ヒルクライムレースもZwiftも強い! 新世代クライマー池田隆人の強さに迫る
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国内市民ヒルクライムレース最高峰の一つ「Mt.富士ヒルクライム」。2021年大会のトップカテゴリーで優勝し、コースレコードを塗り替えたのは、普段はほとんどZwift(ズイフト)でのインドアライドしかしていないという若き新世代レーサー・池田隆人さんだった。多くの人を驚かせ注目を集めた彼の秘密に迫るとともに、2018年大会優勝で以前のコースレコード保持者、田中裕士さんとのスペシャルトークをお届けしよう。
池田隆人さんとは何者!?
池田さんは東京都在住で1995年生まれの26歳。会社員だ。2019年に初めて“フジヒル”に出場して10位台に入ったのを皮切りに、だんだんと成績を上げて見事2021年大会でコースレコードを更新しつつ男子トップカテゴリーで優勝したのだ。
そんな彼だが、何とロードバイクを始めたのは小学生のときだったという。「といっても、中学校に上がってから完全にロードバイクはやめてしまったんです。そして再開したのは2017年のときで、就職してからなんですよ」と池田さん。
再開したきっかけは、世界的オンラインサイクリングサービスの「Zwift(ズイフト)」だった。その楽しさにハマった彼はトレーニングのメインをこのズイフトで行い、ズイフトを通じたオンライン上でのレースに日頃から参加している。ズイフト上での実力も相当なもので、強豪ズイフトレーサーが集まる多国籍チーム「ワールドエリートズイフターズ(WEZ)」に所属し、2021年にはズイフトで行われる「UCI eスポーツサイクリング世界選手権」への出場権も獲得した(2022年2月に開催される)。
実際に本人に会ってみると、非常に知的で落ち着いた好青年という雰囲気だ。一体どれほどの身体能力を持っているのか、普段はどんなトレーニングをして、どんな機材を使い、どうコンディショニングしているのか、聞いてみよう。
【トレーニング】ズイフトでのライドが大半。実走は数週間に1回ほど
池田さんは身長168cmで体重は52kgとかなり細身だ。そして気になるFTPは何と310Wと、体重の6倍近い驚異的数字である。まず、普段はどんなトレーニングをしているのか?
「ズイフトで走るのが大半です。外でも走るには走るのですが、住んでいる地域がら走行環境があまり良くないので、どうしてもズイフトがメインになります。
基本的な乗り方ですが、低強度でゆっくりと乗っているだけで、気分的に強度を上げて走りたいときはズイフトレースに出ます。ズイフトレースは週に1回〜2回くらいですね。ただ、時期によってはレースにまったく出ない週もあります」と池田さん……!? 耳を疑うような緩い内容だが
「ものすごくガンガンとトレーニングはしません。それだと自転車が続かない感じがするんです。基本的には楽しんで続けられることが大事だと考えています。また、高強度な乗り方ばかりしているとトレーニングの質が落ちてしまいます。高強度の頻度を多くせず、自分の場合はやっても週に2〜3回以内と決めて取り組んでいます。すると、回復の質が高められ、結果としていいトレーニングができるんです」。
なるほど。具体的にどんなスケジュールでトレーニングしている?
「乗る頻度は週に6日です。完全に乗らないレストの日を週に1日必ず設けます。月曜〜金曜が仕事で土日は基本的に休みというライフスタイルなのですが、平日は朝起きられれば朝に乗り、起きられなければ夜に乗ります。朝にズイフトレースが開催されるなら、朝に乗ります。これは、オンラインかつインドアライドのメリットですね。いつでも自転車にまたがれますから」。
外で実走する頻度、そしてその内容は?
「数週間に1回くらいです。最初にも言いましたが走行環境からきんとしたトレーニングは外ではできないので、あくまでもスマートトレーナーだけでは磨かれない実走の感覚を取り戻すための“感覚合わせ”で乗るのが目的です」。
「もう一つ目的があって、それはポジション合わせです。どうしてもスマートトレーナーだと実走とポジションがまったく違ってきてしまうし、使う機材も異なっているので、実走ならどういうポジションと機材が適しているのか、それを探る目的も大きいです」。
【機材】自分のペダリングに合う縦剛性の強いエアロロードを使う
使用機材へのこだわりは?
「愛機はキャニオン・エアロードCF SLXなのですが、理由は自分のペダリングに合うからです。いつもダイレクトドライブ式のスマートトレーナーを使っているのですが、すると踏みが強めのペダリングになるんです。となると、縦方向に分厚いというか、踏みに強いエアロ形状のバイクがいいわけです。その方がパワーを出しやすい。だからこのバイクを使っています」。
「また、空力性能にもこだわっているから、というのもエアロロードを使う理由です。自分はヒルクライムレースしか出ていないんですが、上りとはいえ空力性能はすごく大事だと考えていて、特に時速20kmを超えてくると結構差が出ます」。
【コンディショニング】練習直後の栄養補給に気をつける
コンディショニングで気をつけていることは?
「注意しているのは、トレーニング直後速やかに食事を摂ることです。また、BCAAをしっかり摂るために、スポーツサプリメントとしてアミノバイタル®プロ、アミノバイタル®アクティブファイン®、アミノバイタル®GOLDを使っています。アミノバイタル®シリーズは小学生の頃から愛用していて、当時、スポーツをする自分に対して父が“これ、飲んだ方がいいじゃない?”と買ってきてくれたのがきっかけでした」。何ともほほえましいエピソードだ。
「私の場合は、アミノバイタル®プロまたはアミノバイタル®アクティブファイン®をトレーニング前か朝起きた直後に飲みます。たまに朝食を摂らずにそのままトレーニングに突っ込む、みたいなパターンもあるのですが、そういうときは特に飲みます。
アミノバイタル®GOLDは、トレーニング後に食事するタイミングが遅くなってしまう、というときに摂るようにしています」。
アミノバイタル®プロ
アミノバイタル®アクティブファイン®
アミノバイタル®GOLD
「もう一つ気をつけているのは、先ほど説明したトレーニングのしかたとかぶるのですが、高強度トレーニングの頻度を抑えることです。どうしても高強度をやると睡眠の質が落ちてしまうと考えていて、この頻度を減らして睡眠の質を高くすることで、結果として回復が早くなり、質のいいトレーニングにつながると考えているんです」。
池田隆人✕田中裕士 新旧コース記録保持者スペシャルトーク
2018年に“フジヒル”(それまでの)コースレコードを塗り替えて優勝した田中裕士さん。驚異的身体スペックを持ちながらも「サイクリングという行為そのものが好き」という実走派で、インドア派の池田さんとはまったく対照的なレーサーだ。そんな彼にとって、池田さんはどう映るのか?
サイクルスポーツ(以下CS):田中さんからすると、池田さんはまったくもって新世代のレーサーという印象ですか?
田中:いやもう、本当にそうですね。というか、単純にすごいと、称賛します。
CS:と言いますと?
田中:池田くんの走りというのは、実は完全にフィジカルを伸ばすことを突き詰めたものだと思うんですよ。絶対的なパワーを鍛えることに特化したやり方なんです。そしてそれが突出したのが彼という存在なんです。ヒルクライムだけで言うと、国内のプロ選手でも彼に適う選手はほとんどいないと思います。
池田:いや、そんなことないですよ……。
田中:いやいや。話が大きくなりますが、プロもアマチュアも含めて海外のレーサーとの実力の差がかなりありますが、この絶対的なパワーがまずは日本人には足りてないと思うんです。でも、ズイフトという一つのツールが登場してきて、そのベースとなるパワーを鍛えられる環境が整えやすくなってきた。そのおかげで池田くんというレーサーが登場してきたんです。彼を皮切りに、もっと国内の選手のレベルが上がっていくといいなと思いますよ。もちろん、ズイフトは世界的なサービスなので、その分海外の選手のレベルもどんどん上がっちゃうと思うんですけど。
池田:田中さんもズイフトをやりますか?
田中:いや〜、僕はズイフトのことはさっぱり分かりません(笑)。もちろんインドアで練習することもありますよ。冬の寒い時期に雨が降ったときや、平日の朝に時間がないとき。でも、そのくらいかな。しかも、すごく安物のいわゆる昔ながらのローラー台を使ってます。
CS:長年ロードバイクに乗っている私達の世代からすると、インドアライドはともすれば苦痛に感じるという人が多いと思うんですが、池田さんからするとインドアライドはすごく楽しい存在なのですか?
池田:そうですね。もともと小学生のときはいわゆるローラー台で練習することはあったので、ズイフトはすんなり入れました。でも、やっぱり外で乗っている方が体が楽というのはあります。インドアで乗っているとどうしても体の一部がつらくなったりしますし。
田中:そうなんだ。仲間と外で走ることはあるの?
池田:たまにあります。同世代の仲間が多いです。元Jプロツアー選手とか、実業団登録している選手が多いです。
田中:おお……。
CS:池田さんのコンディショニング法についてはどう思われます?
田中:いや〜、むしろ自分が彼から学ばないといけないですよ。26歳という若さの段階で既にコンディショニングの重要性を理解している。その辺から他のレーサーと一線を画しているんでしょうね。いや、ほんと新世代のレーサーですよ。
池田:いえいえ……。でも、今のところヒルクライムレースしか出ていないです。ロードレースも興味はありますが、やはり危険というイメージがあって。集団走行の練習は全然していませんし。
田中:そうだね。ズイフトだけやっていると、どうしてもバイクの操縦面が向上しないのは否めないね。ロードレースでは下り坂もコーナーもあるし。そこら辺は他の速いレーサーと一緒に走って鍛えていくしかない。住んでいるエリアも近いし、今後は一緒に走ろうよ。
池田:あ、ぜひお願いしたいです。
CS:田中さんはこれから池田さんを迎え撃つ立場となりますが?
田中:もう僕の場合ヒルクライムレースオンリーからは足を洗っていてロードレースに傾倒し始めているので、純粋な上りで彼に勝つのは難しいでしょう。でも、彼という存在はとても刺激になりますよ。2022シーズンの目標は?
池田:やはり“フジヒル”で2連覇を達成することと、「乗鞍ヒルクライム」のタイトルを獲得することです。
CS:お二人とも、ありがとうございました。