よってかれ、極上のうみとやま! 富山じてんしゃ旅 おわら風の盆と合掌造り集落を目指す夏旅編
目次
普段は静かな越中八尾の町に、全国から観客が集まる『おわら風の盆』。そして、世界遺産の合掌造り集落がある五箇山。富山の夏の締めくくりに、県南西部の山々をつなぐツーリングに行ってきた!
哀愁漂う静かな夏祭り おわら風の盆の舞台へ
富山県中央部を流れる神通川(じんづうがわ)を南下し、南西側の平野の途切れる高台にある八尾(やつお)。夏の終わりの夕暮れに、哀愁漂う胡弓の音色とおわら節に合わせて、踊り子たちが静かに町の各所で踊る。おわら風の盆は、300年以上も続く、歴史ある祭りだ。
富山駅に三たび降り立ったのは8月下旬。コロナ禍以前は、8月20日から八尾の11町が各々で町流しを行う、おわら風の盆前夜祭を行っていると聞いたので、それに日程を合わせたのだが、残念ながら今年は本祭のみの開催とのこと。「でも、八尾でおわら資料館とかだけでも、見に行きません?」と、切り替えの早いシマコと共に約19km先の八尾を目指して出発。夏の暑さも盛りは過ぎたか、涼しい風を感じながらのんびり進む。
井田川(いだがわ)を越えた先に、特徴的な石積みの坂道が見える。家々が並び、おわら風の盆の時期に、通りのぼんぼりに明かりが灯る。幻想的な町の光景が見たければ、できれば八尾周辺に宿泊したいところだ。
『八尾おわら資料館』で、祭りの詳細を知る。『おわら』、『風の盆』の由来については諸説あって定かではないが、9月1日は立春から210日目となり台風が来る季節に当たるため、風を鎮める農耕儀礼として踊られるようになったらしい。近年になって観光化されたが、それまでは地元の人たちが3日間夜通し踊る、静かなお祭りだった。おわら保存会が後継者を育てているからこそ、長年にわたって伝統が受け継がれているのだなあ。
「お腹空いた!」というシマコの言葉に、サイクリストのシェフが営むイタリアン『エルバッチャ』で遅めのランチ。おいしいパスタを頬張りながら、五箇山(ごかやま)方面へ向かうルート情報を収集して、明日への備えもバッチリ。そして、昼間はカフェ、夜は一棟貸しの宿となる『越中八尾ベースOYATSU』へ。夜も風情たっぷりの八尾の町歩きを楽しみながら、この町で行われる幻想的な祭り、おわら風の盆に想いを馳せた。
目指すは世界遺産!
「八尾から五箇山へは、旧山田村(やまだむら)経由で庄川(しょうがわ)沿いを南下する人が多いですよ」とエルバッチャのシェフに聞いた。そこで、グランフォンド富山のミドルコースを参考に、峠越えのルートを行くことに。「今回は、そこそこ上りがあるから心してね」とシマコに念を押す。というのも、目指す五箇山は岐阜県境に近い山間部。庄川沿いの国道156号も緩やかながら上り基調のルートだ。
旧山田村のアップダウンを抜けると、夕日を見た砺波(となみ)平野の散居村が現れる。庄川峡までは前回走ったが、その先は未知。いくつもトンネルやスノーシェッドが続くので、注意が必要だ。庄川遊覧船から見た長崎大橋と利賀(とが)大橋を横目に、長い大牧(おおまき)トンネルを下ると一気に深山に。庄川が付かず離れず脇を流れているので、それが心の支えとなる。
「どこまで走るの!」というシマコの一言に、大渡(おおわたり)橋を越えた先にあった『ゆ〜楽』に立ち寄る。絶景露天風呂からの眺めに見惚れながら、しばしの休憩タイム。そして、その先にある道の駅で紙すき体験ができると聞いて早速向かう。五箇山和紙は土地で栽培している楮(こうぞ)を主な原料にしている良質な和紙として、藩の指定を受けて作られていたのだとか。
あんドーナツが人気の『羽馬製菓』前の丁字路を城端(じょうはな)方面に少し上った先に、今日の目的地、相倉(あいのくら)合掌造り集落がある。まだ時間があったので、約3km先の五箇山総合案内所に寄ってみることに。こきりこの里のゲートを抜けると、合掌造りの家が道の脇に見えてきた! 『喜平商店』に立ち寄り、水気が少なく硬いのが特徴の五箇山とうふを見せてもらう。その昔は縄で縛って持ち運んだという。「本当に崩れない!」
その日の夜は相倉合掌造り集落で最古、400年前に作られた『合掌民宿 なかや』に宿泊。日本最古の民謡として五箇山に伝わるこきりこ節、ささら踊りの体験も追加でお願いしていた。合掌造りの家で囲炉裏を囲みながら、ささら踊りを鑑賞。岩魚の骨酒が身に染みる。心がとっても満たされる夜が更けていった。
県境の湖へのヒルクライム
翌早朝、相倉合掌造り集落が見下ろせる展望所から、合掌造りの家々に光が差し込む様を眺めながら、「なんて美しいんだろう」とうっとりとした。さらに庄川を遡ったところに、菅沼(すがぬま)合掌造り集落や岩瀬家の合掌造りがあるので、それらに立ち寄りながら、「桂湖(かつらこ)まで行ってみよう」とシマコを誘う。が、この桂湖までの上りがハードだった。標高差約250mのヒルクライム。巨大な境川(さかいがわ)ダムの脇を上り切ると、鏡のような湖面の桂湖が見えた。五箇山に来たことがある人でも、ここまで来た人は少ないんじゃないか。ちょっとした異世界に迷い込んでしまった気分だ。
復路は同じ国道156号を戻り、羽馬製菓の丁字路で国道304号に入って城端を目指す。「また上り?」と不満げなシマコを無視して、人形山(にんぎょうざん)展望台まで標高差約250mを上る。一休み後に、梨谷(なしたに)トンネルをさらに上ると、その先の五箇山トンネルから緩やかな下りに入った。トンネルを抜けると、大鋸屋(おがや)展望所から砺波平野の光景が望めた。
反対車線を、サイドバッグを付けたツーリング車の若者たちがヘトヘトになりながら上ってくる。「大学生かな。絶対記憶に残る青春の一ページだね」とシマコ。そう、簡単に行ける場所ばかりじゃつまらない。富山の夏旅は、山間の隠れ里と古くから伝えられてきた民謡に出合う、どこか郷愁を誘う旅だった。
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