太平洋岸自転車道 じてんしゃ旅 三日目 千葉県岩井〜金谷港〜神奈川県久里浜港〜小田原
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サイクルショップ(ストラーダバイシクルズ)とツアーイベント会社(ライダス)の経営者(井上 寿。通称“テンチョー”)と自転車メディア・サイクルスポーツの責任者(八重洲出版・迫田賢一。通称“シシャチョー”)の男2人、“令和のやじきた”が旧街道を自転車で巡る旅企画の番外編となる「太平洋岸自転車道編」。千葉県銚子から神奈川県、静岡県、愛知県、三重県の各太平洋岸沿いを走り和歌山県和歌山市に至る1400kmの長旅が始まった。三日目は千葉県南房総市から神奈川県小田原へ。
東京湾フェリーで海を渡る
今回の旅は神奈川県の小田原までの予定。途中で東京湾フェリーで海を渡り三浦半島から再出発するのだ。これまでの2日間とはまた違った変化を迎えそうで楽しみだ。
宿でたくさんの朝食をいただいているうちに、いつの間にか時間が経ってしまい、遅れ気味……。そそくさと出発。宿のある岩井から金谷港フェリー乗り場まで13kmほどの道を飛ばして走った。
フェリーは想像以上に大きな船だ。二輪車用のスロープを自転車を押しながら上る。自転車は船員の方が丁寧に固定してくれる。これなら安心だ。キャビンに入ると二人とも子供のように最前列シートに陣取った。あっという間の短い船旅だが船窓から見える三浦半島や富士山を見ながら存分に楽しんだ。
房総半島よりドライバーが優しい三浦半島
三浦半島の横須賀久里浜にて下船。降りてすぐのところに「太平洋岸自転車道 横須賀市起点」の大きなマークが。気合が入っているのがよく分かる。記念撮影をして出発した。目指すは小田原。
それにしても今日も天気が良い。いや、最高のコンディションだ。それに三浦半島に到着してからずっと、ペダルを踏んでいて安心感がある。
そうなのだ。フェリー乗り場から少し走っただけでも分かったのだが、ここでは自動車が丁寧に追い抜いてくれる感じがするのだ。それは市街地だけではなく、幅の狭い海岸線の道でも同じだ。一旦スローダウンしてゆっくり抜いてくれる感じがする。シシャチョーもさっきから同じように感じているという。
都市部が近いので自動車と自転車が共存しているのだろう。また周囲にロードバイクにまたがってさっそうと走っているライダーも多い。おそらくドライバーも住民も自転車に慣れている土地なのだと思う。
房総半島ではたびたび鳴らされた不要なクラクションを鳴らされることもない。フェリーを降りてからの安心感はまるで違っていた。無用な緊張は感じることもなく楽しくサイクリングができる。周囲に目をやることができ、写真も撮りたくなってくる。シシャチョーと軽口を交わしながらペダルを回す。急に太平洋岸自転車道が楽しく感じられるようになってきた。
三浦半島の西側は住宅街や市街地を走ることが多くなるが、それでも安心感はそのままだ。土地によってこれほど変わるとは想像していなかったので、良い学びになった。
再び多くの交通量に悩まされる
葉山の御用邸を過ぎた辺りから交通量が増えてきたので思うように前に進むことができなくなってきた。今回の旅は小田原で終了なので日暮れ前に到着できればよいのだが……。
稲村ヶ崎辺りから江ノ島が見え始め、自然とサザンを口ずさみたくなるほど、テンション爆上がりなのだが、テンションとは真逆で、大渋滞にさえぎられ、ケイデンスは爆下がりとなった……。ペダルを回せないほどの渋滞にサザンを忘れ、二人してため息をつきながらひたすら我慢の時間が続く。
渋滞は辻堂海浜公園辺りで解消されたが、平塚以降、道幅も狭い上にトラックも多いので、正直楽しさより恐怖のほうが上回るものの、割と正面に富士山が見えるので、何となく得した気分になった。
ちなみに湘南を過ぎると大磯港辺りまでコンビニも自販機もないので、水分補給には気をつけた方が良いだろう。
看板に振り回された大磯港だが……
神奈川県に入ってからは、ほとんどルートを失うことはなかったが、唯一大磯港の看板だけにはだまされた。矢羽根は前方に向かって描かれているのだが、看板では「太平洋岸自転車道は右折」の文字があるので、右折して上っていくと、何やら違和感が……。
「ん?見間違えたかな?」と思い二人して看板のところに戻り確認するものの、やはり右折と書いてある。もう一度右折して幹線道路に出たときにちょうどサイクリストがいたので、「スンマセン、この道は太平洋岸自転車道でしょうか?」と聞いたところ「これは違いますよ、もう一本入ったところですよ」と来た道だという。
「どないなっとんねんっ!」とキレるシシャチョー。
まあまあと言いつつなだめながら、ふと横に目をやると、旧東海道「大磯宿」の史跡の看板。そうか、ここは4年前に走った旧東海道と分かり、二人してにやついてしまった。
旧街道と知ると看板の案内への怒りなど吹っ飛んで、すっかりご機嫌になった旧街道オジサンズだった。しかし、ルートは探さねばならない。
右折の看板を無視して、道を直進したところ、西湘バイパスに並走する自転車歩行者専用道路に入り、そこでようやく太平洋岸自転車道の看板を見つけることができたのだった。そう、正解は右折ではなく、直進だったのだ。
まったくもって紛らわしい。何だかずっと信じてきたひとに裏切られたような感覚。
ブルーラインや矢羽根、そして看板を信じすぎてはいけない! これがこの旅の教訓だった。そしてこれらの案内が必ずしも走りやすいわけではないということも。
その後は昭和の夏のテレビの風物詩「芸能人水泳大会」が開催されていた大磯ロングビーチの前を通り、箱根駅伝でよく見る国道1号でゴールの小田原へと向かった。