“かさま”と“ましこ”で「かさましこ」。日本遺産に登録された市と町をファムツアーで訪問
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県をまたいだ笠間市と益子町をつなぐ浅からぬ縁
“かさま”(茨城県笠間市)と“ましこ”(栃木県益子町)で「かさましこ」。なんだかダジャレのようだけど、日本遺産(地域の風土に根ざした伝承や風習を踏まえた「ストーリー」を、文化庁が認定するもの。2015年に始まり、現時点で全国に104の遺産がある)への登録を申請する際に合言葉となった、熱い思いがこもった言葉である。
両市町は今でこそ2つの県に分かれているものの、中世には地方豪族の宇都宮氏がこの地を治め、遡れば8~10世紀頃の焼き物に、同じ技術が使われていたという。つまり両市町の関係には、浅からぬものがあるわけだ。そして江戸時代まで下れば、滋賀県にある信楽焼の陶工が笠間の地で、土地の名主だった久野半右衛門に技術を伝え、さらにその窯元(久野陶園)で学んだ大塚啓三郎が益子焼を始めたということで、笠間焼と益子焼は信楽焼を親とする兄弟同士。申請にあたって両市町が手を結ぶのは必然であった。
日本遺産としての両市町の魅力を、サイクリストの視線で評価
2020年6月、晴れて日本遺産に認定された「かさましこ」に、JTBが主催するファムツアー(観光地の誘客促進のため、旅行事業者やメディアなどに視察してもらうもの)で訪れる機会を得た。現地での移動はワゴンタクシーとなっていたものの、そこは自転車メディアということで自前の折り畳み自転車(カラクル・コージー)を用意。東武日光線・JR東北本線・JR水戸線・真岡鐵道と乗り継いだ筆者は、10月25日の9時30分過ぎに集合地点の益子駅に降り立った。
最初の訪問地までは、他のメディアと共にタクシーで移動。訪れた益子参考館は、生活雑器で知られた益子焼を「民藝運動」により芸術の域に引き上げた濱田庄司の作品や、彼が収集した世界各地の民芸品を展示するもので、その多様さに驚かされた。
自転車の機動力を生かし、町内各所をスムーズに散策
続く訪問地の城内坂は自由散策ということで、そこまでの移動を含めて自転車とすべく、タクシーから降ろした自転車を組み立てて城内坂に向かった。陶芸店が立ち並ぶ城内坂は、これまでに数度訪れたことがあるため、表通りを避けて裏手まで足を延ばしてみた。するとこちらにも陶製の益子大仏や湧き水のある観音寺など新たな魅力を発見。自転車の機動力が生きる結果となった。
合流した参加者と共に、200年以上の歴史を誇る日下田藍染工房で貴重な話をうかがったら再び自転車に乗り、米蔵をリノベーションした店内に器や衣類などが整然と並ぶpejite(ペジテ)へ。ちなみに各訪問地を結ぶルートは、グーグルマップを使って事前に作成したものであり、JTBの担当者や他の参加者に心配や迷惑をかけることなくスムーズに移動することができた。
自然食を提供するSTARNETで昼食を取り、陶芸体験が楽しめる小峰窯で実演を見学したら、次なる訪問地のETOWA KASAMAは30km以上も先ということで、完成車のままワゴンタクシーに積んでの移動となった。ロードバイクに比べて全長の短いカラクル・コージーはホイールを外さずとも収納が可能で、6.9kgという車重も積み下ろし作業を楽にしてくれた。
笠間に移動した翌日は、陶芸+αの魅力にも触れ
市内のホテルに宿泊した翌26日は、0.6km先の茨城県陶芸美術館に自転車で移動。12月11日(日)まで開かれている企画展「欲しいがみつかるうつわ展」は、企画の意図も展示されている作品も魅力的で、後ろ髪を引かれる思いで館を出た。この美術館に隣り合う笠間工芸の丘にはシェアサイクル「かさまCYCLING」のサイクルポートが設置されており、それぞれ思い思いの場所を電動アシスト自転車で巡り、笠間稲荷門前通りにあるかさま歴史交流館井筒屋に向かうことになっている。自身で考えた笠間百坊旧跡~座頭市の碑~大石邸跡を巡るルートには100mほどの上りがあり、座頭市の碑のある笠間つつじ公園では展望も楽しめた。
井筒屋には思ったより早く着いたため、そのまま門前通りを散策。笠間稲荷神社は菊まつりの真っ最中で、多くの観光客でにぎわっていた。界隈を一巡すると、昼食を取るcafe 柚の木に向かって再スタート。到着した店で待ち時間を使って自転車を輪行袋に詰め、先に店内に入るとほどなくメンバーがやってきた。満員の女性客に囲まれて見た目にも美しい料理を満喫すると、ここから先はタクシーで昨年9月にオープンしたばかりという道の駅かさまに立ち寄り、冒頭に記した久野陶園を訪問。窯業での後継が途絶えたこの施設を、クラウドファンディングを使って残そうとする女性から熱い思いをうかがった。最後に常陸国出雲大社の参拝を済ませ、向かった笠間駅で充実したファムツアーは終了した。
公共交通機関を凌駕する自転車の利便性
この記事の最後に、観光の脚としての自転車の可能性について触れてみよう。県を異にする両市町が連携しての日本遺産認定ということで、その間をどうつなぐかが課題となっている。鉄道ではJR水戸線と真岡鐵道(下館駅で乗り換え)が、路線バスでは茨城交通の関東やきものライナーが結んでいるものの、前者は大きく迂回することで時間が掛かり(約1時間30分)、後者は所要45分だが本数は限られる(益子駅発は午前4便※うち1便は土・日・祝のみ、笠間駅発は午後4便※うち1便は土・日・祝のみ)という難点がある。
一方で、笠間と益子を結ぶ道の距離は25km余り。途中に標高197mの仏ノ山峠はあるものの勾配は緩く、電動アシスト自転車であれば初心者でも問題なく走り切ることができる。前述したようにこの区間の自走はかなわなかったものの、典型的な地方道にはのどかな景色が広がって信号も行き交う車も少なく、自転車での快走が楽しめるように感じた。
なおファムツアーにおいて参加者が利用したシェアサイクル「かさまCYCLING」はスポットの数が限られており(友部駅・道の駅かさま・笠間駅・笠間工芸の丘・かさま歴史交流館井筒屋の5か所※11月7日までのシェア型モビリティの拡充・運行実験中は6か所追加)、使い勝手には課題を感じる。笠間と益子の相互で乗り捨てができるようになることを望むものの、現時点で用意されているシェアサイクルは航続距離が短い(標準パターンで33~56km、登坂が連続した場合は11~19km※パワーモードの場合)ため、より航続距離の長いスポーツタイプの電動アシスト自転車を導入する必要がある。笠間あるいは益子で宿泊することも考えられ、その施設で充電ができるようにもしてほしい。
サイクリングアプリ活用のスタンプラリーも
広く誘客を図るには、サイクリングアプリを活用したスタンプラリーもオススメだ。サイクルツーリズム事業を手掛けるルーツ・スポーツ・ジャパンは、自社開発のアプリ「ツール・ド」を活用したサイクリングキャンペーンを全国各地で開催。既に「芳賀郡の旅!ベリーグッドライド 55km」など、両市町の一部を組み込んだものも存在する。案内板の設置といったハードウェアの整備を必要としないため開催にあたってのハードルは低く、一方で紹介するスポットを宣伝する効果もあり、「かさましこ」にもぜひ導入してもらいたい。
自転車はインバウンドにも有効
この地を訪れる外国人にとっても自転車は有効だ。路線バスや鉄道は運行ダイヤに縛られるだけでなく、行き先表示が日本語なのでわからないことも多々あり、使いこなすにはかなりのスキルを要する。その点、タクシーなら行き先を告げるだけでOKだがそれなりの金額が掛かるうえ、移動中に気になるものが見つかっても、そこで止まってもらうにはためらいも覚える。これが自転車ならいつでも思いどおりに止まることができ、そのまま観光や買い物、食事などが楽しめる。しかも路地のような細い道でも気にせずどんどん入っていける。詳細な地図さえあれば、人に道を聞かなくても迷わず走れることだろう。