サーヴェロ・カレドニア-5【俺の愛車の本気(マジ)レビュー】
目次
バイクの試乗記事というと、新製品のメーカー試乗車で行うのが常だ。毎月毎月バイクをとっかえひっかえ試乗しているその裏で、本誌の執筆陣は自分の愛車を見定めて購入している。その愛車に、原稿料をつぎ込んではカスタムにいそしんでいるのである。誌面で、さんざんバイクやパーツについて論評を展開している面々。当の本人たちは一体どんなバイクに乗り、どんなパーツを選んでいるのか。一人一人が自分の乗り方に合わせた一台は、その訳を読めば、読者諸兄のバイク選びパーツ選びのヒントになると思う。そんな執筆陣の純粋な自転車人としての面をご覧あれ。
今回は、フォトグラファー辻 啓氏のサーヴェロ・カレドニア-5だ。
タイヤ遊びが捗るハイエンドカーボンフレーム CERVELO CALEDONIA-5
価格/59万4000円(フレームセット)
サイズ/51
重量/7.5kg(51サイズ、ペダルなし)
Parts Assembly
コンポ/シマノ・デュラエースR9250
ホイール/シマノ・デュラエースR9270 C50 TL
タイヤ/パナレーサー・アジリスト TLR 700×30C チューブレス仕様(最下部の写真はヴィットリア・コルサ 700×30Cクリンチャー)
ハンドルバー/サーヴェロオリジナル
ステム/サーヴェロオリジナル
サドル/フィジーク・アンタレスR3
ボトルケージ/スパカズ
バーテープ/スパカズ
ペダル/ガーミン・ヴェクター
カスタム履歴
コンポやホイール、ハンドルまわりは組み上げてから変更していないが、タイヤは頻繁に交換して最良を追求している。ヴィットリアのコルサに始まり、ピレリのPゼロ、ミシュランのパワー、パナレーサーのグラベルキング、そしてアジリストをさまざまな空気圧で試すことを楽しんでいる。
Rider 辻 啓(つじ けい)
身長:170cm
体重:62kg
ハンドル幅:400mm
ステム長:110mm
サドル高:680mm
クランク長:170mm
ギヤ比:52T×36T、11-30T
国内外のロードレースの撮影を生業にしているフォトグラファー。職業柄ハイエンドバイクを所有しているものの、機材よりもツアーなどの体験にお金を使いたいライド派。
カレドニア-5はどんなバイク?
いわゆるモダンロードと呼ばれる「今風」のロードバイク。エンデュランスバイクやグラベルバイクではなく、パリ~ルーベなどの悪路を高速で駆け抜けるレース寄りの設計で、それでいてタイヤ幅35mmまで受け入れる懐の深さを併せ持つ。スタックとリーチは軽量ロードのRシリーズと共通で、トレール量とチェーンステーを延長することで直進性や安定性を向上させている。
私の見どころポイント!
Point_01
最大35mmの太いものから細いものまで、クリンチャーからチューブレスまで、低圧から高圧まで試しに試した結果、現在タイヤはパナレーサーのアジリストTLR30Cに落ち着いている。
Point_02
とにかく出来がいいと話題で飛びついたデュラエースC50の出来がいい。リムハイトが高いのにこぎ出しから軽く、高速域の伸び感も気持ちいい。リム内幅21mmは自分にはちょうどいい。
Point_03
フレーム選びの基準になったのが、ロングライドで愛用しているフレームバッグを取り付けた際のボトルとの関係性。適度なスローピングなので、小さいフレームでもピッタリはまった。
Point_04
チューブレス運用ではあるものの念のためスペアチューブを携帯。サドルバッグが嫌いなのでマジックテープで止めている。ロングライド時にはサコッシュで包んだ輪行バッグを装着。
Impression「低圧タイヤがめちゃくちゃ気持ち良い」
以前から、それこそグラベルという言葉が染みわたるそのずっと前から、ロードバイクで未舗装路を含む悪路を走るのが好きだった自分にとって、「太いタイヤを装着できるハイエンドのカーボンフレーム」のコンセプトはドンピシャだった。シクロクロスに参戦しながら、ロードレースにはほとんど出場しない現在の年間ライドカレンダー。地元の脇道を探索するようなデイリーライドや週末のロングライドを快適に走るフレームが欲しくて購入を決意した。ちょうど新しいシマノ・デュラエースがそろうタイミングだったので、結果的にマーケッターの思惑どおりのトレンドを詰め込んだバイクが組み上がった。
さすがユンボ・ヴィスマのウァウト・ヴァンアールトやマリアンヌ・フォスがパリ~ルーベを制するために設計されたバイクである。「ロングライド用のエンデュランスバイク」と油断して踏むと、出直してこいと言わんばかりに突っ返してくる。BBまわりはボリューミーなルックスどおりの剛性感で、縦にも横にも全方向に硬くてガッチガチ。具体的に言うと、出力1000W以下のスプリントではフレームの後ろ三角をしならせることさえできず、1400W以上で踏んでようやくしなやかにスプリントが伸びてくる。決してクイックではないドシーンとした安定感がありながら、バイクの進め方は極めてレーシーだと感じる。
一旦スピードを乗せてしまうと、それまで乗っていたスペシャライズドのヴェンジに匹敵する高速巡航性を見せてくれる(上回るとは言っていない)。前述のとおりフレームをしならせにくいので、上りのダンシングはダイレクト過ぎてリズムを刻みにくく、くるくる高回転なシッティングに向いている。一度試乗した同じフレームのサイズ56は幾分しなやかに感じたので、自分のフレームのソリッド感は小さいサイズの弊害なのかもしれない。
そんなフレームの硬さをタイヤやホイール、シューズなどの足まわりで調整した結果、これまた見事に快適な乗り物が出来上がった。現在のお気に入りタイヤは30mm幅のアジリストTLRで、空気圧は3.7barから4.1barに落ち着いている。路面に合わせて32mm幅のグラベルキングに交換したりと、最大35mm幅まで装着できるクリアランスの大きさは、バイクの守備範囲を広げてくれる。本当に、太いスリックタイヤを転がす走行感には数値化できない気持ち良さがある。
低圧の太いタイヤによる圧倒的なグリップ感によって下りのワインディングが快適なのはもちろん、荒れた路面の平坦路を踏んだ時の進み方が実に気持ちいい。物理的にはありえないけど、バイクの跳ねるベクトルが上ではなくて前に向かうイメージ。実際に下りや悪路のセグメントで、いとも簡単にタイムを更新できた。もちろんディスクブレーキとの相性は抜群。もはやディスクブレーキがないなんて考えられない。これ以上どこを改良するのか心配になる現行デュラエースの快適さは言わずもがな。
踏み味はレース仕様でありながら、快適性と扱いやすさからロングライドにも使いやすい。実際の使い方としては、フレームバッグに補給食を詰め込んで、サコッシュに包んだ輪行袋をサドルにくくりつけて、終電を気にしながら走れるだけ走って電車で帰ってくるようなロングライドを楽しんでいる。フレームバッグを装着するとダブルボトルが難しくなるという欠点があるものの、コンビニや自販機が点在する日本ではこれでいいかなと。次はどんな道を走破しようかワクワクさせてくれるバイクが、走行エリアを広げ、新しいライドを生み出してくれている。