カスタムペイントでバイクを“オレ色”に染めよう 後編
目次
連載「アサノ試乗します!」担当で青好きのライターアサノは、新しく手に入れたディスクブレーキロードのコンポーネント載せ替えのタイミングでフレームを青くカスタムペイントすることにした。前回は2021年末にカーボンドライジャパンでオーダーするところまで紹介したが、フレーム塗装がこのほど完了した。後編ではカスタムペイントしたフレームのお披露目と、カーボンドライジャパンの塗装へのこだわりについて紹介する。
前編はこちら→「カスタムペイントでバイクを“オレ色”に染めよう・前編」
「半分青い」が「全部青い」に。想像以上のクオリティ!
愛車を“オレ色”に染める「プロジェクトA」(AはアサノのAと青のAのダブルミーニング)。2021年末にフレームを出してから2カ月ほどたったある日、
「フレーム塗装、出来上がりました!」
とカーボンドライジャパンの早川社長から写真付きでメッセージが届いた。前回紹介したイラストよりはるかにカッコいいことが写真からも分かる。これは早く実物を見たい!
というわけで、フレームの受け取りと取材をかねて、カーボンドライジャパンにアポイントを取っておじゃました。打ち合わせでお世話になった営業・企画担当の古谷深那さんが梱包資材に包まれたフレームとフォークを大切に抱えて持ってきてくれた。ここで開梱の儀と相成った。
「うわぁ、カッコいい……」
言葉を生業にするライターともあろう者が、カスタムペイントされたわがフレームセットを目の前にして思わずボキャ貧になってしまった。それほど発色がキレイで艶っぽく、上質なのだ。それでいてフレームが特段重くなったとも感じない。最低限の塗膜の厚みでこの深みのある発色を実現しているのだろう。
オリジナルのフレームカラーは、「半分青い」部分はコズモネイビーという色だったのだが、見る角度によってはグリーンっぽく見えるのがあまり好みではなかった。だが、新しいフレームカラーは、どこからどう見ても青。完全無欠のメタリック系ネイビーブルー。ロゴの色もややくすみのあるメタリック系スカイブルーで、フレームのベースカラーとよくなじんでいる。これは想像以上のクオリティだ。
カーボンドライジャパンの職人に聞く、デザインと塗装のこだわり
今回僕のわがままなオーダーを聞いてくださったカーボンドライジャパン。塗装を担当してくださった工場長の沼田政彦さんとデザインを担当してくださった営業・企画の古谷深那さんに、同社のデザインと塗装のこだわりについてお話をうかがった。
デザインはお客様の意図を具現化する作業。すりあわせが大事
アサノ フレームのデザインに関して、こちらの要望をしっかりヒアリングしてくださるのが印象的でした。カスタムペイントのデザインでこだわっている部分は?
古谷 カスタムペイントはお客様の意図をどれだけ再現するかが重要だと思っています。お客様の思いを形にするためには、私自身がお客様の要望を理解できていないといけません。ですからたくさん質問をして、どれだけすりあわせができるかがカスタムペイント成功の最初の大事な一歩です。私がお客様の意図をきちんと理解し、その内容を工場長に正確に伝えなければ、いくら工場長がいい塗装をしても、それが要望とはちょっと違うということもあり得ますから。
アサノ デザインや色を決めるにあたって難しい点は?
古谷 お客様の要望する色を忠実に再現することですね。見本に画像をいただいても、例えばディスプレイが違うと見え方が異なることもあります。また、写真だと光が当たっているときと暗いところで色が違って見えることもあります。「このフレームのこの色で」とオーダーがあっても忠実に再現するのは意外に難しいのです。また、色見本や写真は平面ですが、フレームは立体なので、実際に塗装した際に見え方が異なることも難しいと感じるポイントです。
アサノ そうすると、オンラインでのやりとりよりは実際に対面して打ち合わせする方が、ユーザーにとっても思いを形にしやすいということですか?
古谷 そう思います。アサノさんのように、実物の色見本を持ってきてもらえると、イメージがつかみやすいです。デザインももし見本があればイメージしやすいので助かります。
自転車の塗装は車より面積が少なく曲率が高いので難しい
アサノ 自転車のフレーム塗装、特にカーボンフレームの塗装を扱っているところは少ないです。カーボンフレーム塗装の難しいところは何ですか?
沼田 自転車のフレームはいくつものチューブが組み合わされてできています。各チューブは車のパーツなどに比べて細く、表面の曲率も高いので、均一に塗装するのが難しいです。また、塗装時にはまず前の塗装や下地を落とす剥離という作業を行いますが、カーボンフレームは剥離のために削りすぎるとフレームにダメージを与えてしまいます。かといって下地を落としきらないと塗装のクオリティが下がってしまいますし、自転車の重量も増えてしまいます。このギリギリのところまで剥離するのが難しく、腕の見せどころなのですが、当社では手作業で剥離を行っています。
アサノ カーボンフレームの塗装作業の流れを教えてください。
沼田 まずは元の塗装を落とす剥離という作業を行い、素のカーボンの状態にします。先ほど説明したように、この段階で削りすぎても削り足りなくてもいけないので、剥離作業は手作業で行い、ちょうどいいところまで削ります。続いて下地を塗ります。下地は塗料を密着させるために必要なもので、本塗装時の塗料の明るさによって何種類か用意しています。どのぐらいの厚みで塗るかが重要なのですが、そのあたりは企業秘密です。そして最後に塗装です。薄い色は発色をよくするために何度か重ね塗りをしますが、塗膜が厚くなりすぎないように細心の注意を払います。最後にクリアを吹き、仕上げに磨いて完成です。当社では仕上げまでセットになっているので、出来上がりは新車以上のクオリティだと自負しています。
アサノ ロードバイクの塗装で特に気をつけている点は?
沼田 いかに薄い塗膜でキレイに発色させるかということでしょうか。塗装をするということは重量増につながりますが、ロードバイクに乗られる方は重量にシビアな方が多いので、この点に関しては細心の注意を払っています。
カーボン柄にクリアを吹くだけだと意外に重くなりがち!?
アサノ 色や仕上げの方法で重量に違いは出ますか?
沼田 色による違いというのは基本的にありません。ただし、メタリック系の塗料は、塗料の中に金属粉を混ぜるので、その分重くなる傾向にあります。といってもフレーム1本で数gというレベルだと思います。あとは塗り方によって変わります。黒とか紺のような濃いめの色は、何度も重ね塗りしなくても下地が透けにくいので塗料の使用量が少なくて済み、その分軽くなる可能性が高いです。淡い色だと発色をよくするために何度も重ね塗りをするので、その分重くなるかもしれません。
アサノ ということは、非メタリック系の濃いめの色だと軽くできる可能性が高いということですか?
沼田 はい。
アサノ 塗装しないのが一番軽い?
沼田 理屈ではそうですが、カーボンフレームの樹脂を紫外線で劣化させないために、塗膜やクリアで保護する必要があります。ベースのカーボンフレームにクリアを吹くだけだと、塗装してその上にクリアを吹くより軽くできそうですが、実はカーボンフレームがクリアをどんどん吸収してしまうので、キレイに仕上げようとすると意外に重くなりがちなのです。
アサノ 取り扱いでユーザーが気をつけるべきポイントはありますか?
沼田 塗膜は非常に薄くできていて、トルクがかかると割れてしまうことがあります。アサノさんのフレームだとISPにシートクランプをかぶせるところはトルクがかかるので、ステンレステープを下に巻いて塗膜にストレスがかからないようにしてください。
フレームのカスタムペイントで愛車にさらに愛着を
ここまで前後編の2回に分けてフレームのカスタムペイントについて紹介してきた。カスタムペイントは僕のようなこだわり強めの人間だけの特別なものではない。オーバーホールのタイミングなどで気分を変えるくらいの軽い気持ちでフレームを塗り替えてもいいと思う。
フレームは自転車の顔だと思うので、フレームが変わることでバイクはまるで別のバイクのようになる。走行性能が変わるわけではないが、気分は上がる。それがパフォーマンスにも影響する可能性だってある。
この記事を読んでいる読者の皆さん、あなたもフレームのカスタムペイントをしてみては? “フレーム塗装前科4犯”の僕が、確実に気分が上がることは保証する。
さて、僕のカスタムペイントフレームに新しいコンポーネントを載せて組み上げたので最後に紹介。クランクやホイールが黒く、思いのほかシックなイメージに仕上がった。サドルは黒、バーテープも黒ベースでブルーのアクセントが入ったものにし、トータルコーディネートもバッチリだ。自画自賛が過ぎるのは承知で、これはカッコよすぎる。自分のセンスの良さにほれる。何しろ自分が自分のために作ってもらったオンリーワンのフレームだから当然なのだ。
これでようやく名実ともに僕のバイクになった気がする。レースにも出たいし、ロングライドにも連れ出したいし、実走取材にも行きたい。これからこのバイクとともにいろんな道に轍を刻むぞ!