「わかさいくる×ビワイチ」琵琶湖から三方五湖を巡るサイクリングツアー
目次
福井県は最近、「わかさいくる」というサイクリングコースを開発している。敦賀から高浜までの湾岸沿いを走るロングコースだ。その途中には5つの湖が点在する「三方五湖(みかたごこ)」という景勝地がある。
福井県の隣に位置する滋賀県。ここにはサイクリストに「ビワイチ」の名で有名な琵琶湖一周のサイクリングコースがある。国指定のナショナルサイクルルートにも選ばれている有名なコースだ。
今回、福井県、滋賀県を繋げたサイクリングツアーが催されたのでレポートしたい。
福井県と滋賀県は両隣り。太古の昔よりこの2つの地域は密接な関係にあった。
福井県の若狭地方は日本海に接しており、古くは大陸文化の上陸地であり近江の地を通って各地に伝播していった。有名なのが奈良東大寺の二月堂で行われる「お水取り」で、この水は、若狭鵜の瀬から送られるものだという。また戦国時代では織田信長の「金ケ崎の戦い」、そして近江の朽木地方を通って京都に逃げ帰った「金ヶ崎の退き口」も有名な話だ。
そして江戸時代は若狭で採れた海産物をいち早く京へと届けた御食国(みけつくに)としてのストーリーはとても良く知られている。これらの道は琵琶湖の水運を使って、あるいは山中を人足で運んだ。後年これらの道を「鯖街道」と呼び観光として活用されている。
シーカヤックで遊ぶ
さて当日は抜けるような晴天。まさに五月晴れにふさわしい日和となった。JRマキノ駅に集合したゲスト一同。出迎えてくれたのは高島市で宿と自転車店を経営しつつサイクリングガイドをされている佐山恭一さん。地元のことを知り尽くしたエキスパートだ。
さあ、ここから福井を目指すぞ! と思ったのだが、まず自転車に乗って向かった先はマキノ東小学校。そしてここに用意されていたのはなんとシーカヤック。あれ? 自転車は?
佐山さんいわく、まずは琵琶湖を知るためには琵琶湖に揺られるのが早い! ということらしい。
不思議な気持ちになりながらも言われるがままに準備をする。小学校に接する湖岸にシーカヤックを降ろし、レクチャーを受けたうえで乗り込んだ。オープンデッキのカヤックで比較的安定しているので怖さは無い。それよりも思った以上にスイスイと湖面を滑るように進んでいく。自転車と違って上半身を使うスポーツだが不思議と違和感無く楽しめた。何より自分の腰のあたりに水面があるという、自転車と違った目線の高さも新鮮だった。
いよいよサイクリング
さて陸上に上がり今度は自転車に乗って次の目的地へ。出発してしばらくは琵琶湖岸ののどかな景色のなかを走る。ほとんどフラットで走りやすい。ビワイチのマークと矢羽が描かれており、サイクリストにもドライバーにも分かりやすく、とても走りやすい。
次の集合場所のJR近江今津駅には福井県側のサイクリングガイドである反田和宏さんが待ってくれていた。福井までの道は途中に峠がある。ガイドが無いと少し心配だったのだが反田さんのお陰で安心して走れそうだ。
若狭街道を通って
やがて内陸にハンドルを切り進んでいく。左手に自衛隊の演習場を見ながら国道303号を山に向かって上っていく。トタン囲いの茅葺きの家屋が並ぶ保坂の集落をすぎるといよいよ本格的な上りに入る。この道は昔の若狭街道で日本海と近江、京都をつなぐ重要な道だったという。国道を外れていよいよ昔の旧街道然とした道に入る。水坂峠を越える。何だか昔の旅人になったような気分だ。ここから道は下りに入り、「鯖街道」の宿場町として有名な熊川宿に入った。昔の宿場町風情がよく残されているところで見応えたっぷりだ。
ここで昼食。入ったカフェでいただいたのは、鯖街道だけあって何と鯖サンド。これがまためっぽうウマい! 福井県の担当者に聞くと、このカフェはサイクリストが集まるカフェとしてとても有名だという。ほどよく汗をかいた体に鯖の塩分が染み渡っていく。
その後は美しい農村地帯をゆったりと走っていく。途中でグラベル区間もあったりして変化を楽しめるコースだ。水の張られた田んぼが美しい! 日本の農村がこんなにきれいだとは。
神秘の湖「三方五湖」へ
そしていよいよ最終目的地の三方五湖に着いた。この湖は小さな5つの湖で成り立っており、その一つひとつが水質や生態系、そして湖の色が違うという。その風景を楽しみながらのんびりと贅沢にサイクリングできるのだ。しかも湖のひとつ水月湖は、何と7万年もの堆積物の層が湖底に残されているという。「年縞」というこの堆積層は世界最古を誇っており、この堆積層を調べることによって、気候変動や火山噴火などの出来事を年単位で特定することができ、世界中で、この水月湖の年縞を標準モデルとして使っているという。いやはや何ともスゴイ。
さてこの三方五湖の道は在りし日の日本の農村風景がそのまま残されておりとても懐かしい雰囲気だ。このあたりは梅の産地で、道の脇の梅畑にはたわわに実った梅の実がたくさんついていて、甘酸っぱい香りを辺りに漂わせている。ただし道は非常に狭く、また梅畑で働く方々が使っている道なので地元に配慮しながら走ろう。
さて夕暮れも迫ってきた。先を急ぐ。もうすぐゴール地点の道の駅三方五湖だ。そして三方五湖に映る太陽の色が次第にオレンジ色になってきた頃に到着した。
2つの湖をつなぐサイクリングは想像以上にたくさんのトピックが詰まっていた。途中に峠もあり走りを楽しむ層にもマッチしているし、歴史や文化を味わうサイクリングにも適している。何よりこの2つの湖はともに、保存すべき生態系を持つ湿地として国際条約である「ラムサール条約」に登録されている貴重な水環境なのだ。未来に残すべき自然を感じながらサイクリングをしてみるのも良いのではないだろうか。
そしてこのコースのもう一つの特徴は何といっても食。ゴール地点の若狭地方は御食国としての歴史がある。ぜひサイクリングのあとに宿泊して食を堪能してほしい。
最後にぜひとも伝えたいのは、やはり地元のサイクリングガイドの存在である。いまやスマホのアプリやサイクルコンピュータで探せば走れるルートは山ほど出てくる。しかしややもするとただ単に地域を走り抜けるだけになってしまう。その路傍に存在する魅力的なものや訪れるべきものがあっても気づかないのだ。
そんなとき地元のサイクリングガイドに頼めば、その土地の魅力を余すことなく伝えてくれるだろう。そろそろそういった地域を味わうサイクリングに目を向けるべきときがきていると思う。