カデックス36/42/65ディスクチューブレスを一気インプレッション
目次
世界最大のスポーツバイクメーカーであるジャイアントが、技術力の粋を集めて放つパーツブランド「カデックス(CADEX)」。その製品群において、特にロードサイクリストの間で注目されているのがホイールだ。今回はリム高さの異なる全3モデル(ディスクブレーキ仕様)を試乗。個々のモデルの魅力、カデックスホイールに共通する設計思想と、キャラクターによる違いによる使い分けを探ることにしょう。
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カデックス ディスクブレーキ用チューブレスホイール3モデルの特徴
カデックスのホイールは、全てにおいてジャイアントの固有の設計によって作られた独創性に富んだホイールだ。フックレス仕様のカーボンリムは、36mm、42mm、65mmの高さで展開され、軽量化の実現、駆動性能と乗り心地を高めるカーボンスポークによって組まれている。
カデックス 36 ディスク チューブレス
昨年、新たに仲間に加わったリム高さ36㎜、前後セット重量1302gの軽量モデル。その軽さからは想像できない程の横剛性と駆動剛性を誇り、同程度のリム高さを持つライバルモデルと比べると横剛性は33〜38%、駆動剛性は40〜45%も高い数値をたたき出した。これによりその軽さを生かした上り性能だけでなく、スプリントやダウンヒルに至るまで高い能力を発揮する軽量万能モデルに仕上げた。また、内幅22.4㎜のワイドリムは、太幅タイヤの長所を存分に引き出してくれる。
カデックス 42 チューブレス ディスク
カデックスのデビューイヤーに「65」とともに投入されたのが、エアロ万能モデルの「42」。フックレス仕様のリムは内幅19.4mmとして、軽量化と空力性能を高次元で両立。カーボン製のエアロスポーク、フランジ幅を広げたハブで組み上げることにより、1327g(前後セット)という軽い重量ながら高いホイール剛性も得ている。さらに独自のスポークテンション構造「ダイナミック・バランスド・レーシング」(Dynamic Balanced Lacing。回転時に張力が均衡するスポーク組という意味)により、ホイールにトルクがかかった時に最適なスポークテンションを実現。優れた駆動効率も自慢だ。
カデックス 65 チューブレス ディスク
シリーズ中、最も優れた空力を誇るのが「65」だ。高さ65mmのリムは、内幅22.4mmの幅広な設計に加え、フックレス仕様によって空力を最大化している。その一方で重量増も最小限に抑えた。リムはカーボンレイアップを最適化して軽さと強度、剛性をバランスし、加えて軽量なカーボンスポークとの組み合わせにより、ホイール重量はこのクラスとしては軽量な1501g前後を実現。加速・反応性を高めている。独自のスポークパターン「DBL」により優れた駆動効率を発揮する
共通するテクノロジー【フックレスリム】
カデックスホイールは、フックレスリムによりタイヤの性能を最大化する。フックがないことでタイヤのサイドウォールは広がり、同じ幅でも空気容量が増大して乗り心地が向上。さらにコーナーリングにおけるタイヤのよれも低減され挙動が安定する。そして、もう一つの効果が空力だ。タイヤとリムエッジの段差を少なくなり、この間に起きる空気抵抗を削減している。また、フックレスリムはビード座径に高い寸法精度が必要とされ、優れたカーボン成型技術を持つジャイアントゆえに実現できた仕様とも言えるだろう。
共通するテクノロジー【カーボンスポーク】
カデックスのカーボンスポークは、その両端にアルミ製のヘッド部
もちろん軽量化にも有効で、スポーク1本の重量はわずか2.85g。これはDTスイスのステンレス製スポーク「エアロライト」よりも1.49g軽い。カデックスのスポーク数は前後で45本なので67.05gの軽量化を可能にしたというわけだ。また、スポーク形状は扁平状に成形されているので空力面の弱点は一切ない。
共通するテクノロジー【ハブ】
ハブセットもカデックス独自の設計だ。左右のハブフランジの幅は最大限に外側に設定されており、これによりスポークトライアングルの底辺を広げ、ホイールの高い横剛性を確保している。リヤのハブフランジは、スポークヘッドを受ける部分以外は肉抜き加工され、フロントのハブボディはミニマルな造形として軽量化も追求した。極めつけに低摩擦ハブとDLC(ダイヤモンド・ライク・
共通のテクノロジー【ダイナミックバランスドレーシング】
通常2:1の構造ではドライブ側のスポークの半分が圧縮力、もう半分が引張力を受ける。そこにペダルからの駆動力が加わると一方のスポークだけテンションが強まることになり、スポークテンションにバラつきが生じる。その結果、ハブには回転方向のたわみが生じ、パワーロスが起きる。また、リムの支持力にもバラつきが生じるため、ホイール全体の横剛性も低下する。また、このたわみの繰り返しはホイールの耐久性も低下させる。一方のDBLは、ドライブ側のスポークが1組2本ごとにそれぞれ異なる張力で組まれており、駆動力が加わることで張力が均衡するという仕組みだ。これにより駆動剛性が増し、走行性能の向上につながっている。また、スポークテンションのズレやホイールのたわみ(回転方向にも横方向にも)が生じにくいため、ホイールの耐久性も高い。
カデックス以外のチューブレスレディタイヤも使用可能
フックレスリムを採用したカデックスホイールは、
カデックスホイールシステム×タイヤ適合表
https://www.cadex-cycling.com/jp/hookless-rim-technology
カデックス ディスク チューブレスホイール3モデルをインプレッション
カデックス 36 ディスクチューブレス〜極上のペダリングフィールを楽しむ
「36」の高次元な性能バランスは、あっぱれと言うしかない。しかも性能のみならず、走行感やペダリングも超絶に気持ち良いのだ。
脚あたりは優しいのに反応性は抜群。とても軽い踏み出しなのにとげとげしさは皆無。フワッと舞い上がるようにして滑らかさを伴いながらホイールが軽快かつ上品に転がって行く。そしてペダリングのダウンストロークに合わせホイールが路面を掻くように、バイクを後ろから押し出して跳ねるように進ませる。この躍動感にあふれる走りはカデックス固有のものだ。
上りではさらに輝きを増す。傾斜を問わず、走り、ペダリングともに軽い。ペダルを踏めば上死点から脚が「ストン」と軽く落ち、下死点からのアップストロークでは、その動きを補助するようにホイールがトルクを発生させるのでペダリングの連動性に優れ、無駄脚を使わない。そしてダンシングに移れば嫌な突っ張り感はなく、ライダーの動きにしっかりホイールがついてくるので、走りはきわめてスムーズだ。いつまでもダンシングできるような感覚すらある。
さらに振動減衰も驚くほどに早く、乗り心地にも秀でている。コーナーリングなど斜めの負荷がかかったときもホイールが粘って路面をしっかりと捉え、安定感と安心感は抜群だ。ここまで優れた性能と走りの気持ち良さを両立できるのは、やはりカーボンスポークとDBL、そしてフックレスという組み合わせによるものなのかもしれない。ヒルクライムや山岳グランフォンド、ロングライド、ロードレースまで用途は広い。しかしながら人と競わず、ひと踏みひと踏みのペダリングフィールを楽しみたくなるような官能的なホイールでもある。
カデックス 42 ディスク チューブレス〜隙を見せないレーシング性能
構造体としてしっかりとしていて、負荷に対してホイールが縦に潰れることなく、円形を保ってきれいに転がる印象が強い。おそらくその特性は、カーボンスポークとDBLの構造が寄与しているのではなかろうか。このクリアな転がり感はカデックスに共通するものだが、それが最も研ぎ澄まされているのがこの「42」だ。
レーシングホイールとしての性能の到達度は見事。走りの全域で軽さとシャープさが感じられる。ホイール剛性は「36」と比べるとソリッドで、スプリントなどの大きな負荷においてもねじれを出しにくい。「36」ほどのレベルではないものの、トルクをかけると絶妙なしなりが演出されている。剛性の芯はしっかり感じられるのに踏みしろはきちんとあって、トルクフルなペダリングがとても気持ち良い。その硬さとしなやかさの良好なバランスは、「36」と同じくバイクをはじき出すように進ませる躍動感があるのだが、「42」はそれが中・高速域で顕著に感じやすい。三段跳びのようにプログレッシブに速度が伸び、そこにクリアなホイールの転がり感が相まって、じつに爽快な加速なのだ。これは速さを求めるレーサーにとってアドレナリンが出るだろう。
上りでも走りの軽さに陰りは少なく、乗り心地も「36」には及ばないが高レベル。路面追従性にも富んでいて、コーナーリングやダンシングなど、ホイールにねじれ加わるような場面でもしっかりと路面を捉えくれるので安定感にも不安がない。美辞麗句を並べたが、それほどに性能の穴が見えない。耐久ライドからロードレース、グランフォンド、コースも平地から上り系まで幅広く対応できる。特に速さを求めるサイクリストならば間違いのない1本だ。
カデックス 65 チューブレス ディスク〜平地で速く、上りで脚を温存できる
他の2モデルと同じく剛性感のコントロールが秀逸で、それがハイハイトなリムを持つホイールにありがちな弱点を最小限にしながら、得意分野の高速性能を伸ばしている。(TT用の)ディスクホイールを思わせるような“面”が際立つ力強い走りは、リムハイトに起因するホイール剛性の高さだ。しかし脚あたりに過度な印象はなく、高速巡航でのペダリングの持続性は高く、さらにスプリントになってもしっかりトルクをかけて踏み抜ける。エアロ効果と相まってライダーを気持ち良く高速域へと導いてくれるはずだ。
このクラスのホイールで苦手とする乗り心地もストレスはなく、ハンドリングも嫌な癖はない。ホイール剛性の高さゆえのダンシングにおいて自転車がパタパタする感覚も希薄だし、コーナーリングでも路面をしっかり捉えてくれる。加速性能を含めてこれらは、カーボンスポークによる振動減衰の早さと適度な剛性のヌキ、さらにはフックレスリムによるチューブレスタイヤの効果ではなかろうか。
上りや加速についても、踏み出しの“よいこらしょ感”は見られず、平地での踏み出しの軽さがつなげられている印象だ。急登や長い上りは得意ではないが、パワーのあるサイクリストなら5%程度の勾配ならこのホイールの空力や力強い加速が生きるだろう。それ以上になった場合は、シティングで軽めのギヤで走らせると、カデックス独特の路面を蹴る力強さによってスルスルと進んでくれる。
平地でアドバンテージを得られるけれど、上りで脚を温存しやすいので、スピードマンにとっては頼もしい存在だろう。
使い分けるなら&一本選んで使うなら
カデックスの魅力は単なる性能の高さだけでなく、独自の個性を持っていることだ。さらに、「36」に顕著に表れているが、性能だけではない走りの楽しさがあることだ。最新ロードホイールは性能の底上げが激しいが、その反面、各社の個性は薄くなっている。こうした中にあってカデックスはとても貴重な存在と言えるだろう。
ロードホイールはディスクブレーキの時代となり剛性が増し、その弊害として乗り心地の悪さやペダリングの負荷が大きいモデルも散見され、ライダーへの負担を強いる傾向もある。カデックスはそうした点がまったくない。脚あたりの優しいペダリング、早い振動減衰性、絶妙な剛性のヌキによるトルク感の高い走り、コーナーリングでの粘りなど、高次元なこれらの性能は、おそらくカーボンスポークの効果に違いない。今後のロードホイールの進化には、カーボンスポークが一つのキーワードになるであろうことを、今回の試乗では強く感じた。
さて、今回試乗した3モデル、インプレッションを読めば、その性能の高さをお分かり頂けたと思う。「65」はスピード系のレースをはじめある程度投入するシチュエーションが限られるが、ホビーサイクリストにとって悩ましいのは「36」と「42」どちらを手にするかだろう。
組み合わせるバイクによっても変わるかもしれないが、やはりロードレースへの参加、週末のグループライドである程度のスピード域が高く、かけ合いのある走りをするサイクリストであればやはり「42」だろう。
「36」も前記のようなシーンに対応できるだろうし、ヒルクライマーにも最適なのは言うまでもない。しかし個人的には競い合うライドシーンよりも、峠を越えるコースやロングライドをマイペースで走るデイライドを楽しむサイクリストにこそ最適だと考える。つまりは現在の多くのロードサイクリストに向いているということだ。 車種についてもコンペティティブロードやエンデュランスロードとの組み合わせ以外にも、グラベルロードの舗装路メイン用として履くのも良いだろう。
Brand Info〜カデックスについて
2019年にジャイアントに満を持して発表したパーツブランドが「カデックス」。同社の技術の粋を集めて開発され、レースシーンにおける過酷なテストを経て、プロ選手を筆頭に高い性能を要求するロードサイクリストを満たすハイエンドな製品群を送り出している。ジャイアントが得意とする優れたカーボン技術を生かしたホイールセット、ハンドル、サドルの他、チューブレスタイプのタイヤをラインナップしている。