よってかれ、極上のうみとやま! 富山じてんしゃ旅 春の陽気に誘われて湾岸サイクリング編
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2021年、富山湾岸サイクリングコースがナショナルサイクリングルートに選ばれ、今、サイクリストの熱い視線が注がれる富山県。花満開の季節に、世界的に見ても稀有な富山湾の自然と、黒部峡谷の宇奈月温泉を巡るじてんしゃ旅へ行ってきた!
世界的にも珍しい富山湾
南を見渡せば、北アルプスの山々の大パノラマが眼前に迫り、かたや北に目を向ければ、水深約1200mの豊かな海が僕らを迎えてくれる。「世界で最も美しい湾クラブ」にも加盟するここ富山湾は、世界でもほかにイタリア・ベネチア、チリ・バルパライソしかないという、海と標高3000m級の山々を同時に望むことができる貴重な場所だ。
富山県が設定しているコースは大きく分けて2つ。氷見市から朝日町まで、富山湾沿いを巡る富山湾岸サイクリングコースと、山側の文化圏を巡る田園サイクリングコースだ。
今年のじてんしゃ旅は、これらのコースを基に「季節ごとの富山のいいとこ取りをしよう」と目論んだ。「春の四重奏っていうのがすごいみたい」とか、「旬のほたるいかを食べられるのは今だけみたいだよ」などとシマコと言いながら、前知識ほぼゼロの状態で富山駅に降り立ったのは、桜がちょうど見頃の4月中旬。ちょっと汗ばむ陽気に驚きながら、輪行袋をほどきにかかる。東京駅から富山駅まで北陸新幹線で2時間ちょい。あっという間に着いてしまう距離感に、「富山って、こんなに近いのか」。
富山湾へ向かう前に、富山駅周辺に桜の名所があるというので、少し寄り道。「わー、きれい!」。満開の桜並木と遊覧船が映える松川べりは多くの人出で、北陸にもいよいよ春が来たんだと華やいだ気分になる。「世界一美しいスタバがあるみたいよ」というシマコに言われるがまま、駅北側へ。富岩運河は蛇行して流れる神通川に沿うように、富山と岩瀬をつないで富山湾に至る運河。終点が公園として整備されていて、その一画に世界一美しいと言われるスターバックスがあった。花吹雪が舞う運河の光景は、まるで完成された一枚の風景画のよう。
運河沿いを北上し、路面に青い矢羽根表示がある道に出れば、そこは富山湾。岩瀬からは、矢羽根を目印に進めば迷うことはないだろう。松並木の道を抜けると、サイクルカフェにもなっている『浜黒崎キャンプ場』に到着。平日でもサイクリストが結構走ってるのが何だかうれしい。
ほたるいかと蜃気楼ロード
何が何でも“ほたるいか”だった。4月から5月まで富山湾はほたるいか漁でにぎわう。この時期にほたるいかのメスが産卵のため海岸近くまでやってくるのを、沖合の定置網で捕るのだという。その漁を海上から観光でき、大量のほたるいかが発光する、幻想的な光景が見られるのだという。「絶対見たい!」というシマコ。事前に日にちを予約し、『ほたるいかミュージアム』で午前2時に集合したのだった。結論から言おう。ほたるいか海上観光は波が高かったため出航しなかった。こればっかりは仕方ない。でもいいんです。また必ず行くから!
眠い目をこすりながら、ミュージアムの好意で館内を見学し、ほたるいか発光ショーを見られた! そして、帰ってきた漁船から次々と捕れたほたるいかを荷揚げする様子を見学させてもらった。ホテルで一眠りしてから、ルートの続き。
気温がぐんぐん上がっている。冷たい海水が温められて、海面上で光の屈折が起きることで生じる蜃気楼(しんきろう)が見られるという『蜃気楼ロード』にやってきた。蜃気楼見たさに、カメラを携えた観光客が集まっている。ボランティアの“しんきろう見させ隊”のおじさんが「今、蜃気楼出てるよ」と双眼鏡を貸してくれる。双眼鏡をのぞくと、かすかに対岸の建物が不自然な形に伸びて見えた。蜃気楼も水温が低くないと現れないので、出現しやすいのは3月下旬から6月上旬。運よく見られて、ラッキー。
ルートを走っていると、道端の湧水スポットが目につくように。生地(いくじ)は黒部川の水が地下水となって各所で湧き出ている港町だ。土地の人は湧水のことを清水(しょうず)と呼んで、生活水として使用している。狭い路地の先に『清水庵の清水』があった。段々に階層になって流れているのは、各層で使用用途が異なるからだとか。ボトルの水を補充して、海辺でたそがれのゴールデンタイム。波はすっかり穏やかになっていた……。
富山の春をさらに欲張る
SNSを見ながら、「この絶景スポットに行ってみたい!」とシマコ。“富山の本気”というワードを検索すると、写真家イナガキヤストさんの画像が数多くアップされている。その中でも一際インパクトがあるのが、『春の四重奏』と言われる舟川べりの桜と菜の花、チューリップ、そして背景に山々がそびえる一枚。朝日町は富山県の中でも最も東側のエリアになるので、「ここまで来たらヒスイ海岸にも寄っていこう」ということになった。
湾岸の整備されたルートは、総じて走りやすくて気持ちいい。入善(にゅうぜん)町に入ると、前方に風力発電のプロペラ型風車が現れる。スピードがついつい上がってしまう道。
『ヒスイ海岸』は東西約4kmにわたって続く、美しい砂利浜の海岸だ。この海岸に打ち上げられるのが、澄んだエメラルドグリーンに輝く宝石、ヒスイだ。どうやら緑色だけではないようだけれど、海岸で下を見ながら歩いている人たちの目当てはきっと緑色のヒスイだろう。穏やかな海と、細かい石の混じった砂利浜で、ボォーとたたずんでいたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。たら汁を出す店が軒を連ねるたら汁ストリートで、有名店の『栄食堂』に寄った後は、いよいよ舟川べりへ。
これが思った以上に大人気スポットだった。開口一番「惜しい!」とシマコ。菜の花が咲いてるところだけが、開花時期の関係で微妙に離れていた。これだと四重奏ならぬ三重奏。とは言っても、桜が今まさに見頃という舟川沿いを歩くと、ここは桃源郷かと見まがう世界が広がる。“富山の本気”を侮るなかれ。確実に僕らの想像の上をいってくれる。
内陸の田園コースへと入り、県内最大規模の温泉地、宇奈月温泉へ。赤いアーチ橋が印象的な愛本橋から、雪を抱いた山々が黒部川越しに見えてくる。ここが黒部峡谷の入り口。山々を正面に望みながら、奥地へと進むと峡谷沿いに温泉街が現れた。黒部峡谷鉄道はまだ運行が始まっていなかったけれど、トロッコ電車で黒部峡谷を楽しむのもいいかも。温泉にゆっくりつかりながら、次回のじてんしゃ旅に思いを馳せた。
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富山湾岸サイクリングコース
田園サイクリングコース