリングすることでもない。あくまでも大人として四国一周ソロライドを楽しみ尽くすのが唯一最大の目的であり、その価値基準も、ガイドブックや予定表、ましてや世間体などにあるわけではなく、あくまでも自分自身にある。したがって、予定変更によって得るものも失うものも全て自分自身で受け止めなめればならないし、全てが自分自身に返ってくる2週間という時間とそのスキームのすべてを「良い経験」として楽しめるような心持ちこそ真のソロライドなのだと筆者は考えている。
DAY-1:松山からサイクリングの聖地へ走る。
四国一周サイクリング初日の10/16(土)は、目覚めたら7時を過ぎていた。東京を2週間近く留守にするための準備で出発直前まで徹夜だったことと、久しぶりの松山ナイトを満喫したことで、スケジュールより体調を優先して目覚ましをセットせずに就寝した結果なので、むしろ早いぐらいだと思う。準備を済ませ、このホテルに11日間預けていく荷物をまとめてから朝食をとり、チェックアウトしてクロークからバイクを出したところで9時半。結局のところ予定より1時間45分押しとなったが、この日のルートと走行距離なら少しの変更だけでほぼリスクなくカバーできると判っていたので、特に焦ることなく予定どおり愛媛県庁のスタートポイントに向かった。
■「四国一周0km」からサイクリングをスタート
記事トップにもあるスタート看板は愛媛県庁本館の入口脇に常に置いてあるので、自分で好きな位置に動かして撮影し、また元の位置に戻すことになる。筆者はガチでソロだし時間も押しているので自撮りは諦め、サイコンとGoProをオンにして、10時ちょうどぐらいにサクッとスタートした。
まず県庁の門を出たら西向きに歩道を徐行して「堀之内」に入り、公園内を通り抜けて西口から四国一周ブルーラインが引かれる国道56号線(※以下、国道はR○○と表記する)に入る。そこからしばらくは道なりに北上する。4km地点あたりでR196バイパスに合流したあと、ブルーラインはずっとバイパスを通るのだが、筆者は6km地点で山側に登っていくバイパスから離れて直進し、県道347号線(※以下、県道はK○○と表記する)で海沿いを走って北条を目指すルートをオススメする。
なお、連載Vol.1でも言及したが、ブルーラインは外国人ツアー集団にも走りやすく分かりやすいことを重視しているので、地図を読めて話も聞ける大人の日本人がソロで走るなら別ルートをオススメすべき区間も少なくない。本連載がタイトルで「完全版」と謳うのは、お仕着せではないリアルなソロライド向けルートを紹介するという意味もあり、今回以降すべてのルートデータを公開するので、参照いただきご自身の計画にお役立ていただきたい。
■四国一周スタンプポイントNo.1「風早の郷ふわり」
さて、趣のある旧北条市街(2004年まで北条市)を通り抜けたら18km地点あたりで再びR196ブルーラインと合流し、ほどなく最初のスタンプポイントに到着した。スタートから19.4kmを45分。一般向けツアーでは1時間以上を想定している区間なので、まあまあ速めのペースで走ってきたことになる。なお、元々の計画で松山8時スタートだったのは、この「ふわり」が9時オープンということから逆算した結果であり、スタンプポイントの営業時間に合わせた走行計画は翌日以降もずっと続くことになる。それを面白がるのか無視するのかは人それぞれだが、本連載は「完全版」としてスタンプのコンプリートも目指していく。
■サイクリングの聖地を支える南の拠点「ジャイアントストア今治」へ
「ふわり」滞在を25分ほどに抑えて、今治市街を目指してライドを再開した。しばらくブルーライン通りに走り、R196が片側2車線の今治バイパスとなった40km地点でK38今治街道に入り、ショートカットして今治駅方面に向かう。ふわりから今治駅までの25.1kmは52分。この区間は一般向けだと80分を想定しているものの、概ね平坦で信号も少なく走りやすいので、中級以上のサイクリストなら平均速度をかなり上げられるはずだ。
「ジャイアントストア今治」はJR今治駅構内のテナントとして2012年4月にオープンして以降、バイクやグッズの販売のみならず業界でもご法度とされていた販売店自らによるレンタサイクルも展開することで、それまでしまなみ海道サイクリングに関心の薄かった地元の皆様にサイクリングを広める一方で、サイクリング交流人口拡大にも貢献し、サイクリングイベントやツアーで国際交流の活性化を目指す地元自治体やGIANTグループの前線基地としての大役までも担ってきた。約10年前、オープン当時の今治駅前は、現ストア物件の前テナントだったコンビニが撤退後も相当期間空き物件だったという事実が物語る通りの閑散とした空間だった。それがストアオープン後の国際交流サイクリングイベント成功を契機に好転し、コンビニが戻り、ホテルが息を吹き返し、公営のサイクリングターミナルがストアに寄り添うように移設され、今年はJR四国までもがホテルを新設するほどに大躍進を遂げたのだ。筆者自身もその事業の多くに携わってきたため、この場所に立つたびにサイクリングのパワーを再確認させられて胸が熱くなる。まさに「サイクリングの聖地」だ。
ところで、しまなみ海道の大三島にこの日の宿をとっている筆者がわざわざ遠回りしてまで「ジャイアントストア今治」に向かった理由はほかでもない、メンテナンスの可能性に備えた結果だ。前日の低速チェックでは発現しなかった不具合が40kmほどの距離で噴出しないとも限らないので、あくまでもリーズナブルな範囲という前提だが、スポーツサイクル専門店を通るコース設定にしておくと心強い。特に「ジャイアントストア今治」は数十台のレンタサイクルを保有しているため、メンテナンスの技術とスピードに優れ、各種消耗品もかなり潤沢に在庫しているので、ジャイアントブランドに限らず幅広く対応してくれる。ただし、前述の通りメンテナンスはあくまでもオーダー順に対応するので、訪店直後にすぐ対応できる可能性は高くないので、必要が生じたらできる限り早いタイミングで電話を入れるとよいだろう。
また、こちらも前述と同様、「ジャイアントストア今治」が定休の火曜日にバイクの不具合が生じたら、今治駅を挟んだ反対側の南西方向に位置する「CYCLEFIX(サイクルフィックス)」をオススメする。小さな個人店なので作業のキャパシティは小さく、営業開始も11時か13時と遅く、ウインドーショッピングするような大量在庫もないのだが、スポーツサイクルに精通した店長による的確なラインナップと確かな技術が魅力の小粋なショップだ。何を隠そう、こちらはジャイアントストアの黎明期を支えた創業店長である武田氏がバイクマニア過ぎて独立開業したショップであり、特にバイク整備技術は業界でも指折りだ。しまなみ海道サイクリングのすべてを知る生き字引として楽しい話を聞かせてくれるかもしれない。とはいえ、何度も繰り返す通り、事前の電話連絡はマストだ。
さて、「ジャイアントストア今治」に着いたところでちょうどお腹が鳴ったので、河村店長代理を誘って今治のB級ご当地グルメである「焼豚玉子飯」を有名な「白楽天」まで食べに出掛けた。土曜日の昼時だったので大行列を覚悟したのだが、コロナ自粛が解除されてから日が浅いせいかまだそれほどでもなかった。肝心の「焼豚玉子飯」の方はセットで頼んだのだが、そういえばいつも食べるたびに無言になり、「焼豚スライスと目玉焼きの味がするねぇ」という感想ぐらいしか思い浮かんでこなかったことを思い出した。とはいえ「名物に○まいモノなし」というほど酷い訳ではなく、単に筆者が飽きてしまっただけなので、食べたことがない人なら一度はトライしてみると良いだろう。なお、自分はこの料理のツボは玉子のプルプル感だろうと考えているため、以下の動画でお伝えする。
「今治の焼豚玉子飯は玉子がプルプルだ」※筆者によるYouTube映像
連載3回目にしてようやく松山をスタートして今治まで達した大人の四国一周。今回も早々に文字数の限界を超えてしまったので、しまなみ海道にはVol.4で渡る。次回からはもう少しペースを上げて書き進んでいくつもりなので、ぜひ引き続きご高覧いただきたい。
>>「Vol.1:プロローグ」はこちら
>>「Vol.2:入念なアプローチ計画から四国松山に上陸。」はこちら
<筆者プロフィール>
渋井亮太郎(しぶいりょうたろう)
ジャイアントの広報・宣伝・イベント業務を主軸に、スポーツサイクル振興事業全般に関わるサイクルビジネスプロデューサー。2012年に開催したしまなみ海道での大型イベントを契機に「愛媛県自転車新文化推進事業総合アドバイザー」となり、以来、台湾と日本におけるサイクルツーリズム振興に携わっている。四国一周については、2014年にジャイアント側でツアー計画に着手し、その実績から2016年に自治体側の基本ルート設計も受任。以後も各施策にアドバイスしている。また、国際的なサイクリングツアーでの現場経験からサイクリングガイドの必要性を痛感し、「一般社団法人日本サイクリングガイド協会」を2014年に設立。スポーツサイクル業界の立場から、サイクルツーリズムの根幹を支える専門技術の標準化と専門人材の育成・組織化に心血を注いでいる。1967年東京生まれの54歳。胃腸が弱いクセに辛いものが大好き。